そういうものだもん!
ポルトミーヌとプリムの攻撃でアンクルを覆う不穏な気配が消え去り、アンクルは正気を取り戻したかのように思われた。しかしアンクルが再び大きな声で叫びだす。
「グッ、ググッ、グオォォー!!」
……バーン!!
アンクルを覆う不穏な気配が、再び炎のように燃え上がる。そして、アンクルの身体をすっぽりと包み込んだ。アンクルはポルトミーヌとプリムに向かって再び腕を振り回す。
「これは何としたことじゃ!? 儂らでもアンクルを救うことはできんのか?」
「はてさて、これは困ったもんじゃて」
その先行きの不安な状況に、アイカも堪らず大声を出す。
「ちょっと! お爺さん達、大丈夫なの!? さっきの攻撃で何とかなる予定だったんじゃないの!?」
「ほっほっ。大きいお嬢ちゃんは鋭いの。確かに、ちょっとだけピンチじゃ」
「そのようじゃて。こうなっては、ひとまず逃げてアンクルを救う方法を落ち着いて考えた方が良さそうじゃて」
「逃げるのね! ……てゆか、ほら! だから言ったでしょ! こういう時のために子守唄の草笛! もっと勉強して練習しとけば良かったのよ!」
「……」
「……」
アイカの的を射た指摘に、ポルトミーヌとプリムは黙り込む。
(……なっ! 勉強の話題になったらまた黙った!?)
ポルトミーヌとプリムが黙りこくってアンクルの攻撃を避けながら逃げる段取りを考えている時だった。ヒマリが突然大きな声をあげる。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん! さっきみたいな攻撃ができたらこの熊さんを助けられるの!?」
「うん? その通りじゃよ、小さいお嬢ちゃん。でも、儂らの力がちいとばかし足りんようじゃ」
「そのようじゃて。もう少し強力な力を出せたらいいのかもしれんて」
「そうなのね! じゃぁ、ちょっと待ってて! いいものあげるから!」
「なんじゃ? 小さいお嬢ちゃん、何かできるのか?」
「爺さんや、女の閃きは大切にするもんじゃて。ここは小さいお嬢ちゃんを信じてみるんじゃて」
ポルトミーヌとプリムがアンクルの振り回す腕をかわして時間を稼ぐ中、ヒマリは鞄からクレヨンセットとお絵かき帳を取りだし、あるものを描き始める。
……ふふーん♪ ふふーん♪
(えっ!? ……こ、これは何!?)
お絵かき帳を覗き込むアイカの前で、ヒマリのクレヨンセットとお絵かき帳が輝き始める。
……ピカーン!! ……ボンッ!!
「これは驚いたわい。小さいお嬢ちゃんは、特別な力の持ち主じゃったのか?」
「ひょっひょっ。これは凄いことじゃて。描いたものを実物にできるとは面白い力じゃて」
ヒマリは描き出したものを手に取り、ポルトミーヌに向かって投げる。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん! これを順番に使って!!」
……ヒューンッ! ……パシッ!
ポルトミーヌはヒマリが投げたものを受け取りヒマリに尋ねる。
「して、小さいお嬢ちゃんや。これは一体なんじゃい?」
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、これはね! ……『かなづちの杖』だよ!!」
(……か、かなづちの杖!? 一体何なの!? こんなの見たことない! これって架空のものよね!?)
ヒマリが描き出した『かなづちの杖』……その形状はいかにも魔法使いが持っていそうな杖なのだが、先端はハンマーのような金づちになっている。口を開けて驚くアイカの隣でヒマリは説明を続ける。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、その杖は凄いんだよ! 先っぽのハンマーでドーンッ! って叩くとひび割れを起こすの! 地面を叩いたら地割れも起こせるくらいに強いんだよ! それでね! その杖を振りかざすと、ビリビリッ! ……っていうのがほとばしるの!!」
(……ちょっと待って、何なのそれ!? 強力なハンマーみたいなものと魔法の杖みたいなものが一緒になってる!? それって、いかにもコウスケが好きなゲームに出てきそうな武器だけどっ!? ああっ!! ヒマリ! コウスケ! ……私に内緒でこんなものをしっかり思い出せるくらいゲームの動画をたくさん観てるのね!? ……もうっ本当に頭に来たわ!! ヒマリには外で遊んだり、色んなことを見たり勉強したりして欲しいのに! コウスケのせいでヒマリが屋内引きこもりのゲーマーになっちゃうじゃないのよっ! コウスケ! もう許さないんだから! ……こうなったら平日一日おきに発泡酒を飲ませてあげるのも止めだわっ! ……発泡酒は土日だけよ! 平日は全部アルコール禁止にして炭酸水だけにしてやる!)
……ゴゴゴゴッ!
アイカは一人で怒りの炎を燃やす。一方、かなづちの杖を受けとったポルトミーヌはある疑問をヒマリに向ける。
「小さいお嬢ちゃんや。威力が強力なのはいいのじゃが、そんなに強い力でアンクルを叩いても大丈夫かの? 儂はアンクルの身体を傷付けずに、アンクルを覆う不穏な気配だけを叩き割りたいんじゃ」
「お爺ちゃん、それはきっと大丈夫だよ!」
「ほう……どうしてそう言いきれるのじゃ?」
「だって! これはそういうものだもん!」
「ほっほっ。それは都合のいい能力じゃ。でもそれを聞いて安心したわい。特殊な能力の持ち主がそう願って力を発揮したのならそういうもんじゃ。では、遠慮なくいかせてもらうぞい! アンクル、少し痛いかもしれんが我慢せえよ!」
ポルトミーヌは再びジャンプして、アンクルの頭上からかなづちの杖を振り下ろす。
「そおぉぉーれい!!」
……バーンッ!!
「グオォォー!!」
先ほどよりも大きな衝撃が走り、アンクルを覆う不穏な気配が吹き飛ばされそうな勢いで真っ二つに割れた。
「それ! 次は婆さんじゃ。頼んだぞい!」
……ヒューン! ……パシッ!
プリムはかなづちの杖を受け取って握りしめる。
「ほうほう、これはまたよく手になじむ杖じゃて。アンクルよ……私と爺さんだけではお前を助けられなかったが、今度はお嬢ちゃんの特別な力も一緒に合わせて助けてやるんじゃて。それっ!!」
プリムがかなづちの杖を振りかざすと、激しい閃光がほとばしる。
……ズバババッ!!
「グオォォー!! グオォォー!!」
激しい閃光がアンクルを包み込み、見る見るうちにその身体を覆う不穏な気配を打ち消していく。そして、しばらくすると不穏な気配は完全に消え去った。気配から解放されたアンクルは、ゆっくりと目を閉じ、そのまま静かに地面に身体を横たえた。
「ふぅ、上手くいったようじゃな」
「どうやらそのようじゃて」
こうしてヒマリが描き出した金づちの杖による活躍で、アンクルを不穏な気配から解放することに成功した。




