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漆壱 墓の主


 新見は影の鬼に向かって、殺虫剤を噴霧した。

 その途端、無数の痛みに襲われた。

「うわああー!!」

 ウジャウジャと蜘蛛が這い上がり、彼に噛み付いた。

 彼は狂ったように蜘蛛を払い落とし、そこらじゅう殺虫剤をかけた。


 新見は影の鬼に向かって突進した。

 彼は鬼の体を突き抜けた。

 影の鬼はゆらゆら揺れ、輪郭も定まらない感じだった。

 新見は複数の話し声を聞いた。

 男達の低い囁き。

「…見たか、また蜘蛛を殺したぞ…」

「見た、見た。我等の目の前で…よくも…」

 鬼の影に複数の口が開き、ギザギザの歯が動いて、言葉を発していた。


 新見はダッシュして、二股の巨木の後ろに回り込む。

 彼は途中で、

「あれ、こんなに大きな山やったっけ…?」

 と、不思議に思った。


 影の鬼の動きはゆっくりしていた。

 新見が木の後ろから身を乗り出し、殺虫剤を噴霧した。

「ぐぅぅ…」

 影の鬼が悶え、大きくうねった。


 二股の木の周りに、人魂がたくさん流れていた。

 一つ一つの人魂から啜り泣きと呟きが聞こえた。

 落葉の間に散らばっていた白骨が、カタカタ鳴った。

 地中からぬっと手が出て、新見の足を掴んだ。

 新見がすっ転んだ。


 殺虫剤のスプレーが手から滑り落ちて、草むらを転がっていく。

 緩い坂だ。


 新見が鬼を振り返る。

 影の鬼の複数の口が裂け、真っ赤な口の中が覗く。

「都の人間は蜘蛛の餌だ…」

 鬼が彼を嘲笑う。


「おまえら、何がしたいの!? 人間を驚かしたいだけ!? 喰うのが目的か!?」

 新見の問いかけに、鬼の口と口がヒソヒソ、会話した。

「馬鹿なことを言う…」

「我等の目的は復讐だ…。仲間を殺し、家族を奪った奴等に…」

「待て。古い理由など、もう覚えているものか…」

「蜘蛛一匹殺された恨みではない…。千年積もり積もった憎しみ…」

 影の鬼が揺れ、近付いてきた。


 地面から無数の腐った手が出て、新見を捜した。

 彼は怖くなって、木に登った。

 二股の部分までは足もかけやすく、登りやすい木だった。


 木の枝先に、異空間の渦があった。

 新見の部屋を天井から見下ろすことが出来た。

「俺の部屋や! ここから覗いてたんか…」

 彼は驚いて、空間の裂け目を覗いた。


 木の枝先に実がなるように、いくつも異空間の渦がぶら下がっていた。

 黒田の部屋が見えた。

 体育館の倉庫も見下ろせた。

 公園も見えた。イチョウの木のてっぺんから見る、俯瞰の景色。


「我等の蜘蛛を殺した。厳しい罰を受けねばならぬ…」

 鬼が双葉を頭から飲み込んだ。

「トモ兄ー!!」

 双葉が悲鳴を上げた。


「双葉ー!!」

 新見は焦った。

 影の鬼は丸飲みして、喉をぷっくり膨らませた。

 双葉の膨らみは鬼の体内を流れ、胃へ落ちていく。

 鬼は四つある口から、同時にゲップを出した。


「鬼、教えてくれよ。殺されたら殺し返すの? 倍返しは正しいの? 互いに恨み合うだけやんか。双葉はどこに行った? おまえらにほんまの胃袋なんか無いんやろ? また木の異空間に繋がるんか? 黒ちゃんのおばちゃんはどこ?」

