私のアイドル!?
ヒマリの落書き帳から生まれたミノムシの妖精ボボは、ヒマリの周りをぐるぐると飛び回っている。
「ボーッ、ボボーッ!」
何度見ても信じられない光景にアイカがしばらく戸惑っていると……従者が戻ってきた。
「スティロ王が謁見して下さいます。皆さん、こちらへ」
従者の案内で王の間に入る。大広間の中央には豪華な装飾が施された椅子があり、そこに座していた女性が立ち上がる。気品溢れる落ち着いた雰囲気だが、容姿はやはり十八歳程だ。
「私はスティロ。この国の王です。まずは歓迎の意を表します。この国へようこそ」
スティロは軽く頭を下げ、アイカとヒマリ、そしてフワフワと浮いているボボに目を向ける。
「えっと、はじめまして、王様。私はアイカ、こちらは娘のヒマリです。あと、よく分からないのですが、娘が描いた落書きから飛び出してきた……ボボです」
「こんにちは、王様! 私、ヒマリ!」
「ボーッ、ボボーッ!」
三者三様、皆が挨拶を返す。
「ええ、先ほど従者から話は聞きました。ヒマリには、子供の来訪者に時々現れる特別な力があるようですね」
「王様、私たちは状況が全然分からなくて……色々教えていただけますか?」
アイカは恐る恐る質問するが、スティロは穏やかな表情で快く答える。
「はい。時々やってくる来訪者は元の世界に送り返すのが国の習わしです。あなた方が元の世界に戻れる様、我々もできる限りのことはします」
(良かった! 王様が協力を約束してくれるなら心強いわね! ……というか、これはもう解決したも同然じゃないかしら!?)
ホッと胸を撫で下ろすアイカとは対照的に、スティロは深刻な表情で話を続ける。
「アイカ、ヒマリ……元の世界に戻るには、王国の端にある『ボワの森』……さらにその奥にある『時空ゲート』を通らなければなりません。そして、その時空ゲートを通るには時空ゲートを管理する魔女『パンソー』の協力が必要です」
「そうなんですね。では早速、その森に行って魔女さんに頼んでみます」
「それが、話はそう簡単ではないのです」
スティロ王の言葉にアイカは戸惑う。
「えっ? どういうことですか?」
「実は、前回の来訪者が帰った時から起きている問題なのですが、時空ゲートを管理する魔女パンソーが乱心してしまい、我々の話を聞いてくれる状態ではなくなってしまったのです」
「それはつまり、元の世界に戻るための時空ゲートを通してもらない……ってことですか?」
「その通りです。我々も定期的に使者を送り魔女パンソーの説得を試みているのですが、日に日に状況は悪くなる一方なのです」
「そんなっ!? 私たちはその魔女さんの力を借りて時空ゲートを通らないと元の世界に戻れないんですよね? 何とかならないんですか!?」
「魔女パンソーが乱心している今の状態では我々の説得は無力です。そこで、是非あなた達二人にも協力して欲しいのです」
「わ、私たちに協力できることって……何でしょう?」
「それは、ヒマリの能力です」
(えっ!? この子の能力が!?)
アイカはハッと驚きながらヒマリに視線を向ける。ヒマリはアイカとスティロの話はほとんど聞いておらずボボと遊んでいる。
(ヒマリに特殊な能力があるのは分かったけど、だからって大切な娘を危険な目には合わせられないわよ! でも、元の世界に戻るのにヒマリの力が必要なら……)
アイカは母として娘の身を案じながら不安をあらわにする。
「あの……確かに落書きが飛び出してきたのは不思議な力だと思いますが、そんなので役に立つのですか? ……それに! ヒマリは私にとってかけがえのない大切な娘です。娘を危険にさらすことはできません!!」
……ドンッ!
アイカは片足を強く前に踏み出し、凛とした態度できっぱりと言い放った。
「はい。何もヒマリに危険なことをさせるわけではありません。特別な能力を持った子供の来訪者なら、魔女もきっと興味を持つでしょう。ですので、あなた達二人が一緒なら、我々の話を聞いてくれるきっかけになるのではないか? ……と思うのです。我々の使者と同行して魔女に会ってきてもらえませんか?」
(一緒に行って話をしてくるだけ? 特に危険なことはしない……のよね? それに、このまま待ってるだけでも元の世界に戻れそうにないし。でも念のため、ヒマリにも聞いてみた方がいいわね……)
答えは決まりつつあるアイカだったが、ヒマリにも意思を確認する。
「ヒマリ、ちょっと聞いていい?」
「なぁに? ママ?」
「私たちの家に帰るには、魔女さんにお願いしないといけないんだって。ヒマリが一緒に来てくれると、魔女さんもお願いを聞いてくれるかもしれないんだけど、一緒に来てもらえる?」
「魔女さん? うーん……いいよ、ママと一緒に行く!」
「うん、ありがとう、ヒマリ」
アイカは笑顔でヒマリの頭を撫で、ヒマリも嬉しそうに笑顔を返す。
「王様、決まりました。私たちも一緒に魔女さんのところに行きます」
「良かった。ありがとう、アイカ、ヒマリ。それでは明朝、使者と一緒に出発してください。でも……そうですね。まずはあなた達と同行する使者を先に紹介しておきましょう。ここへ『カルネ』を呼んでもらえますか?」
スティロの言葉で従者が動く。そしてしばらくスティロと話をしていると、背後から男性の声が聞こえた。使者として同行する者のようだ。
「スティロ王、お呼びでしょうか?」
「カルネ、こちらへ」
……スタッ、スタッ。
見た目は十八歳、その容姿はもう「爽やかな好青年」という言葉にそのまま足が生えて歩いているかのような美しい顔立ちの青年である。そして、アイカは後ろから近づく青年が視界に入った時、自分の目を疑った。二度見、三度見……いや、何度も見返し、その青年を凝視して思わず叫んでしまう。
「えぇ!? ジジョン様!? 私のアイドルッ!?」
使者として現れた男性カルネ。その顔立ちと容姿は、アイカが元の世界で熱烈に応援している韓流アイドル「ジジョン」と全く同じであった。




