魔女さんにかけてみて!
アイカが空を見上げると、コンパから一緒に飛び降りてくるポルトミーヌとプリムの姿があった。二人はアンクルを救うことに成功した「かなづちの杖」を両手で握っている。その様子を見てアイカがヒマリに聞く。
「ねえ、ヒマリ? ヒマリが描いた『かなづちの杖』……だっけ? あれって、お爺さんが叩くとドーンって色んなものを割ることができて、お婆さんが振りかざすとビリビリって言うのが出るのは分かるけど、二人同時に振り下ろすとどうなるの?」
「うーん……ヒマリもよく分からないけど、一人より二人で使う方がきっと凄い力が出ると思うよ!」
「そ、そうなのね……」
アイカは、杖を構えた二人の動きをじっと見つめる。二人は力を込めて、両手で握った「かなづちの杖」を同時に振り下ろす。
「そぉーれい! お嬢ちゃんにもらった、この杖の叩き割る力で!」
「ひょっひょっ! お嬢ちゃんに託された、ほとばしる閃光の吹き飛ばす力で!」
「お主を覆い包む悪しき気配から救ってやるぞい!」
「お主を覆い包む悪しき気配から救ってやるんじゃて!」
上空からパンソーに向かって「かなづちの杖」を振り下ろすポルトミーヌとプリムの声が揃う。
……ドーンッ!! ズババババッ!!
「ああっっ! ああぁぁぁぅっっ!!」
二つの力が重なり合い、激しい轟音が響く。閃光がパンソーを覆う不穏な気配とぶつかり合うと同時に、周囲はまばゆい光に包まれた。
……ピカーン!!
「うわっ! ま、眩しいっ!!」
激しい閃光で視界がしばらく奪われた後、アイカとヒマリがゆっくり目を開くと……そこには地面に横たわるパンソーの姿と、パンソーに寄り添うポルトミーヌとプリムの姿があった。プリムは傷を負ったパンソーの両腕を治療している。パンソーを覆っていた不穏な気配はなくなり、身体も通常の大きさに戻っていたが意識はまだ戻らず、うめき声をあげて苦しんでいる。
「うぅ……あっ、あぁぁ……」
ヒマリがパンソーの様子を心配して尋ねる。
「お婆ちゃん、魔女さんは大丈夫なの?」
「小さいお嬢ちゃんや、魔女っ子を心配してくれてありがとうて。自分も怖い想いをたくさんした後じゃろうに、ほんに優しいことじゃて。ただ、魔女っ子は心の奥の方でまだ苦しみの淀みのようなものがありそうじゃて」
「そんな! お婆さん、魔女さんを助ける方法はあるの? 私たちは魔女さんが正気に戻らないと、帰れないのでしょう?」
「そうじゃて……これは、街の教会にでも連れて行って腕利きの祈祷師や僧侶達が、数日間かけて祓いの儀でもせんと、根本的に治すのは難しそうじゃて。」
「良かった。魔女さんを元に戻す方法があるのね。それを聞いて安心したわ。ヒマリ、これで私たち、時間はかかるみたいだけどお家に帰れるわよ」
「うん、良かった。ねぇ、ママ? 魔女さんは今、どうなってるの?」
「えっと、そうね……いわゆる『呪い』? ……っていうか、ちょっと体の中が難しい状態になってるみたいね。お婆さん、この説明で合ってるかしら?」
「ほいほい、一言で言うなら大方合っとるて」
「そっかぁ。『のろい』っていう状態なんだね……」
ヒマリはそう言いながら何かを思い出そうとして空を見上げる。
「うん? ヒマリ、どうかしたの?」
「えっとね、ママ……何かいい方法があったような気がするんだけど」
「まぁまぁ、そんなことよりお嬢ちゃん達も負傷しておるんじゃて? どれ、私に見せてみるんじゃて。ふむふむ……て」