 新見が尋ね、影の鬼が四つの口で答えた。

「喰った…。喰った…。あの女も蜘蛛を殺したからな…」

「正しいか、正しくないかなんて、どうでもいいこと…」

「小僧、言いたいことはそれで終わりか?」

「おぬしの兄も喰らってやろう…。あやつも蜘蛛を殺したな…」

 鬼から、銀色の蜘蛛の糸が伸びた。


 糸は枝先の異空間を通り、深夜の橋を俯瞰した世界へ侵入していく。

 新見の両親と兄貴が見えた。

 その世界で、空から蜘蛛の糸が垂れていく。


「やめろ!」

 突然、新見が懐中電灯で、木をガンガン叩き始めた。

 鬼はぼやけた体を揺すって、大笑いした。

「全然わかっておらぬよなぁ…」

「返してくれ! 大事な妹、大事な友達を返してくれ…!」

 新見は木の幹を叩き続けた。


 鬼はヒソヒソと、

「鬼が黒田とか言う小僧に憑りついた…。あの小僧は敵ながら、なかなか立派だったな…。自分ごと、鬼を殺したよ…。電車を使って…」

「そうそう。勇気はあった。蜘蛛に追い詰められても…最後まで自分を捨てなかった」

 鬼の口と口で囁き合った。

「…その鬼は死んだ。殺された鬼の恨み…、おぬしの死をもって晴らす…」

 木の上まで草が伸びて来て、蔓が新見に絡み付いた。


「放せ!」

 新見は暴れたが、蔦に宙吊りにされた。

 鬼の金色の双眸と真っ赤な口が、目の前に迫ってきた。


「双葉、待ってろよ…。たぶん、この木に双葉(おまえ)と繋がる異空間がある…」

 新見は懐中電灯を木の幹に振り下ろした。

 彼は必死に幹を叩いた。

 とうとう、樹皮の一部が砕け散った。


「小僧、何てことをする!」

 彼の背中から鬼が、ガブッと食いついた。

「あうっ…」

 新見は顔をしかめた。

 生ぬるいものが流れ出していく。


 彼の手から懐中電灯が滑り落ちた。

 新見は精一杯、幹にしがみ付いた。

 鬼がガブガブと歯を立て、彼を生かしたまま、背中から喰い始めた。

「痛い…。痛いぃ…!」

 新見は歯を食い縛り、悪夢のような出来事に堪えた。


 蔦が締め付け、新見の関節がバキバキ音を立てた。

 彼は木の表面を引っ掻いた。

「鬼、おまえらは恨みを晴らして、何が残るの?」

 新見の爪先からが血が滲んだ。

 木の皮が、ミカンの皮のようにぺろっと捲れた。

 皮一枚下から、人間の頭部が見えた。

 青白い額と、髪の生え際。


 新見は食われる痛みに気を失いそうになりながら、木の皮を捲った。

 木の中に誰か埋まっている。

 女性だ。

「双葉!? ちゃう、もっと年上の…。もしかして、黒ちゃんのおばちゃん…!?」

 彼は夢中で皮を捲った。


「やめろ。その木は我等の母体…。引っ掻くな…」

 鬼がはっきりと慌てた。

 新見を飲み込もうと、口を大きく開く。

 新見はすかさず、邪気を祓うターコイズのブレスレットを外し、鬼の口へ投げ込んだ。

「おまえらは死んでる。もう存在してへん。ただの怨念の塊なんや!」

 新見が言い切った。


「ああ…あぉう…、ああ…あ……。我等は…死んでなどいない…ぃ…」

 影の鬼が悶えた。

 殺虫剤を浴びた時より苦しげに、口からしゅうしゅう煙を噴き出した。


 影だった鬼に光が射し、四体の白骨が合体した姿が月明かりに浮かんだ。

「我等は死んでなど……」

「思い出した…。我等は死んだ…」

「思い出してはならぬ…」

