ピチピチの十八歳です!
「あの……その、ジジョンとは? 私のことが何か?」
使者として現れたカルネは、アイカが熱烈に応援している韓流アイドルのジジョンと全く同じ容姿であった。カルネは自分の顔を見て違う名前を呼ぶアイカに対し戸惑いを隠せない。
「えっと……私の名はカルネです。魔女パンソー様への使者をスティロ王より仰せつかっている者です」
(……えっ!? でも、ジジョン様!? ジジョン様だよねっ!? 今、私の目の前にいるのはジジョン様じゃないの!?)
アイカは興奮ですぐには状況が理解できなかったが、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「あっ、えっと、何て言ったらいいか……勘違いしちゃってごめんなさい。私の憧れの人にあまりに似ていたもので……失礼しました」
「そういうことですか。他人の空似とはよく言ったものですね。改めまして、カルネです。よろしくお願いします」
カルネは韓流アイドル顔負けの爽やかな笑顔でアイカに手を差し出す。アイカはすかさず両手でカルネの手を強く握りしめて上下に激しく揺らす。
「私、アイカです! こっちはヒマリ……で、あっちの変なのはボボです」
憧れるアイドル似の男性の前では、ヒマリが描いたボボはもはや「変なの」扱いだ。
(ああっ! 神様仏様、ありがとう!! 別人でも……ジジョンと握手できるなんて! しかも十八歳の姿の私で! 変な世界に来て大変だと思ったけどこんなことがあるなんて! 本当に……なんて素晴らしいサプライズなのっ!? 元の世界に戻ったらお墓参りにでも行った方がいいのかしら!?)
興奮するアイカの隣でヒマリとボボが挨拶する。
「こんにちは。私、ヒマリ!」
「ボーッ、ボボーッ!!」
「こんにちは、ヒマリ。それに……これはまた不思議なことですね」
カルネは一旦アイカの手を離してヒマリと握手をし、もう片方の手でボボを撫でた。互いの挨拶が済み、スティロが話を始める。
「カルネ、明朝こちらの二人と、それにボボ……ですか? 一緒に魔女パンソーに会ってきてもらえますか? ヒマリの力を見せれば魔女パンソーも興味を示して話を聞いてくれるかもしれません」
「かしこまりました。明朝、アイカ、ヒマリ、ボボと共にパンソー様の元へ行って参ります」
「頼みましたよ、カルネ。アイカ、ヒマリ、ボボ……あなた方も、よろしくお願いします」
(……ええっ!? それって、ジジョン様……いえ、カルネと一緒に行動するってことよね? ヒマリと変なのはいるけど、実質大人二人きりよね!? もはや、途中の道のりはデート状態なのよねっ!?)
激推しの韓流アイドルとデートする疑似体験ができる……という想像に、アイカは両手を頬に当て幸せそうに興奮する。その様子を見てヒマリが心配そうに言う。
「ママ? どうかしたの? 顔が赤いよ? お熱あるの?」
ヒマリに答える前にアイカはここで重大なことに気付く。いや、正確には些細な悪巧みを試みる。
(そう言えば! 今の私って十八歳なのよね!? ……ってことは、本当の年齢なんて関係ないのよね? なら、カルネの前では年齢のサバ読んでもいいんだよね!?)
