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陸漆 鬼蜘蛛、襲来


 渡辺綱の体に、蜘蛛の糸が絡み付いた。

「あっ」

 綱は糸に捕えられ、庭の蜘蛛の巣にぶら下がった。

 人喰いの鬼蜘蛛がわらわら湧いて来た。

「源次。そちらで、お身内が亡くなるのをご覧になって下さい」

 蜘蛛の鬼が言った。

 彼は蜘蛛の巣柄の着物を翻し、紅葉達が泊まる棟へ向かった。



 紅葉達の部屋に、鬼蜘蛛の大群が迫っていた。

 カサカサ、カサカサ、音が幾重にも響いた。

 人間ぐらいの大きさの蜘蛛が押し寄せ、周辺は蜘蛛で埋まった。

 足の踏み場もないぐらい。

 黒い毛が生えた太い脚が、いかにも毒蜘蛛っぽかった。


「蜘蛛は嫌ー!」

「俺も無理…」

 紅葉と蘇芳は抱き合って、逃げ場のない部屋の隅に立ち尽くした。

「綱は?」

 紅葉達は渡殿の先から来る綱を、期待して待った。


 けれど、蜘蛛の数が増えていくばかりで、綱が来ない。

「数が多過ぎて、無理」

 紅葉は神泉を握り締め、どうしていいかわからなくなった。

 蘇芳は長い棒状のものが無いか、辺りを見回した。

 彼は竹刀が欲しかった。

 あの毛むくじゃらで人面を持つ蜘蛛と、直接組み合うのは御免だった。


「文曲、お願い…」

 咲良が頼み、文曲が琵琶を搔き鳴らした。

 けれど、鬼蜘蛛は無反応だった。


 カチカチ、鬼蜘蛛が一斉に牙を鳴らした。

 人面の鬼蜘蛛の口が縦に開き、牙が左右に噛み合っていた。


「ぎぃー」

 鬼蜘蛛が鳴き、蘇芳に飛びかかってきた。

「来るなっつーの!」

 蘇芳は鬼蜘蛛の腹を蹴飛ばした。

 柔らかそうに見えて、意外に硬かった。


 いきなり、天井から落ちてきた蜘蛛が紅葉の肩に乗った。

「わっ」

 紅葉は驚いて飛び上がって、蜘蛛を落とした。

 しかし、別の蜘蛛がじりじり迫ってきた。


「この蜘蛛は焼くしかあるまい。土蜘蛛は鍛冶の一族と聞いた。剣を使うはずじゃ。おぬしにとっても強敵じゃぞ、蘇芳」

 巨門が説明した。

「焼くにしたって火が無いし、俺は丸腰ですけど?」

 蘇芳は鬼蜘蛛の一匹を柱へ蹴り飛ばした。

 潰れた体から、グチャッと体液が出た。


 横を見たら、咲良が蜘蛛に喰われそうになっている。

「咲良ちゃん!」

 蘇芳は走り寄って、蜘蛛の頭を殴り飛ばした。

「ぎぃー」

 蜘蛛が鳴き、蘇芳を威嚇した。

「うぇっ、気持ち悪…」

 蘇芳は吐き気を感じた。


「おにぃ、助けてぇー!」

