↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

リアナ・ショウ参戦

 それは篠田が失踪して5日目の午後だった。TKOのオフィスの秘書である江梨子は、襟の広い、ビジネス・ライクなチャコールグレイのパンツ・スーツに身を包み、羽田国際空港の到着ロビーにやって来ていた。目当てのデルタ航空ロサンゼルス〜羽田便は滑走路に着陸したばかりだった。

 いくらかが経って、江梨子がハンディコムに時刻の経過を確かめた。すると到着口から出てきた到着客たちの流れに混じって、タートルネックのカットソーのドレスに、グレイのニットコート姿のリアナ・ショウが、背筋を伸ばして、歩幅を広く颯爽と歩き出してきた。

 リアナがにっこりと笑って、迎えに来てくれた江梨子へと挨拶した。

「こんにちは、エリコ。久し振りね」

「ようこそ、リアナ。皆があなたを待っていますよ」

 そう言って再会の抱擁を交わすと、江梨子の案内でロータリーに駐車しておいたSUV車、白のEVオバーロのところにやって来た。唯一の荷物であったスーツケースをハッチバックに積み込んで、EVオバーロはリアナを助手席に、江梨子が運転して都心を目指して走り出していった。

 車は恵比寿のオフィスに戻る途中に、湾岸の工業地帯にカムフラージュされているセキュリティを通過して、三棟の製品企画工場の地下に秘密裏に建造されている『ヒカリ・ユニット』の地下駐車場へと入っていった。

 そして江梨子は、ユニットの心臓部である開発室へとリアナを案内した。

 その場所でリアナは、網膜と静脈認証で身元の確認を済ませると、書類にサインして日本での私立探偵の登録を完了した。それから、来日を待ち受けていた銃器班の中溝班長からIDバッジと薄型軽量の防弾ベストと、3Dゴーグルとハンディコム、携帯拳銃に選んでおいたグロック17などの装備の一式と、リアナのために特別に製造しておいた狙撃用のトールハンマー・アサルトライフルがハードケースに収められて贈与された。

 リアナはライフルを手に取って、口径やバレルの太さ、ストックの材質や形状を確かめて、それから表面の加工などが注文通りに仕上げられていることを確認して、満足に思った。それは戦闘用のアサルトライフルの機動性を備えながら、銃身が長く、長距離狙撃に対応するべくスナイパー・ライフルとしての性能が高く、案外軽くてバランスが良かった。

 リアナはライフルを構えてスコープを覗き、グリップとトリガーの感触を確かめて、セミオートの作動を確認して、連続発射性能と高い精度を合わせ持った、完璧に自分にフィットしている理想型に満足して納得の笑みを浮かべた。ライフルに触れているリアナの姿は正しく美しき狩人だった。リアナの姿は、月の女神で、狩猟と純潔の神である『アルテミス』を思い浮かばせた。

 中溝班長がそんなリアナを間近に見つめて、江梨子に小声で確かめた。

「彼女がTKOのパートナーなんですね。・・・完璧じゃないですか」

 中溝は以前から、お嬢様然としていて、知的で上品で洗練されている江梨子の大ファンだった。それでもリアナの精悍にして艶っぽい美貌をじかに見て、呆然と見蕩れてしまっていた。江梨子がそれを横目に見て、呆れた表情になった。

 すると中溝は、そんな江梨子に気が付いて急に気恥ずかしくなって、だらしない顔付きを引き締めようと、面目無さそうに自身のその頬を両の手の平で叩いた。そして、その場を繕うように江梨子へと伝えた。

「そうだ。そうですよ。オフィスに帰ったらTKOと大誠さんに伝えておいてださい。近い内に、トータス(陸亀)って名付けたグランド・コントロール装甲車をお届け出来ますってね。きっと二人には喜んでいただけます」


 シティの街は、外国人の目から見ると近未来的で、まるで架空のアニメの世界のように異質で、クールにさえ感じる。雑然とした街並には新旧・東西の文化が混合して、一般的に日本人は英語を喋れないからか?人々は無口で礼儀正しく、恥ずかしがり屋で遠慮がちで、外国人たちにはやたら寛容だ。優しさというより何も知ろうとしていない様子だ。

