肆参 鬼ヶ城
1
旭が鞘から抜き打ちで、鬼を沼底に封じていた水草を断ち切った。
鬼は自由を取り戻した。
「ふぅーっ…」
酒井はようやく空気を吸い込んだ。
「旭、信じてくれてありがとう。鬼として斬られるんちゃうかと、ヒヤヒヤしたよ…」
酒井が水面に立った。
酒井は完全に生前の姿からかけ離れていたけれど、声だけは間違いなく彼だった。
「いや…、鬼であろうと蛇であろうと、その名前にはお世話になってますから。酒井さんを名乗る相手を斬れません」
旭は憮然と言った。
酒井の顔を見たら、疑念を消しきれなくなった。
「…で、本当に酒井さんなんですか!?」
「おいおい…」
酒井は落ち込んで、獣の顔を手で隠した。
「じゃ、急いで山上さん達と合流しましょう。みんな、酒井さんのこと心配してたんですから…」
旭が沼から這い上がり、シャツの裾を絞った。
2
雨が少し小降りになったところで、紅葉達は出発した。
彼等はずぶ濡れで、寒さに震えていた。
みんな身を寄せ合って、雑談で心細さを紛らわせながら歩いた。
紅葉は山上に、地蔵に祈ったら鬼が去った話をした。
山上は、
「そうやな。昔は堤防も不充分でダムもなくて、毎年洪水だらけやった。川幅は広い、支流がたくさん、流れが速くて曲がりくねってた。日本中の川で水害があって、人が死に続けてた。そんな中で、鬼の祟りと言って神に祈ったり、仏に御加護を祈ったりするしか無かった。そういう無力な一般の人達の、死者に安らかに眠ってほしいという、切なる願いが石の地蔵に籠ってる…」
と、しみじみ話した。
「はい…。ただの石像ではなかったです…」
紅葉は地蔵を大事にしたいと思った。
「山上さん。ここって、どの辺なんでしょう。どうやったら帰れるか…、全然わかりません」
彼女は山上に相談した。
雨音に言われたけれど、帰還の方法はいくら考えても思いつかなかった。
「大江山に行く途中でバスがひっくり返ったから、福知山と宮津を繋ぐ線上のどこか。俺もトンネルのある自動車道か、丹後鉄道しか知らんから、こんな地道わからへんわー」
山上が細い道の先を懐中電灯で照らした。
「鬼の宿って、温泉ですかね? もしかして、茨木童子の棲家だった鬼ヶ城かな…!?」
「それ、福知山鉱山のことやな、鬼ヶ城って…。銅とか鉛とか、銀…。まぁ、鬼の伝承地には鉱山が多い。山の中に、洞窟みたいに坑道があるんや」
山上が言う。
鬼ヶ城と大江山は鉱脈の上にある。
「山奥にある遺跡は鍛冶と関係あるって、うちの父親が言ってました。鍛冶には木材が必要で、鉱物しか存在理由がなさそうな山奥の奥にも、遺跡はあるんです」
紅葉の父親は大学の研究室で、埋蔵文化財の分析をしている。
「紅葉ちゃん。もしかしたら、鉱脈を独占したくて、鬼の話を作ったかも知れへんよ。古代、大和朝廷は丹波に軍を差し向け、土蜘蛛クガミミノミカサは首を切られるわけやけども。あれが最初の、丹波の鬼退治か…」
山上は浪漫を思って、遠い眼差しで懐中電灯の光を追う。
京都の亀岡より丹後半島までを指して、古くは丹波と呼ぶ。
「紅葉ちゃん、近畿で大型の弥生墳墓が一番多いのは、丹後半島なんやろ? 卑弥呼の時代、既に出雲や越(北陸)と並んで、国と呼べるレベルやった…。かつての国は、何と言う名前やったんやろね…」
山上の疑問。