 紅葉が神泉で、蜘蛛と格闘していた。

 彼女は蜘蛛の長い脚を、スパッと斬った。

 神泉は刃長30センチほど。

 彼女は苦戦していた。

「紅葉!!」

 蘇芳が駆け寄ろうとすると、複数の蜘蛛がカサカサ前に出て、行く手を阻んだ。



 蜘蛛の巣柄の着物を着た鬼が現れた。

 その鬼が細身の剣を抜いた。

「せめて、雷帝があったら…」

 蘇芳は悔しかった。


 三人はネバネバの蜘蛛の糸に絡められ、複数の蜘蛛に乗りかかられた。

 蜘蛛のざらつく感触が肌に来た。


「あなた方に何の恨みもないのですが…。死んでいった仲間を弔う為です…」

 蜘蛛の鬼は涙を浮かべながら、縁側の階段を昇ってきた。

 口元には、涙と真逆の薄ら笑いが浮かんでいる。


「こんな糸…!」

 紅葉が蜘蛛の糸を切る。

 でも、また糸が絡まってきた。

「やめてよー! 来ないでぇー!」

 咲良が足をバタつかせた。


 蜘蛛の鬼の剣が剣を振り被った。

 白刃がぎらぎら光り、蘇芳は死を覚悟して目を瞑った。


 紅葉は神泉を(さや)に戻し、咲良に投げた。

「咲良ちゃん、受け取って! 私やと、神泉が反応せぇへん!」

「紅葉ちゃん!」

 咲良は伸ばせるだけ、右手を伸ばした。


 もう少しで、神泉に手が届きそうだった。

 しかし、神泉の方が勝手に跳ねて、咲良の手から逃げた。

「あ…」

 神泉は蜘蛛だらけの床に落ちた。


「いかん! 時間を止めるのじゃ!」

 巨門と文曲は手を取り合い、時間を止めた。

 二人が止められるのは、ほんの数秒だけだ。





 蘇芳は痛みと衝撃が来ないので、不思議に思った。

 蜘蛛の鬼が何か喋っている途中で、話が途切れた。

 蘇芳は目を開こうとしたが、全身固まって、動かなかった。



 咲良は神泉に呼びかけた。

「ごめんね、神泉…。まだ怒ってるんだよね…」

 以前、咲良が九角龍王を封じる為に、神泉を使って自分の首を斬り、血を流した。

 それで神泉は怒ってしまった。


「あの時は仕方なかったんだよ。自殺しようとしたわけじゃないの…。今まで何度も救ってくれて、本当に感謝してるんだよ…」

 咲良が謝った。

 神泉は蜘蛛に踏まれ、どこにあるのかも見えない。

「神泉、紅葉ちゃんと蘇芳さんが死んじゃうよー」

 彼女は目を閉じ、神泉の気配を追った。


 神泉の微かな光が感じられた。

「咲良…、千年の封印が解けた鬼を、斬っていく覚悟があるのですか? 正しいか、悪いかではない。今迫る危機に対して、非情になれますか? あなたは心を鬼にして、学瀛を斬らねばなりません…」