 英語を話せる者たちも、奇妙に同調して平然としていて、好意的に振る舞ってばかりいて、多くが深くを知ろうとはしていない。マンガやゲームやSNSの影響なのか?いつも漠然として、生々しさに欠けていて、どこかでリアリティが希薄なのだ。ところがこれは、今や日本だけのこととは言えない。・・・

 リアナは第一京浜を使って北品川に向かい、山手通りに左折したEVオバーロの助手席にもたれて、そんなシティの街中の風景を眺めてそんな風に思っていた。

 10ヶ月ぶりにシティに戻ってきたリアナには、非常にハイテクだが、どこかリアリティに欠けているこの街に行き交う人々を見て、今年の年明けに初めてシティにやって来た時にタイムスリップしたようなちょっとした違和感が感じていた。そして、それがなぜかを考えた。

 リアナが、車を走らせる江梨子に尋ねた。

「今回の事件は複雑みたいね。北朝鮮が絡んでいるらしいって」

「ええ。北朝鮮の拉致事件の再発ではないかと考えられています。脱北した工作員のグループが実行しているってところまでははっきりしています。それもかなり組織的に」

「問題は、それがなぜなのかってところね。下手をすると国際問題になりかねない」

「そうなると、前回の拉致事件と同じに完全解決が難しくなります。この国が明確な行動を取らない限り、被害者家族は永遠に報われない」

「そうね。悲しいことね」

「悲劇ですね。この国の中枢は、前回の事件から50年以上が経った今でも、何ひとつ変わっていませんから。・・・悔しいけど、外交なんて無いに等しい」

 江梨子がそう言って、辛そうに溜め息を吐いた。そして山手通りに『フォート』と名付けたオフィスのある恵比寿の駅前を目指した。

 この国の自衛隊の存在は、実質的には何の意味も持たない。最期のカードを切ることの出来ない覚悟のない国家などを、どの国が敬うというのか?・・・加えて、常日頃の情報収集の能力に絶対的に欠けている。ODAでは対象国の国民の隅々までその意義を理解させ、民衆に感謝してもらうことさえ出来ないできた。・・・この国は外交を生温い友達感覚で成り立つものだと妄信している。これでは交渉が成り立たない。この国に軍備と戦略が無い以上、アメリカやロシアや中国のように力を裏付けに外交を行使するパワー・ポリティクスなどは不可能だ。スイスなどの中立国でさえ、力を持つことで中立を不可侵にしているというのに。それが近代からの世界の現実だというのにだ。

 リアナはシティで仕事をするために、TKOを通して様々な情報を集めてもらって、この国が抱えている問題点について徹底的に勉強してきた。現状の下調べは、新天地で仕事をする者としての通常の務めだ。ところが、それらで理解できた日本についての現実は、アメリカでは到底考えられない事柄ばかりだった。いいや。アメリカでは悲しいかな、弱肉強食を何よりも現実的に肯定している。とにかく現代を生き抜くためには、精神を素早く切り替える能力が必要だ。アドレナリンは高度の認知機能を鈍らせるし、その逆に、集中は反射神経を鈍らせるからだ。・・・リアナは走り去る街並を見渡して、かなり陳腐に目に映って感じるこの国の現状を見つめて、独り言を呟くように江梨子へと伝えた。

「この国の中枢に覚悟のない組織ができるのは、誰もが予定調和を前提にして存在しているから。コンプライアンス(自主規制)ばかりを気に掛けていて、権力に同調して、不必要な妥協ばかりくり返している。これでは隠蔽体質がはびこって、自浄能力が失われてしまうわ。流動性のないものはただ単に腐ってゆく。・・・個性も主張も成長もない、緊張感に欠けた下らない組織ばかりになる。記者クラブに代表されるこの国のメディア。警察や検察や弁護士たちもそれに当たるわね。彼らは何につけても内向きすぎる。権力をクモの巣のように張り巡らした省庁の役人たちも一緒ね。政府だって政策を議論しないで政局ばかり問題にしている。・・・いったい誰が国民の方を向いているの?彼らは正義のためでもリスクを侵そうとしない。正義はプライオリティー(優先順位)には入っていないみたい。世界は日に日に進んでいるのに、どうして組織そのものを改めて一から作り直そうとしないのかしら?・・・理由は明らかだわ。すべては既得権益のためよ。彼らが考えることは自分たちの利益だけ。だから何もかもが20世紀の後半から進歩していないのよ。この国でサムライといえるのは、TKOのチームだけみたいね」