「死んだ…。遠い昔に…」

 鬼が白い霧になり、遂に消えた。


「やった…。鬼を倒したで、双葉…」

 新見は汗を拭った。


 彼は蔦から解放され、地面に降りた。

 彼は再び、樹皮をむしった。

「もしかして…、この人はまだ生きてるかも…」

 彼は希望を込め、木の皮を剥いだ。

 額の生え際から女性の眉まで見えて、青白い鼻筋が見えた。

 次の欠片が捲れた瞬間、樹皮の下から、光る眸が見えた。


「うっ…」

 新見は固まった。

 心臓がドクン、と飛び跳ねた。

 見てはならないものを見た。汗が吹き出た。


 新見の手の動きが停止した。

 彼はもう、瞬きもしなかった。



 木の皮がぺろり、勝手に一枚剥がれ落ちた。

 幹が膨らみ、内側からボコボコと蠢いた。





 翌日夕方。

 雨音と山上達は車の中で、和気あいあいとしていた。

 山上は今回の作戦を、事前に仲間に伝えていた。

「晴明さんに教えてもらった方法で、まだ目覚めてへん鬼の封印を延長する。その方が危険は少ないやろ。八尾の狐みたいなヤバいやつは、後回しや」


 蘇芳は旭の運転する車の後部シートに凭れ、

「で、どんな鬼からやっつけるんですか?」

 と、尋ねた。

「土蜘蛛。この間、平安時代にトリップした時に会った奴等。場所がわかってるのは、それぐらいやし」

 山上が助手席から振り返った。


 雲林院(うじい)は雨音の横で、カレーパンを食べている。

「部活で腹減ってるんですよ。鬼みたいな顧問で…。間違えた、武蔵(あいつ)は本物の鬼やった…」

 雲林院は武蔵のことを思い浮かべ、

「負けたくない。いつか、隙を見て一本取ったる…」

 と、呟いた。


「武蔵と雲林院か。どこかで聞いたような組み合わせだね…。江戸時代かな。縁があったんじゃないの?」

 旭が皮肉を言った。


 雨音が紅葉に電話をガチャ切りされると、

「雨音ー、フラれてしまえー」

 と、みんな笑った。

「あーあ。紅葉、また無茶すんのちゃうやろなぁー?」

 兄の蘇芳だけが心配していた。



 彼等は酒呑童子伝説の地、丹波を目指した。

 舞鶴若狭自動車道の福知山のインターを降り、西に迂回して、由良川に沿って旧街道を走る。

 途中から、めっきり車の数が減る。

 ここは鬼の大江山の裏側の道。

 窓から眺める景色は、紅葉した山に囲まれている。


 雨音はカーナビの道路地図を見て、

「もうすぐ雲原(くもはら)ですね。いかにも土蜘蛛が出そうな地名…」

 と、言った。

「そやで。酒呑童子の息子の鬼が暴れた話があるぐらいでな…。頼光と綱が、酒呑童子に攫われた都の姫を救出したけど、その中の一人が酒呑童子の子を身籠っていて、この雲原で産んだと言う…」

 山上が景色を眺めた。


 山々は低くなだらかで、黄昏の秋空がよく見える。

 雲原なのに雲一つない。空気が澄んで輝き、鬼なんて出そうにない。

「で、どうやって探すんです? 土蜘蛛の鬼が封印されてる場所」

 旭が聞いた。


麿子親王(まろこしんのう)の鬼退治。酒呑童子より、起源が古い話。大江山に巣食った三匹の鬼のうち、麿子親王は逃げた土熊を丹後半島まで追いかけ、成敗した。この土熊が、一説には土蜘蛛と言う…。麿子親王は雲原で、鬼退治を祈願して岩に仏を刻んだ。鬼退治に使われた鏡は、大虫(おおむし)神社にある…。…おい、大虫って名前、ヤバいと思わへんか?」