 神泉が囁いた。


「出来なければ、あなたは紅葉を失うでしょう。他の人もきっと、大切な誰かを失うでしょう。天秤の片方には、たくさんの命が乗せられているのです」

「わかった。斬るから…、力を貸して…」

 咲良が眸を開いた。



 時間が戻ってきた。

 いつの間にか、咲良の手が、紅葉の投げた神泉をしっかり受け止めていた。

 俄かに神泉が光を噴き、蜘蛛の鬼の眸を灼いた。

「ふぁっ!?」

 蜘蛛の鬼がよろけた。

 一瞬の雷気で、周囲の蜘蛛も弾け飛んだ。


 蘇芳が前に飛び出した。

 瞬時に間合いに飛び込み、相手の右肘を取る。

「剣が無いなら…奪うしかない!」

 蘇芳が命がけで、敵の剣をもぎ取りに行った。

「何をする!? ふざけるな…」

 蜘蛛の鬼は、引き足で蘇芳を斬ろうとした。

 蘇芳は相手の手を掴んだまま、鬼の右肘の外へ回り続けた。


 その間に、紅葉達を囲んでいた鬼蜘蛛の群れが下がり、蜘蛛の糸も切れた。

 紅葉は感電し、その場に膝を着いた。

「やっぱり、咲良ちゃんは凄いわ」

 紅葉はヒリヒリする腕を擦った。


 蘇芳と蜘蛛の鬼は揉み合って、鬼蜘蛛の群れの中に倒れた。

 蘇芳は蜘蛛の鬼に食らいついて離れず、相手の着物を踏んで、肘を押さえた。

「くうっ。こいつ、頼光と顔が似ておるな。余計に忌々しい…」

 蜘蛛の鬼は歯噛みした。





 綱は高い蜘蛛の巣から、紅葉達の様子を眺めていた。

 屋敷の者は鬼の術にかかって、眠り呆けている。

 綱は太刀から熱風を巻き起こし、近付く鬼蜘蛛を追い払った。

 彼は自分で蜘蛛の糸を焼き切った。



 庭に妖気が流れてきた。

 妖気の川を櫂で漕いで、鬼を乗せた舟が現れた。

(あまねし)!」

 綱が雨音を見い出した。

「あっ、ご先祖様!」

 雨音も綱に気付き、舟から飛び下りた。


「あれが本物の渡辺源次かよ!!」

 武蔵が叫んだ。


 雨音は綱に向かって、

「ご先祖様、稚桜姫を連れて来ました!」

 と、叫んだ。

「ご苦労。おぬしの姫も預かっておる、(あまねし)!」

 綱は声を弾ませた。


 土蜘蛛の里の鬼が、雨音のブラウスの襟を掴んだ。

「待て。舟に乗せてやったのじゃ。道理に合わぬことはせんでくれ!」

 鬼が睨みをきかせた。

「このご恩は忘れません」

 雨音は鬼に礼を言った。

 彼は綱と、奥の庭へ走り出した。


 鬼は怒り狂った。

「よくも、我等を利用したな。我等と共に、妻子を取り戻してくれると思ったのに!」

 鬼は舟に乗るしゅとーん部を睨んだ。

「騙すつもりなんかなかった。みなさん、いい鬼やと思ってましたよ。マジで」

 雲林院が手を振って、言い訳した。

「こうなるとは思いませんでした。短い間でしたけど、楽しかった…。出来れば、みなさんと殺り合いたくないんですが…」

 旭が言った。


「都の鬼も、都の人間も、敵じゃ!」

 鬼どもは怒り頂点で、一斉に刀を抜いた。

「仕方ない…。やるか」

 旭と雲林院が刀の鍔に手をかけ、武蔵は大薙刀を鞘から抜き放った。



 奥の庭では、蘇芳と蜘蛛の鬼が一本の剣を取り合っていた。

「まだ諦めぬのか! しつこいぞ!」

 蜘蛛の鬼が蘇芳を蹴った。

 鬼の腕力で蘇芳を捩じ伏せ、刺す寸前。


「蘇芳さん!」

 雨音が間に合い、蜘蛛の鬼に斬りかかった。

「源次か!?」

 蜘蛛の鬼が、雨音の剣をギリで受けた。

 金属音が鳴った。


「雨音! 来てくれたんか!」

 蘇芳が剣の下で叫んだ。

「こっちのセリフですよ。こんなとこまで来てくれたんですね、蘇芳さん!」

 雨音が鬼蜘蛛の群れに飛び込んだ。

 紅葉と咲良に迫っていた蜘蛛を切り崩す。

「紅葉ちゃん、生きてる!?」

 彼は蜘蛛の飛沫を撒き散らし、部屋に侵入した蜘蛛を片付けていく。

「雨音くん…! …よかった!」

 紅葉は安心して、力が抜けた。


 咲良は舟から降りてきた稚桜姫と対面し、

「えー!? 私がもう一人いるー!?」

 と、互いに指を指し合った。



「源次! 許さぬ!」

 蜘蛛の鬼が綱に向かって突き出した掌から、八本の蜘蛛の糸が飛んだ。

 蜘蛛の鬼は続けて何度も、蜘蛛の糸を銀の花のように咲かせた。


 綱は鬼蜘蛛を踏み付けて飛び、庭を縦横に走りながら攻撃をかわした。

「神火清明…」

 彼は太刀から火焔を放った。


 綱と蜘蛛の鬼が直接刃を交えた。

 綱の太刀は火焔に包まれている。

 綱は蜘蛛の鬼の腹部を突き刺し、引き抜いて、更にとどめを刺そうとした。


 瞬間、雨音が間に割って入った。

「待って下さい!」

 雨音は蜘蛛の鬼を庇い、かざした手で綱を止めた。

「ご先祖様、彼等に家族を返してあげて下さい。お願いします!」

 雨音が綱に頼んだ。

「…よかろう。しかし、土蜘蛛の長は千年封じた。それは最早、どうにもならぬ」

 綱が言う。


「源次。あなたはまつろわぬ里の者を斬り殺しました。それ故、我等も都の人間を、一人でも多く殺さねばなりませぬ。長が何をしたと言うのですか? 我等は平和に暮らしていました!」