 江梨子がそう話したリアナに横目を向け、頷いてみせた。リアナは新参で、TKOの影響を少し受け過ぎかも知れない。とは言え、知識もなく自国である日本を無闇に賛美する国民が多い中で、こうした深刻な話を自然にできるのは『フォート』の仲間内だけだ。

「あなたも今日からサムライの一員です。女性が参加してくれて心強いです」

 そう言って江梨子とリアナは互いを認めあい、親愛を込めて笑みを交わした。


 同じ頃、オフィスの会議室では、カン・ジュンソクとテ・ソジンの顔写真を壁面のモニターに見つめて、TKOと大誠が当面の捜査についての話し合いを進めていた。大誠がメールをチェックして、警視庁から伝えられている最新情報を報告した。

「・・・ロベルトの殺害以降、警視庁の第一課が動き出している。それから、発見されたEVシーマの車内からは篠田の指紋が検出されていたみたいだ。本当に残念だけど」

 それを聞いて、TKOの表情が硬く深刻になった。大誠が報告を続ける。

「けれど犯人たちの指紋はいっさい見付かっていない。残っていたのは、マットに付着していた土くらいだってさ。これは間違いなくプロの仕業だな」

「現状では、奴らのアジトが車が乗り捨ててあったその場所の付近にあるか、進路のその先の半径にあるだろうって事くらいしか見当が付かない。地域と方角はある程度、限定できるが、そいつもかなり大まかでしかない」

 大誠がキーを操作して、ICカード内のデータをモニターに表示して伝えた。

「それで他に方法は無いかなと思ってさ。湾岸警察の安西に交渉して、カン・ジュンソクのハンディコムに使用されていたシムの情報を手に入れてみた」

「それで?そいつをどうするんだ?」

「ところが、これがちょっとばかり厄介な代物だった。活動の痕跡を消すためだは思うけど、購入するたびに番号とアドレスの変更できるプリペイド専用のものだった」

 メモリーの一部には40個に近いアドレスと電話番号が登録されている。大誠がそれらのデータを見つめながら続ける。

「残念ながら、ここにあるアドレスや電話番号は、すでに変更されているものばかりだった。これでは通信を傍受して、居所を突き止めるなんてのは不可能だ。てことで、今はそれの対策を考えているところだ」

「ソンナムからの報告はどうなっている?」

「ソンナムからは定期的に報告を受けている。カン・ジュンソクとテ・ソジンの双方が上海をホームにして活動しているってところまでは分かっている。それでもカン・ジュンソクは運送業者だし。テ・ソジンは上海閥の息の掛かった実業家のボディガードを仕事にしていて、二人の接点を上手く見付け出せないでいるみたいだ。今は上海に住んでいる他の脱北工作員の行動を調査して、二人の関係を洗い出そうとしているみたいだよ。それから良い報告がひとつある。ソンナムが警察の上の人物に今回の事件について相談したところ、北の脅威を軽減できるってところで利害が一致したみたいで、ソンナム個人に限ってなんだが、俺たちの捜査に全面的に協力できるようになったらしい。だから必要な時は、いつでも俺たちと一緒に働いてくれる」

「それは良い。ソンナム一人が加わってくれるだけでも充分だ」

「そうだね。ソンナムが動けるってことは、韓国情報局の先端システムを自由に活用できるってことだからね」

 すると、オフィスのフロアにエレベーターが到着して、そのドアを開いた。歩き出してきたのは颯爽として品の良い江梨子だった。そして、少し緊張している面持ちのリアナがその後に続いていた。

