伍弐 黒猫と静御前
1
静先生が紅葉達の中学の先生を薙刀で斬り伏せ、血飛沫が飛んだ。
だが、紅葉の場所からはよく状況が掴めなかった。
「なんで!?」
と、紅葉達は思った。
雨音は腹を立て、静先生と口論になった。
「僕、そーゆーのが気に入らないって言ってるんですけど。その人、まだ元に戻れるんじゃないですか!?」
「渡邊くん、甘いですね。彼はもう人間じゃありません。ヒトモドキってとこかな。そんなこと言って、あなたは誰を守りたいんですか!? 私は私のやり方で、生徒を守ります」
静先生が次のゾンビ先生に薙刀を向けた。
二人が話す間、校長先生はさっさと逃げ出した。
校長先生は黒猫を地面に下ろした。
「私は何も知らない。君達は寄生虫にやられて、溶けて消えるんだ…。さぁ、ブラッディ…」
黒猫の金色の眸が光った。
「ナーゴォ…」
黒猫が低い声で鳴く。
体育館の裏に、雄猫の鳴き声がしみ渡っていく。
顔の割に大きな口と長い牙が目立つ。
闇夜を切り抜いたような、漆黒の体。
「行け、ブラッディ。あいつらを噛んでやれ!!」
校長が黒猫をけしかけた。
「源次…、アイツハ鬼ダ。寄生虫デハ死ナナイ…」
黒猫が奇妙にも、人間の言葉を喋った。
紅葉達はガードレールに掴まり、一生懸命目を凝らして、フェンスの向こう側を見守った。
ゾンビ先生の中に、何人かの知った顔があった。
体育の先生と理科の先生は、別人みたいに雰囲気が違う。
彼等は黒ずんだ皮膚に落ち窪んだ眼で、ヨダレを垂らし、ぎこちなく歩いた。
「なんで校長先生が…?」
紅葉は不思議に思った。
そう言えば、中学のホームページに、校長先生が黒猫を抱いている写真があった。
そのことをやっと思い出した。
黒猫ブラッディが放たれ、妖気を撒き散らすと、煌星は苦しそうに悶えた。
「コマチ…、何かしんどい…。頭が痛い…」
煌星が咳き込んで膝を着き、道に吐いた。
「大丈夫?」
コマチは煌星の背中を擦った。
煌星の頬に糸で縫ったような引きつれが起こり、ピクピク動いた。
コマチはぎょっとした。
「紅葉、これって鬼プラズマ…? 違うよね…?」
「私に聞かれても、わからへん。咲良ちゃんを見れば、たぶんわかる…」
紅葉とコマチが咲良を振り返った。
咲良は顔を強張らせ、煌星から3メートル離れていた。
更に遠ざかろうとしている。
「えっ、そんな…。咲良ちゃん…」
コマチは煌星が神谷先生みたいに死んでしまうと思って、慌てた。
「煌星、しっかりして…」
コマチが覗き込むと、煌星は荒い息をして地面に手を着いた。
煌星のこめかみから、黒っぽい汁が滲み出した。
そして、薄いピンクのミミズのようなものが出てきた。
先1センチぐらい出て、クネクネと先端を触手のようにうねらせた。
「コマチ…、とりあえず鬼をやっつけるまで、煌星ちゃんに触ったらあかん…」
紅葉がコマチを煌星から引き剥がした。
「嫌や、そんなん。煌星は小学校の時からの友達やねん! お願い、煌星を助けて!」
コマチが紅葉に頼んだ。
「そうや…。山上さんにもらったお札を使おう…」
紅葉はポケットを探り、二つ折りしていた封筒を取り出した。
咲良と交換した呪符が入っている。
紅葉は急いで、呪符を広げた。
ジャージ姿のゾンビ先生が、静先生に迫った。
白目を剥き、ヨダレを垂らしてグヒヒと嗤う。
彼等は寄生虫の幻覚の影響で、恐怖に対する感覚が麻痺している。
薙刀を突き付けられても、引き下がるどころか、脳味噌を求めて近付いて来る。
「汚らわしい生ゴミ。あなたに相応しい虫でも食べたらどうかしら!?」
