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第28話:庶子皇子、意図せず新たな原作キャラを助けてしまう

 "トライシャイン商会"と王国、そして帝国との商売はとても順調に進んでおり、まずは食生活が一段と豊かになった。

 ムーングランツ帝国の商会とも取引を開始することができ、日々様々な品が輸入されては俺たちも貴重な作物や和風アイテムを輸出した。

 大魔境では入手が難しいこの世界の海鮮物なども新鮮に手に入り、日本料理好きの俺としては日々のレパートリーが増えて嬉しい。

 さっそく燻製に加工する者たちも現れ、周囲には香ばしい香りが漂う。

 以前に入手した小型通信魔導具も領民の身の安全に一役買っており、大魔境での暮らしはどんどん発展している。

 今いるハルト邸の縁側からシャルロッテと一緒に庭を見る。

 少しずつだが庭園も整備されつつあり、眺めるだけで長閑な気持ちになった。

 絞られた色味に渋い美があっていい。

 まだ途中段階なのでゆっくりと完成させていきたい。

 シャルロッテがお茶を飲みながら、ほぅっとため息を吐く。


「帝国との取引も無事に始まってよかったわね」

「ああ、この調子で進んでほしいよ」


 大魔境の素材や和風アイテムの品々は帝国でも好評で、生成しても在庫がすぐに掃けてしまう。

 日本文化の良さが伝わっているようでそれもまた嬉しい。

 二人でのんびりしているとリリスが来て縁側に座った。

 彼女も庭園の発展を楽しみにしてくれているらしい。


「だいぶできあがってきましたねぇ~。わたし、こういうお庭大好きです。植える植物には何か役割があるんですか、ハルトさん?」


 質問をされ嬉しくて早口になりそうなところを、ぐっと抑えて冷静に解説する。

 当初よりだいぶ植物や要素が増えているので話したい熱が強かったのだ。


「まず、松は庭園の骨格を成すんだ。常緑樹だから一年を通して姿形が変わることがない。庭園の不変性や力強さを演出する重要な存在として使われる。シャルロッテの剪定がすごくうまくて美しいよ」

「ありがとう、ハル。あなたの教え方も上手だったわ。おかげで自分でも納得できる枝ぶりになったもの」

「楓は季節の移ろいを描いてくれる植物で、庭園の主役と言ってもいい。秋の紅葉が今から楽しみだ。ツツジも同じように季節感を出しつつ、立体感でリズムを作る。苔は庭園全体の陰影を映し出す。柔らかい緑で静けさを演出して庭園の空気を作ってくれるんだ」

「ほぇぇ~、ハルトさんは物知りですごいです!」


 リリスは歓声を上げ、俺も嬉しくなってしまった。

 ふと、曇天が切れて光芒が差し込む。

 雲が風に流される様子にシャルロッテが笑顔を浮かべる。


「よかった、今日は晴れそうね」

「そうだな。久しぶりの青空だ」


 最近は晴れていたが、五日ほど大雨が続いていた。

 作物にとっては恵みの雨だったようで畑は豊作となり、庭園は普段より瑞々しさがある。

 しばし庭園を眺めたところで、俺は大魔境川の様子が気になった。


「シャル、川の様子を見に行かないか? 大雨が続いていたし、もしかしたら氾濫していたかもしれない。居住区からはだいぶ離れているけど、必要なら護岸工事を考えよう」

「たしかにそうね。確認しに行きましょうか」


 浄化はしたものの水は各家で綺麗な水道が出るし生き物は死滅していたので、わざわざ川に行く意味がなかったのだ。

 話はまとまり、俺とシャルロッテは〔鴉〕に乗っかった。



 □□□



 大魔境川にはすぐに着き、二人で状態を確かめる。

 周囲の地面はすでに浄化済みなので自由に歩けた。

 

