第22話 王命による返却を始めます
裁定の翌朝、国王アルベルト三世の王印が押された執行命令が発効した。
私は先に、命じられた銀貨二十枚の科料を王宮会計局へ納めた。
金銭は銀行を通じて清算。有体物は王宮執行官が番号札を貼り、ローデリック様の立会いのもとで移送する。
ゼノスが使えるのは、番号の付いた物だけ。
人の姿でも、一つの品を正確に転送することはできる。だが今回は、番号札、封蝋、記録紐を付けた大型物を、執行官の目が届く一つの魔力場へ保ったまま運ばなければならない。札と品の位置関係を崩さず、複数の荷を長時間支えられるのは、竜形態の安定した魔力場だけだった。
私はゼノスへ向き直った。
「これは私の私的な命令ではありません。王命による公的執行です。執行官の合図を待ってください」
「汝ではなく、あの紙束を持った人間の指示に従えというのか」
「今日は、私も執行官の指示に従います」
「……承知した。面倒な人間社会だ」
彼は王都外で竜形態へ戻った。
太陽を覆う黒い翼が城壁の向こうから現れた瞬間、警鐘が一度だけ鳴り、王命を知る隊長が必死に止めた。
それでも恐怖は命令では消えない。
警備兵の一人は槍を落としたまま動けず、隊長に肩を支えられて後方へ下がった。周囲の誰も笑わない。笑える大きさではなかった。
私も、王都外の荒野で初めて竜形態を見た時は膝が震えた。
違うのは、怖くないからではない。
彼が止まると知っているから、前へ出られる。
父は屋敷の玄関に立ち、執行官が家財へ番号札を貼るのを黙って見ていた。私と目が合っても、謝罪も抗議もない。母の手記を裂いた手だけが、背中で固く握られていた。
王宮確認前に魔法で動かした品は、すべて旧占有側へ一度戻し、同じ手順を踏んだ。最初の真珠の髪飾りと茶器箱は父の屋敷で、披露会の首飾りとブローチはレーヴェン家の保全卓で、関係者立会いのもと執行官が番号札を付け、改めて私へ引き渡した。
王命により、西門外から執行集積所までの空域と着地点は封鎖されていた。
執行官の合図で、番号札を付けた大型物だけが屋敷から指定空域へ転送された。
ゼノスの周囲には、王宮の執行札を貼られた書類箱、机、茶器箱が魔力の鎖で浮いている。彼は指定された白線の内側へ羽ばたかずに降り、一番の箱から順番に置いた。
「七番は割れ物です。さらにゆっくり」
「これ以上遅くすれば、空中で日が暮れる」
「暮れても割るよりましです」
巨大な爪の先で、箱が羽毛のように着地した。
ローデリック様と二名の執行官が、番号と封印を照合する。
「全件確認。追加の持ち出しなし。王命による移送を完了します」
照合を終えた箱は、王宮の封印馬車がタウンハウスまで搬入した。
初日の魔法移動には、手続上の瑕疵があった。
だから今日は、同じ力を、許可された対象、立会人、記録、移送先のすべてを揃えて使った。
私が鼻先へ触れると、家より大きな古竜が喉を鳴らした。
警備兵たちは息を呑む。
世界を滅ぼせるものへ平気で触れる女に見えたかもしれない。
本当は、世界を滅ぼせるのに、七番の箱を割らないよう日が暮れる速度で下ろしてくれる彼を知っているだけだ。
人間形態へ戻ったゼノスが、私の手を取った。
「褒美はないのか」
「王都を壊さなかったことは通常業務です」
「我にとっては偉業だぞ」
「では、夕食の焼き菓子を一つ増やします」
彼は王印より満足そうに頷いた。
その夕方、王家古語官から古契終了条項の抄訳が届いた。全文対訳には、あと十日ほどかかるという。
同じ便に、ユリウス・ハルトからの面会願いが入っていた。
『証言を辞退した理由を、私自身の口で説明し、謝罪したい』
終わっていない話は、まだ残っていた。




