優しい妖精さんだったのね
アイカは魔女パンソーが乱心した経緯について話を聞いている。
「この国では私たちみたいな来訪者が時々くるのよね? 前の来訪者さんと魔女さんに一体何があったの?」
「前の来訪者は男性での。それはそれは絵に描いたような美男子だったわい。それに加えて性格も良くてのう……ただ、その来訪者は元の世界にすぐには戻ろうとせずに、この世界に少しばかり残っておったのじゃ」
「えっ? どうして?」
「それは儂にも分からん。そやつには元の世界に戻りたくない事情が何かあったんじゃろ。嫌なこと、辛いこと、悲しいこと……詳しくは分からんがの」
「まぁ、人にはそれぞれ色んな事情があるかもね。で、その後どうなったの?」
「うむ。その来訪者はしばらくの間、この森で魔女っ子と一緒に暮らしておったのじゃ。魔女っ子は来訪者を元の世界に送り届けるのが本来の役目。その来訪者のために親身になって相談に乗っておったんじゃ」
「それが魔女さんのお仕事だものね。でも、その来訪者さんの気持ちも分かるかなぁ。こんなに綺麗な森で動物達を見ながら生活するのって、ちょっと魅力は感じるもの」
「ヒマリもー! この森、動物もお花もたくさんで楽しいよ!」
「ほっほっ。それは嬉しい言葉じゃ。儂ら、森の妖精にとっては最高の褒め言葉じゃて」
「……」
(そ、そう言えば、お爺ちゃんたちはこの森の妖精だったわね……すっかり忘れてたわ)
やや引きつった笑顔のアイカを気にせず、ポルトミーヌは話を続ける。
「で、来訪者と魔女っ子が一緒に暮らしている間にある問題が起きたのじゃ」
「えっ? その優しかった来訪者さんと魔女さんが喧嘩でもしたの?」
「いや、その逆じゃ」
「逆!? ……って、まさか!?」
「うむ、そのまさかじゃ。二人は恋に落ちてしまったのじゃ」
(……ええっ!? 元の世界に戻らなきゃいけないのに、異世界の魔女と恋!?)
「ひょっひょっ。驚いているようじゃて。でも所詮、恋なぞ情動的なもんじゃて。理性で考えて答えが出てくるような……これでいいのか? 悪いのか? なぞとは別ものじゃて」
「うむ。儂も魔女っ子のあんな顔を見たのは初めてじゃ。それはもう、互いに相当な熱愛ぶりじゃったわい。互いに愛を誓い合ってのう。見てるこっちが恥ずかしくなってしまう程じゃ」
「で、でもっ! その後どうなったのよ!? 好き同士になっちゃったら別れが辛くなっちゃうじゃない? 来訪者さんが元の世界に戻ったら二人はもう会えないわけでしょ!? それに、その来訪者さんが戻る道……時空ゲートは魔女さん本人が操作するのよね!? 私だったら愛する人を自分の手で永遠の別れに送り出す……なんてことを考えたら、辛くて仕方ないわよ!?」
「うむ、そこが問題だったんじゃ。結局その来訪者も心変わり……と言ったらいかんかの。やはり元の世界に戻りたい……と思うようになったみたいでの。結局、その来訪者は元の世界に戻って行ったわい」
「そ、そんな……」
アイカは両手で口を押さえ、悲しさと複雑な感情をあらわにする。
「大きいお嬢ちゃん、そんな悲しい顔をするでないて。これは仕方のないことじゃて。魔女っ子の恋心を否定することはできんて。来訪者の恋心も否定することはできんて。そしてやはり、元の世界に戻りたくなった来訪者のことを否定するのも、私ゃ間違っとると思うて。それに問題が起きるからと言って互いに好きになるのをやめておけば良かった……というのも、私ゃ違うと思うて。これは二人が自分の心に素直に従った結果じゃて」
「でも、そんなっ!?」
「そういうことがあっての。ただ、その来訪者を送り届けてしばらくは魔女っ子も普通だったんじゃ。儂らが会いに行っても何も問題なかったの」
「えっ? じゃあ、何で魔女さんはおかしくなっちゃったの?」
「来訪者を送り届けてしばらくの頃じゃて。魔女っ子は少しずつふさぎ込むようになっていったんじゃて。そして時が経つにつれて……あとは坂道を転げ落ちるようなものじゃて。私らも魔女っ子の様子を気にかけておったが、まさかアンクルまでおかしくしてしまう程になるとはとても想定外じゃて」
「えっと……色々情報があって頭が追いつかない部分もあるけど、敢えて一言でいうと……つまりは失恋ってこと?」
「これこれ、魔女っ子の長い生の中でもこれは一大事件なんじゃ。そんな一言で片付けるんじゃないわい」
「そうじゃて。大きいお嬢ちゃんは節操がないのじゃて」
「勿論、共感できる部分もあるわ。愛する人と永遠の別れなんて辛いのはわかるけど……」
「まぁまぁ、そういうことじゃ。心優しい魔女っ子のことじゃ。思い詰めれば詰めるほど、おかしくなってしまったのじゃろ」
「恋する乙女の乱心……私らとしても何とか救ってやりたい所じゃて。今までは様子を見ながら話し相手になるくらいで良かったのじゃて。しかしここまで悪影響が出ては、私らもある程度の強硬手段はやむなし……と考えておった所じゃて。そういうわけで、今日は爺さんと一緒に魔女っ子の所に向かっておったんじゃて」
「うむ。儂ら森の妖精と時空ゲートの番人である魔女っ子。腐れ縁というか長い付き合いじゃからの。何とか魔女っ子を救えるように頑張ってみるつもりじゃ」
「そっか。お爺さんもお婆さんも本当に魔女さんのことを想っているのね。何だかほっとした……というか、安心したわ。第一印象はふざけた老人!? ……とか思ったりしたけど、優しい妖精さんだったのね」
「ひょっひょっ。今更褒めても何も出てこんて」
こうして魔女パンソーが乱心した経緯を聞き終え、皆は歩みを進めていく。