「どうやら氾濫はしていないようね。川岸の草が倒れたり泥がついていないもの。川の近くに水たまりもできていないし、湿地みたいにもなっていない」

「ああ、この調子なら護岸工事は必要なさそうだ。この辺りに作物や畑もないし……ん? あそこにあるのはなんだろう?」


 40mほど離れた場所に黒い物体がある。

 漂流物かと思っていたら、ピクッとわずかに動いた。


「「人!?」」


 俺とシャルロッテは〔鴉〕に乗って現地に舞い降りる。

 駆け寄ったらやはり人間だった。

 美しい紫色の長い髪をした女性で、身体の半分ほどが川に浸かってしまっている。

 軽装鎧に身を包んでいることから騎士だとわかった。

 ずぶ濡れの顔は力なく目を閉じているが呼吸は確認できる。

 意識はあるとわかり、俺とシャルロッテは安堵のため息を吐く。

 まずは生きていてよかった。

 急いで川から引き上げ、川岸から離れた草原に寝かせた。

 身体中に細かい切り傷や汚れが見られる。

 大雨で増水した川に流されたのだろう。


「大丈夫か? しっかりするんだ」

「私たちの声は聞こえる?」


 このような場合強く刺激すると危険なので、肩を軽く叩いて刺激を送る。

 女騎士は苦しそうな顔で呻くばかりで、目が覚めることはなかった。


「ダメか。生きてはいるみたいだが目覚めないな」

「私の聖魔法で癒してみましょう……《聖なる癒し》!」


 シャルロッテが手をかざし、女騎士の全身が白い光で包まれる。

 たちまち全身の傷が消え、苦しげな表情が安らかな寝顔に変わった。


「目覚めるまでは安静に寝かせてあげた方がいいわ。私たちの家に連れて帰りましょう」

「ああ、一度居住区に戻ろう」


 女騎士を丁寧に〔鴉〕に乗せ、俺たちは居住区に飛び立つ。




 □□□



 居住区に戻った後、女騎士はすぐにハルト邸に担ぎ込んだ。

 領民たちは突然の訪問者に驚くも協力を申し出てくれ、女騎士はシャルロッテとリリスが身体を温かいタオルで拭いたり、着替えを行った。

 軽装鎧は外し、シャルロッテの持ってきた簡素なワンピースに身を包んだ。

 今は客間のベッドで寝ており、俺とシャルロッテが静かに見守る。


「ずいぶんと疲れているみたいだな。ゆっくり休んでくれるといいのだが」

「そうね。幸い大怪我はなかったようだけど……ねえ、ハル、ちょっとこれを見てくれないかしら? 彼女の鎧についていたエンブレムプレートよ」


 シャルロッテは懐から金属の丸いプレートを取り出す。

 表面には太陽を背にした吠える獅子の絵が刻まれており、見た瞬間に〔クロニクル〕の設定が蘇った。


「王国騎士団の紋章だ……じゃあ、彼女はサンフィオーレ王国の騎士なのか」

「ええ、プレートは本物だからまず間違いないわ。もしかしたら、“ブルーサン商会”の取り潰しについても知っているかもしれない」

「ああ、目が覚めたら聞いてみよう」

「それだけじゃないの。彼女は王国一の……」

「げほっ、ごほっ!」


 話し終わる前に女騎士が激しく咳込んだ。

 彼女は息を荒げながらゆっくりと身を起こす。


「私は……生きているのか?」


 身を起こした彼女の顔に、窓からの陽光が当たった。

 髪と同じ紫色の鋭い瞳が宝石のように耀く。

 彼女も15歳くらいに見えるが、大人っぽい雰囲気に溢れていた。


「目覚めてよかった。大丈夫、君は生きているよ」

「苦しいところはない? 遠慮せずに言ってね」

「ありがとう。私はもう問題ない。どうやら、世話をかけてしまったようだな。君たちが私を川から助けてくれたのだろう?」

「ああ、そんなところだ」


 女騎士は身体を横に向けつつ、凜とした視線を俺達に向ける。

 もう完全に意識を取り戻したようで、身体の頑強さが伝わった。 

 女騎士は姿勢を正して礼儀正しく頭を下げる。


「改めて救助をありがとう、おかげで助かった。君たちは命の恩人だ。名前を伺ってもいいだろうか。ここがどこなのか教えてもらいたい」

「俺はハルト、こっちにいるのはシャルロッテ。ここはムーングランツ帝国とサンフィオーレ王国の間にある大魔境で、俺と彼女が一緒に統治しているんだ」

「よろしくね。念のため川を確認しに来てよかったわ」


 話を聞いた女騎士は驚きの表情を浮かべた。


「ここは領地になったというあの大魔境なのか! そして、夫妻ということは……シャルロッテ様、ご無礼をお許しください。御髪が以前よりさらにお美しい金色に変わっておられたので気づくのに遅れてしまった次第です。何なりと処罰をお申し付けください」


 女騎士はベッドから降り、床の上で跪いた。

 シャルロッテは慌てて女騎士に言う。


「頭を上げてちょうだい。私はたしかにサンフィオーレ王国の第三王女だけど、そんなに平伏されては落ち着かないわ。それに、王族も騎士も同じ人間でしょう。少なくともここでは身分の差なんてないのよ」

「もったいなきお言葉をありがとうございます。そう仰っていただけて、私も気が楽になりました」

「本当は敬語も辞めてくれると嬉しいのだけどね。……はい、髪留めをどうぞ。首に絡まると危ないから回収しておいたわ」

「はっ!」


 銀色の髪留めを受け取った女騎士は手際よく髪を結わえる。

 ポニーテールを捻じったかと思ったらすいすいとまとめ、いわゆるシニヨンの髪型になった。

 髪を降ろしていたときよりだいぶ印象が変わり、より生真面目さが増した気がする。

 女性は髪型が変わるだけで別人のように……あっ!

 正体がわかってしまった俺の心臓は一気に拍動を始める。

 呆然とする俺にやや申し訳なさそうにシャルロッテが告げた。


「紹介が遅れてしまったわね。彼女はカサンドラ・ヴァルトマンさん。サンフィオーレ王国の王国騎士団で一番強い騎士――”神滅”と称される、【魔導騎士】のスキルを持つ大剣士よ」


 この女騎士もムーングランツ帝国の皇帝一家を断罪する原作キャラだ!

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