 山上は鬼の伝承の本を、たどたどしく読んだ。


「大虫神社は、大江山のツチ鬼と言う虫の鬼を祓った神様らしい。大江山だけで、こんなにたくさん鬼の話があるぞ」

「じゃ、仏岩と大虫神社ですね。もう大江山の鬼の岩屋はいらないですよね?」

 旭はカーナビに行先を入力した。


「今夜は宮津に泊まるから、おまえら。天橋立を見ながら丹波松茸と御馳走食べて、好きな飲み物を飲め。俺が奢る。日頃のことは全部忘れて、宴会や!」

 山上が言った。

 旭が口笛を吹き、みんな手を叩いて歓迎した。

 男同士で楽しく盛り上がっていた。





 紅葉と咲良、コマチはイチョウの公園に着いた。

「新見の匂いはここで途絶えています…」

 識神・貪狼はヨダレを垂らし、狼のように唸った。



 暗い公園を、中央の街灯が照らしている。

 咲良はイチョウの落葉を踏みしめ、公園全体を見回した。

 何となく、ベンチの裏の茂みが気になった。

 そこから坂になっていて、住宅街に削られたような小山があった。

 雑草が生い茂り、蜘蛛や虫がたくさんいそう。


「ここしかないよね…。めっちゃ普通の住宅街やけど?」

 紅葉は小山を見上げた。

 巨門は髭を擦った。

「いかんのぅ。結界の入り口が閉ざされておる…」

「早く捜そう。早くせんと、新見くんが危ないかも」

 コマチが一番に草むらに入った。

「あ、待ってよ。コマチ…」

 虫が嫌いな紅葉も、渋々続いた。


 咲良は識神・文曲と一緒に、小山を眺めていた。

 何だか、足が(すく)んだ。

「嫌だ…。すっごく帰りたい…」

「そうですね。私も帰りたいです…」

 文曲も消極的だった。

「こら、何しとる。咲良、はよ来んかぁー!」

 巨門が小山から呼び、咲良も草を掻き分け、斜面を昇った。



 紅葉とコマチは小山から公園を見下ろす。

 家一軒分あるかないかぐらいの小山だ。

 誰もいないし、何も無い。


 咲良は石に躓き、転んだ。

 雑草がはびこってわかりにくいが、自然石が人為的なサークル状に並んでいた。

 途端に、辺りが真っ暗になった。

 周囲の住宅街の明かりも、全然見えなくなった。

 咲良は前方から風が吹き付けるのを感じた。


 ぽつぽつとオレンジ色の光が湧き出した。

 光はゆっくりと動き、風に乗って流れた。

「人魂…」

 紅葉が呟いた。


 小山のてっぺんに、目立つ二股の木がそびえていた。

「あれ、こんなに広い山やったっけ…?」

 紅葉とコマチは不思議に思いながら、二股の木に向かって進んだ。



 二股の木の幹の樹皮が一部剥がれ、女性の顔が半分覗いていた。

 人魂が、女性の青い顔を(ほの)かに浮かび上がらせている。

 女性は眸を閉じ、死んだように眠っている。

「女の人が木に埋まってる!?」

「死んでる? コンクリートとかで塗り込められてるの!?」

 紅葉とコマチが急いだ。

「ダメ! 近寄ったら危ない!」

 咲良が後ろから叫んだが、声が掠れた。



 その瞬間、木に埋もれていた女が、カッと眸を開いた。

 女の目が片方に寄って、コマチを見た。

 無表情だった冷たい顔に、ニタァと不気味な笑みが浮かんだ。


 地面を割り、腐った手が生えた。

 たくさんの手が人間を求め、コマチの肩足を掴んだ。

「ひゃっ」 

 コマチは死者の手を払うことに必死になった。


 紅葉は即座に刀ケースを開いたが、刀の下緒(さげお)を解くのに手間取った。

 地面から酸っぱい死臭が漂った。

「早く行かぬか、貪狼!!」

 巨門が命じた。

 貪狼が風になって旋回した。

 死者の腕を地面から切断し、吹っ飛ばした。



 今度は蜘蛛が湧いてきて、彼女達の足を登ってきた。

 その蜘蛛は平安時代に見た蜘蛛の子と同じだった。

 きぃきぃ、蜘蛛が鳴いた。

「ギャー!! 蜘蛛ー!!」

 紅葉が喚いた。

 文曲が琵琶を弾いたけれど、この蜘蛛には通じない。耳が無いから。


 咲良はポケットからクッキーを出し、砕いて草むらに投げた。

「クッキーあげる。食べて…」

 蜘蛛は一斉にクッキーの方へ群がった。



 コマチは木に駆け寄って、木の中の女を間近で見た。

