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第33話:大魔境への信攻準備(Side:アデラード③)

 サンフィオーレ王国の王都では、連日大魔境の話で持ちきりだった。

 “トライシャイン商会”という商会経由で様々な品が入ってくる。

 国内では手に入らない数々の貴重な作物や魔物の素材の他、異国感に溢れた意匠を持つ皿や茶器、絵画などの嗜好品が流通し、貴族から庶民に至るまで様々な人の興味を鷲掴みにしていた。

 大魔境産の品々を身につけることが、新たなステータスになりつつあるほどだ。

 その話題は王都だけでなく地方の街にも伝わり始め、もちろんのこと宮殿にもすでに伝わっている。

 宮殿、国王の間にて。

 お父様は大魔境からの輸入品を前に悦に入っていた。


「これは素晴らしい品々だ。Sランク魔物鎧凱牛人の肝は朕も初めてだ。こちらにあるルシェトマトの輝きは紅玉のようじゃないか。大変な質の高さだ。特に、この色鮮やかな茶器や絵画が見事で素晴らしい。見ろ、アデラード。こんな優美な文化があるとは思わなかったぞ。追加で注文をかけてしまったわ」


 同じ空間には私もいるが笑みを浮かべることはない。

 代わりに浮かんでいたのは苛立ちの感情だった。

 大魔境がこんなに豊かな土地になるなんて……!

 当然、シャルロッテを追いやったときには考えもしなかったことで、あの懸念がじわじわと存在感を増す。


 お父様の気が変わってシャルロッテを国内に呼び戻したら、王位継承権に影響が出るかもしれない。


 今まで蔑まされてきたのだから、下手したら手の平返しのようにより強く評価される可能性も高かった。

 時期女王の座を奪われ下の存在として使われる。

 恐れていた未来が近づいているようで、私の心臓は不気味に鼓動した。

 もう一つ、私を悩ます"噂"がある。


 シャルロッテが……金髪になったらしい。


 真実かはわからないが、噂としては確かに存在していた。

 だからといって何も問題はないと言い聞かせる。

 噂には尾ひれがつくものだ。

 "無の王女"と称されてきたシャルロッテに興味を持つ貴族や住民はそれほど多くないためか、今はまだ大魔境の作物や素材、独特の文化に基づく嗜好品に対する注目の方が高い。


 でも、肖像画が出回るようになったら?


 私の脳裏には、すでに燃やした例の肖像画が刻み込まれていた。

 金髪のシャルロッテを一目見た瞬間、国内の全ての男が求婚しかねない。

 国内だけならまだしも、他国にまで流通したらいよいよシャルロッテの価値が上がってしまう。王位継承権に影響が出るかもしれない。

 ここ最近はずっと同じ懸念が頭の中を渦巻いており、私の心を焦がしている。

 私は小さくため息を吐いて気持ちを落ち着かせ、本題を切り出した。


「お父様、"ブルーサン商会"とカサンドラの件についてでございますが……」

「おお、そうだったな。おのれ……我が王国に反旗を翻すとは! 行方はどうなっている!」

「どちらも不明でございます」

「ぬぅ……見つけ次第、彼奴らの首を持ってくるよう命じろ! 監獄行きなど生温い!」


 一転して、お父様は怒りに拳を震わせた。

 その怒りは私もよくわかる。

 先日、部下から禁制品と内通の報告が上がった。

 王国一の商会と騎士が揃って裏切るなど許されるはずもない。

 ナタリーについては法と照らし合わせて監獄行きとしたが、お父様の言うように生温いと今では思う。

 この場にいれば八つ裂きにしたいところだった。

 お父様の怒りを焚き付けたところで、私は“とある提案”をする。


「王国一の商会が禁制品を幅広く販売し、王国一の剣士が帝国と内通していた。これらの由々しき事態は……全てシャルロッテの嫌がらせと考えられないでしょうか?」

「……詳しく話せ」


 お父様は座り直し、周囲の空気が固く緊張する。


「シャルロッテは私たちが嫌いと考えられます。嫌いな家族がいる王国がどうなってもいいと決意し、密かに準備をしていたかと。仕返しとして、"ブルーサン商会"やカサンドラを唆したのです。王国の内部にダメージを与え、内通によって帝国からの侵略を容易にする。事前に大魔境に避難すれば、王国が攻め込まれたとしても自分だけは安全だと考えたのでしょう。私はそう推測しております」

「あいつはどこまでも自分勝手な娘だ!」


 もっともらしい話に乗せられ、お父様は激しく憤る。

 その反応を見た私はわずかに微笑んだ後、本命の話を展開した。


「シャルロッテが必死に発展させた大魔境を"収穫"するのはいかがでしょうか?」

「……ほぅ」


 国王は収穫の意味を即座に察し、不敵に笑う。


「収穫にあたり、腐毒鬼と心喰らいの使用許可をいただきたく思います」

「許可する。シャルロッテはハルト氏ともども殺し、必ずや大魔境を手に入れろ。……おっと、いろいろと言い間違えたな。友好的に接し、少しばかり収穫させてもらうよう頼め」


 私は小さく礼をして、国王の間を後にする。

 廊下を歩く間も平静を装うが、内心は喜びに満ちていた。


 これで金髪になったシャルロッテを葬ることができる。でも、今すぐは難しい。戦力を整えるには多少の時間がいる。


 廊下を歩く私は空を見上げると、煌々と輝く満月に黒い雲がかかり始めていた。

 シャルロッテの未来を案じているようで実に愉快だった。

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