霊力を凌駕する技術
小説を書いてみようと思い立ったので、AI先生に助けられながら書いてみました。
ほぼほぼ初心者なので、色々とおかしかったりする所は生暖かい目で見ていただけると助かります。
感想や評価をいただければ励みになりますので、よろしくお願いします。
『名前は変化の法だ。細けえ理屈は、あとの修行で教えてやるよ』
師匠の声は、耳の奥で短く途切れる。
陸は獣から目を離さない。肩は、まだ上がったままだ。跳ぶ前の予兆だ。
『糸を増やすな。残った端を、一点に圧縮しろ。息、視界、指——全部そこへ寄せる。持つのは息ふたつだけだ』
「息ふたつ、ですか」
『それ以上持つと、お前の丹田が焼ける。霊力で殴る奴らのタンクとは違う。切れりゃ、そのぶん落ちる』
——切れれば、落ちる。
陸は丹田から伸びる細い糸の端を、握りつぶすように寄せる。糸の密度が濃くなって、指先が熱い。視界の端が意識から落ち、獣の前脚、割れ目、砂の削れ方だけが残る。
『今だ』
獣が跳ぶ。
陸は踏み込まない。半歩だけ横へずれ、爪の軌道の外側へ立つ。広間の雑魚と同じ読みだ。重さだけが違う。間合いを詰める速度は、さっきより早い。——まだ、糸を持っている。
剣先を、前脚の割れ目へ。通す。
ズブッ。
浅い。魔力の膜は完全には割れない。だが、黒い霧が、割れ目から細く散る。獣が短く鳴く。足が半拍遅れる。
——通った。浅いが、通った。
『満足するな。次』
浜波が壁際で剣を握り直す。光はもう出せない。次藤は獣の後方、左壁の影で測定器を握ったまま動かない。刃は構えているが、割って入らない。索敵の目だけが動いている。
「反応、落ちてない。急所まで届いてない——!」
「分かってます」
陸は答えないつもりが、声が出る。短く、実務的だ。変化の法のあいだは、余計な思考が落ちる。残るのは手順だけだ。
獣が首を振る。牙が近い。陸は受けない。受ければ折れる。肩を落として外側へ回り、喉の下——岩皮が薄く折り返っている継ぎ目——を見る。
『そこだ。B級のときみたいに一発で終わらせるな。今は、通るまで同じところへ置け』
鋼鉄大蛇の眼の下とは違う。一発では届かない。通るまで、手数を踏む必要がある。焦れば糸が溶ける。かといって時間をかければ、獣の次の一歩に潰される。
広間の雑魚と同じだ。跳ぶ予兆は、前脚と、削れる砂に出る。
陸は間合いだけを詰め、剣先を継ぎ目へ置く。一度目は弾かれる。キンッ。二度目で、膜が薄くなる。三度目——
ズブッ。
剣が、わずかに沈む。黒い霧が喉元から散る。獣の動きが止まる。死んではいない。止まっただけだ。
『止めを刺せ。今だ』
陸は半歩だけ踏み込み、同じ継ぎ目へ、残った糸の全部を通す。霊力の光は、一瞬も灯っていない。身体強化もない。あるのは、圧縮した気と、予兆の読みと、短い鉄剣だけだ。
獣が崩れる。腰ほどの岩皮が、通路の床に重い音を落とす。霧が散り、測定器が長く鳴る。
「……反応、消えました。D級の反応が、落ちてます」
次藤の声が掠れる。浜波は剣を下げたまま、口を開かない。
陸の膝が、折れる。
変化の法が切れる。視界の端が戻る。熱が一気に腹へ落ち、指先が空になる。さっきまでの速さは、もうない。落ちたあとの身体だ。
『及第点には遠い。だがな。制御はできた。新宿の一発勝負より、マシだ』
師匠が耳を引っ張る。陸は小さく息をつく。痛みはあるが、笑う余裕は腹にない。
「お前……霊力、本当に0か」
浜波の声が、値踏みのまま残る。敵意は薄い。理解が追いついていない目だ。
「測定どおりです」
「なら、今のは——」
「急所です。魔力の薄いところに、力を置いただけです」
気の名前は出さない。変化の法も出さない。出しても、理解されないだろう。
次藤が陸の腕を掴む。測定器はもう鳴っていない。短い刃は鞘に戻っている。
「立てますか。ゲートまで、他の反応はありません」
「……はい」
立てるが、走るのは無理だ。浜波が、目黒の捨てた魔核の袋を拾い上げ、舌打ちする。否定も礼も言わず、先に歩いていく。
通路を歩いて戻っていく。獣の残骸は、黒い霧と岩皮の破片だけだ。F級の雑魚とは違う残り方をする。
ゲート前の光が近い。
目黒が、仮設ゲートの外で座り込んでいる。杖を抱えたまま、顔が白い。向こうで、管理局の腕章とギルドの初動班が走ってくる。測定器の警告が、地上側でも鳴っているらしい。
「中でD級が出た! ここはF級の穴だぞ!」
誰かの声が飛ぶ。目黒が陸たちを指差す。指が震えている。
陸は門をくぐる。乾いた風が、袖の血を冷やす。端末に、遅れて完了通知が届く。F級『雑司が谷廃坑』——初回クリア。測定値は0のまま。討伐の欄に、四が付いている。霊力0の後衛なら、討伐ゼロが普通だ。四は、枠から外れている。
初動班の男が、陸の胸のカードを見る。次に、通路の奥の残骸を見る。眉が寄る。
「魔法も、身体強化の光も、出てなかったよな。測定例外の……ゼロが、何をした」
陸は答えない。膝の震えを、隠さない程度に抑える。
——ゼロでも、戦える。今は、それでいい。
肩の師匠だけが、尻尾を振っていた。次の修行内容を、すでに考えている尻尾だ。




