これは何としたことじゃ!?
アイカ達が魔女パンソーの元へ向かっていた頃、カルネはラビタクのカニフ、コンパと共に上空を移動していた。カルネは上空から魔女パンソーの住まいであるツリーハウスを見つけた。普段は動物や植物に囲まれ、穏やかな雰囲気に包まれているはずのその場所が、重苦しい気配に覆われているのが空からでも分かった。
(ツリーハウスの気配が普段と全く違う!? やはりパンソー様の身に何かが起こっているのでしょうか!?)
カルネは不安を覚え、カニフとコンパに指示を出す。
「カニフ、コンパ! あちらに見えるツリーハウスに向かってください!」
「キューッ!」
「キュッキュッ!」
一方、アイカ達も魔女パンソーのツリーハウスに近づくにつれ、森の入口付近では自然豊かで明るかった雰囲気が、薄暗く重苦しいものへと変わっていくことに気付く。
「ママ、何だか変な感じだね。暗いって言うか、怖いって言うか……」
「そうね、この辺はあまりいい感じとは言えないわね。お爺ちゃん達? この辺りはいつもこんな感じなの?」
「いや、森がこんな風になってしまうのは儂らも初めて見るのう」
「これは……ちいとばかり気をつけないといかん状況じゃて」
「ちょっとお婆さん、大丈夫なの!? さっきの熊みたいに魔女さんがいきなり襲ってきたりしないでしょうね!?」
「心優しい魔女っ子のことじゃて。そこは大丈夫じゃと思いたい所じゃて。じゃがそれは希望的観測というヤツじゃて」
「うむ、アンクルが襲ってきたのも儂らの想像を超えた事態じゃ。今度も何が起こるか分からんの。魔女っ子と落ち着いて話ができればいいのじゃが……」
「そ、そう……でもここまで来たら魔女さんに会ってみるしかないものね。ちょっと怖い気もするけど」
アイカは繋いでいたヒマリの手を少し強く握って不安を掻き消そうとする。ヒマリはそれを敏感に悟りアイカを見上げる。
「ママ……大丈夫? ママもヒマリも一緒にお家に帰れるんだよね?」
(ヒマリ……不安にさせてごめんね。正直、無事に帰れる確証はないけど……でも不安になってても仕方がないわ。こんな時こそ私がしっかりしないとっ!)
アイカは自分の不安を打ち消すためにも虚勢を張って笑顔を作る。
「うん、大丈夫よヒマリ。お爺ちゃん達も協力してくれるし。魔女さんにお願いして一緒にお家に帰ろうね」
「うん! ママーッ!」
ヒマリがアイカにしがみつき、アイカもそれに応えて小さな身体を抱きしめる。そしてしばらく歩みを進めるといよいよ魔女パンソーの住まいに近づいてきた。ポルトミーヌが少し先のツリーハウスを指差して言う。
「お嬢ちゃん達、あそこに見えるツリーハウスが魔女っ子の家じゃ。お嬢ちゃん達はこの辺で待っておってくれ。魔女っ子が話を聞いてくれそうなら呼びにくるぞい」
「ええ、分かったわ。お爺ちゃん達、よろしくお願いするわね」
ポルトミーヌとプリムが魔女パンソーのツリーハウスに近づき声をかける。
「おーい、魔女っ子! おるかのー?」
「……」
ポルトミーヌの呼びかけに返事はない。
「魔女っ子や? おらんのか?」
「……」
ツリーハウスの中からは応答がない。するとプリムが、近くの木陰に何者かの気配を感じた。
「爺さんや、あそこ……じゃないかて?」
「ほう……魔女っ子? そこにおるのか?」
ポルトミーヌとプリムが木に近づくと、木陰から小さなすすり泣きが聞こえてきた。
「はぅ……うぅ……」
「魔女っ子よ、泣いておるのか?」
「そんな隅っこで泣いとらんでもいいんじゃて。こっちに来て私らと話でもせんかて?」
「はぅ……うぅ……」
ポルトミーヌとプリムが声をかけるがパンソーは出てこない。
「魔女っ子や、大丈夫かて? 辛い気持ちも分かるが、いつまでもそうしてふさぎ込んでおっても仕方なかろうて」
「そうじゃよ。話ならいくらでも聞いてやるぞい。こっちへ来んか」
「はぅ……うぅ……」
やはりパンソーは木陰から動こうとしない。ポルトミーヌとプリムは自ら出てこようとしないパンソーを心配し、木の両側から回り込んでパンソーの姿を覗き込む。
(……なっ!? これは何としたことじゃ!?)
(魔女っ子!? ……まさか!?)
ポルトミーヌとプリムは自分の目を疑った。二人の目に映ったパンソーは想像もできないほど痛々しく、悲しみに打ちひしがれて泣いている姿であった。




