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陸捌 安倍晴明


 安倍晴明が入って来た。

 ちょっとばかり頑固そうな、初老の男だった。

 口髭と髪は白い方が多いが、背筋はしゃんとしている。


 入って来た瞬間、晴明はくしゃみした。

「お客人、鬼を連れていらしたか。鬼の匂いがプンプンする。私は鬼のアレルギーなんじゃ…。へっくわ!」

 現代の言葉に直訳すると、大体そんな感じだ。

 武蔵と雨音は顔を見合わせた。

「鬼? 俺達のこと?」


 安倍晴明は男前でもなければ、不細工でもない。

 人混みに入ったら、見つけられなくなるだろう。

 ピリピリした気迫とか、貫録とか、鬼が逃げ出しそうなものはない。

 切れ長の細い眸に愛嬌がある。


 安倍晴明は雅な仕草で、山上の前に座った。

「やれやれ。やっと鬼を封じて千年安泰かと思えば、もうその先のことを案じねばならぬか…」

「千年未来でも、あなたのお名前はよく知られています。私は山上主税。家は代々、東雲神社の神主で…」

「私の従者(しきがみ)の猿男が、源綱(みなもとのつな)から聞いたと申しておりましたわ」

 晴明は人懐こい笑みを浮かべた。


「では、封印が解けた鬼を再度封印するには…」

 山上がいきなり本題に入ろうとしたら、

「まあ、お待ち下され。そこの鬼を何とかせねばなりませぬ…」

 晴明が天井を、細い指で差した。


 みんな、一斉に天井を見た。

「雨音、何がいる?」

 旭が聞いた。

「お屋敷の上に、黒い雲がかかっています…」

 雨音は額にある第三の眸で、鬼のレーダーのように感じ取った。


「学瀛か?」

 山上が警戒した。

「学瀛は封印したばかりじゃ。大枝山の鬼の岩屋に…」

 晴明が落ち着いて答えた。

「あの妖気は、八尾の狐だと思います。私達の会話を盗み聞きしているんでしょう…」

 静先生が言った。

「そりゃ、聞きたいでしょうな。鬼を封印する方法を知れば、自分が封印されずに済む方法を知るも同じ…」

 部屋の隅で、猿男が呟いた。


「私達はあの妖狐に飛ばされて、こっちの世界に来たんです」

「さようか。では、あの狐をふん縛ってしまうと、元の世界に帰ることが出来なくなりましょうなぁー」

 晴明はのんびりと言った。

「ふん縛る? 八尾の狐を? すごい…」

 山上は舌を巻いた。


「晴明さん。伝えられてきた話によると、鬼の封印が解けし時、安倍晴明が生まれ変わって現れると…」

 山上は祖父から聞いた話を告げた。

「何を仰るやら。私はこの通り、生まれ変わるも何も、まだ生きておる。後二十年は生きますぞ!」

 晴明は突然立ち上がり、裸足で庭に駆け下りた。


 不気味に無数の渦を巻く黒雲が、寝殿の真上に垂れ込めていた。

「へくわっ! この麗しくも執念深き鬼女め。おぬしはいつまで人を困らせるつもりじゃ? いつまで生き肝を喰らって、ながらえるつもりじゃ? へくわっ!」

 彼は大きなくしゃみを連発した。


「あの人、頼りになるんですか?」

 雲林院が疑り深い眼差しで、旭に質問した。

「何を言う。天下一の陰陽師だぞ。千年後にも千年先にも、あのレベルの人はない」

 旭は自信を持って答えた。

「何か、イメージが違います…」