「天橋立の近くの二世紀の弥生墳墓から、東南アジアの原料を使った、青いガラス製腕輪が出たんです。活発に交易してたらしいですね。舞鶴、宮津、大江辺りは昔、カサ郡と言いました。籠神社に伝わる海部氏系譜には、笠と書いてウケと読む、ウケミツヒコという祖先の名前が出て来ます。うちの父は、古来カサと呼ばれていた地域が、後にウケとも呼ばれた、と想像してます。ヒコとかミミは、王と同じ意味です…」
紅葉は父から聞いた話で答えた。
「そうか。ほな、土蜘蛛クガミミノミカサは、カサの王やったんかもな…。丹後半島含め、日本海側は弥生時代の鍛冶遺跡が多いって聞いた」
山上が納得した。
「ええー!! 土蜘蛛が、大和朝廷と敵対した地方の王ってこと!?」
コマチはびっくりした。
「土蜘蛛の本来の話はそうやと思うで。奈良の葛城の土蜘蛛もな。天子様と敵対したばっかりに、後に蜘蛛の字を当てられた。ほんまは鬼でも妖怪でもないねん。人間やろ?」
紅葉は真剣に考え込んだ。
「山上さん。あの鬼バスは羅城門跡を通って、鬼が跋扈する世界へ入ったんです。私達、今度は、六道珍皇寺の小野篁の井戸みたいな、異界連絡口を探せば戻れるんですか?」
前に鬼の世界に連れて行かれた時は、貴船の大木の虚から戻ってきた。
「この辺にそんなパワスポがあるかどうか知ってるのは、紅葉やん!」
コマチが紅葉に期待した。
紅葉は苦笑いした。
「コマチ、元伊勢って知ってる? アマテラス大御神とトヨウケヒメを伊勢で祀る前、何回か場所を変えて祀って、最後に伊勢に遷したの。この短期間祀られてた元伊勢が、丹波の籠神社の奥宮と、大江山の麓の皇大神社と豊受大神社なんよ…」
紅葉は考えながら、ゆっくり話した。
「ええっ!? 鬼の大江山のスグ側に、なんで元伊勢があるのー!?」
コマチはまたびっくりした。
大江山の近く、加悦の蛭子山古墳がこの地域の四世紀最大の古墳だ。
145メートルもある巨大な前方後円墳で、この地域が大和朝廷の勢力圏に入ったことがわかる。
丹波の弥生墳墓は三世紀で終わりを告げ、その後、五世紀初頭にかけ、200メートル近い前方後円墳を築いて全盛期に入る…。
「伊勢神宮の祭祀が始まる頃、丹波にも相当な権力者がいたんやろ…」
山上が片目を瞑ってみせた。
「初代の伊勢の斎宮は、垂仁天皇の皇女、ヤマトヒメやで」
「姫巫女?」
コマチが聞き間違えた。
「姫巫女…」
紅葉は咲良のことを思い出し、ドキッとした。
その瞬間、彼女は足を滑らせ、転びそうになった。
「紅葉ちゃん、危ない!!」
旭が脇道から降りて来て、紅葉を抱き止めた。
「旭、生きてたんかー!! 遅いから、心配したぞ!!」
山上が喜んで、旭を照らした。
「嫌ですねぇ、私が死ぬわけないじゃないですか…。刀はかなり死んでますけど…」
旭が頭を掻いた。
「ほらねー。私が言った通り。旭さんが死ぬわけないってばー」
コマチが先刻と違うことを言い、紅葉は目をパチクリさせた。
旭は困った顔をした。
「酒井さんを見つけたんです…」
「酒井を!?」
山上の目つきが鋭くなった。
酒井は鬼になって、失踪したはず。
「そこにいます。その松の木の影に…」
旭が立ち止まり、後ろを指差した。
3
雑木林が開け、傾斜地の里らしき細道である。
一本松の影は黒々として、懐中電灯を向けても、姿も何も判然としなかった。
酸っぱい臭いが漂い、木の枝と落ち葉を踏みしめる足音が聞こえた。
「腐臭…」
紅葉は緊張した。
酒井の声が闇の中から聞こえた。
「山上さん…。すみません…。こんな姿に…。俺は鬼になってしまいました…」
しばらく間を置いて、山上が、
「全然見えへんわ。とにかく、出て来よし」
と、話しかけた。
