上海在住の脱北者
韓国警察情報局の若きチーム・リーダーであるソンナムは、デスクの右側のコンピュータに、中国の民主化グループの内部だけで取り交わされる暗号化されたバイパス・メールの内容を確認していた。
中国の共産党は政権を盤石に、市場においてのみゆるやかな民主化を拡大した。そして市場の民主化は未曾有の経済成長を産み出して、中国の全体的な国力を大幅に押し上げて、特に北京や上海などの沿海部の都市部で多くの富裕層なる特需を創り出し、それは表面的には予測以上の成功を収めたように思えた。それによって中国は日本を抜いて世界第二位の経済大国となって、太平洋を挟んでアメリカに対峙するほどの強大な軍事力を持つようになった。ところが、市場の民主化が進めば進むほど、人民は日本やアメリカなどの資本主義社会から発せられる自由で雑多な情報に晒され、特にスマホやコンピュータを身近にした若者たちは、必要以上に外部の知識を手に入れて、心理的影響を露骨に表すようになった。そして情報はインターネットの津波に乗って全国をいっぺんに汚染した。共産党から見れば、そんな様子はまるで免疫力のない子供たちが害悪の強いウイルスに汚染されているかのようだった。
地方に住む若者たちは、覆しようのなくなった国内の格差に怒りを訴え、政府の一党体制に強い不満を募らせるようになった。そして中国は国内の所々に共産党の一党支配を揺るがしかねない不安定要因を抱えた。大学を卒業しても就職する場所のない、地方に住む『蟻族』だった若者たちは、苦労をしながらもなんとか大人に成長した。それなのに都市部では、甘やかされて我がまま放題に育てられてきた富裕層の二代目である『独二代』や『富二代』『ディンクス』と呼ばれている連中が、札ビラを切って我がもの顔に振る舞っている。これは是正することの出来ない絶望的な格差だ。これには虐げられてきた人々の我慢も限界に達していた。共産主義とはいったい何なのか?この国の社会が共産的でないのであれば、せめて均等にチャンスが欲しい。そう考え、彼らの中からは反政府をプロパガンダに決起する有志たちが出現していた。
共産党の首脳部は多党体制へのゆるやかな変革を検討しながらも、党内の強硬派は人民の民主化運動にプレッシャーをかけ、デモの首謀者を逮捕・拉致するなど、秘密裏に弾圧を進めた。そうなると民主化運動のグループは、当然ながら第二次大戦下のレジスタンスさながらに社会の裏側に潜って、情報網を整えながら他の地域との連携を深め、かえって活動のその幅を広げるようになった。チベットやウイグルや内モンゴルの分離・独立運動家のグループも、タイミングを見計らいながらそれに参画した。また、インターネットとコンピュータによる情報化の社会において、彼らを逮捕しようと躍起になっている公安部の働きは後手を踏むばかりになった。
中国ではこうした民主化運動のエネルギーが、歯止めも利かずに膨れ上がっている。そして北朝鮮を介した隣国である韓国は、そんな中国の共産党体制を表面的には支持しながら、アンダーグランドでは他党体制を整えて民主主義国家へとソフト・ランディングさせるべく、民主化運動を側面からサポートしていた。ソンナムたちの分析チームはそんな民主化運動のグループを援助するための情報管理を任せられていた。
逮捕した男の指紋が照合されて、それが情報部のデータベースにある小さな記録の断片と重なった。それからファイルの一ページを選出し、それと同時にコンピュータの電源ランプが検索の終了を告知して緑に点滅した。
ソンナムはカップのコーヒーに口を着け、チュッパチャプスを口に入れると、左側のコンピュータにそんなランプの点滅を見付けた。そしてキーをタップしてモニターを起こし、検出された人物を自身の目で確かめた。表示されている顔写真はいくらか古い物らしく、若くて痩せていて、丸刈り頭で少しばかり印象が違う。とは言え、顔認証のトライアングルがピッタリはまって、同一人物だと判断することが出来た。