 蜘蛛の鬼が叫んだ。

「私達の方もたくさん死にました。私の姉も鬼に喰われました」

 稚桜姫が言い返した。


「千年…生きながらえて、必ずや…、我等の長をよみがえらせる…」

 蜘蛛の鬼は大量の血を吐き、その場に倒れた。

「若様…」

 鬼の生き残りが彼を担ぎ、舟に乗せた。



 そこに、空から龍頭のゴンドラが降りてきた。

「学瀛様だ。来て下さった…」

 鬼どもは歓喜して、空を仰いだ。

「学瀛か。こんな時に…」

 武蔵は舌打ちした。


 白い狩衣を着た学瀛が、獅子髪を靡かせて雲間から現れた。

 学瀛はいつもの藍色の鬼火の代わりに、赤々とした鬼火を全身から噴いていた。


「赤い火と青い火と、どっちが高温ですか?」

 咲良が山上に聞いた。

「もちろん、青い火の方が熱い。透明の炎は、もっと熱い。完全燃焼してるから」

 山上がこそっと返事した。

「学瀛が…弱ってる…?」

 咲良は心の内で呟いた。



 学瀛はゆったりとした(たもと)を、左右に広げた。

「聞け。神の罰たる(いかづち)(くだ)る。土蜘蛛の里の怨み深さを知るがいい…」

 学瀛の声が雷を呼び、突然、底抜けたバケツのように、大雨が降った。


 夜中、京の都は稲妻で照らされ、暗闇に戻り、また目も眩むほど白く焼かれた。

 落雷の、鼓膜が破れそうな音が響いた。


「有り得ぬ。あの獅子鬼は…」

 綱が何か言いかけたが、雷の音に掻き消された。


 雨音や蘇芳、紅葉達は耳を塞いでいる。

 屋敷に落雷し、火の手が上がった。


 急に、咲良の側に学瀛が来て、

「咲良、おことだけは助けてやる。他の者は焼け死ねばよい!」

 と、彼女の手を取った。

 彼女の手には、神泉があった。


 咲良は震える手で、学瀛の胸を刺した。

 神泉から雷が走り、衝撃で学瀛の胸に大穴が開く。

 学瀛の表情が凍り付いた。

「おことは幾度、私を裏切るのか…?」

 雷が途切れ、彼の声がはっきりと咲良の耳に届いた。

 雨もぴたっと止んだ。


「千年未来(さき)の姫、その鬼はこの世の鬼にあらず…! 獅子鬼は土蜘蛛と共に、千年封じたばかり…」

 綱が叫んだ。


「いかにも…」

 学瀛と彼の白い狩衣が暗転して、黒い影法師になった。

 彼は薄っぺらで、ゆらり揺れた。

 そして唐突に、ゴンドラと共に消滅した。



「私、失敗したの!?」

 咲良が山上を振り返った。

「失敗ちゃうけど、殺すほどの深手は与えきれへんかった。あいつはただの複製。ネガとポジ。どうりで、学瀛の邪眼が左右反対やった…」

 山上が自分の顎髭を撫でる。


 咲良と話している山上の顔が、奇妙に歪んでいく。

 世界がぐるぐる回り、色が斑に混じり合う。

「山上さん!」

 咲良が手を伸ばした。

 山上の顏が歪んで崩れながら、咲良と一気に離れていく。



 気が付いたら、咲良と紅葉と蘇芳は、元のハロウィン会場に戻っていた。

 何事も無かったみたいに、小さな子供が紅葉達にお菓子をせがんだ。


「雨音くんは…!?」

 紅葉は泣きそうになった。

「学瀛を刺した衝撃で、術が解けた。俺らは元の世界に帰れたけど、八尾の狐に飛ばされた雨音は…、まだ平安時代(むこう)にいる」

 蘇芳が推測した。


「紅葉ー、何かあったのー? 咲良ちゃんも…。なんでそんなに服がボロボロなの?」

