漆漆 マヤカシとマヤカシ
1
「静先生!!」
紅葉とコマチが静先生を揺さぶった。
静先生は車椅子で、死んだように冷たくなり、脈拍も弱っている。
「出血し過ぎて…危ないのかな」
「違うよ、紅葉ちゃん。静先生の魂は、今、雨音くんの中にいる…」
咲良がアーケードの上を指差した。
雨音が追いかけても、一角の翁との距離は縮まらなかった。
「この鬼は形など持ってないんです。霧にも大蛇にもなる。ある時はヤモリになって窓にへばり付き、ある時は風になって侵入します」
静先生が雨音の脳内で呟いた。
「あいつを凝り固めることは出来ますか? 鬼に実体がないと、僕は何も出来ないんですけど」
雨音は走りながら、静先生と喋った。
「難しいですね。私もあの鬼を、マグボトルに密封しようとして失敗しました。でも、試してみたい方法がもう一つあるんですが…」
静先生は雨音の視線を、ビルの屋上の貯水タンクに誘導した。
「水…」
雨音が呟いた。
鬼が間近に出現した。
雨音は額の鬼眼で睨んだ。一角の翁は炎にめらめらと包まれた。
「これしきの鬼火など…」
一角の翁は燃えながら嘲笑った。
刹那、大蛇の尻尾が雨音を叩き飛ばした。
倒れた雨音の足元に黒い蔦が絡まった。
黒いヒルみたいな虫がウネウネ蠢きながら、彼の足を這い上った。
「うわっ、これもマヤカシですか!?」
「足を持ち上げて、渡邊くん。翁が来ます!」
静先生が叫んだ。
工事現場のクレーンがアームを回転させ、防塵シートを突き破って、吊った鉄骨をぶつけて来た。
雨音は思わず、鉄骨に飛び乗った。
クレーンの留め具が外れ、吊られた鉄骨が崩れる。
落ちて行く先に、紅葉達がいる。
「紅葉ちゃ…」
間一髪で紅葉達が避けた。
雨音の体はアーケードの屋根に開いた穴から、ガラス片とともに地上に落ちた。
雨音はネコのように回転し、着地した。
石畳と同色の指が地面から生え、雨音を捕えた。
レンガ色の石の巨人が立ち上がった。
「たぶんマヤカシだと思いますけど…、現実に死ぬかも知れません」
静先生は頼りないことを言った。
雨音はレンガ色の巨人に投げ飛ばされた。
マヤカシとは思えない衝撃が来た。
彼は足を引き摺って、花屋の入り口に飛び込んだ。
巨人は雄叫びを上げ、建物の出入り口を踏み潰した。
花屋の花が枯れた。たくさんの花が虫に変わった。
ドブに迷い込んだみたいに、ムカデやゴキブリや蜘蛛や、気味悪いゴミ虫が出て来た。
一角の翁の悪臭が漂った。
足元がぬかるみ、滑った。雨音は黒いヘビを踏んだ。
「鬼は!?」
雨音は辺りを見回した。
でかい穴が壁に開き、レンガ色の巨人の目玉が片方、雨音を捜して動いた。
反対側の壁が突然倒れた。
「源次ぃ…」
髪を振り乱した女が突然抱き着いてきた。
雨音が背負い投げして、腕を放す瞬間に女の顏を見た。
女の目玉からムカデが這い出た。
「ふふふ。無理だよ。逃れられると思ってるのかい。一角の翁が単体の鬼だと思ってるのかい…?」
女が喋った。
口から黒いゴミ虫や、太ったゴキブリがこぼれ落ちた。
背後で壁が崩れ、レンガ色の巨人が手を差し込んできた。
雨音を掴み、再び投げ飛ばした。
雨音は水溜りを転がり、交差点まで滑り出た。
彼を轢き殺そうと、猛スピードの車が来た。
ギリギリ避けて、よろけながら走った。
繁華街を獣の顔をした、半鬼の通行人が歩く。