ソンナムは口元に納得の笑みを浮かべ、その情報をペン型のハードディスクにコピーすると、それを手に、コンピュータのファイルを中国の民主化運動家の調査と分析に戻し、部下に一声かけてからその席を離れた。
ソンナムはひとりテラスに歩き出してきて、快晴の空の下に広がったソウルの街の賑わいをのんびりと見渡した。街を行く人々は、日本やアメリカ文化の影響を受けて急速にお洒落になった。人々の表情もいたって穏やかだ。産業界は限定されたパイの少なさを補うために車や電化製品の品質を高め、全世界に輸出して活路を見出して、ソウルの街はずいぶんと発展した。それも今では頭打ちになって、中国にすり寄ってでしか進歩の兆しさえ感じられなくなった。そう思って、極東アジアにおける韓国の現状について考えた。
北朝鮮と韓国は現在、休戦中であるだけで、今も戦争中であることが歴史的事実だ。そして北朝鮮の核開発を受け、北とは緊張関係が続いて、韓国は米軍基地にアメリカの核兵器と迎撃ミサイルの再配備を整えた。北朝鮮が下賎なチンピラのような振る舞いをくり返すのは、第一に中国の一定の影響力があってのことだ。それが現実だ。中国について考えてみた場合、韓国は朝鮮の古代王国である高句麗の歴史を歪曲させて、国境線を書き換えようとする許しがたい問題を抱えている。中国は非常に広大で、多くの民族で成り立っているために、中国の歴史家や政治家たちは、民族でなく、占領して拡大してきた現在の国境線に基づいて歴史を勝手に書き換える習慣がある。まったく迷惑な悪癖だが、これには中国が世界の中心であるという思想、いわゆる『中華思想』にある『隣国を従属国』と見なす考え方が、閉鎖された奇妙なナショナリズムを作り出して強く影響を及ぼしている。
日本に対する反日感情もこれによって作り出されたもので、日本における尖閣諸島問題も同様の軋轢だ。ところが、こんな思想は現在、中国人以外に誰も受け入れてはいない。チベット、ベトナム、カンボジア、モンゴルなどの周辺各国は、それからインドと日本は、アメリカのサポートを受けて韓国と密接に協力し合って、そんな傲慢な考え方に対抗し、中国政府の歴史の歪曲に立ち向かうべきだ。
日本に関していえば、正直いって、竹島問題は歴史的解釈の難しい複雑な傷害だ。しかし、その他の文化や経済の民間交流に関しては非常に良好な状態にある。徴兵制が定められている韓国では、ヒトを腑抜けにする日本のコマーシャルやバラエティ番組は将来に渡って解禁する予定がない。日本は三流政治家と腐れ官僚たちのせいで、社会の改革が一向に進まず、経済は停滞を余儀なくされている。その上、産業界は大衆迎合もはなはだしく数値主義におちいって、愚かなイメージばかりを世の中に産み出している。とにかく政局が不安定で、戦える集団にはほど遠い。それでも北朝鮮の暴挙を止め、中国の共産党支配を打破して、民主化へと誘導するには、虚をつくロシアの動向に注意を向けながら、アメリカの対中戦略を中心に、韓国やインドとスクラムを組んで包囲網を形成して、共闘して極東アジアの現実に向き合わなければならない。新たな冷戦はすでに始まっている。中国がEUを取り込もうとして、フランスやドイツに協調を謀っている点も懸念する材料だ。そのためにも、社会平和のレベルでTKOたちに協力することはそれなりに意義があることだ。なにより彼らは世界の情勢に明るくて、日本人には珍しい真の国際派で、戦える男たちである。
そう考え、ソンナムは左手首のハンディコムに、他人のアカウントを操作してスカイプの回線を開いた。すると、恵比寿のオフィス内にある大誠のデスクのコンピュータに着信音が鳴った。
「やあ」
大誠がそう言ったソンナムの笑顔をモニターに見て、スカイプの回線を開いた。
「やあ、ソンナム。調子はどうだい?君からの連絡を待っていたよ」
「例の人探しの件だけどさ。喜んでくれ。やっとのことで見付かった。思っていた以上に手間が掛かったけどさ」
大誠はそう言ったソンナムに、すまないと言った顔付きをしてみせて、尋ねた。