「いや、とても出られません…」
酒井は委縮した。
彼は啜り泣いた。
「何もかもが変わってしまった。俺は元の酒井と違う…。醜い鬼…、こんなものになるなんて。俺が絵に描いてた美しい鬼とは、まるきり異質。これが俺の本性なんやろか…? 今は、人が食いたくて堪らん…」
「酒井…、何言ってるんや。鬼になっても、酒井は俺の相棒やろ?」
山上が両手を広げ、一歩前へ出た。
「旭。おまえ、この人達をどこか安全なとこへ連れてってくれ。…民家でも探して、朝まで待機や…」
「え、山上さん!?」
旭は慌てた。
「命令や。リーダーなんて器ちゃうけど、非常時は最年長として、俺が仕切る」
山上が強く促し、旭は懐中電灯を受け取って、紅葉の傍まで下がった。
旭は雲林院から、雨音が咲良を捜して山へ行ったことを聞き、軽く舌打ちした。
「やっぱり、あの落雷と地鳴りは咲良ちゃんか…」
旭と雲林院が話し込んだ。
山上はいきなり抜刀した。
紅葉は息を飲んだ。
「酒井…。心配するな。俺が…おまえを楽にしたる…」
山上は眸を潤ませた。
紅葉は激しく頭を振った。
「待って下さい!! そんなの、嫌や!! 他に方法がありますよ、人間に戻る方法とか…!!」
「あかん…。紅葉ちゃん。俺、もう腐ってるから…」
酒井はぶるぶる震えつつ、山上の刀の前に、覚悟を決めた。
「山上さん。最後に…、鬼の力で協力させて…。マナブを殺りに行くんでしょ? ヤツは今、大鬼の宿にいる…。ここをまっすぐ右に、それから左に行ってほしい。民家もその方向にある…」
獣の荒い息が、フーッ、フーッと聞こえた。
「今までありがとう…、酒井…」
山上が介錯の形に、右肩の上に刀を振り上げた。
「こっちこそ…」
酒井の声が涙で潰れ、掠れた。
「それと…、朗報かどうか…。学瀛の三つ子の兄貴が…弟を殺しに来てる…。今なら、マナブは兄貴しか見てへん…。かなりの大物で、要注意やけど…、いっぺんに両方殺るチャンスかも…」
「厄介な奴が来たな…。まさか、龍殺しの仲麿とちゃうやろなぁ…?」
先祖からの言い伝えを聞く山上が、唇を噛んだ。
「体に…九つの頭を隠してる男…」
「最悪や…」
山上が零した。
「山上さん!! 酒井さん!!」
紅葉が叫ぶ。
旭が彼女を押さえ込んだ。
「命令が出たんだ。しゅとーん部始まって初の、山上さんの命令だよ。紅葉ちゃん、男と男の話に口を挟むな!」
「山上さーん!!」
紅葉は旭の腕の間で、身を躍らせた。
「くそっ!! 酒井さんと、せっかくまた会えたのに…!!」
紅葉は旭の怒鳴る声を聞き、はっとした。
「紅葉ちゃん、コマチちゃん、見ちゃいけない。武士の最後だ」
旭も涙を堪えていた。
酒井らしき黒い影が屈んで、折れた刀を逆手に持つ。
切腹は武士としてけじめある死に方だ。
鬼として斬首されるのは哀れだから。
酒井が腹を切る為に、自分の身を二つに折って、刀を腹に突き刺した。
はっきりと、肉に突き刺さる鈍い音がした。
山上の介錯刀が風を切った。
山上の刀は松の枝に食い止められた。
「…はぁっ!?」
山上が一番驚いた。
酒井の腹を突いた刀が、山上の顎の下を掠めた。
「鬼になって、わかったんや。山上さん。鬼の気持ちが」
酒井が木の影から姿を現し、ニヤニヤ嗤った。
「…楽や。…人を騙しても殺しても、何の罪悪感もない。俺は修羅に堕ちた。もう頭痛も何も感じない…」
酒井は熊のような黒い毛に覆われた顔を見せ、刃に付いた山上の血を舐めた。
彼は脳から顔まで腐って、膿んでいた。
