第32話:庶子皇子、大きな城を建てて領民たちに喜ばれる
翌日。
領地の一角には大量の素材が山積みになっており、カサンドラが誇らしげに胸を張った。
「どうだ、ハルト殿! これだけあれば足りるはずだ!」
「すごいな! 全部、カサンドラが一人で集めたのか!?」
「もちのろんだ!」
昨日から広い大魔境を探し回り、素材を採取したと彼女は話す。
王国と帝国の国境付近に目当ての魔物がいるのを確認すると、弓矢の先に魔物誘引の薬を塗布。
大魔境内に誘き寄せ、討伐。
国境を侵害することなく素材を集めてくれたとのこと。
こんなに早く集まるなんて思ってもみなかったので感謝しきりだった。
「ありがとう、カサンドラ。一人でやるのは大変だったろう。言ってくれればよかったのに」
「いやいや、ハルト殿の手を煩わせる必要はないよ。さ、好きなだけ使ってくれたまえ。全て君の物だ」
感謝の気持ちを胸に、俺は素材の山に巻物を翳す。
瞬く間に全て吸収され、いよいよ城を生成する段階に入った。
建てる場所はシャルロッテや領民たちと相談済みで、デザインもすでに巻物に描いてある。
俺は今まで以上に精神を整え、スキルを発動する。
「【和風暮らし】!」
いつもの白い光が収まった後、巻物の絵より格段に美しく荘厳な黒い城が建っていた。
周囲から歓声が上がる。
――――――
・名前:大魔境城
・等級:SSSランク
・能力:①城を要にして厳重の結界を結ひ張る(城を中心に強力な結界を張る)
――――――
巻物に浮かび上がった説明文を見なくとも、どれだけ頑強で便利な城かは見ただけでわかる。
黒がメインなので暗い印象かと思いきやそんなことはなく、適度に入った破風の白が全体を明るく引き締めた。
均整の取れた姿はいつまで眺めていたくなり、墨絵の世界から飛び出してきたような"和"を全面的に感じる佇まいだ。
シャルロッテの瞳は輝き、カサンドラの瞳は潤む。
「こんなに凜としたお城を見るのは私も初めてだわ。モノトーンの美しさを教えてもらった気分よ。本当に……綺麗なお城」
「美しい……美しいぞ、ハルト殿。この素晴らしい領地の象徴にふさわしい城だ。この目で見させてもらったこと、深く感謝する」
領民たちもみんな好評で、特にナタリーは人一倍はしゃいでいた。
「模型を作ったら絶対売れるよ!」
うん、そうだといいね。
〔大魔境城〕から薄黄色の温かい光が上空に向かって放たれる。
光は空に消えた後、ドームのように降り注ぐ。
居住区を丸々守ってくれるバリアが張られ、領民からはさらなる歓声が上がった。
大事に使っていけば結界の範囲も広がっていく。
素材はまだまだたくさんあるので、ついでに新しいからくり人形――鉄砲隊タイプも生成する。
火縄銃を扱い遠距離攻撃を担うことができ、城の各地に配備して防衛能力を向上だ。
諸々の生成が完了したところで、俺はシャルロッテたちに呼びかける。
「さっそく、みんなで昇ってみよう」
「「おおおーっ!」」
最上階からの眺めは、想像以上に美しかった。
ほとんどが浄化され今や緑豊かな草原となった大地、居住区に並ぶ日本家屋の数々、その周辺で栄える作物畑、遠目からでも巨大さがわかる川……ぽつぽつと小さな点に見えるのはからくり人形たちだ。
領民たちは歓声を上げては最高の景色だと喜ぶ。
俺としては長閑な日本の原風景に見えてしまい、自然と言葉を失う。
時間も忘れて眺めていたが、ふと隣に立つシャルロッテが呟いた。
「本当に美しいわね。ここがあの大魔境なんて言っても誰も信じないでしょう。ハルの頑張りが伝わる景色だわ」
「ありがとう。でも、俺だけのおかげじゃないよ。シャルや領民のみんなのおかげなんだ。俺はこの景色を壊されないよう絶対に守らなきゃいけない」
東にはサンフィオーレ王国が、西にはムーングランツ帝国が見える。
二つの強国に挟まれたこの土地は、いつ火の粉が降り注いでもおかしくない。
今一度、俺は絶対に守り抜くと決意した。
「この城は住めるようにも作ったけど、俺たちはこれからどこに住もうか。やっぱり、ここかな」
「いいえ、今まで通りお屋敷に住みましょう。だって……」
「だって?」
問い返すと、シャルロッテはにこりと微笑んだ。
「広いより狭い方が、あなたの息づかいを強く感じられるからよ」
「……ありがとう、シャル」
優しく手を握り合う俺たちの間を、爽やかな風が吹き抜けるのだった。
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