 会議室では、大誠と話し合いをする、椅子を後ろ前にして腰掛けたTKOが、人の気配をフロアに感じ取って振り向いた。すると江梨子がフロアを歩き抜け、会議室へと向かってきた。リアナがそこにTKOの姿を見付けて、満面の笑みを浮かべた。

「ただ今、戻りました」

 江梨子がそう告げると、大誠が振り向いて、TKOが椅子から立ち上がった。リアナがTKOにウインクして、微笑んでみせた。

「帰ってきたわよ」

 TKOはリアナをそこに見付けて、小さく頷いて感無量だった。大誠がにっこり笑って、リアナに握手して伝えた。

「ようこそ、リアナ。君がやって来てくれるのを待っていたよ」

「タイセイ。これから色々とお世話になるわ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしく。君のバックアップを得られるだけで、現場でのリスクを制限することが出来る。こいつは俺たちにとって大きな力だよ」

「力になれるように職務に全力で対処するわ。約束する」

「生活のことでも、仕事のことでも、分からないことがあったなら何だって尋ねてくれ」

 するとリアナがモニターに映った二人の男の顔写真を眺め、蔑むように言った。

「こいつらが女たちをさらって行く忌まわしい悪党どもね」

「その通り。左が逮捕したカン・ジュンソク。右側が刑事を殺害したテ・ソジンだ」

「こいつらは絶対に許せないわね。吊るし首にしてやっても、まだ足りない」

 リアナは自立しているプライドの高いアメリカ女らしく、女性の自由と人権を冒涜する卑劣な男たちの犯罪を憎々しく思った。それと同時に、この国の政府と警察の対処の悪さを情けなく思った。TKOがそんなリアナに目をやって、大誠に伝えた。

「彼女は長旅で疲れているはずだ。な、だから仕事の話は、彼女が一休みしてからってことにしよう」

「確かに。まずはリフレッシュからだ。プライベートの充実が仕事に反映するからね」

 するとリアナがホッと息を吐き出して、TKOのしっかりした肩に安堵するように寄り掛かった。TKOはそんな彼女を肩で受け止め、大誠と江梨子に話した。

「荷物は後で、俺が取りに降りてくる。まずは彼女を上の部屋まで案内してくるよ」

「そうだね。分かった」

 TKOとリアナはエレベーターで四階に上がった。そして廊下を歩いて、TKOがカード・キーを手に、親指の腹を見せてリアナへと伝えた。

「これがお前の部屋の鍵だ。時間を見付けて、ロックに親指の静脈を読み込ませておいてくれ。そうすれば、お前のその指がこれの代わりになる」

 それからカード・キーでその部屋のロックを解除して、続けた。

「知っての通り、俺の部屋は五階だ。三階には、オフィスとコンピュータ・システムを共有する大誠の部屋がある。そんな理由で、お前の部屋は四階だ」

 色調の深いフローリングに、黄褐色のレンガを貼り詰めた広い壁面が美しい。天井の高いアメリカ的なそんな落ち着いた室内を見渡して、リアナが満足して微笑んだ。

「素敵な部屋ね。この街で暮らすには充分すぎるくらい」

 ダイニングに面してシステマティックなオープンキッチン。ゆったりした広いリビングルームには、あらかじめ注文しておいた木製の骨組みの、オレンジ色のカバーのソファ・セットが配置してあった。作り付けの収納。ウォーキング・クロゼット。サイドボードで仕切られたベッドスペースには、クイーンサイズのダブルベッドが用意されている。

 そんな室内には、先立ってアメリカから届けられている段ボール箱や、お気に入りの調度品や電化製品などの引っ越し便の荷物が、フロアに並べられて山積みにされている。

 TKOが背後から近付いて、満足そうなリアナの腰に手を当てて耳元に伝えた。

「この部屋の片付けが終わるまでは、適当に着替えだけを見繕って、俺の部屋で暮らせば良い。当座はそれでも構わないだろ?」

「素敵な提案ね。私もしばらくはそうしていたいわ」

 リアナはそう言って微笑んで向き直ると、感謝と親愛を込めてTKOに唇を重ねた。最初は唇が擦れ合うだけのライト・キスだった。TKOが彼女の唇を啄んだ。リアナの唇は張りがあって潤っている。吐息が火照って口元で触れ合った。