景色が虹色のプリズムに変わる。鏡の迷宮みたいに、あちこちに雨音が映る。
「何、これ…?」
「渡邊くん、鬼のマヤカシを崩さなくてはなりません。君は思った以上に、何も出来ません。あの鬼と素手で戦おうなんて、論外です」
静先生が雨音の手を操って早九字を切り、呪を唱えた。
2
紅葉は膝が笑っているのを感じた。
「雨音くんが…死んでしまう…」
「紅葉ちゃん、雨音くんを信じて! 雨音くんなら絶対大丈夫だよ!」
咲良が言った。
「何とかして、静先生を守らな…」
コマチは車椅子の側に立ち、緊張の面持ちだった。
咲良は空を見上げた。
「ねぇ。なんで月が出てるのかな? 雨が降ってるのに…」
時折、雲間から血のように赤い月か覗く。
満月で、いつもより大きく感じられた。
紅葉は両手を握り合わせ、必死に考えた。
「どうしたら、雨音くんを助けられる?」
紅葉は周囲を見回したが、何も無さ過ぎて、祈るしかない。
「神様、助けて…」
紅葉は一心に祈った。
雨音は土の中から這い出すヘビや害虫に囲まれた。
腐った人間が長い髪を振り乱しながら、地面からボコボコ出て来た。
「源次ぃ……、源次ぃ……」
腐臭が漂った。
「こんなの踏ん付けても意味がない…、マヤカシだし。静先生は虫に顔を這い回られても、平気なんですか?」
「本当は何もいません。心を澄まして」
静先生はお経を唱え続けた。
遠くに灯りが一つ見えた。
「静先生、あの灯りは何ですか?」
「鬼がこっちへ来いと、誘っているのでしょう。渡邊くん、私の魂はもうこれ以上、肉体を離れることが出来ません。もう少しで、自分の体に戻ります。息が苦しい…」
静先生は喘いだ。
雨音はしがみ付いて来る腐乱した女達を掻き分け、灯りの方へ進んだ。
蟲だらけの女達が爪を立て、雨音の肉を抉った。
「気を付けて。あの鬼女達は君の魂を、少しずつ削っていく…」
静先生の声が小さくなってきた。
雨音も荒い息をして、力が抜けていくのを感じた。
彼は何度も鬼女達を投げ飛ばし、払い落として進んだ。
彼の頬に搔き傷が出来た。
彼を包んでいた青い鬼火が、そこから漏れていった。
平安時代の都大路が出現していた。
突き当りに朱塗りの楼門があった。
楼門の両側で、松明の赤々とした炎が踊る。
見えていたのはこの灯りらしい。
楼門の向こう側で、大蛇がとぐろを巻いていた。
その大蛇の顔は人間の老いた男で、白い髭を生やしていた。
「あれが一角の翁の本体?」
雨音と鬼が楼門を挟み、対峙した。
雨音は体力も気力も使い果たし、時間をかけて石段を昇った。
紅葉は覚悟を決めた。
「私が代わりに死んでもいい。あの鬼に敗けるわけには行かへん」
紅葉は咲良とコマチに静先生のことを頼み、真っ暗の都大路へ入って行った。
3
大蛇の老人の顔が髭を震わせ、
「よう来た、源次…」
と、呟いた。
冷たい鱗が雨音に触れた。
雨音は抵抗することなく、大蛇に巻かれた。
呼吸する度、大蛇の太い胴が雨音を絞め付けていった。
関節がバキバキ鳴った。
痛みに、雨音は顔を歪めた。
どうすることも出来ないほど、鬼の絞めつける力が強かった。
「全身砕かれて死ね。源次、おぬしの中の静もこのまま死ぬわ…」
一角の翁が告げ、雨音の意識が遠くなった。
「待って。雨音くんを放して…」
紅葉が石段を昇り、楼門の敷居を跨いだ。
「静に代わって、我が妻になるか? 紅葉…」