プリムは負傷したアイカの足、アイカとヒマリの両腕を確認し、近くに実っていた果実を採取する。そして意識を集中するとプリムの手の中で果実が光り始める。プリムはその果実の果汁を二人が負傷した所に垂らそうとする。しかしアイカは危険を察し、自由が利かない腕を全力で引き下げて確認する。
「ちょっとお婆さん! またそんな変な植物の果汁で酷いことするんじゃないでしょうね!?」
「これこれ、大きいお嬢ちゃん。他者の善意を疑うものではないんじゃて。これを垂らせば腕の感覚も足の傷も元に戻るんじゃて」
「ほ、本当でしょうね? 凄く痛いとかないでしょうねっ!?」
半信半疑のアイカと疑わずに素直に両手を出すヒマリに、プリムが果実の果汁を垂らす。
「わぁ……凄く綺麗だね。お水みたい!」
「ほんとね……これなら痛さもないし……あっ! 手の感覚が戻ってきた! 凄い! 足の傷も治っていく! お婆さん、今回は素直にありがとう!」
「ひょっひょっ。大きいお嬢ちゃんは礼を言う時も一言多いんじゃて」
ヒマリは、両腕に垂らされた透明で水のような果汁を見て、あることを思い出す。
「あっ! そうだ!!」
「ヒマリ、どうしたの?」
「あれなら魔女さんを治せるかもしれない!」
「えっ!? そんな方法があるの?」
「うん、ママ、ちょっと待ってて!」
ヒマリは鞄からクレヨンセットとお絵かき帳を取り出し、あるものを描き始める。
……ふふーん♪ ふふーん♪
(こ、これは……何!?)
……ピカーンッ! ボンッ!
ヒマリは透き通る綺麗な水が入った瓶を描き出して言う。
「これはね! せーすい(聖水)っていうの! よく分からないけど……『のろい』とか『ぞんび』っていう状態を治してくれるんだよ! 魔女さんにかけてみて!」
「何とっ! 小さなお嬢ちゃんは邪祓いができるこんな神聖なものまで描き出せるのか? 凄い能力じゃのう!」
「どれ、試しにやってみるんじゃて」
プリムがヒマリから聖水を受け取り、苦しむパンソーにふりかける。するとパンソーの身体は輝き始め、その輝きが収まると同時にパンソーはゆっくりと目を開いた。
「おおぉ! 信じられんぞい!」
「普通の祓いの儀では何日もかかる呪いを、一瞬で鎮めるとは……!」
ポルトミーヌとプリムが聖水の効果に声を上げて驚く。一方、呪いの状態を回復させた聖水を描き出したヒマリを見て、アイカは怒りを内に秘めた微妙な表情を見せる。
(ああっ……ヒマリが……私のヒマリが……どんどんインドアなゲーマーの道を進んでるっ!? こんなものまでしっかり記憶しちゃってるなんて! ……それもこれも全部コウスケのせいだわっ! 一体どれだけたくさんのゲーム動画をヒマリに観せてるのよっ!? 家に帰ったらとっちめてやるんだから!!)
複雑な心境のアイカをよそに、パンソーがゆっくりと口を開く。
「ああぁ……私は……私は……ポルトミーヌ? プリムも……いるの?」
「良かったわい。魔女っ子や、正気に戻ったようじゃの」
「魔女っ子、大丈夫かて? しばらくは大人しくしてるといいて。さて、私は茶でも用意してくるて」
「えっと……私は……? ごめんなさい……何だか最近のこと、あまり覚えてなくて……あっ、カルネ……と、そこにいるのは来訪者さん?」
「パンソー様! 良かった! 意識が戻られたんですね!」
「魔女さん、初めまして。私はアイカ……と」
「私はヒマリ! 五歳だよ! こっちはミノムシの妖精さんでボボ!」
「ボーッ! ボーッ!」
「初めまして、アイカ、ヒマリ……これはヒマリの能力ね。ふふっ、よろしくね、可愛い妖精さん」
ヒマリの描き出した聖水の効果でパンソーは意識を取り戻し、カルネに介抱されながらゆっくりと起き上がった。




