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第39話:計画は着々と進んでいる(Side:アンナ①)

「……ねぇ、聞いた? アデラード様が失脚されたみたいよ」

「大魔境を攻め込んで返り討ちに遭ったそうね」

「馬車に乗るところをチラッと見ましたけど、すごい醜い老婆になってましたわ。ああはなりたくないです」


 宮殿の廊下を歩くたび、そこかしこからアデラードの噂話が聞こえてくる。

 最近はメイドも執事も彼女の話題で持ちきりだ。

 仕事場の洗濯室に戻った私に同僚が話しかけてくる。


「こんなに頻繁に仕える主が変わるんじゃ、アンナも大変ね」

「まぁ、自分ではどうしようもないことですから」


 洗濯物を置いた私は淡々と答え、次の仕事場――宮殿の裏手に向かった。

 他には誰もおらず、考え事に集中できそうだ。

 花壇の草むしりを行いながら、これまでの計画を反芻した。


 私は原作キャラに干渉できない代わりに、〔クロニクル〕に名前が出てこないモブキャラに憑依できる。


 現在は宮殿のモブメイド――アンナを本体の人格としつつ、事前に魔力を分け合えたキャラたちを【憑依】スキルで手駒として操っていた。

 このスキルには厳しい制約があり全てのモブキャラを操作はできないが、長い時間をかけて名無しでもストーリーに関わる重要な者たちへの憑依が完了したのだ。

 強力な原作キャラたちを王国から追い出し、戦力を少しずつ削っている。

 

 この国を支配するためだ。


 最も脅威になるのは原作主人公で、彼の仲間になり得るネームドキャラも全て排除しなければならない。

 "ブルーサン商会"の禁制品もカサンドラの内通も全て様々なモブキャラを使って嘘の証拠をでっちあげ、王国から追い出すことに成功した。


 条件を満たせば、最強格の仲間になれるシャルロッテも同様に排除が必要だった。

 このゲームの本編が始まるずっと前――およそ15年前から"私たち"の計画は始まっていた。

 国王と王妃は公務や戦争で忙しいので、アデラードが日常の大部分を接するのは家庭教師となる。

 私はその家庭教師に憑依し、"この世は美しさが全て"だと長い時間をかけてアデラードに刷り込んだ。

 彼女の妹カイラには、"優秀な姉の意見が全て"だと同様に教え込む。

 幼い子どもは疑うこともなく、ともに私が求める通りの人格に形成された。


 私の推測した通り、金髪になったシャルロッテの肖像画を見たアデラードは嫉妬と不安に駆られた。

 結果、休戦協定が結ばれたタイミングでシャルロッテを王国から遠ざけようと考え、大魔境への追放を進言してくれた。

 原作キャラはまだ複数いるが、この方法ならば確実に王国から排除できるだろう。


 "我々"の計画は順調で、この国が手に入るのももうすぐそこだ。

 この世界で最強の二国を支配すれば、世界を支配したも当然だ。


 ただ、懸念点がないわけではない。

 大魔境を治めるハルト・ムーングランツなる人物は優秀かつ強力な人物のようだ。

 アデラードの時魔法や厄災魔物を退けたことも、その推測を裏付ける。

 私も知らない隠しキャラだったのだろうか……。

 その可能性も十分にある一方で、また別の可能性の方が高かった。


 宮殿で目にした大魔境から輸入された茶器や着物、畳……あれは間違いなく日本文化に基づいた品々だ。

 

 つまり……ハルト・ムーングランツは"私たち"と同じ転生者の可能性がある。


 だとしたら奇遇なことだ。

 一度会って話してみたい。

 善人という噂だから敵対することになりそうだが……。

 私は見事に咲いた花を私は鋏で切り落とす。


「誰であろうと関係ない。我々の計画を邪魔する者は……消すまでだ」


 さて、そろそろ時間か。

 目を閉じて宙に浮かぶイメージを持つ。

 私の意識は魔力体となってアンナの身体から離脱した。

 眼下に見えるアンナは黙々と草むしりをする。

 意識を戻すまでは無意識での行動を続けるだけとなる。

 空高く登った私は、王国内の遠い教会に飛んで行った。



 □□□



 街外れの教会で、一人の男がスキルの鑑定を受けていた。

 私はモブ神官の一人に憑依し、その様子を見ている。

 司祭は鑑定球の現れた文字を見て表情が一変した。


「アレン殿のスキルは……【勇者】! 神に選ばれし最強のスキルです!」


 教会に司祭の声が響くと同時、周囲で見守っていた住民たちが歓声を上げる。

 中央で困惑する黒髪黒目の男――彼こそが〔クロニクル〕の原作主人公、アレンだった。

 私は直接干渉できないが、代わりに自らの手を汚さず安全圏から排除を進める。

 少しくらいは楽しませてくれよ。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます!


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