 静先生が零した。



 晴明が戻ってきて、軒下から黒雲を見上げた。

「面倒な鬼を連れておいでじゃ。いや…、あの鬼は元々、この世におった鬼か。九尾の狐…。私と頼光、綱が封じた鬼は、全部で十二匹おった…」

 彼は指折り数えた。


「千年後の京都は大変なことになっています。助けて下さい、晴明さん!」

 山上が頭を深く下げ、頼み込んだ。

「ま、落ち着きなされ。とにかく、鬼の中でも神王(しんのう)には気を付けて下されよ。かの鬼の封印には苦労した…」

 晴明が山上の肩を叩いた。


「え…、神王は一番最初に鞍馬(くらま)で…復活させてしまいました。その後はおとなしいですが…」

「ひぇっ!! 神王を復活させた!?」

 晴明はよろけて下がり、柱にぶつかった。

 急に余裕が消え、

「いかん。一番、都を呪うておわす鬼じゃ…」

 晴明は柱に凭れて、ずるずる背を滑らせ、座り込んだ。


「そんなに恐ろしい鬼ですか?」

「九尾の狐、神王、一角の翁は強さにおいて、同格じゃ!」

 晴明は指を三本突き出した。





「鬼に聞かれておっては、話が出来ぬ。結界を張る故、そこの天狗も入って来なされ」

 晴明が天狗のルイとレイを呼んだ。

 晴明は右手の人差し指と親指をモゾモゾこねて、

「朱雀、玄武、白虎、勾陣(こうじん)、南斗、北斗、三台(さんだい)玉女(ぎょくじょ)、青龍…」

 と、囁いた。

 彼は親指の先に書いた字を人差し指で弾くようにして、四方、上下に飛ばした。

 見えない文字が空間にちりばめられ、結界が出現した。



 晴明は屏風の裏から盤を出して、水晶の珠を並べた。

「これは星の配置。星を読めば、過去も未来もわかります」

 いろいろ占った後、文箱からお札を取り出した。独特の不思議な文字が、墨で踊っていた。

「これらは鬼を遠ざけます。九尾の狐の毒を退けるものもある」

 晴明はお札を山上に持たせた。


 彼は五芒星の描かれた布を広げ、紙や石ころや古鈴や木ぎれを並べた。

「この技が未来の方々を救うと信じて、託します。さ、どうぞ」

 彼は布で一見ガラクタのような物を包み込み、山上に持たせた。

「はぁ…」

 山上は不安でいっぱいになった。


「さて。本題に入りましょう。おことに授ける、鬼を封ずる方法とは…」

 晴明が山上に耳打ちして、小声で五分ぐらい話をした。

 他の人には聞き取れなかった。



 急に部屋が地震のように揺れた。

「狐じゃ。私の結界に爪を立て、揺さぶっておる」

 晴明が天井を睨んだ。


「あの狐を倒すには、どうすればいいんですか?」

 雨音が聞いた。

「ふふん。私は倒し方は知らぬ。おぬしが源綱にでも聞くがよい。あのクソ生意気な若僧に」

 晴明が吐き捨てた。

 綱を嫌っていると言うより、むしろ、面白がっている感じがした。


「私と頼光、綱はひょんな事から知り合って、不思議な縁で続いておりましてな…」

 晴明は口髭を押さえ、くしゃみを我慢した。

「人が人を恨まずに生きていくことは困難。生き辛いこの世、誰かと誰かの都合がぶつかり合い、誰かが儲ければ、誰かが損をする。欲深い人は正直な人を蹴落とし、権力の座にのさばる。その人はいつか自滅していくとしても、周りの人は嫉妬せずにいられないし、まことに世は醜いものじゃ」

