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第4話:悪役モブ皇子、大魔境で裏ボス王女と出会う

 光が収まると俺は広大な荒れ地に立っていた。

 見える範囲で魔物や動物の類いは確認できない。

 木々は枯れ果て地面はひび割れ、心なしか空さえ重苦しかった。

 大魔境だとわかるや否や、全身を異変が襲った。


「……ごほっ、ごほっ」


 息を吸うたびに、喉や肺がチクチクと細かく痛む。

 空気とともに小さな針をたくさん吸い込んでいるような感覚だ。

 瘴気による汚染の影響だろう。

 地面の表面にはゲームと同じ黒い靄の瘴気が漂っており、明らかに普通の土地ではないと実感した。

 なるほど、これが大魔境か。

 ここまで劣悪な環境を行軍するなど愚の骨頂だ。


 原作ゲームでも、大魔境に足を踏み入れたことはない。

 サンフィオーレ王国からムーングランツ帝国を攻める際は、大きく迂回するのが定石だった。

 エンドコンテンツでは攻略するシナリオもあったようだが、俺はシャルロッテとのハッピーエンド探しに夢中だったので遊ばなかったのだ。


 環境は厳しい。

 それはつまり、言い換えれば開拓しがいがあるということ。

 俺は今一度目標を新たにする。


「俺はこの荒れ地を……のんびりした和風スローライフできる国にする! 具体的には、一番好きな大正浪漫っぽさを出したい! そして、裏ボス王女とも仲良くなってみせる!」


 自治国と言いつつ、目下のところ国民は俺一人か。

 どうせなら良い人が集まってくれればいいが、まずは自分の生活を安定させなければ。

 俺は例の巻物を出現させ、【和風工匠】スキルについて思案する。

 素材を消費して神話級(SSSランク)の和風アイテムを作り出す、という能力は間違いなかった。

〔幻夢〕の能力を見るに、相当に強力なものが生み出せるのだろう。

 素材はどうやってストックするのかな?

 手始めに拾った拳大の石を巻物の上に一つ置いてみたら、シュッと軽い音を立てて消えてしまった!

 それだけじゃない、白紙だった巻物に【ノマル石】×2と表記が現れた。

【ノマル石】とは〔クロニクル〕で最も一般的な鉱石で、おそらく大きかったから二個分とカウントされたのだろう。

 ……よし、この調子で素材を集めながら領地を歩いてみよう。

 とりあえず、安心して住める家が欲しい。

 もしかしたら、瘴気の汚染が弱い場所だって見つかるかもしれない。

 枯れ木を斬ったり石を拾ったりと着実に素材を集めるうち、上空からけたたましい鳴き声が聞こえてきた。


「大魔境の魔物か」


 50mほど上空を三匹の巨大な鳥が旋回する。

 尖嘴鳥だ。

 嘴が異常に長い鴉のような形態をした、C級の魔物。

 飛行パターンからすでに攻撃対象に認識されているとわかった。

 通常個体にはない黒い靄の瘴気がその全身を覆っており、どことなく不気味な印象を受ける。

 尖嘴鳥は戦闘態勢に入ると同時、急降下を始めた。

 二匹が前衛で一匹が後衛のポジションだ。

 実際に対峙すると、その動きの速さに現実味を覚える。

〔幻夢〕が導くままに俺は腕を振るった。


「《燕返し》!」

『『ギャアアアアッ!』』


 下段から切り上げた後、返す刃で上段から斬りつける。

 瞬時に前衛の尖嘴鳥たちを両断した。

 後衛の一匹は直前で方向転換して上空に待避。

 全身に魔力を集めると、鋭利な羽根を飛ばしてきた。

 ゲームではこのような攻撃パターンはなかったはず。

 これが瘴気による強化だと考えられた。

 近距離戦は不利と判断し、俺の攻撃が届かない上空で戦うつもりだろう。


「あいにくとこっちにも遠距離攻撃はある……《閃滅斬》!」

『ギィエエエエエッ!』


 衝撃波を放ち、最後の尖嘴鳥を一刀両断した。

 大きな死体が墜落して地面が揺れる。

 近くで見ると翼開長は5mほどもあり、やはりゲームの設定より1.5倍ほども巨大だった。

 大魔境に棲息する魔物は、設定としての等級以上の体躯と強さを持つと考えておいた方がいいかもしれない。

 素材の吸収は一つずつ巻物に乗せる必要があるのだろうか。

 数が多いからもっと効率よくいきたいのだが……そうだ。

 閃いたことがあり、尖嘴鳥の死体に巻物を翳す。

 シュシュッとあの軽い音を立てて吸収されてしまった。

【尖嘴鳥の嘴×3】や【尖嘴鳥の羽根×546】、【尖嘴鳥の爪×18】など一気に素材がたくさん集まって嬉しい。

 しかし、空気の痛い感じは嫌だな。

 夜になるまでにどうにかしたいと思う俺は、ふと小さな音を感じた。

 どこからか何か聞こえる。

 耳を澄ますうちに気づいた。

 これは……戦闘音だ!

 魔物の咆哮の他、微かに女性と思われる声まで聞こえる。

 脳裏に浮かぶのはシャルロッテの可能性だ。

 今この瞬間、大魔境にいる女性となればほぼほぼ彼女だろう。

 もちろん……助ける一択だ!


 

 しばし走ると大きな丘があり、戦闘音がかなり強く聞こえてきた。

 俺は一気に駆け上がって向こう側を見る。

 丘を下った先では、白髪の少女が巨大な牛の人型魔物と交戦中だった。

 裏ボス王女ことシャルロッテが、S級魔物――鎧凱牛人に襲われている。

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