「真っ平や。反吐が出るわ」
紅葉は落ち着いて答えた。
「紅葉ちゃん、帰れ…」
雨音が声を絞り出した。
彼の額の鬼眼は色が薄れ、白っぽくなっていた。
紅葉はポケットから五円玉を取り出した。
「鬼、賭けようか。これは勝負。裏が出たら、あんたの勝ち。表が出たら、私の勝ち」
一角の翁は大笑いした。
「ふひゃひゃ…。いいとも。乗ってやろう。そなたが勝ったら、我は何をすればいい?」
「簡単。この五円玉を通って、あの世に帰ってほしい。これぐらい、出来るよね?」
紅葉は五円玉を前にかざした。
「たやすいことだ。では、投げるがいい」
一角の翁が促し、紅葉は楼門の向こう側へ、五円玉を投げた。
紅葉は投げながら、五円玉が表になるよう念じた。
五円玉は裏返って落ちた。
「ほら、見ろ。我の勝ちだ。そなたは最悪の結果を想像した。源次は我に絞め殺され、静は死に、そなたは我が妻となって、鬼の世へ行く…」
一角の翁が言った。
「そうかな? ちゃんと見てくれる?」
紅葉が両手を腰に置いた。
五円玉は表に返った。
「これは私が念じた通り。あんたは私の心の強さを見誤ったの。さあ、五円玉を通って見せて」
紅葉が促した。
「くぅ…。仕方ない。約束したから、通るだけ通ってやろう。しかし、源次の命は助けてやらぬぞ」
一角の翁は土の中へ沈んでいった。
雨音は解放され、地面に手を着いて、何度も深く息を吸った。
五円玉が宙に浮いた。
一角の翁が黒い霧となり、地面から立ち昇る。
霧がまとまって五円玉の方へ流れ出す。
霧が長い糸みたいになって、5円玉を通っていく。
その瞬間、雨音の手が五円玉を掴んだ。
「雨音くん! そいつは一部だけやねん。騙されんといて!」
「わかってる」
雨音が五円玉を握り、最後の力を出して走った。
朱塗りの楼門と都大路が消えてきた。
「急いで!!」
紅葉が叫んだ。
雨音と紅葉が並んで走った。
咲良は紅葉を送り出した後、鞄からテストの答案用紙を出した。
彼女はその紙で、紙飛行機を折った。
「そこにいるんでしょ、一角の翁!」
咲良が月に向かって、紙飛行機を飛ばした。
彼女の紙飛行機は低空低速でゆらゆらした。
けれど、次第に風に乗って上昇し、赤い満月に尖った先端が突き刺さった。
「うぶぅーわぁぁ…、ぐをぁぁ…!」
鬼の悲鳴が聞こえ、繁華街の闇がガラガラ崩れていった。
街灯が灯り、看板に光が灯った。
マヤカシが全て消えた。
月が老人の顔に変わった。
痩せた老人が、ビルの屋上で片目から血を流していた。
そこに雨音と紅葉が走ってきた。
コマチは鞄からペットボトルを出し、ペンケースの中に水を注いだ。
「紅葉、言われた通りにしたよ?」
「ありがと、コマチ」
雨音が手の内から五円玉を捻り出した。
五円玉が水に沈み、水がペンケースから少し溢れた。
コマチが素早くペンケースを閉めた。
「鬼を水で密封したよ、静先生…」
紅葉が振り返った。
車椅子の中、前に首を垂れていた静先生がむっくり顔を上げた。
静先生は深呼吸し、
「ありがとう、紅葉。それでいいわ」
と、掠れた声で言った。
雨音はビルの屋上の金網を越え、鬼に言った。
「そこにいるのは、鬼の僅かな一部だろ?」
鬼の大きさが、大人の半分ぐらいまで縮んでいた。
鬼は雨音を見て、びくびくした。
「おぬし、オトリだったのか…。よく命を賭けたものよ」
ひょろひょろに痩せた鬼が一匹、コンクリートに座っていた。