 唇に感覚が集中した。二人は心地良い陶酔に包まれた。二人がこうして向き合うのは久し振りのことだ。すると、キスすることが止められなくなって、それからしばらく、互いの存在とその感触を確かめ合うようにそのキスを続けた。

 TKOが頬に、瞼に唇を這わせて、上気して挑発的に微笑んでみせた。それからリアナに覚悟を促すように耳元に囁いた。

「その代わり、欲しい時に欲しいだけお前を抱かせてもらうからな」

「望むようにして。これからはずっとあなたの傍にいるから」

「お前に会いたかったよ。ずっと会いたいと思っていた。・・・お前がいてくれたら、悲しみにだって耐えられる。俺はいつだって前向きでいられるんだ」

「誰もあなたを傷付けたりしない。・・・あなたは絶対に負けたりしないわよ。あなたを愛して、すべての災いから守りきってみせる」

「お前は素晴らしい生き物だ。ただの女じゃない。俺にとっては天からの恵みだ」

「だけど分かっている?・・・私にだって欲しい時があるのよ」

 リアナが火照った顔付きをして、唇に笑みを浮かべてそう言ってそそのかす。それから唐突に彼の口に舌を挿し入れて、強引にディープ・キスをし向けてきた。

 TKOは舌が絡まって驚いた。新型インフルエンザを発祥とする、有毒性の口内ヘルペスが気に掛かった。それでも舌のまさぐる感触が脳髄を揺さぶるように刺激する。リアナの舌が蛇のように艶かしく絡みつき、彼女はTKOの魂を体内に飲み込んで、代わりに自身の愛情を彼の体の細胞のひとつひとつに注ぎ込むようキスに没頭した。性懲りもなく、それでいて猛々しくTKOの股間の一物が固くそそり立って勃起した。

 リアナが相手ならほとばしる欲情に逆らうことはない。二人でならセックスを介して愛を語り合うことが出来る。素直に愛の歓びを唱い合い、音楽を奏でることが出来る。

 TKOの両手がリアナの引き締まった尻を掴んで荒々しく揉みしだく。それからレギンスとパンティを引き下ろし、彼女の股間に指を忍ばせる。彼女の蜜壺は愛液に溢れ、すでにベットリと潤っていた。TKOがリアナの花弁とクリトリスを指先でもてあそぶ。リアナは敏感で、うっとりしていた顔付きが見る見るうちに赤らんでいった。TKOはその指を膣の内側にヌルリと滑らせた。するとリアナが体をビクンと震わせて、小さく喘ぎ声を上げた。

 吐息を荒く、リアナがTKOの愛撫に応えるべく彼のパンツのジッパーを降ろし、腰のベルトを引き解いた。そしてブリーフの中からいきり立った男根を取り出すと、それを手の中に揉みしだいた。

 TKOはリアナの体を後ろ向きに、サイドボードに両腕を着かせた。続いて、パンティをレギンスと一緒に足首にまで引き下ろし、ドレスを腰まで捲り上げた。それからリアナの尻を突き出すように引き上げて、狙いを定めるよう濡れて湿った蕾の中へと男根を挿し入れた。リアナの膣壁が愛液に潤って、張り詰めた彼の男根を隙間無く飲み込んだ。同時に、リアナが声を上げて身悶えを始めた。TKOは股の割れ目に突き込むように下腹を打ち付けた。そうして男根の先端でリアナの膣の奥壁を突いた。男根は膣の粘膜にめり込みながら、リズミカルに、そして断続的に荒く出入りをくり返した。そして二人は込み上げて溢れくる快感のただ中に進み出していって、官能に漂って、快楽に溺れた。

 二人は粘膜一枚を隔ててつながり合い、快感で一杯になった一体感を性器を介して全身で味わった。そして互いの愛情をさらけ出し、馬での遠乗りを楽しむようにして再会した歓びを分かち合った。リアナとはすべてがしっくりと収まって感じた。それも結構、刺激的にだ。そして時間を切り取るかのよう辛い過去さえ忘れさせてくれる。二人のつながりは奇跡かも知れない。初めて出会ったその夜から、TKOは二人の関係をそんな風に感じていた。