 晴明は紙を人の形にくり抜き、自分の息を吹き込んだ。


「時に、人が鬼となるのは避けられぬ。残念ながら、鬼が生まれぬ世は有り得ぬ…」

 晴明が手渡す人形を、山上は大事に、懐にしまい込んだ。

「山上殿。恐ろしい鬼の話は、昔からある。人の(むくろ)や、人の生き肉を喰らう話じゃ。どれだけ人を恨めば、そのようなことになりましょう…」

 晴明は声を低くした。

「九尾の狐も、悲しい過去を背負っております…」


 晴明が手をパンパンと二度叩いて、

「解!」

 と、呟いた。

 一瞬で結界がなくなった。





 庭に、きらびやかな十二単衣をまとった八尾の狐が立っていた。

 嵐山の渡月橋で見た時と同じ顏だった。

 現代から彼等一行を飛ばした張本人。

「晴明…」

 八尾の狐が唸った。


「へくわっ!!」

 晴明が大きなくしゃみをした。

 彼は懐紙で鼻をかみ、

「容貌のきらきらしい者じゃ。私は九尾の狐を見たことがあるが、おぬし、顔が違うな」

 と、呟いた。


「あれは八尾の狐です。こちらの時代の九尾の狐とは、千年歳が違います」

 山上は手に汗を握った。

 武蔵、旭、雲林院は武器を抜き、

「雨音くん、今度こそ逃がしちゃダメですよ!」

 静先生が雨音に命令した。


「しゅとーん部、天狗党の残党ども…。おまえ達、何故この時代に飛ばされたか、わかっておらぬな…。安倍晴明の屋敷にノコノコやって来るとは…」

 八尾の狐は怒っていた。

「そっちの事情は知らん。せっかく平安時代まで来たんや。晴明さんと会わんと帰るわけない」

 山上が言い返した。


「山上殿。ほれ、先程のお札をお使いあれ。へくわっ!」

 晴明が山上の袖を引っ張った。

「そうや」

 山上は数枚のお札を取り出し、目的のお札をゴソゴソと捜した。


「お札が出るまで待っててやると思うか。おまえ達、鬼蜘蛛に喰われてしまえばよかったのに…」

 八尾の狐が憎々しげに呟き、深く息を吸った。

「山上、早くしろ! 八尾の狐が瘴気を吐く!」

 武蔵が山上を急かした。



 その時、安倍晴明がゲラゲラ笑い出した。

「八尾の狐。おぬし、ここを誰の庭と考えておる!?」

 木々が揺れ、葉を鳴らした。

 藁紐に吊られていた、人の形の紙も揺れた。


「何を言う、晴明。おまえはかつて、私だけ封印し損なった…」

 八尾の狐は息を継ぎ、周囲に感じた識神の存在に、視線を走らせた。

「おぬし、何度も内裏に忍び込もうとしたな。その度、私に追い払われたことを忘れたか? へっ、へっ、へーっくわ!」

 晴明は腰に手を当て、豪快にくしゃみした。



 庭の落葉が旋風(つむじかぜ)に舞った。

 晴明が時間を稼いだお蔭で、山上は狐の瘴気を防ぐお札を出せた。

 雨音は抜刀し、低い姿勢で庭の隅を走って行く。

 武蔵は反対側から行く。八尾の狐の背後へ回り込もうとしている。



 風船が割れるような音がした。

 木の影から、ゆらり、識神が現れた。

 うろのような目鼻口があり、短い着物から細長い手足が、枯れ木のようにはみ出ている。

 頭に葉を一枚載せている。


 池の底から泡が上がり、緑色の河童が出て来た。

 藻が全身に張り付いている。


 モグラが通るように、地面が盛り上がって割れた。

 土を吐き、泥人形が出て来た。赤い眼が光っていた。


 庭を囲む漆喰の塀に人面が浮き上がって、大口を開き、

「ん、ふぅ、はぁーっ!」

 と、呼吸した。突風が起きた。


 旋風に舞う落葉がやがて、小さな男の子に変わった。

 おかっぱ頭の可愛らしい男の子が、指をくわえて、八尾の狐を見た。

「お腹空いた…。晴明、こいつを食べてもいいの?」

 男の子の口には、ギザギザの歯が並んでいた。



「晴明さん。どの識神も…、鬼ですやん」

