↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パペトリ王国と魔法のクレヨン  作者: 田山照巳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/36

私はあなたのママだから!

「ああっ! ああっ! 嫌ああーーっ!!」

「ママーッ! ママーッ!!」


 アイカとヒマリの想いも虚しく、握力を失った二人の手は離れてしまった。


(ヒマリッ! ヒマリが……時空ゲートに吸い込まれちゃう!? ヒマリと……離れ離れになっちゃう!?)


 二人をつなぎ止めていた手が離れてしまい、アイカの視界の中ではヒマリが時空ゲートに向かって吸い込まれていく様子がスローモーションで進んでいく。


(嫌っ! 嫌っ! 嫌ぁぁーーっ!!)


 この時アイカは不思議と……ヒマリを妊娠していたある日の出来事と、出産した直後の出来事を思い出していた。


──アイカがヒマリを妊娠して七ヶ月を迎えた頃。夫であるコウスケと一緒にアパートのリビングで過ごしていた時……。


「あっ!」

「アイカ? どうかしたの?」


「コウスケ、今ね、赤ちゃんが動いた」

「そっかぁ。お腹の赤ちゃんはアイカに似て元気なのかなぁ?」


「なによそれ? 私がおてんばだとでも言いたいのー?」


「いやっ、そういうわけじゃないよ。でも、お腹の赤ちゃんが足で蹴る……って聞くけど本当なんだね」


「うん、でもね。今のはきっと蹴ったんじゃなくて……手で叩いたんだと思う」


「ええっ? そんなことある? だって、お腹の中の赤ちゃんの手ってすごい小さいでしょ? 手で叩くことなんてできるの?」


「まぁそうなんだけど……でもね、不思議と『あ、今のは蹴ったんじゃなくて叩いたんだな』……って私がそう感じたのよ」

「ふーん。まぁ、アイカが言うならそうなのかもね」


……そう、普通に考えたらお腹の中の赤ちゃんが手で叩いて母親が気付くなんてきっとないことだ。でも、あの時私は確かにそう感じたんだ。「あっ、この子は自分の手で私に何かを伝えようとしてる……私の手をちゃんと見て! 生まれたら私の手をちゃんと握ってね!」……って、そう言ってるように感じたんだ。


──また、アイカがヒマリの出産を終えた直後。


「ギャァーー! ギャァーー!」

「はぁ……はぁ……」

「お母さん! 良く頑張りましたね! 元気な女の子ですよ!!」


「アイカ、ありがとう! 本当にありがとう!! 僕たちの子供を産んでくれて……僕を父親にしてくれて……ああっ! ああぁぁっ!!」


「ちょ、コウスケ、しっかりしてよ……もう、お父さんでしょ!」

「うん、ゴメン。でも本当に嬉しくて……ありがとう!」

「ほら、お母さん、お嬢さんを抱いてあげてください」


 助産師から受けとった小さな身体。私の子供。肌を通して、そのぬくもりが伝わってくる。


 自然と涙が出てきた。止めることができなかった。泣きながら小さな身体を抱きしめていると……その子は右手で私の胸を押したような気がした。生まれた直後の子供が何か意図的な動作をするとは思えない。きっと偶然の動作だ……でも、その時も私は感じたんだ。この子は「これが私の手。ちゃんと繋いでいてね。私の手、大きくなるまでずっと見守っていてね」……って言ってるように感じたんだ。


 アイカはヒマリの手が離れてしまった瞬間、過去の思い出深い出来事を走馬灯のように思い出す。そして回想を終えて……我に返る。


(そう! そうよ!! ……ヒマリは私の娘! 産まれる前から……産まれてからもずっと……ヒマリはこの手を私に伸ばしてくれたんだ! ……離さない! ……離せない! ヒマリが伸ばすこの手を! 私は離すわけにはいかない!!)


 改めてそう決意した瞬間、アイカはヒマリに向かってかろうじて動く両腕を使って、時空ゲートに吸い込まれようとするヒマリの身体を飛び込むようにして抱きかかえた。


(手は動かなくても腕なら動く!! ヒマリの手を離すくらいなら! どんな世界にでも一緒に飛ばされる方がマシだわ!!)