 TKOがシャツを脱いで上体を裸にし、背中を中心に描かれた真っ赤な体の金太郎の鯉の滝登りの和彫りの刺青を露わにした。リアナはもう一方の足で蹴落とすようにブーツを脱いで、パンティとレギンスを脱ぎ捨てて、腰から下を裸にした。それから一旦、男根を外して前を向き、タトゥーの鮮やかな鍛え上げられた彼の体に、いつもながらにうっとりと見蕩れ、自分がこの男に心底惚れていることを改めて実感した。そして、こうして愛し合える距離にいられる素晴らしさを心から喜んだ。

 TKOがリアナの体を持ち上げて、サイドボードにゆったりと腰掛けさせた。するとリアナが陰毛の無い蕾を見せ付け、誘い入れるように両脚をおもむろに広げた。TKOは彼女の欲情をじらすように微笑んで、彼女の花弁に男根の先端を宛てがった。それからじっくり感触を味わうよう、再びそれを膣の深くに挿入した。挿入の感触は、まるで柔らかいサンゴが熱の塊に噛み付いて、根元までゴクリと飲み込んだかのようだった。リアナは脳髄に駆け巡る快感に貫かれ、彼の上体にしっかりとしがみ付いた。それから、彼の唇にディープ・キスをして濃厚にその舌を絡めた。


 太陽はいつからかビルの向こう側に傾いていた。TKOはリアナの体を背中から抱いて、乾きを感じない安息感に包まれて、マットだけしかないベッドの上に横たわっていた。リアナは彼の体の温もりを背中に感じて、安らぎの中で茫漠とセックスの余韻を味わっていた。二人はその時、世界の中心にいて、すべてが無理なく融和して感じられていた。

 TKOはそうして心にこびり付いていた空虚感を埋め合わせていた。それでも頭の中は休むことをしなかった。そして小さく溜め息を吐き出して、リアナの首筋に呟いた。

「・・・平和や安全なんて際どいものを根拠なく過信して、この街の人々は意味も薄弱にじゃれ合っている。そうしてその場限りの空疎な言葉ばかりを口にする。・・・そんな話に耳を貸すくらいなら、イヤホンを耳に入れて音楽を聴いていた方がずっとマシだ」

 リアナがゆっくりと目を開き、彼の手首にキスして答える。

「・・・社会を形作っている大人たちが悪いのよ。彼らは虚構でしかない経済を信じ切っている。そんなもののために、伝統や文化を平気で壊してきた。・・・この国の人々には、まずは民主主義に足りるだけの教育が必要なのよ」

「そうだな。一から民主主義を知る必要があるな。・・・きっとこの国の人々は、そんなことすら考えたこともない」

 リアナが寝返りを打って、TKOの正面に向き直った。するとTKOは悔しく思って瞳を涙で潤ませていた。茶色い目をした鷹のような顔立ちは、なぜか虚ろ気だった。

 リアナが心配になってTKOのその頬を撫でた。するとTKOが深刻に続けた。

「民主主義ってやつは、血を流して、汗を流して、涙を流して、初めて勝ち取るべきものだ。ところがこの国にはマッカーサーが勝手にそれを持ち込んできて、薄っぺらな表層だけを植え付けてしまった。そして本質を知ることなく、アメリカの上っ面ばかりを真似してきた。民主主義の根本を知らない以上、どこまで行っても、それは偽物でしかない。そうしてこんな空っぽな国になっちまったんだ。・・・責任は、目先の利益しか考えてこなかったこの国のひとりひとりにある。・・・どうして俺は、こんな国に生まれちまったのかな。こんな軽薄な、嘘と偽りばかりの国にさ」

 TKOは涙を零して、心の奥に深く突き刺さっていた違和感を吐き出した。ところが心の痛みはフィヨルドの断崖のように深く険しかった。リアナはそんな彼の悲しみを少しでも和らげたいと願った。そして、彼の心の痛みを鎮めるべくその頭を抱き寄せて、頭の後ろを労るように撫でた。そうして心から同情して、彼を慰めた。