「ママ? どうかしたの?」
アイカはヒマリの前にかがみ、抱き寄せて小声で言う。
「ヒマリ、いい? これから私のことは『ママ』じゃなくて『お姉ちゃん』って呼びなさい。分かった? いいわね!?」
「えっ? どうして? だって……」
アイカは不思議がるヒマリの言葉を素早く遮る。
「どうしてもこうしてもないの! お願いだから言うことを聞いて! そうね……家に帰ったらもう一回誕生日ケーキ買ってあげるから! お願いっ!!」
アイカが示した「二回目の誕生日ケーキ」という条件に、ヒマリはいとも簡単になびく。
「本当っ!? うん、分かったよ! ママ……じゃなくて、お姉ちゃん!!」
「そうよ、偉いわね、ヒマリーッ!」
ヒマリを取り込み、年齢サバ読み計画の外堀を固めて準備を終えたアイカが立ち上がる。そして、アイカは髪をかき上げながら大袈裟に身体をくねらせ、強めに女をアピールしながらカルネに近づく。
「……うふふ、カルネ? 明日はよろしくね。改めて、私、アイカ。ピチピチの十八歳です! ところで、カルネって年齢はいくつなの? どんな女性が好みなの? てゆか、彼女さんとかいるのかしら!?」
欲望が爆発したかのようなアイカの勢いと質問攻めに、カルネはやや圧されながらも爽やかな笑顔を崩さずに答える。
「私は二十歳です。女性の好みは……優しい方ですかね。でもあまり深く考えたことはありません。お互いを大切に想い合える相手ならばいいと思います。あと、特定のお相手もおりません」
(あぁっ! もう、理想の答え! 完璧よっ! 流石、私のアイドル!)
今にもカルネに抱きついてしまいそうなアイカだったが、周囲の者が自分を見る目が若干冷やかで痛々しいものであることに気付く……。
(あれっ!? 何だか皆、私のことを痛々しい目で見てないかしらっ!?)
アイカはまず案内してくれた従者の方を見る。
……ササッ。
従者は咄嗟にアイカから目をそらした。
(えっ!? あの従者さん、目をそらした!?)
続いてアイカは反対方向にいる従者達の方にも目を向けるが、やはり先ほどの従者と同様に目をそらされてしまった。
……ササッ。
(何で!? 何で皆、私と目を合わそうとしないの!?)
最後にアイカはスティロ王に目を向けるが、やはり戸惑うような苦笑いしている。
(王様まで何か微妙な顔してるっ!? 何!? 私……何か変なことした!?)
キョロキョロと挙動不審になるアイカに向けて、カルネが爽やかな笑顔でアイカに衝撃の事実を伝える。
「アイカ……あの、まだ聞いてませんでしたか?」
(……えっ!? 何を!?)
アイカは不安をあらわにしながら、カルネに恐る恐る尋ねる。
「あの……カルネ、何を?」
「えっと、この国の住民はですね、身体の成長は十八歳で止まります」
「ええ、それは知ってる。だから私も十八歳なの」
「そこなんですが……この国の住民は、外観を見ただけで相手の本当の年齢が正確に分かるのです」
(……えぇっ!? 何それっ!?)
「……」
……アイカの時が止まる。
……身体が止まる。
……思考が止まる。
……開いた口が戻らない。
そしてしばらく固まった後、勇気を出して確認する。
「カルネ……私の本当の年齢、分かるの?」
「はい、正確に」
(あっ……ああっ……そんなっ!!)
アイカは頭の中が真っ白になる。そして、壮大に自分の年齢をサバ読みしていた醜態を、ここにいる全員が気付いていたことを理解する。
(なんてことなの!? 私! こんな大勢の前で十歳以上年齢のサバ読み!? はっ、恥ずかしい! 穴があったら入りたい! ……いや、今ココに穴を掘ってでも入りたい気分だわっ!!)
……顔が真っ赤になる。
……全身から大量の汗が流れ出る。
アイカは両手で顔を隠し、その場にしゃがみ込む。するとヒマリがその様子を心配してそばに寄り、アイカの肩に小さな手を乗せて優しく声をかける。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
約束通りに行われたヒマリの実直な演技が、アイカに大ダメージの追い打ちをかける。
……自分で蒔いた種。
アイカはそのダメージを全て受け止めた後、苦しみに悶えながら声を振り絞る。
「ヒマリ?」
「なぁに? お姉ちゃん?」
「私のことは、もうママって呼んでいいわよ……」
「えっ、そうなの? もう演技は終わり?」
「ええ、もう終わったのよ。色んな意味で……」
こうしてしばらくの間、この場は微妙な沈黙に包まれることになった。