紅葉は旭の背中越し、その会話だけを聞いた。
「さ……」
山上は何か言いかけ、さっと身を引いて構え直した。
蛇口を半分開いたみたいに、顎から血が滴った。
「はよ病院に行かな、破傷風になるで。腐った俺が沼に沈められとってんからな。生前お世話になったから、命だけは奪わんといたるわ!」
酒井は冷たく言い捨て、獣の如く四つ足で、山へ駆けて行った。
4
幸い、民家はすぐ見つかった。
酒井の言ったことはほぼ事実らしく、方角も正解だった。
お寺の人達と言葉が通じなかった咲良と違い、紅葉達は村人と言葉が通じた。
この時代の人々と服装も髪型も違っていたけれど、鬼扱いされずに済んだ。
傷を負った山上を戸板に載せ、担架代わりにして、近くのお寺まで運び込んだ。
長い石段を昇り、本堂に通される。
若い僧が対応した。
「生憎、和尚は出掛けております。この集落で土砂崩れがあった為、村の若者らと救助に向かいました。今日は帰らぬと存じます。湯を沸かしますので、お体の泥を流して、お休みになって下さい」
僧が下働きの者に言いつけ、風呂の準備をしてくれた。
紅葉達とツアー客はほっとして、気が緩んだ。
本堂の板間が開放され、布団も無しに彼等は眠り込んだ。
一晩中、鬼から逃げ回って、クタクタだった。
山上の顎の傷は大したことなかったが、やはり、細菌の感染症が心配だ。
早く病院に行って、抗生剤の注射を打った方がいい。
とにかく、朝になりさえすれば、鬼は鬼の世界へ帰るだろう。
とりあえず、鬼の宿にでも。
紅葉達は疲れ過ぎて、お寺の様子をよく確認しなかった。
お寺の屋根には穴が開き、大半の瓦が割れていた。
夜中だから、わからなかったのも無理はない。
庭は草ぼうぼう、荒れ果てて瓦礫が転がっていた。
池も枯れ、鐘堂の鐘も無かった。
山奥の廃寺。
村が洪水で沈んで以来、この集落に人は住んでいなかった。
言葉が通じた村人とは、鬼が化けたもの。
先刻の若い僧が、本堂から出てゆく。
彼の顔にあるはずの、二つの目が消えている。
卵形の顏には、眉と整った鼻と、穏やかで聡明そうな話し方をする口。
彼の二つの目玉は、後頭部にあった。
僧は傾斜地に造られた、別の建物の玄関に入ってゆく。
「後ろ眼法師…」
誰かが僧を呼び止めた。
彼は背中を向けたまま、相手を見た。
「鶴の上…」
鬼ツアーのバスに乗っていた、キツネ耳の女。
ゲームの開始を宣言し、御前と呼ばれていた。
彼女は炎の鬼・神王の妻、のっぺらぼうの鶴だった。
鶴は亀右衛門と鯉太郎を左右に従え、のっぺら顔に口だけ作って、
「やれやれ、熊男と蛇男と猿男、使えない者達だった。鵺になってもうまく適合出来ず、完全に失敗作。…結局、手柄はしゅとーん部の酒井のものか…」
と、口に手を当て、ふふふと嗤った。
「酒井は褒美を受け取るような鬼ではありませんね…。鶴の上、あやつらの中に巫女がおりませんが…」
後ろ眼法師が淡々と言った。
「咲良なら、九角龍王がこの大鬼の宿に連れて来たわ。今は学瀛と、鬼の岩屋で話している…」
鶴は小袿を引き、回れ右した。
「えっ…、九角龍王ですか? あの不死身の? 鬼殺しの毒龍が?」
後ろ眼法師は穏やかな口調で、辛辣なことを言った。
5
鬼ヶ城、鬼の岩屋。
咲良は風の中に花の香りを感じ、目覚めた。
岩屋に開いた風穴、その外の斜面、トゲだらけの茨に白い花が咲いている。
花びらも一重で、清楚な花だ。
咲良は茨木と自分が名付けた鬼のことを思い、切ない思いで花の香りを嗅いだ。