 山上が呆れた。

「毒をもって、毒を制す」

 晴明自身は座って、耳の孔を掻き始めた。



 雨音が最初に八尾の狐に斬り込んだ。

 八尾の狐は後方へ飛んだ。

「その動き、ワンパターンなんだよ!」

 武蔵が後方で待ち構えていた。

 武蔵の神速の薙刀を、八尾の狐は軽い首の一振りで、ギリギリでかわす。

「避けきれると思います?」

 旭が反対から斬り伏せに来た。


 八尾の狐はかろうじて避けた。

「それっ!」

 雲林院が必死に斬り込む。

 八尾の狐は肩から袈裟切に斬られた。

「くそっ」

 八尾の狐の美しい顏が歪み、ダメージでいっぺんに十歳ぐらい老けた。


 八尾の狐の十二単衣の裾に、でっかい牛糞が落ちた。

 強烈な匂いがした。

「へへ、きでいな着物をお召しでずなぁー」

 牛糞が喋った。

「よくも、こんな汚いモノが…私の着物に…」

 八尾の狐は引き攣った顏で、十二単衣からするっと抜け出た。

 白い単衣(ひとえ)と紅の袴になり、袴の裾から八本の長い尻尾が出た。


 巨大な木の鬼が枯れ枝の両腕を広げ、

「ぐー、はぁー」

 八尾の狐の行方を遮った。

 八尾の狐は木の鬼の片腕を木端微塵に吹き飛ばし、その先へ出た。


 地面が空中まで伸び上がった。

「どろーん…」

 粘っこい泥人形が、八尾の狐の脚を掴んだ。


「お腹空いたよー」

 落葉の子鬼が泣いた。

 落葉が手裏剣のように八尾の狐の顔面に突き刺さった。

 八尾の狐は鬼火で落葉を燃やし、弓を引く仕草をした。


 鬼火が炎の矢となって、山上の心臓めがけて飛ぶ。

「させるか!」

 晴明は笑いながら、山上に渡した五芒星の古布を奪い取って、それで炎の矢を包み取った。

 矢は五芒星の中へ吸い込まれ、消えた。

「邪魔するな、晴明!」

 八尾の狐が手をしならせ、火焔の波をいくつも寝殿へ打ち込む。


「打ち返すぞ!」

 晴明は火焔の波を全部、五芒星ですくい取って、布を裏返した。

 飛び上がった八尾の狐は、天と地が逆さまになって墜落し、頭を強く打った。


 火焔が立つ縁に、池が湧き出した。

 河童が出て、八尾の狐の髪を掴み、池の中に引き込む。

 八尾の狐は縁側の高欄に掴まり、河童の頭を蹴った。

 河童の頭部を覆っていた藻がずる剥けて、

「何すんのじゃ!」

 白骨化した頭蓋骨が叫んだ。


「きーつーねーぇー」

 塀の漆喰の人面が、女の声を捻り出した。

 大口をすぼめて、息を吸う。

 息を吐いたら、台風並みの突風が屋敷側に吹き付けた。


「あっ…」

 八尾の狐の手が高欄を砕き、突風で池に飛ばされる。

「狐、来い。水の中さ、来い…」

 河童が八尾の狐の背に乗った。


「ほれ、落ちた!」

 晴明が足をトンと踏み鳴らし、五芒星の布を表に返す。

 晴明が何をしたのか、八尾の狐が丸ごと、池に落ちた。

 水は深い緑色をして、濁っている。

 渦巻き、沈み込むようにして、縁の下へ池自体が落ちた。

 池はどんどん小さな渦になって旋回しながら、地底へ潜っていく。



「山上殿! これをお持ち下され!」

 晴明が五芒星の布を山上に放り投げる。

 山上は慌てて、散らばったガラクタを拾い集め、布で包み直す。


 その間に、世界が歪んで回転していく。

 晴明の顔が、ムンクの「叫び」のように歪に変わる。

 虹のように色が重なり、光が点滅する。


「晴明が八尾の狐にダメージを与えた! 元の世界へ帰るぞ!」

 武蔵が雨音の襟を掴み、寝殿へ猛ダッシュした。

 旭と雲林院も急いだ。

「ありがとう、晴明さん!」

 静先生が叫んだ。


「またお会いしましょう、晴明様」

 天狗のルイとレイが言い、猿男が彼等に応えて手を振った。

「お会いしますかな。機会があれば…」