 コマチが魔女のコスプレで笑いかけてきた。





 雨音達は明けゆく東の空を眺めた。

「鬼が去った…」

 山上が呟いた。


 屋敷の火事は大事には至らず、みんな無事だった。

「俺達だけ残っちゃいましたよー!? どうするんですかぁー?」

 雲林院がうろたえ、

「なるようにしかならないだろー。あーあ。会社、無断欠勤になっちゃうな…」

 旭が雲林院をヘッドロックした。


「ほな、俺達は安倍晴明の屋敷に行こう。鬼を千年封印する方法を聞かなあかん」

 山上が武蔵に伝えた。

「案内致します」

 綱が一礼し、彼等は並んで歩き出した。


 武蔵は山上に、

「安倍晴明…、一度、会ってみたいと思ってたんだよ」

 と、話した。

「どんな男なんでしょうね? 凛々しくて整ってて、知的な感じ?」

 静先生も想像を膨らませた。



 早朝の都の通りを行く人が、目を皿のように見開いて、しゅとーん部を振り返った。

「けったいな…。ありゃ、鬼か? 人間か?」

 心の内が、表情に滲み出ている。


 綱は稚桜姫を馬に乗せ、手綱を引いた。

「あの一条橋の向こうが、源満仲様のお屋敷です。そして、通りのこちら側が…、安倍のジイさまの屋敷ですよ」

 綱が言う。

「安倍のジイさま?」

 山上達はぽかんとした。

「かなり変人のジイさまですよ」

 綱は口を尖らせ、詰まらなそうに言った。


「ま、たぶん…、渡辺綱の若さから察するに、この頃の安倍晴明はまだそれほど有名とちゃうんやな…」

 山上が旭に耳打ちした。


「安倍のジイさまとは、こうやって連絡を取り合うことになっています」

 綱は一条戻り橋に立ち、橋の下に向かって何やらヒソヒソと話した。

「今から、千年未来のお客様を連れて参ります…」

 安倍晴明は家族を怖がらせない為に、識神をいつも一条戻り橋に置いていたと言う。



 間もなく、彼等は晴明の屋敷の前に着いた。

 呼びもしないのに、すぐに門が開いた。

 そして、猿の面を付けた男が出て来た。

「聞こえておりましたぞ。変人とは…事実ではありますがな。源次殿」

 猿の面の男が、彼等を招き入れた。

「これは安倍のジイさまの識神の猿男です。安倍晴明というお方は、識神に屋敷を警備させているんです」

 綱が山上に言った。


 山上と旭は、門の内側を覗いた。

 木と木の間に藁紐が結ばれ、白い紙の人型が揺れていた。

「まあまあ、イメージ通りですかね…」

 旭は納得した。


「主人はもう起きております。すぐ参りますので、こちらでお待ちを」

 猿男が言った。

「私はこれで…。姫を送り届けねばなりませぬし、頼光様にも報告せねばなりませぬ」

 綱が屋敷に入ろうとしない。

「綱さん、帰っちゃうの?」

 雲林院が尋ねた。

「はぁ。私はあのジイさまに、あまり会いたくないんです…」

 綱がそわそわして帰った。

 稚桜姫とも、ここでお別れになった。



 山上達は寝殿造りの建物の客間に通された。

 見渡す庭はどこも手入れが行き届き、建物もきれいに掃除がされている。

 けれど、どこか寂しく、鬼気が漂う。


 そして、晴明が客間に入って来た。





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