静先生が容赦なく薙刀を打ち込んだ。
ゾンビ先生の頭が割れた。
10センチぐらいのミミズみたいな虫が数十匹、頭から躍り出た。タコの足のように動いた。
静先生は殺虫剤を噴射した。
寄生虫は地面でしぶとくのたうち、人間の匂いと温もりを求めて、静先生の方へ寄った。
「悪臭漂う汚物!! 触りたくもない!!」
静先生は早足で逃げた。
今度は理科の先生が襲いかかってきた。
彼は既に、強烈に酸っぱい匂いを漂わせて腐っていた。
彼はズボンの両側のポケットからゴキブリを出し、静先生に投げた。
「グヒヒ。綺麗な先生。俺達、生ゴミの気持ちがあんたにわかるか…? 俺達は見た目だけで嫌われて、あんたに惨殺される。殺虫剤をかけられて死ぬ…。ガスバーナーで焼かれ、オーブンで焼かれ、焼却炉で焼かれ…、俺達に痛覚が無いとでも思ってんのか? 俺達は燃えて、もがき苦しんで死ぬ…。生きたまま焼かれて…」
彼は寄生虫の気持ちを訴えた。
「うっ」
静先生は飛んできたゴキブリに注意を取られた。
その隙に、黒猫ブラッディが静先生を狙って、用心深く近付く。
黒猫が静先生の懐へ飛んだ。
静先生は薙刀の石突きで打ち払った。
黒猫ブラッディは宙返りして着地した。
「シャーッ」
毛を逆立て、威嚇する黒猫。
「その猫、僕に譲って下さい」
雨音が静先生の横に並んだ。
「渡邊くん、そこ、邪魔なんですけど。あなたは早く、女の子達を安全な場所に避難させるべきです。それに言っときますけど、この猫を刀で斬ったら、ウジャウジャと寄生虫が溢れ出しますよ…」
静先生が忠告し、彼を庇うように数歩前へ出た。
「オマエモ、汚ラワシイ生ゴミニナル。静…」
黒猫ブラッディが聞き取りにくい猫声で喋った。
静先生の薙刀が風車のように回転し、理科の先生を倒し、喋る猫の首を刎ねた。
猫の血が飛び散り、ミミズに似た寄生虫が乱れ飛ぶ。
静先生は寄生虫に殺虫剤を撒いた。
死んだ先生達から、黒猫の首の断面から、寄生虫が這い出した。
ウジャウジャと地面を埋め、蠢く。
雨音はフェンスによじ登った。
静先生は神谷先生が隠れていたゴミの大型ボックスに飛び乗り、寄生虫の波から逃げた。
予測しない事態が起きた。
源頼光に首を落とされた酒呑童子のように、黒猫が首だけでも動いた。
そして、長い牙で静先生の左手に噛み付いた。
「この猫…!!」
静先生が薙刀の柄で黒猫の首を叩いた。
黒猫はがっぷり食いついて、なかなか離れない。
ようやく黒猫が力尽きて落ちた時には、静先生の革手袋が裂け、白い手首に二つの穴が開いていた。
真紅の血が滴った。
「あっ…」
静先生は思わず薙刀を落とし、噛まれた手を庇った。
それまで無表情だった彼女も、さすがに恐怖と絶望の色を浮かべた。
静先生は手の傷をぼんやり眺めた。
それほど痛くなかった。
しかし、異物が侵入していくのはわかる。
「私も…ヒトモドキになってしまうのね…」
静先生が自嘲した。
彼女の長い旅が終わる…。
「ゾンビなんかになりたくない。あんな死に方は御免です」
彼女はナイフを抜き、自分の頸動脈を潔く切ろうとした。
「死なせませんよ」
雨音が飛び移り、静先生の手を止めた。
静先生は生意気な生徒を、正面から睨んだ。
「私のことはいいから、早く逃げなさい。渡邊くん!」
「冗談でしょ、静先生」
雨音が額の絆創膏をむしり取った。
額に開いた、第三の眸。一つの目玉に二つの黒眸が巴に向き合う、不気味な鬼眼。
彼は黒猫の生首を三つの目で見据え、
「静先生、あいつは数百年生きた猫です…。人間を狂わせる寄生虫は…、人間への復讐かな?」