「あなたは充分にやっているわ。・・・どんなに孤独でも戦っているじゃない」

 ヒトは二十歳になったら成人として扱われるものだ。そして、大人になったら自身の責任について考えなければならない。自身について考えるのだ。親だとか、先生だとか、誰かの意見なんてまったく関係ない。自分の力だけで考えるのだ。そのために前頭葉は発達して来た。自分が大人になれたかを知るには、それしか方法がない。曲がりなりにも二十年間、自分で解決できるだけの、それだけの教育は積んできたはずだ。そうでなければ何のための二十年だったのか?ただし、暗記するだけでは本当の勉強とは言えない。

 マンガやゲームに夢中になって、芸人がふざけているだけのまったく価値のないバラエティー番組を見て、人生を無駄に過ごしてこなかったか?・・・何のために生まれ、何のために生きてきたのか?・・・それだけの理由はあるのか?飯を食い、糞尿を排泄して、男根を膣にぶち込んで、眠っては目覚めるだけの一生で良いのか?・・・いいや、そんな生き様で許されるはずがない。ならば人はヒトとして生きるべきなのだ。

 この国では1990年代の初頭から、赤子を産んで、幼児を育てる若い親たちから「子供には教えられることが多い」とか「子供によって親自身も成長させられる」などと言った、奇妙な言葉を耳にすることが多くなった。ところが、そんな意見が世間に出回ること自体が、根本的に間違っている。実際、それ以前には、そんなことを口にする親たちはいなかった。

 要は心構えの問題だ。マンガを読んで、ゲームばかりして、現代の大人は子供じみている。大人になってもフィギュアを集めて、子供の時代の郷愁ばかりに浸っている、そんな大人の自覚の無さが社会の劣化を進めている。また、近年になっては、下手なコピーしか能が無かった中国でさえ、マンガやアニメやゲームなどの制作については日本を追走するまでになって、北京や上海を中心にした南岸の都市部に暮らしている、身の丈以上の富を手にした富裕層の二代目たちの間で同じ難題が表れている。

 子供たちに物事の本質を教えることは大人の社会的な責任であって、子供を作る前に、大人はちゃんと成長していなければならない。この国の人々には幸運を願いたいと思う。それでも、ひとりひとりの人生は個々の選択と決断の積み重ねでしかない。大人になったら責任を取らなければならない。そして人間が大人になって決断を下す時には、疑問や不安を持つべきではない。大人は良いか悪いかの判断を他人に委ねたりしない。問題によっては失敗する可能性だってある。それでも、迷うことだけは禁物だ。そして、それはひとりひとりが絶対に成し遂げなければならない選択だ。とにかくそのために、前を向いて歩き出すことが重要だ。

 TKOはそう考えて顔を上げ、リアナの唇にキスして伝えた。

「すまないな。弱いところを見せちまった。・・・お前がここにやって来て、ちょっとだけ気持ちが緩んじまったみたいだ」

「プライベートでは気を抜いて構わないわ。私が受け止めてあげるから」

 リアナが小さく微笑んで、そう答えた。TKOが思い詰めて伝える。

「・・・俺には忘れたい過去がある。そして、それがどうやっても消し去れないことを知っている。俺はそんな過去を引きずり過ぎているのかも知れない」

「前に進む一番の方法は、自分の尻を思いきって蹴飛ばすことよ。過去に囚われている必要なんてないもの」

 そう言って、リアナのグレイの瞳が、TKOの進むべき未来を温かく見守った。

 たとえ忠告を聞き入れる者がいなく、疎ましく、忌まわしいと思われて、いやがられ、嫌われたとしても。この国が自力を失い、外貨と市場経済に翻弄されて新世界秩序という怪物の腸に飲み込まれ、金だけが物を言い、社会から希望が失われて、人々が心を見失ったとしても。・・・それでも人々が目覚めず、どれだけ困難が待ち受けていようとも、あなたは決して一人ではないのだと。・・・リアナはそんな想いを彼に伝えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。