「それで?逮捕した男は何者だったんだ?」
するとソンナムが、念を押すように人差し指を立てた。
「TKOはいるのかい?いるのなら、一緒に話を聞いてもらった方が良い」
「ちょっと待ってくれ。すぐに呼び出すからさ」
TKOのハンディコムに大誠からの呼び出し音が鳴った。TKOはその時、オフィスのビルの地階にある駐車場で、エアロ・バイクの噴射口を整備して、綺麗に掃除して、バイクのコンピュータをUSBポートに接続し、『ヒカリ・ユニット』のサーバーにアップされているカーナビと3Dゴーグルのシークエンス、モータードライブやターボジェットのチューンアップなど、エアロ・バイクの操作に関するアップグレードの一式をダウンロードして、バージョンアップしていた。
TKOがダウンロードの進行状況を見ながら、天井近くのモニターに応えた。
「どうした?」
大誠がそれに返答する。
「ソンナムから連絡が入っている。今すぐ、こっちに上がってきてくれ」
「OK、すぐに行く」
TKOはそう言ってハンディコムの回線を切ると、バイクのダウンロードをそのままに、コカ・コーラの保冷ボトルを手に取って、エレベーターに乗った。
TKOはヒジ当てと肩当てが付いた、キルティングが施された戦闘用の防弾シャツの姿で、オフィスのフロアに上がってきた。そして手にしたコーラに口を着けながら、大誠がいるデスクのコンピュータの左前に立った。するとソンナムが、TKOの姿をそこに見付けて瞳を輝かせ、挨拶した。尊敬するTKOとの久し振りの再会だ。
「どうも。お久しぶりです、TKO」
「やあ、ソンナム。君はスキルを発揮して、ずいぶんと活躍しているみたいだな」
ソンナムはTKOと話せることが嬉しいらしく、ニンマリ笑って頷いて答えた。
「はい、お陰さまで。・・・そうだ。早速、本題に入ります」
「ああ。そいつが良い」
ソンナムはハンディコムのUSBポートにハードディスクのUSBを差し込み、ペン先でタッチパネルを操作して、ファイルの中にある顔写真を表示すると、投射モニターに映ったTKOと大誠に伝えた。
「依頼されていた男の件ですが。ファイルを見ながら説明しますね」
TKOと大誠がモニターに表示された画質の粗い、男の古臭い顔写真を見つめた。ソンナムが続ける。
「ここにある顔写真はちょっと雰囲気が違いますが、軍によって六年ちょっと前に撮影されたモノです。これが同一人物であることは、指紋と顔認証のシステムで二重にチェックしてあります。男の名前はカン・ジュンソク。ケソン市出身の三十四才です。TKOが予想していた通り、男は朝鮮労働党39号室の特殊工作員でした」
「でした?」
TKOが尋ねると、すかさずそれにソンナムが答えた。
「そうです。じつはこの男、四年前に中国経由で脱北しているんですよ」
ソンナムがタッチパネルでもうひとつのファイルを開いて、報告を続けた。
「北から脱出して、一旦カンボジアに落ち着くと、それから半年ほど後に中国に入って、現在は上海郊外の集合住宅に定住しています。職業は運送業。会社は登記上では、地元の出身の中国人と共同経営しています」
すると大誠が、思案しながら考えを述べた。
「脱北っていうのは表向きだけかも知れないな。北朝鮮から離反したってことにしておけば、諜報活動をしやすくなる。そんな連中が中国の国内には山のようにいるって話を聞く。経済制裁の解除を狙ってのことなのかな?何かの意図があって北の拉致事件が再発しているのかも知れないな」
「奴らは高速艇まで持ち出して、相当に荒っぽい仕事をしている。それなら仲間と合流したって誰も不審に思わないかもな。同情するべき祖国を失った脱北者たちだってさ」
TKOがそう言って神妙に頷くと、ソンナムが呆れた顔をしてみせた。
「なにしろ北には十八万人もの特殊工作員がいます。それにあの国は強かだ。本当だったら、とっくの昔に崩壊していて良い国です。9・11の悲劇の後に、アメリカがイラクじゃなくて北朝鮮に攻撃を仕掛けていたなら、あっという間にキム王朝は崩壊していたでしょうね。軍だって1ヶ月も持たなかったはずだ」