鬼切の太刀に力を漲らせた。
黒猫ブラッディの生首が牙を剥き、地面を這った。
雨音は低く構え、黒猫に立ち向かっていった。
2
紅葉は山上に教わった通り、呪符をかざし、心で念じた。
「急々如律令!」
呪符が光を発し、ボンと音立てて、光の球を飛ばした。
閑静な住宅街。
表通りと違って、中学の裏門側は車がやっと擦れ違える程度の道幅。
近くに店もなく、人通りも多くない。
周囲は既に薄暗く、物の形も曖昧にぼやけている。
紅葉達にも数人のゾンビが迫り、包囲するように近付いてきた。
紅葉は焦った。
白い光の球の中に、半透明の女の姿が見えた。
天女のように羽衣をまとい、髪を上げて髷を結い、髪飾りと簪を挿していた。
女は幽霊のようにぼんやりしている。
手には弦楽器を持っている。
「識神…」
紅葉は驚き、光の中の女を見詰めた。
女は美しく儚げで、じっと項垂れている。
「また!? なんで動いてくれへんの!?」
紅葉は苛立った。
コマチは咳き込む煌星の面倒を見ている。このままではコマチに寄生虫がうつってしまう。
それに、ゾンビ達は彼女のすぐ側まで来て、土色の顔で白目を剥き、ウガウガ呻き、口から泡を噴いた。
紅葉は追い込まれた気分だった。
ゾンビの一人が咲良の背後から抱きついた。
腐った臭いが、咲良の鼻をツーンと刺激した。
ヨダレがボトボト落ちた。
ゾンビは咲良の頭に歯を立て、齧ろうとした。
「うわーっ!!」
咲良は無意識に後ろを蹴飛ばし、躓いて転んだ。
咲良は大急ぎで、封筒から呪符を取り出した。
しかし、それは先日、紅葉が発動出来なかった呪符だ。
「私達を守って…!! 急々如律令!!」
咲良が念じた。
ボンと音立てて、呪符から光の球が走り出た。
落ち着いた老人が光に坐していた。
「本当だ、動かない」
咲良も紅葉の言っていたことを再確認する結果になった。
識神は無気力そうな顔。
ただし、咲良に対してはものを喋った。
「…おぬしのように術師でもない者に使われることになろうとはなぁ…。小娘よ」
声なき声で、嫌味たらしく言う。
彼の呟きは、咲良と紅葉達の脳に直接届いた。
「そこを何とか!!」
咲良と紅葉が叫んだ。
「儂は巨門。あれは文曲。山上の倅に頼まれて、来てはやったがなぁ。まだ助けるとは言うとらん…」
老人の識神が呟いた。
「識神って、命令したら助けてくれるんとちゃうの?」
コマチが紅葉に聞いた。
紅葉は本来、自分の守護者になってくれるはずだった巨門に向き合った。
「勝手に交換してごめんなさい。今すぐ助けてほしいんですけど。どうしたら助けてくれはるの!?」
「そうじゃのう…」
巨門は長い顎髭を擦った。
「儂は敵の戦力を分析したり、作戦を考えるのが仕事じゃと知っておけ。紅葉、それがおぬしの役目なのじゃよ。文曲を使いたければ、そっちの咲良とやらに仕事をさせよ」
紅葉は呪符の意味を理解した。
咲良も頷いた。
「文曲さん。ちょっとお願いします…」
咲良が話しかけたら、女の識神が心得て、微笑みを返した。
彼女は琵琶に撥を当て、常人には聞こえない音楽を奏で始めた。
その時、咲良に再びゾンビが襲いかかった。
「キャー!!」
彼女は必死に抗った。
「咲良ちゃん!!」
紅葉がゾンビに掴みかかり、咲良を助けようとして、ゾンビの腕力で払い飛ばされた。
咲良は目を瞑った。頭からバリバリ喰われる…。
そう思ったのに、歯が食い込まずにゾンビの動きが停止していた。
咲良はそっと眸を開け、ゾンビを見た。