片目が潰れ、頭の角も根元で折れていた。
「我の妖術は…、人間の弱さの上にしか成り立たぬ…」
一角の翁は最後のマヤカシを作り出した。
か細いヘビが雨音の足に巻き付き、絞めつけた。
雨音の額の眸が金色を取り戻した。
か細いヘビが金色の鬼火に焼かれ、塵と消えた。
「俺の眸を見て。一角の翁」
雨音が三つの眸を見開く。痩せた老人が映り込んでいる。
「おぬし、邪眼…?」
一角の翁は雨音の眸の中に吸い込まれそうに思った。
一角の翁が見渡す限り、三角の荒い波が立っている。
真っ暗の、雲が垂れ込めた空。
風が吹き、波から飛沫が飛ぶ。
一角の翁は波間に漂っている。
「マヤカシは我の十八番だと思っておったのにな。源次、これもただのマヤカシじゃ! 現実、おぬしに我を殺す力なぞない。我がこの術を消せぬと思うか!? この水で、我が溺れると思うか!?」
下半身を蛇に変えて泳ぎながら、一角の翁が言い返した。
だが、一角の翁はすぐ、あっぷあっぷともがいた。
彼は溺れ死んだ過去を思い出し、恐怖を消せなかった。
「苦しい…。何も見えぬ。真っ暗じゃ。…あの女が…灯りを消した…。岸辺の方角もわからぬ…」
一角の翁は涙を流した。
涙は水と混ざり合った。
「静先生、ありがとうございました。もう充分です」
雨音が水を掻いて泳ぎ、一角の翁の背後に回った。
静先生のお経を唱える声が聴こえていた。
「静…、静ぁ…」
一角の翁が涙ながら呼ぶ。
雨音が鬼の首に腕をかけ、絞めながら水に沈む。
「源次ぃ…。おぬしは…人の皮を被った鬼…じゃ……」
最後に、一角の翁の指先が、ゆっくりと波間に没していった。
4
一方、貴船では。
旭の車のドアミラーに、八尾の狐の姿が映った。
「来た…」
旭は武者震いした。
蘇芳が鬼切の太刀の紐を解く。
八尾の狐は魔性の微笑みを浮かべ、手に持っていた野良猫の死骸を、運転席の窓に投げ付けた。
車に轢かれた野良猫の死骸だ。
旭達はとても嫌な気持ちにさせられた。
「山上さんが、もうすぐ到着します、って…」
雲林院がメッセージを受信し、読み上げた。
「その前に俺達、呪い殺されそうだけどね」
旭が呟いた。
八尾の狐が車の上に乗ってきた。
ギシギシ凄い音がして、車が潰れていく。
機械で強烈にプレスされているみたいに。
窓ガラスが四散した。
「源次はどうした? 頼光はいるな?」
八尾の狐が蘇芳を確認した。
「車ごと潰されるー!」
雲林院が叫ぶ。
タイヤがパンクし、車体が沈む。
腰を屈めても、天井が迫る。
「くそー。先月、車検から戻って来たばっかりなのに…」
旭は愚痴を言った。
間違いなく廃車だろう。
「武曲、破軍、簾貞。殿を頼む。みんな、走れ! 神社の結界の中へ…!」
旭は識神を召喚し、フロントガラスの割れた窓から飛び出した。
蘇芳と雲林院も夢中で飛び出し、貴布禰神社の奥宮の神門へ駆け込んだ。
「おまえら、私の嫌がるところがよくわかっておるな。そこは清浄な気が満ちていて、気に入らん」
八尾の狐はひしゃげた車の上で、雄叫びを上げた。
周囲で、数十の狐火が燃えていた。
眷属が跋扈していた。
八尾の狐は識神を睨み、
「九尾の狐の頭だった玉藻前の…、怨みをここで晴らそうか…」
と、八本の尻尾を裾から垂らした。
一番長い尾は2メートル、艶のある金色のふさふさとした毛並だ。
