みんなーっ! ばいばーいっ!
ヒマリの口から出た話の結末で何とか場が持ち直した後、パンソーが話を始める。
「ところで、アイカ、ヒマリ? あなた達は元の世界に帰りたいのですよね?」
「勿論です、魔女さん!」
「ヒマリも! お家に帰りたーい!」
「分かりました。私はもう大丈夫ですので……すぐにでも元の世界に帰る時空ゲートを出しますよ」
「そんなに簡単に!?」
「ええ、皆さんのおかげで意識が戻りましたので、問題ありません」
「そっかー。もうお家に帰れるんだね。皆とお別れしちゃうのはちょっと寂しいけど……あ、そうだ、魔女さん。ヒマリがお家に帰ったらボボはどうなるの?」
「ボーッ……ボーッ……」
ボボは少し悲しそうな声を出してヒマリに寄り添う。
「ヒマリ、ボボはあなたの特別な力で生まれた存在です。ヒマリが元の世界に帰ればその力も無くなって、ボボは消えてしまうでしょう」
「ええっ!? そうなの!? そんなの嫌だよーっ!」
「ボーッ……」
泣き始めたヒマリにボボが寄り添い、慰めるように触手のような紐状のもので頭を撫でる。そしてアイカもヒマリに寄り添い抱きしめる。
「ヒマリ……悲しいわね。でも、ボボは元々ヒマリが描いた絵だもの。ボボはお絵かき帳の世界に戻るのよ。ヒマリ、お家に帰ったら……ボボの絵、また書いてあげましょうよ」
「うっ、うぅ……だって、だって……」
「ボーッ……ボーッ」
「ねえ、魔女さん? ボボが姿を消してしまうってことは、カルネが持ってる剣もお爺さん達が使った杖も消えてしまうの?」
「その通りです。こればかりはどうすることもできません。特別な能力を発揮した本人がこの世界からいなくなるわけですから」
「そっか、そうよね……」
「ボボーッ! ボボーッ!」
「ボーッ……」
泣き声をあげるヒマリにボボは優しく寄り添っている。
「小さいお嬢ちゃん、こればっかりはどうすることもできんのじゃ」
「そうじゃて、小さいお嬢ちゃん。そろそろボボともお別れの時間じゃて。ボボに見せる最後の顔が泣き顔でいいのかて?」
「うぅ、お婆ちゃん……」
「そうよヒマリ。涙を流しながらでもいいわ。笑ってボボとお別れしましょ。あと、お世話になった皆ともね」
「うぅっ……う、うん」
「よし、いい子よ、ヒマリ!」
涙を流しながらも小さく頷くヒマリの頭をアイカは撫で、パンソーに時空ゲートの用意を依頼する。
「魔女さん、それに皆と別れるのは名残惜しいけど……私たちは帰ります。時空ゲートの用意、よろしくお願いします」
「分かりました。それではアイカ、ヒマリ、こちらに来て下さい」
パンソーは自分の額をアイカの額に重ね、目を閉じて集中する。。
「なるほど、これがアイカのいた世界なのですね……」
続いてパンソーは同じことをヒマリにも行い、両手を掲げて呪文を唱え始める。すると、ブラックホールのような時空ゲートが現れた。
「アイカ、ヒマリ、準備はできました。飛び込んでください」
アイカとヒマリは時空ゲートの前で顔を見合わせ、頷き合ってしっかりと手をつなぐ。
「皆さん、お世話になりました! ありがとうございました!」
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、カルネ、魔女さん、ボボ……ありがとう!」
「うむ。お嬢ちゃん達、元気でな」
「ひょっひょっ。楽しい出会いだったんじゃて」
「アイカ、ヒマリ! 御達者で!」
「アイカ、ヒマリ……迷惑かけてごめんなさい。元の世界で仲良く幸せに暮らしてね」
「皆、ありがとう!」
「みんなーっ! ばいばーい!!」
……ビューン!!
アイカとヒマリは手を振りながら時空ゲートに飛び込んだ。
……宙に浮く感覚?
……水に流される感覚?
……高いところから落下する感覚?
……数秒間? ……数十秒間?
二人は再びパペトリ王国に吸い込まれた時と同じ感覚に襲われる。
「ううぅっ……」
アイカは気がつくとパペトリ王国に吸い込まれた場所、塀に不思議な落書きのある路地にペタンと座り込んでいた。隣にはしっかりと手を繋いだヒマリの姿がある。
「ヒマリッ! 大丈夫?」
ヒマリはアイカの声に反応してアイカに勢いよくしがみつく。
「ママーッ!」
「良かった! 私たち、戻ってきたのね!」
アイカは肩に掛けていた鞄から慣れた手つきで携帯を取り出す。
(はっ? そう言えば、無意識に携帯取ろうとしてるけど……私たち、大丈夫なのかしら? 服装は? 持ち物は? 怪我とかしてない!?)
順番に確認する。
まずは携帯。日時を確認すると、アイカがパペトリ王国に吸い込まれた時刻とほぼ同じだった。もしかしたら数分程度経過していたかもしれないが、それは誤差と感じられる程度の時間経過だ。続いて服装、持ち物、外観、怪我……と確認するが全て異常はなかった。
(何これ……何も変わってない? 私たち、本当にあんな大冒険をしてきたの? それともただ単純に立ちくらみをして、夢でも見てたのかしら!?)
アイカが答えの出ない疑問を抱く中、ヒマリの一言で事実が確定する。
「ママ、見てー! そこの木の枝にミノムシさんがいるよ! ……ボボみたいだね! あっ、もしかしてボボもさっきの森から一緒に来てくれたのかなぁ!?」
(えっ? ヒマリッ!? ボボって言った? やっぱり……夢じゃないんだわ!?)
「本当ね……ボボもヒマリのことが大好きで、一緒に来てくれたのかもね」
「ねぇ、ママ? あのミノムシさん、お家に連れて帰っていい? ヒマリの鞄には小さなポッケないからママの鞄のチャックの所に入れてもいい?」
「ちょ、ヒマリ! それはダメよ!」
(ミノムシって、中はウネウネした変な虫でしょ!? そんな気持ち悪いものをっ! 私、虫苦手なんだから!)
「えーっ? 何でー? どうしてもダメー?」
「だ、ダメよヒマリ。このミノムシさんは、ここがお家なのよ。お家から連れ去っちゃったらかわいそうでしょ?」
「そっかぁ。ヒマリもお家に帰れなかったら悲しいもんね。うん、わかったよママ」
「うん、偉いわよ、ヒマリ!」
(良かった! ミノムシが鞄の中にっ! ……のピンチはひとまず回避ね)
ほっと安心したのも束の間、アイカは突然大きな声をあげる。
「ああっ!」
「ママ、どうしたの!?」
「ヒマリ! ママ、今どうなってる!? あっちにいた時は十八歳の姿だったけど!?」
「うん、前のママに戻ってるよ。えっと、さんじゅう……」
アイカは正確な年齢を言おうとしたヒマリが答えを言い終える前に、ヒマリの両頬を軽く引っ張る。
「ヒーマーリーッ。それは敢えて言ったらダメなことなのよー?」
「ひっ、ひはーいっ、ママーッ」
「いい? これから気をつけてね!」
「はーい」
「うん、偉いわよヒマリ!」
(はぁ……十八歳の身体ともお別れかぁ。帰ってこられたのは嬉しいけど、そこだけはちょっと残念ね……)
アイカは複雑な心境ながらも笑顔でヒマリの頭を撫で、ヒマリも笑顔でそれに応える。そして二人は手をつなぎ、家に向かっていつもの帰り道を歩き始めた。