 晴明は少し寂しそうに見送った。





 夜明け。

 山上らは十一月初旬の、水が冷たい大堰(おおい)川に浮かび上がった。

 渡月橋より下流の岸に、何とか這い上がった。

 気温はとても低かった。


「冷たいと言うより、痛いわっ!!」

 雲林院が半泣きで、一番先に岸に上がり、仲間を次々引っ張り上げた。

「助かったんだから、文句言うなってんだ。おまえ、剣道部で鍛え直してやる!」

 武蔵が静先生を岸へ押し上げ、雲林院に言った。


「ああ、帰って来れましたね…」

 雨音は山上の隣に倒れ込んだ。

「ふぅ、やっと帰れたな。よかった。晴明さんのお札と護符、持って帰れたでー。雨音、おまえ、後で聞かせてもらうからな。渡辺綱と知り合いやった件…」

 山上が五芒星の布で、顔を拭いた。

「何のことですか?」

 雨音がとぼけた。


「が、学校に連絡しなきゃ…」

 静先生がスマホを取り出した。

 バッテリーは残っているはずだったが、ぶつけた衝撃で故障していた。

「静先生、まだ時間が早いですよ。俺のスマホ、使って下さい」

 雲林院が自分のスマホを渡した。

「会社、ヤバいです。クビかも知れない」

 旭が頭を抱え、座り込んだ。


「何日経ってるんですかね? 僕達、浦島太郎みたいですね。百年は経ってないかな? 紅葉ちゃんと咲良ちゃんと蘇芳さん、無事かな?」

 雨音はびしょ濡れの女物ブラウスを脱いだ。

 取り出したスマホはやっぱり壊れていて、ぺっちゃんこだった。

「くしゅっ!!」

 雨音が小さなくしゃみをした。


「晴明さんのくしゃみ、豪快やったな」

 山上が言い、みんな笑った。

 とりあえず、全員無事だった。


 八尾の狐がどこへ行ったか。

 それは、しばらくわからない。





 十一月下旬。

 雨音が紅葉の家に来た。

 彼は刀ケースから、雷帝と異なる刀を取り出した。

「蘇芳さん。お父さんの呪いの刀、僕がお預かりしてもいいですか? 蘇芳さんと相性悪そうなんで。代わりに、これを使ってもらいたいんですけど」

 彼は桐箱を開け、渋い黒ずくめの拵えの太刀を取り出した。


「…雨音。これ、どこで調達したん?」

 蘇芳が新しい太刀を受け取り、鋭い目つきで雨音を見た。

 雨音は無言だ。

「先月、ニュースで、大覚寺所蔵の薄緑(うすみどり)って刀が行方不明になったって言ってたで」

 蘇芳が問い詰める。


 雨音はにっこり微笑んだ。

「これは蜘蛛切(くもきり)って言う太刀です。頼光が土蜘蛛を斬る物語に出て来る太刀ですよ」

「頼光のー!?」

 蘇芳は胡散臭そうに太刀を見て、慎重に抜刀した。


 古刀のぎらぎらした白刃。

 滑らかに弧を描く。

「雷帝より長いやん…」

「刃長87.6センチ。前の刀より、18センチ長いです。僕の鬼切と一緒ぐらいですよ。反りも大きいから、慣れるまで抜きにくいかも。しゅとーん部の道場に来ますか? 蘇芳さん、部活終わって体が(なま)っちゃうでしょ。大学に行っても剣道続けるんですよね?」

 雨音が喜んで、蘇芳を誘う。


「しゅとーん部には行かへん。おまえらの居合と、剣道は別物や」

 蘇芳が雨音を睨んだ。

「太刀だし、居合って感じでもないですけどね。抜き打ちとかしないし。少し長いと感覚変わりますから、稽古した方が」

「長さは竹刀と変わらん。大丈夫や」

「竹刀の感覚で行ったら、あんなスピード出ないですよ。重さに振られますよ?」

 雨音が心配する。



 リビングの外の廊下で、紅葉は壁に背を付け、話を立ち聞きしていた。

「あれ、…完全に大覚寺の薄緑よね?」

 覗いて、紅葉が呟いた。




 

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