突発的ピンチ
小説を書いてみようと思い立ったので、AI先生に助けられながら書いてみました。
ほぼほぼ初心者なので、色々とおかしかったりする所は生暖かい目で見ていただけると助かります。
感想や評価をいただければ励みになりますので、よろしくお願いします。
帰路の通路は、来たときより狭い気がする。
魔核の袋を抱えた浜波が先頭だ。目黒が続く。次藤は測定器を片手に半歩遅れ、左右の通路へ視線を振り分けている。陸は最後尾——いつもの位置だ。袖の裂傷は乾きかけて、痒い。
「広間も終わったし、F級クリアだな」
目黒の声に、さっきまでの掠れは残っていない。余裕が戻っている。
「……待って」
次藤が足を止める。測定器が、短い警告音を二つ重ねた。
「反応、増えてる。奥じゃない。壁の内側——」
鼻の奥が、急に痺れる。F級の薄い魔気ではない。石板の近くで嗅いだ、あの濃さに近い。
——新宿だ。等級外れが、出た場所の匂いだ。
『おい。雑魚の奥に、面倒が来たぞ』
肩の師匠の声が、短い。欠伸はしていない。
壁の内側が、膨れるように鳴る。砂が落ちる。修復の音ではない。押し出される音だ。
黒い犬ほどの影ではない。腰ほどの高さで、岩の皮を纏った獣が、壁から這い出てくる。牙は短く、重い。魔力の膜が、雑魚の比ではない厚みで光る。
「な——なんだよ、これ」
浜波の剣に光が走る。薄い。さっきの広間で使い果たした残りだ。
「D帯……! 魔力反応、D級を超えてる!」
次藤の声が、測定器の警告に重なる。F級の穴に、出るはずのない等級だ。
目黒の杖が震える。衝撃を放つ。黒い霧は散らない。弾かれるだけだ。
「効かない! なんでF級にD級が出るんだよ」
「まとめて潰せ! 霊力全開!」
浜波が魔核の袋を目黒へ押しつけ、前へ出る。剣が膜に当たる。キンッ、という高い音。刃が跳ね、肩が後ろへ持っていかれる。止まらない。押し切れない。
次藤が横へ回り込む。短い刃で死角を削ろうとするが、獣の横腹は岩だ。刃先が滑る。
「ゲート側、反応は薄い! 逃げるなら今!」
索敵の声は正確だ。それでも、獣の一歩が通路を塞ぐ。逃げ道は、獣の腹の下をくぐるか、戻って広間へ閉じ込もるか——どちらも悪手だ。
目黒が、先に走る。押しつけられた袋を捨て、ゲートのほうへ。
「待て! 俺らで——」
浜波の声が途切れる。獣の前脚が床を抉る。砂が舞う。次の踏み込みで、通路ごと潰される気配だ。
陸は剣を握る。腹の奥から、気の糸を指へ通すが、まだ細い。広間で四匹分、使ったあとの残りだ。
——溶けるな。途中で消えるな。
糸は、途中までしか残らない。喉の継ぎ目すら、この膜の厚さでは遠い。
『今の糸じゃ、弱い。一瞬で溶けるぞ』
師匠の声に、嘲笑はない。
『逃げるか。残るか。どっちか選べ』
浜波が歯を噛む。光を再充填しようとするが、息が追いつかない。目黒の足音は、もう遠い。次藤だけが、測定器と刃を下げずに陸の斜め前にいる。
「あなたは……後ろにいろ、って言われたはず」
「はい」
陸は一歩、前へ出る。袖の裂傷が、動くたび引きつる。乾いた血だ。
——逃げるか。残るか。
ゲートは近い。逃げれば、生きる確率は上がる。残れば、糸が足りない。足りないまま突っ込めば、間違いなく死ぬ。
『覚悟なしの英雄ごっこは、修行の追加じゃ済まないぞ』
「分かっています」
陸は剣先を、獣の前脚の継ぎ目——岩皮の割れ目——へ向ける。急所までは届かない。届かせる前に、糸が溶ける。それでも、軌道を一度だけずらすなら、今の糸でも足りるかもしれない。
次藤が短く息を吸う。
「……逃げ道、作るなら左壁。反応が薄い」
「お願いします」
浜波が舌打ちする。逃げ腰と、意地が混ざる声だ。
「ゼロが前に出るだと……? ふざけ——」
獣が、踏み込む。
前脚の爪が、床の砂を深く削る。広間の雑魚と同じ予兆だ。形は同じ。重さが違う。
——今だ。
陸は踏み込まず、間合いだけを詰める。糸を、割れ目へ通す。
キンッ。
浅い。膜は割れない。だが、爪の軌道が半歩だけ外れる。次藤が左壁へ滑り、浜波の袖を掴んで引く。狭い隙間が、一瞬だけ開く。
それでも獣は止まらない。次の一歩が、すぐ来る。
陸の掌で、糸が溶ける。指先が空になる。
——足りない。
『それで終わりか、小僧』
「……いいえ」
逃げ道は、一瞬だけ開いた。目黒はもう見えない。浜波と次藤は、獣の向こう——ゲート側の左壁の影でこちらを見ている。陸の正面は獣だ。獣の向こうに、通路が続く。
ゲートへ走るなら、今だ。残るなら、糸が戻るまで——いや、戻る前に次が来る。
陸は、剣を下ろさない。
『上等だ』
師匠の声が、耳の奥で短く笑った。欠伸ではない。次のメニューを思い出した笑いだ。
『今のお前の糸じゃ、一瞬しか持たん。だがな——持たせる方法が、一つある』
「……はい」
獣の肩が上がる。跳ぶ前の予兆だ。F級の雑魚と同じ形。重さだけが、等級を告げている。
陸は腹の奥へ、もう一度手を伸ばす。細い糸の端だけが、残っている。
——逃げるな。溶けるな。通すだけでは足りない。
次の一手は、まだ名前を持たない。師匠が、紅い目で前を見ている。