学瀛との約束は千年経っても果たされず、彼女は持って来た鬼灯の実を途中で失った。
彼女は夢うつつで、男達の会話を聞いた。
「…ナカツ兄上。…これは、お久しゅう。千年ぶり…」
と、学瀛の声。
「土産じゃ、瀛。受け取れ」
咲良を投げ出した、ナカツの声。
「これは、これは。ナカツ兄上、一番のお手柄は兄上ですね。私のほしい物を、いつもわかっていて下さる…」
嫌味のようで嫌味らしくない、無邪気な学瀛。
「代わりに、瀛。おぬしの命をもらって逝く」
殺伐とナカツが返す。
「まぁまぁ、挨拶までお急ぎなさるな。ナカツ兄上。戸隠にはお寄りになった? みな、息災ですか? いつ、復活なされました?」
学瀛は殺された恨みも感じさせず、軽快に会話を続ける。
ナカツはふてくされ、
「安倍晴明が死んで、千年経ったからな。封印が解けた。晴明は生まれ変わっておらぬな。我等がこうして、また会いまみえるとは。…瀛、シマ兄上はいかがされた?」
と、三つ子の長兄のことを尋ねた。
「戸隠? 誰が息災って…?」
咲良が瞼を擦り、ムクッと起きた。
鬼の岩屋は灯りもなく、鬼火が岩をくり抜いた壁を照らしていた。
岩はひび割れていたけれど、滑らかで人工的な空間だった。
朱い台と椅子が置かれ、朱い食器が供えられていた。
学瀛とナカツが咲良を振り返り、ジロリ、一瞥した。
ナカツは白い浄衣、噛み傷だらけの顔。
学瀛は鬼になってから着ていた、擦り切れた狩衣姿。
獅子鬼の名に相応しい赤毛を伸ばし、岩屋に吹き込む風に靡かせていた。
「マナブ…?」
咲良は相手がマナブなのか、学瀛なのか、頭が混乱してきた。
「…好きなように呼んでくれ、稚桜…」
学瀛が咲良に微笑み、牙を一本覗かせた。
「ナカツ兄上。そのことなんですが、シマ兄上は未だ、晴明の封印に縛られている。私はシマ兄上の魂が蘇るに恰好の、人間の容器を用意しました。私達は過去に色々ありましたが、今こそ兄弟の力を合わせて、シマ兄上を復活させましょうぞ…」
学瀛がナカツに提案した。
ナカツは呆れた。
「チッ。…おぬし、変わらぬ…な…」
「ナカツ兄上ですよ。栗の実の話をなさったのは。産まれた時に母が死んだことを、三つ子の呪いなどと、蔭で申す者がいた。気に病む私に、ナカツ兄上が仰ったんです。栗の青いイガ坊主を割って…」
青々としたトゲの殻に包まれた、栗の三粒の実。
両外側の実は丸く膨らみ、真ん中の実は少し平たい。
熟れて茶色く、皮が艶々している。
栗毛の馬の毛並みのような色だ。
「三つ子なんて、普通だって」
学瀛が言った。
「いや、普通なものか。こんな三つ子が」
ナカツは大刀を肩から降ろした。
「ナカツ兄上。それでは、生贄の巫女を連れて、シマ兄上の墓に参りましょう。大江山の頂ですね!」
学瀛は乱暴に咲良の襟を掴んだ。
「おぬしの墓もそこにあるぞ。もう一度、墓に埋め戻してやる!」
ナカツが切先を学瀛の眉間に突き付けた。
「お戯れを。いつまでも、自分が鬼族最強なんて自惚れておいでじゃないでしょうね…?」
学瀛が言い返し、咲良を肩に担ぐ。
岩屋の開口部から、咲良を担いだ学瀛が跳び出した。
岩を蹴って、夜明け間際の空に飛び上がる。
「待て、瀛。その生意気な口、永久に塞いでやる…」
ナカツも岩屋から飛んだ。
高く飛び上がる鬼達。
咲良は茨木の花影に、雨音を見下ろした。
「あっ…、雨音くん…!」
「咲良ちゃ…」
雨音は三つの眼で咲良を見詰めた。
「雨音、待ってたぞ…」
酒井が雨音の肩を、後ろから叩いた。