識神が剣を抜き、妖狐の眷属に斬りかかった。
破軍、武曲らは剣の鬼神だ。どんどん、低級な狐を斬り伏せる。
八尾の狐が深呼吸し、長く息を吐いた。
猛毒が流れ、周囲の植物が枯れていった。
道にトンネルのように枝を張る大木も、めりめり音を立てて枝を落とした。
アスファルトの地面が割れて隆起し、川岸の岩が震動で次々崩れた。
「瘴気だ。あれに触れると、我々も死ぬ」
識神も思わず跳んで、撤収した。
八尾の狐の軍勢は、勢いを取り戻した。
「追うぞ、我が下僕達よ」
八尾の狐が白狐の背に乗った。
5
赤い灯篭と神門の参道から、一際暗い境内へ駆け込む。
「旭さん、ここ、何処ですか?」
「貴布禰神社の奥宮だよ。ご祭神は龍神様。水の聖地、貴船。鬼が棲む鞍馬と隣り合って、古から霊気冴え渡るパワースポット…」
旭は雲林院と蘇芳を連れ、参拝した。
「どうぞ、私達を御守り下さい…」
彼等は柏手を打ち、頭を垂れて祈った。
「昔、ここで龍を見た人がいたらしい。深い洞窟があって、龍がいたんだと」
旭は水を含んだ落ち葉を踏んで、どんどん奥へ向かう。
「龍とは、神気のことだろうね。この大地の奥深く、ヤマタノオロチが身をくねらすように、神気溢れる水が流れてる」
「龍、ほんまにいそうですね。でも、後ろから来てるのはヤマタの尻尾の狐ですけど」
蘇芳が長い太刀を担ぎ、背後を振り返った。
「じゃ、洞窟を捜すぞ。前に山上さんと一度来たけど、うろ覚えだ。行くしかない…」
旭は懐中電灯で照らし、山の中へ分け入った。
「神域じゃないんですか? 罰当たりません?」
雲林院は心配した。
貴船で奥宮より奥は、殆ど民家もない。
ひたすら、山。
識神が旭のところへ戻って来た。
「旭、八尾の狐が来る。奥宮を迂回して、山手より下って来るだろう…」
「クソ。予想通りだ」
旭は舌打ちした。
落葉が厚く積み重なり、雨をたっぷり含んでいる。
旭の営業用の革靴はつるつる滑った。
「山道を歩く格好じゃねーつーの」
彼等は獣道を上って行く。
季節的に、下草が枯れているのが救い。
道路の両側は楓などが植えられていたが、人が殆ど入ることもない山は、もっと鬱蒼と細い木が密に生えていた。
「雨音、大丈夫かな。いくらあいつでも、鬼切なしで鬼と戦うのは…」
旭は呟きかけ、止めた。
「大丈夫ですよ。殺したって死にませんよ。あいつが鬼なんですから」
蘇芳が続きを言ってくれた。
前方に無数の光の点が見えた。
青白い光が、空から舞い落ちて来る。
溜息が出るほど、美しい。
「狐火…」
三人は恐ろしさで、心臓が止まりそうになった。
八尾の狐が百の眷属を従え、山を降りて来る。
「山上さんはまだ来ないのか…!? 俺達だけ先に着いてどうする!? 安倍晴明の陰陽師七つ道具もないんだぞ。俺達だけで何が出来る…?」
旭は呆然と狐火を見詰めた。
「斬って斬って、斬りまくる」
蘇芳が鬼切を、剣道の中段に構えた。
場所は林の少し開けたところ。
識神が身を盾にして、三人を護る。
白狐に乗った八尾の狐・小童女が、
「お馬鹿さん達。用意はいいか? 毒を吸ってね、頭がクラクラするんだ。胃の中が空に鳴るまで吐いて、頭が空になるまで痛みで動けない。体は痙攣して、爪先までぴーんと反り返って死ぬんだ。ああ。死ぬのはきっと、気持ちいいと思うよ」
と、せせら嗤った。
八尾の狐が瘴気を吐く為に、大きく息を吸い込んだ。