 女が異様な目つきで、コマチを見詰めていた。

「ちょっと待ってて下さい。すぐ出してあげます!」

 コマチは木の皮を素手で捲り始めた。

 紅葉も手伝った。


「出して…、ここから…、助けて…」

 木の中の女が頼んだ。


「あの御神木に近付くな…」

 咲良は誰かの声を聞いた。



 蜘蛛がクッキーを食べ終え、彼女達の方向に戻ってきた。

「早く女の人を助けなきゃ!!」

 紅葉とコマチは木の皮を捲るスピードを上げた。


「出して…、早く…。ここは苦しい…」

 女が訴えた。


 意外に、木の皮は簡単に捲れた。

 女の顏全体と、首、肩まで露わになった。

「あともう少しで救出出来るよ!」

 紅葉とコマチは木の皮をむしっていった。


 女は美しく古典的な着物を着ていた。

 数百年前のものか、千年前のものか。

 古い着物を見て、木の皮を捲る紅葉の手が止まった。

「あれ…。もしかして…、この女の人って…」

 紅葉が下がった。

 紅葉はゆるゆる、雷帝を抜いた。


「ん? 鬼!?」

 コマチは顔を近付け、暗がりの女を覗き込んだ。

「…もう出てもよいか?」

 女がコマチに尋ねた。

「え…?」

「もう出てもよいか?」

 女が片腕を木から出し、コマチの腕を掴もうとした。




「ここは墓……」

 咲良はまた、誰かの声を聞いた。

「誰!?」

 彼女は二股の木を見上げ、声の主を捜した。


「もう少し木の裏まで進め…。仲間が待っておる…」

 上から声がした。

 咲良は言われた通り歩き、立ち尽くす新見を発見した。

「新見くん、無事だったんだ! よかった!」

 彼女は大喜びしたが、新見はちっとも動かない。


 新見はメドゥーサに睨まれた石人のように固まってしまっている。

「新見くん、どうしたの!? 何があったの!? 木の中の女の人は誰!?」

 咲良がカチンコチンの新見を揺さぶった。


「あれは土蜘蛛…。ここは(おさ)の墓じゃ…」

 と、誰かが呟いた。




 二股の木がメキメキ鳴った。

 樹皮が剥がれ落ち、木の(こぶ)が生物のように激しく蠢いた。

 木の中の女が腕を出して、服を脱ぐように木の皮を脱いだ。

 あっと叫ぶより速く、木の(うろ)から飛び出た。


 紅葉はコマチを引き戻し、女の迫力に圧され、数歩下がった。

「私は安倍晴明によって、木に封印されていた土蜘蛛の長。名は、朧月夜(おぼろづきよ)と言う…」

 女は腰を振るように、もう一歩前に出た。


「土蜘蛛のリーダー!? …って、もしかして、十二の鬼の!?」

 紅葉が聞き直した。

「リーダー、女なの?」

 コマチが聞いた。


 土蜘蛛の長は金銀を織り込んだ着物を着て、帯は乱れ結び。

 目尻と襟元に青黒い刺青(いれずみ)があり、手首から手の甲にも古代風の刺青があった。


「千年の月日が流れたのは感じていた。封印は自然に消滅した。私はずっと眠っていた。息子達が私を呼んでいた。私は今、よみがえる。陰陽師、祝部(ほうりべ)と糞坊主、晴明と頼光の末裔(まつえい)、都の人間達を呪う為に…」

 長が口を開いた。

 数百、数千の子蜘蛛がウジャウジャと、彼女の美しい口から這い出た。



 咲良は神泉を抜刀した。

「神泉!」

 神泉から雷気が迸り、蜘蛛が跳ね、死骸になって落ちた。

 数千の蜘蛛の死骸が、落葉に重なった。


 土蜘蛛の長は唇を噛んだ。

「小娘が!!」

 長は反りのない片刃の剣を抜いた。


 咲良を狙った長の一撃を、紅葉が飛び込んで受けた。

 (しのぎ)がぶつかり合い、鍔競(つばぜ)り合いの形になった。

「退け、小娘!! おまえ達を喰って、精気を取り戻す。そして最初に、源頼光の末裔を殺しに行く!!」

 長が唸り、鬼の力で紅葉を吹っ飛ばした。


 紅葉はすぐに立ち上がった。

「私がその頼光の末裔だ!!」

 紅葉が挑発的に言い返した。

 二人は何回か切り結び、長は力技で雷帝を弾き飛ばした。


「何と言った!? おまえが頼光の?」

 長の血が怒りで沸騰し、眸の色が金色に変わった。





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