「そうしていたなら拉致問題は今ごろキレイに解決していたかも知れないに」
そう言ったTKOに、大誠が続く。
「アメリカも、イラクやアフガンであんなに苦労しなくて済んでいたかもね」
ソンナムが頷いた。
「そうですね。優先順位はあっただろうけど、あの時、アメリカがイラクを攻めたのは正解だったのか?北を標的に選んでいたなら、今ごろ北の人々は幸福になれていた」
北に対するソンナムの見解に、TKOが応える。
「外野だから言えるんだけどな。過去のことなら何だって言える。とにかくアメリカはあの時、決断を下して実行した。兵士たちは危険に身を晒し、報いや償いだって受けている。ああした決断や実行力は、俺たちの国には無いに等しいものだ」
こうして男が北朝鮮からの脱北者であるカン・ジョンソクであることが分かった。そして男は北朝鮮の元・工作員で、もしかすると現在も本当の身元を隠して、中国を根城に北のために働いているかも知れない。そうなると、事件は北朝鮮による拉致事件の再発の可能性が強くなる。ところがハンターとしての直感を持ったTKOは、今回の事件がそんなに単純なものだとは今ひとつ思えなかった。
TKOがソンナムに尋ねる。
「しかし、事件はどうして太平洋側になる東京の沿岸で起きているのかな?それには必ず意図があるはずだ、・・・拉致の再発なら、以前と同じに日本海側の沿岸に標的を定めても良いはずだ。計画を実行するには地理的戦略を考えるべきだ。そこのポイントは絶対に外せないところだ」
「確かに」
TKOの意見に、ソンナムが頷いた。大誠もそんなところが不可解に思えた。
「奴らは何が目的で、東京の沿岸で獲物を狩るのかな?」
TKOがモニターにある男の顔写真を見つめて、じっくりと考えた。そうして三人はスカイプを介しながら、しばらく推理して沈黙した。
TKOが傍らの大誠に言う。
「大誠」
「何?」
「今回の事件の被害者たちだとされている失踪者たちのリストを、ソンナムにも分かるように一覧にしてくれ」
「分かった」
大誠はTKOの指示に従って、手早くタッチパネルを操作した。そしてモニターに、四十二名にも上る被害者たちの顔写真と氏名などの情報を一覧にした。
ソンナムが投射モニターに、そんな女性たちの顔写真を見つめた。大誠もモニターに被害者たちの顔写真を改めて注意深く見つめた。
TKOが、ソンナムと大誠に今一度尋ねた。
「どう思う?北朝鮮が彼女たちを拉致して、利用する価値はどこにあるのかな?」
「状勢の打開を企んで、北が何かのテロを画策しているとするなら、以前のような日本人化教育が考えられる」
大誠がそう言って意見した。1987年に発生した大韓航空機爆破事件のように、何かのテロを日本人の仕業にする。そうして北朝鮮が、日本人を極東アジアの悪役のように見せかけて画策をしている。確かに、北と日本のこれまでの経緯を考えたら、そんな可能性は否めないものだ。ところがTKOには、今ひとつ納得できなかった。
「拉致されているのは、すべて女性だ。十九から二十六歳まで。若くて健康な女性ばかりだぞ」
「確かに、・・・」
「彼女たちは皆、OLや学生だ。スペシャリストは一人もいない。そんな女たちを拉致して、近年の情報化時代にどんな役に立つんだよ?」
話を聞いて、大誠が納得した。TKOは他に想定できる動機は無いものかと、続けて大誠とソンナムに尋ねた。
「失踪者たちの出身地や学歴や職歴は、まったく合致する要素がない。・・・どうだろうか?彼女たちの共通点は、いったい何処にある?」
ソンナムがペン先でモニターをタッチして、被害者たちの顔写真をアップにした。そうして彼女たちの年齢や家族構成などの情報を確認した。さらにはペン先でファイルを移動しながら、彼女たちのひとりひとりのその顔を見定めた。被害者たちの顔写真をアップにして見比べてみると、すべての被害者たちに共通する、率直に感じられる印象があった。
ソンナムがそんな思いを、TKOと大誠に告げた。
