第38話:大魔境への侵攻(Side:ミカエル①)
宮殿の廊下を歩く俺は苛立ちが収まらない。
ムーングランツ帝国の帝都は、あり得ないことに大魔境の話で毎日持ちきりだった。
国内では入手できない貴重な作物や魔物の素材は元より、異国の着物や茶器の数々が大量に出回っていた。
いずれもあの大魔境産だといい、異国の品に限ってはハルトが生み出した物らしい。
「クソッ……クソッ……! なんでだよ!」
大魔境は人も住めない最悪の荒地だったはずだ。
なぜSランクやAランクの作物が育ったり、帝国騎士団でも討伐に苦慮する魔物の素材が手に入るのだ。
ハルトの噂も広まっており、存在感のまるでなかったあいつが今や"名君"だの"名領主"だのと評価されている。
そのような世相を直に感じ、俺の心には小さな焦りが生まれ、日々増大していた。
帝位継承権に影響が出るのではないか。
頭を振ってその懸念を打ち消す。
それこそ有り得ないことだ。
下級貴族や庶民の評価など関係ない。
父上から評価されなければ意味はないのだ。
そう思って"皇帝の間"を訪れたが……。
「大魔境を人が住める土地に浄化し発展させるとは……あの愚息には我が輩も知らぬ価値があったというわけか」
「お言葉ですが父上。大魔境の発展はハルトの功績ではなく、シャルロッテ嬢の功績かもしれません。ハルトの評価を上げるのは早急なご判断かと」
「別にどちらでもよい。いずれわかることだ。庶子で無益ゆえ利用価値がないと思っていたが、有益な人間であれば話は変わってくる。内密に我が国に引き戻してもいいかもしれないな」
大魔境の品々を見て話す父上は、どこか楽しそうですらあった。
ハルトの評価が……変わりつつある。
そう実感する俺は歯軋りする。
皇帝の実子であり長男。
生まれ持っての地位だけでなく、魔法系で最強と評される【賢者】スキルまで持つ俺を脅かす存在は今までいなかった。
帝位継承権はずっと1位で、次期皇帝は確実。
確実で安心できる立場なのに、ここ最近はハルトの顔が脳裏にちらつく。
「父上、やはりハルトはそれほど有能では……」
「もうよい。下がりたまえ。お前との話は終わりだ」
淡々と命じた父上の視線は、すぐ大魔境の輸入品に向けられた。
俺よりハルトと大魔境に興味がある……。
廊下に出た俺は静かに拳を握った。
父上は評価しようが、俺はハルトを認めない……絶対に認めないぞ。
俺の焦りは敵意に昇華された。
ハルトを排除してやる。
帝位継承権1位という立場を侵害する可能性のある人間は排除が必要だ。
ハルトを始末してやる。だとしたら、大魔境に攻め込む理由が必要だ。何か理由が……
思索を巡らせた俺は不敵な笑みを浮かべる。
よし、"あいつ"に考えさせるか。それがいい。"あいつ"なら俺の立場に影響が出ない計画を立てられるはずだ。
歩く俺は、宮殿の一室にと消えていく。
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