今や、哀しき半鬼達は、識神・文曲の奏でる音楽に聞き入っている。
ゾンビが目を閉じて、穏やかで幸せそうな表情へ変わっていく。
雨音が鮮やかに、鬼切を一閃させた。
黒猫の額が裂け、片耳が飛んだ。
雨音は黒猫の執念を感じた。
黒猫は流れる血の為に、片目を閉じた。
「人間ヘノ復讐…、ソンナモノデハナイ…」
黒猫が喋るように鳴いた。
「人間ヲ嫌イジャナイ…。タダ、ウットオシイ…。オマエ達ハ猫ヲ可愛ガルフリヲシテ、都合ヨク玩具二シテイル。ソレハ虐待デハナイカ…? 私達ヲ閉ジ込メ、自由ヲ与エズ、安価ナ餌ダケ与エテ、繁殖モ制限シテ、飼イ殺シダ。ソンナモノガ愛情カ? 違ウダロウ?」
黒猫が言い分を述べた。
「人間だって、不自由に生きてるから。僕らだって、お金という化け物の奴隷にされてるさ」
雨音が言った。
黒猫は吹き出した。
「愚カナ人間達。自ラ縛リ、不自由二暮ラシテイル。ソノ犠牲二ナルツモリハナイ。支配者ノ交替ダ。私ハ人間ノ我儘二殺サレタ。次ハ人間ヲ殺シ、鬼ガコノ世ヲ支配スル…」
「猫は可愛いから好きだよ。人間を恨まないでくれ。猫を放したら、戻って来ないだろ。閉じ込めたいんじゃない。一緒に暮らしたいんだ」
雨音は中学の時に出会った、捨て猫のことを思い出した。
雑種の子猫。
彼は公園で、こっそり餌をあげていた。
数日後、子猫はカラスに食い殺されてしまった。
飼ってあげられずに死なせたことを、とても後悔した。
黒猫ブラッディは執念をたぎらせて、最後の力を振り絞った。
「静ヲ見ロ。何ノ恨ミモナイ相手ヲ、タメライナク殺ス。アレガ人間。自分勝手ナ生キ物…」
「やめろ。静先生は死なせた息子に償う為に、命がけで鬼と戦ってる…」
鬼切が黒猫の喉の奥まで突き刺さり、白刃から火を噴いた。
黒猫の生首が燃え上がった。
寄生虫も燃え上がった。
黒猫は煤を吐き、地面に転がった。
黒猫の頭部が消滅すると、胴体も、地面に散らばっていた寄生虫も全部、泡立って溶けた。
静先生は手の痺れが引くのを感じた。
彼女の中に侵入した寄生虫が消えていく。
煌星は突然呼吸が楽になって、びっくりして上体を起こした。
耳とこめかみからドロドロと、気持ち悪い粘液が流れ出た。
それまでの頭痛と吐き気が、嘘のように引いた。
ゾンビ達は道に倒れ込んだ。
ゾンビ達の耳からも、ドロドロと汁が流れ出した。
呪いが解けていく。
文曲は役目を終え、呪符へ吸い込まれて消えた。
「なんか、すごいやん。山上さん、やるやん…」
紅葉が興奮して感想を言った。
脱力感が来た。
コマチは嬉しくて、煌星をぎゅっと抱きしめた。
「煌星、よかった…。また一緒に遊んだり、勉強したり、喧嘩したり、これからも出来るで…」
「うん…」
煌星はぐったりしていたが、笑顔で返事出来た。
咲良はフェンスの向こうを覗いた。
「雨音くん、大丈夫ー!?」
フェンスの向こうは静かになっていた。
誰もいない。
「私、ちょっと見てくる!」
「咲良ちゃん、待って! 私も行く」
咲良と紅葉は暗い道を走って、中学の裏門の方へ回った。
半透明の識神・巨門が、宙をするすると滑るように動く。
紅葉について行った。
3
体育館の表で、雨音が校長の肩を叩いた。
「校長先生、どこに行かれるんですか?」
「ひいぃっ」
校長は跳び上がり、震った。
「ルイ、レイ!! そこにいるのか!? 助けてくれ!!」
校長が空に向かって叫んだ。
杉の木のてっぺんで羽音がして、二羽のカラスが舞い降りた。
カラスは地上で、人の形に転じた。
紅葉と咲良が裏門に着き、格子を握って、中を覗いた。