「そう。目に見える特徴と言えば、彼女たちはどれも美しいってことですね。特徴は違うけど。ね、誰を見てみても、被害者たちは皆、際立って美しい女性ばかりです」
「なるほど」
確かに、モニターに並んだ顔写真に見る被害者たちは、それぞれに好みはあれ、どれも美しい女性ばかりだ。ソンナムの着眼点は正しいものに思えた。大誠がモニターの顔写真を見直して、それに同意して、思い当たった見解を述べた。
「それなら売春や人身売買、それに代理母ってところはどうだろうか?東西のヨーロッパのアンダーグラウンドでは、ずいぶんと根深く蔓延している問題だ」
TKOは、そんな大誠の意見を神妙に受け止めた。
「人身売買か。それが極東で始まったって言うのか?しかし、何のために?」
その質問に、ソンナムが答えた。
「金のためでしょう。使えるだけ使い回せば結構な儲けになりますよ」
ソンナムのその意見はもっともだと思えた。
「しかし、ポン引きみたいな商売を国家の産業として計画するだろうか?巨額の利益を産み出すためには、余りに頭数が少な過ぎるだろ?」
TKOがそう言って、さらに説明を求めた。すると大誠が推察を述べた。
「日本だけじゃなくて、韓国や中国、タイやベトナムやフィリピンなんかの周辺の各国でも、手広く拉致を進めているんじゃないのか?そうすれば頭数には困ることはない」
TKOは思案した。それからモニターに、ソンナムを呼んだ。
「ソンナム」
「何です?」
「韓国では、これと同じような失踪事件が連続していないか?」
「詳しく調べてみなければ正しい答えは出来ませんが、今のところ、これに該当する失踪事件は表沙汰にはなっていません」
「そうなのか」
TKOはそれを聞いて、事件を北朝鮮の犯行だと考えることを躊躇した。するとソンナムが、TKOの迷いを解くように話した。
「とにかく北のやることです。拉致に、偽札に、覚醒剤の密売、武器の輸出に、マネーロンダリングにサイバー犯罪だ。これまでに奴らは何だってやって来ています」
それでもTKOには、北朝鮮の関与の在り方について、しっくりと飲み込むことが出来なかった。そして考え、モニターのソンナムに告げた。
「ソンナム」
「何です?」
「続けて君に、調査を依頼しても構わないか?」
「そうですね。・・・公務員としての職務上、出来ることと出来ないことがありますが。とにかく内容を教えてください。私なりに検討してみます」
ソンナムがそう言って注意深く答えた。モニターの前の大誠が、今度は何を依頼するつもりかと、TKOの横顔を見つめた。するとTKOが明確な表情になって、ソンナムに調査の依頼内容を伝えた。
「ここにいるカン・ジュンソクと関係を持っていた、脱北した他の特殊工作員たちの動向を知りたい。接触していたメンバーの氏名や顔写真なんかの情報も欲しい」
それを聞いて、ソンナムは考えた。それから慎重にそれに答えた。
「それなら調査は可能でしょう。中国で行動している北の工作員の調査なら、中国の民主化運動のサポートの一端として加えることが出来ます。なによりそれで判明した情報を、中国の各都市で活動している、北朝鮮の民主化を願う脱北者組織に流してやることが出来ます。彼らは北の工作員たちが中国国内で暗躍することを、とにかく嫌っていますから」
それを聞いて、TKOはモニターのソンナムに微笑んで、頷いた。
「情報は中国国内の脱北者組織に流してくれて構わない。取引成立だ」
「はい。そう言うことですね」
「よろしく頼む。今回の事件を解決できたなら、大誠と二人で、一度そっちに出掛けることにするよ。その時にまた、積もる話をゆっくりとしよう」
「承知しました。それじゃあ私は引き続き調査を続けます」
ソンナムはそう応えて納得し、ハンディコムにスカイプを切った。TKOの捜査を側面からサポート出来るなんて感激だと思った。彼らの捜査は常に論理的で、変化に対して臨機応変で、現実感が豊かでダイナミズムに溢れている。ソンナムは彼らのために自身の才能を活かせることを心から光栄だと思った。