「ママッ!? 何で!?」


「ヒマリ! 私はあなたのママだからっ! ヒマリを離したりしない! どこか変な世界に行っちゃうかもしれないけど……! ママも一緒に行くわっ!」

「ママーッ! ママーッ!」


 ヒマリがアイカの腕の中で泣き叫ぶ。宙に浮くアイカとヒマリの身体が時空ゲートに近づいてゆき、今にも吸い込まれようとした……その時であった。


……ザザァーッ!! ……ビュンッ!!


「パンソー様!! 一体何をなさっているのですか!? 軽傷で済ませますのでどうかお許しをっ!!」


……スパーンッ! スパーンッ!


「キエェェッ!! あうぅ!!」


 空からカニフに乗って急降下してきたカルネは、着地と同時に身体を固定していたベルトを剣で切り、そのままの勢いでパンソーに斬りかかった。そしてパンソーの両腕を斬りつけた瞬間、時空ゲートを操る呪文は無効化された。


……ザザァーッ!


 ヒマリを抱えたアイカの身体が地面を滑る。


「カルネ!? カルネなのっ!?」

「アイカ! ヒマリ! 遅くなってすみません!! 大丈夫ですか!? 怪我はありませんか!?」


「もう! 遅いわよバカッ! 大丈夫じゃないわよ! 怪我だってしてるわよ! ……でも、もう本当に……ダメかと思った。ああっ……カルネ! 来てくれてありがとう!」

「わーい! カルネだー!!」


 安堵のあまり、地面に倒れ込んだアイカとヒマリが、泣きながら歓喜の声をあげる。


「うぁぁー! 腕がっ! 腕がぁっ!」


 パンソーは、はがねの剣で両腕を斬られ、痛みとショックで奇声をあげている。


「ボーッ! ボボーッ!」

「あっ! ボボも来てる!!」


 ボボは自らの判断で不穏な気配に包み込まれたパンソーに対して触手のような紐状のものでベシベシ! ……と叩いて攻撃している。しかしこの攻撃によるパンソーへのダメージはない。パンソーにとってはただうっとうしくて邪魔なだけである。


「何だ? これは……! やめっ、は、離れろっ!」


 ボボがパンソーにまとわりついている間に、カルネはアイカを起こす。


「アイカ!」

「もうっ! カルネ! 私たち、本当に怖かったんだからね! もう……ばかばかっ! でも……やっぱり助けに来てくれた! 最高のタイミングでっ! やっぱりあなたは私のアイドルよ! カルネ!!」


 飛びついて抱きつこうとするアイカをカルネは一旦落ち着かせる。


「アイカ、ヒマリ、遅くなってすみません」


「うん、来てくれるのが遅かったのは、きっと後から腹が立ってくるんでしょうけど……今はひとまず良かったわ。ところで魔女さんは大丈夫なの? 腕を怪我させちゃったみたいだけど?」


「ええ。非常事態だったので斬ってしまいました。でもあれくらいの軽傷なら、プリム様の植物の力で治癒できるでしょう。それもこれも……鋭い切れ味を誇るこの名刀、はがねの剣のおかげです。ありがとう、ヒマリ!」


 カルネはヒマリの頭を撫で、ヒマリが笑顔でそれに応える。


「うん、良かった! ヒマリもカルネの役に立ててうれしい!」

「ちょっと待って! そう言えばお爺さん達はどうなったの? 魔女さんに空に飛ばされちゃったのよ!?」


「アイカ、聞いてください。ポルトミーヌ様とプリム様も一緒です。空の上で遭遇したので、コンパに乗ってここに来ています」


「そっか、ウサギさん達に乗ってきたのね。で、二人は今どこに?」

「えっと……そう言えば?」


 アイカとカルネが周囲を見渡す。すると上空から二人の声が聞こえてきた。


「こーれー! この魔女っ子め! 儂らだけでなく来訪者のお嬢ちゃん達まで襲うとは何事じゃ!」

「魔女っ子! ちいと痛いが我慢するんじゃて! 今、お主を救ってやるんじゃて!」


 アイカは空を見上げると、空の上でコンパからジャンプして一緒に飛び降りてくるポルトミーヌとプリムの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。