金曜日に見た黒いスーツの天狗が、校長と雨音の間に割って入るところだった。
「鬼月さん、苦戦してますね」
天狗党の双子が、くすくす笑った。
「自分達こそ、五条でヘマをしたじゃないか。東田議員を殺り損ねたくせに…」
鬼月校長が天狗党の双子を詰った。
金曜日、救急車に乗っていた老人をゾンビに襲わせたのは、鬼月校長だった。
だが、武蔵が老人を助け出した。
天狗党の双子は怪我も癒え、元気そうだった。
「ふふふ。失敗したのは、あなたの飼い猫が生んだゾンビなわけで。私達はただの目付ですから」
天狗党のルイは黒いネクタイの歪みを直し、腰に手を当てた。
静先生が雨音に追いついた。
「渡邊くん、気を付けて。あの校長は本当にろくでなしのクソ野郎なんです。鬼月明博…」
静先生が顔をしかめ、思わず汚い言葉を使った。
「静先生、ややこしいのが出て来たんですけど…。あの天狗は武蔵さんの仲間じゃないんですか?」
「かつては…仲間でした…」
静先生は口惜しそうに呟いた。
校長は空気を読まず、怒鳴り散らした。
「私を誰だと思ってる!? おまえ達は私の言うことを聞くんだ。私を助けろ。この二人を殺せ!!」
天狗党の双子は顔を見合わせた。
「そんな義理はないですね。私達、あなたの部下じゃありませんし」
双子の弟の方、レイが素っ気なく断った。
「はぁー!? 誰が天狗党に資金を出してると思ってる!? ルイ、レイ、早く殺れよ!!」
校長が大声で怒鳴った。
スノッブな男。
自分の野望と都合の為に、誰でも殺す。
恥をかかされたと感じたら、相手を許さない。器量の小さい男。
鬼月校長が逃げた。
天狗党の双子は渋々、雨音達の方を向いた。
「…まぁ、残念なんですけど、こういう事情ですから。殺りますかね…」
「大人の事情ですね」
雨音は双子に同情しつつ、すぐにルイの剣を受けた。
ルイは至近距離から突きを狙い、次々と針穴に糸を通すように、隙のない雨音の僅かな隙を狙ってきた。
レイは鬼切の波動を拳で捉え、不思議な反発を生み出して、短く拳を打ち込んできた。
「渡邊くん、伏せて!!」
静先生の薙刀が双子の胸の高さを払う。
雨音はレイに吹っ飛ばされ、ルイの剣を転んだ状態で受け止めた。
ルイは膝蹴りを入れようとする。
静先生の薙刀を、レイが速すぎる動きで、薙刀の峰を摘んで止めた。
「誰があの校長のバックにいるんですか?」
雨音が地面を蹴って、立つ瞬間に相手の喉元を狙う。
ルイは雨音の太刀を、鍔元からもの打ちまでジャリッと擦らして止め、
「あなたもよく知ってる相手です、源次さん。そこの静御前に聞いてみたら?」
と、皮肉った。
彼等の顔と顔の間は30センチ。
間近に互いの顔を見詰め合う。
雨音は、
「天狗のリーダーなら、一人しか聞いたことがない。それにこんな接近する柔術的な居合、剣術は…」
と、思い当たった。
突然、彼の後ろで、
「あっ…」
静先生が呻き声を漏らした。
素手で戦っていたレイが薙刀に手をかけ、薙刀を使って背後から静先生を絞め上げていた。
紅葉が巨門を仰ぎ見た。
「どうしたらいいの? 巨門さん」
「儂に、さん付けはいらんよ。紅葉。所詮、人間は天狗に勝てぬ。静では無理じゃ。あの暴れ小僧を撤退させろ。そしてな、鬼の武蔵を連れて来るのじゃ。同族で戦わせるがよい」
巨門が答えた。
「間に合わないよ!!」
咲良が叫ぶ。
レイに喉を絞められ、崩れ落ちる静先生。
レイは薄ら笑いを浮かべ、軍刀を吊るベルトから剣を抜いた。
彼は静先生の頭上で、霊光を発する刀を振り上げた。




