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第九話 木馬の軋みと秋のダリア

第九話 木馬の軋みと秋のダリア


胸の奥がじんわりと温かくなるような安らぎを覚え、マリー・アントワネットは刺繍針を動かす手を休めた。十月のやわらかな午後の光がトリアノンの居室の窓辺を黄金色に染め上げ、花壇には大輪の紅いダリアが秋風に吹かれて重たそうに花首を揺らしていたが、部屋の中には天日で干した赤ん坊の産着の匂いと、甘く煮詰めた林檎の香りが漂っていた。小机の上には、飲みかけの温かいアーモンドミルクの銀のカップが置かれ、その縁には薄い膜が張り、そばには長女マリー・テレーズが散らかした木製の積み木と毛糸玉が転がっていた。結婚から八年を経て娘を抱き、やがて待望の男子にも恵まれて四人の子の母となった今、あの送還の脅威に怯えていた日々が遠い幻のように感じられ、彼女は柔らかな麻のペティコートの裾を撫でながら、床に腹ばいになっている大柄な男の背中を見つめた。


「陛下、国王ともあろうお方が、そんな絨毯の上で四つん這いになられては、お召し物の膝が抜けてしまいますわ。ウィーンの母上が見たら、威厳が足りないとまた分厚いお小言の手紙が届いてしまいます」

くすくす笑いながら声をかけると、子どもたちのおもちゃの木馬を修理していたルイ十六世は、太い首をすくめて顔を上げた。


「……構うものか。宮廷の儀礼室で椅子に座っているより、ここで娘の木馬の脚に新しい真鍮の留め具を打っている方が、僕はずっと落ち着くんだ」

ルイはそう言って、あの真鍮の蝶番の油を拭く時に使っていた黒ずんだ布で額の汗を拭い、右手の親指の爪をカリカリと小さく擦り合わせた。


居室の絨毯の上には、子どもたちのために用意された温かいポタージュスープの小鉢が並び、蒸かした栗と焼き立てのブリオッシュから立ち上る湯気が食欲をそそっていた。アントワネットは、夫が木馬の車輪に夢中になるあまり、昼食のスープに油のついた指先を近づけたのを見て、反射的に眉をつり上げた。子どもたちの前では常に威厳ある父親でいてほしいという気負いから、夫がただの不器用な職人のように振る舞う姿をみっともないと思い込み、彼女は手元にあった銀のスプーンで皿の縁をカチリと鳴らした。


「陛下、その汚れた指先でスープの器に触れないでくださいませ。あなたは一国の主であって、鍛冶屋の親方ではございませんのよ。子どもたちに油臭い食事を食べさせるおつもりですか」

つい尖った調子で咎め立ててしまった瞬間、部屋の隅で人形を抱いていた幼いマリー・テレーズがびくりと肩を竦め、アントワネットは自分の無遠慮な言い種にハッとして息を呑んだ。


ルイは叱られた子どものように手を引っ込め、膝のズボンで手のひらを擦り合わせながら、困ったように視線を落とした。彼の手首には、かつての火傷の痕と、長年の鉄仕事で刻まれた無骨なたこが残っていたが、その指先は子どもたちを抱き上げる時にはいつも驚くほど優しく慎重だった。夫がどれほどこの家族の時間を慈しんでいるかを忘れ、宮廷風の気取りを押し付けてしまったことを悟り、アントワネットは胸の奥をキュッと痛めてうつむいた。部屋の隅の暖炉では、よく乾いたブナの薪がパチパチと心地よい音を立てて燃え盛っていた。


「……すまない。車輪の軸が少し歪んでいて、手で押さえていたから油がついてしまったんだ。すぐに手水鉢で洗ってくるよ」

ルイは弁解がましく呟くと、立ち上がって洗面台へ向かい、レモンの皮を入れた水で丁寧に指先を洗い流した。


「いいえ、陛下、私の方こそ口が過ぎましたわ。せっかく子どもたちのために直してくださっていたのに」

アントワネットは反省を込めてスープの器を夫の前に差し出したが、ルイは気にした風もなく、濡れた手を拭きながら穏やかに目を細めた。


「いや、いいんだ。……ところで王妃よ、さっき厨房の勝手口を通ったら、今年のカボチャは実がよく詰まっていると料理番が喜んでいたよ。明日の夕餉には、カボチャの焼き菓子を子どもたちに作らせるといい。甘くて喜ぶはずだ」

ルイは木馬の頭をぽんと叩き、上着のポケットからあの手垢まみれの真鍮の蝶番を取り出して、木馬の鞍の裏側にしっかりと押し当てた。


「ええ、テレーズも甘いカボチャが大好きですから、きっと喜びますわ。明日は私も一緒に厨房を覗いてみます」

アントワネットが微笑むと、ルイは嬉しそうに頷き、スープの表面に浮かんだパセリの小片を木のスプーンですくって口へ運んだ。


夕暮れが訪れ、子どもたちが侍女に連れられて寝室へと引き上げた後、静まり返ったトリアノンの部屋に二人の時間が戻ってきた。机の上には、食べ残されたブリオッシュの甘いパン屑と、ルイが直した木馬が置かれ、窓の外の薄闇の中には秋のダリアがぼんやりと赤く沈んでいた。ルイは長椅子の端に腰を下ろすと、いつものように右手の親指の爪をカリカリと擦り合わせる癖を覗かせながら、アントワネットの肩を抱き寄せた。かつて冷淡で言葉を交わすことさえ叶わなかった夫の胸のぬくもりを肌で感じながら、彼女は夫の太い指先をそっと握りしめ、満ち足りた吐息を静かに漏らした。


「陛下、今夜は風が冷たくなってまいりましたね」

アントワネットが夫の胸に額を寄せて呟くと、ルイは深く優しい声で応じた。


「……ああ。薪をもう二本くべておこう。今夜は子どもたちも、暖かい夢を見られるはずだ」

ルイはそう言って立ち上がり、暖炉へ向かってゆっくりと歩き出し、アントワネットはその確かな背中を愛おしそうに見つめ続けた。


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