第26話:庶子皇子、裏ボス王女と協力して商会の立て直しを起動に乗せる
ナタリーと一緒にセレスタン商会に行ってから、ちょうど二週間が過ぎた。
今は本部の執務室で売り上げなどの確認中だ。
帳簿を見る俺とシャルロッテもそうだが、それ以上にナタリーが嬉しそうに叫ぶ。
「これはすごい……大変な成果だよ!」
"トライシャイン商会"はサンフィオーレ王国の各地と取引を始め、たった二週間ですでに2000万ゴルデ(≒2000万円)も稼いでしまった!
テーブルには金貨が何枚も積み上げられ、言わずもがな相当の利益で驚くばかりだ。
大魔境で採取した作物や魔物の素材は外の世界では、俺が考える以上に大変に価値があったらしい。
ナタリーは大量の金貨を前に瞳を潤わせる。
「ハルト氏が作ってくれた和風アイテムもすごい好評さ! 何なら、一番利益率が高いよ!」
「それならよかった。デザインや機能面が受け入れられるか不安だったんだ」
「何を言うんだい。こんなに素晴らしいんだ。受け入れられないわけがないだろう」
特別な能力のない皿や椀物、筆や墨、着物など日本文化由来の品々を【和風暮らし】スキルで生み出し、輸出品の一部にした。
これがずいぶんと好評で和風の良さが世界に伝わり、また利益の中核を成していて嬉しい限りだ。
「やっぱり、ボクの思った通りだった。大魔境は世界の宝箱だね。まさか、こんなに早く商会の立て直しを軌道に乗せられるなんて予想もしなかったよ。全て……協力してくれた君たちのおかげだ」
なおも喜ぶナタリーを俺とシャルロッテは静かに微笑んで見守る。
テーブルにはお金だけでなく、薬草や木の実など王国産の珍しい素材が所狭しと並べられる。
全て、取引で手に入れた物だ。
リリスはズゥーイさんと一緒に、それらたくさんの素材を触っては歓声を上げた。
「ほぁぁ~、上質な素材がいっぱいなのです! これでもう大魔境の貴重な素材を使わなくていいのですね!」
薬の製造に必要な正規の素材が多数手に入った。
今までの代用でも高品質の薬は製造できたのだが、ずっとズゥーイさんたちは申し訳なさを感じていたらしい。
総じて、大魔境で採れた素材の方が貴重だからだ。
俺もシャルロッテも気にしないと伝えたものの、本人たちとしては気になっていたとのこと。
二週間という短期間でこれほど利益が出せたのは素材の貴重さも関係しているだろうが、それ以上にナタリーのおかげでもあった。
「ナタリーと商会の信望は自分が思う以上に厚かった、ということだな。みんな、声をかけたらすぐに協力してくれたなんてすごいよ」
「本当にありがたい限りさ! シャルロッテ君の言う通りにしてよかった! みんなボクの味方をしてくれたよ! むしろ、王国騎士団が疑われているくらいだ!」
「私もよかったわ」
"ブルーサン商会"とナタリーは人望が大変に厚かったとわかり、〔クロニクル〕で一緒に旅した身としてはとても嬉しかった。
取り潰しの件も不幸な濡れ衣と扱われ、商会自体の信用の失墜にはならなかった。
禁制品についても"ブルーサン商会"の倉庫から実際にいくつか見つかったらしいが、ナタリーたち商会のメンバーが売買したなど誰も信じていない。
逆に、王国騎士団が置いたのでは?と疑われている始末だ。
「しかし、シャルロッテ君はどうしてあんなに自信があったんだい? 結果として君の意思の強さに救われたわけだけど」
「だって、ナタリーさんの目には温かい優しさが宿っているもの。私も人を見る目はそれなりに養われているのよ」
我が嫁は、静かににこりと笑う。
可愛くて不覚にも胸が打たれてしまった。
そして、それは俺だけじゃなかったらしい。
「シャルロッテく~ん、ボクは一生君についていくよ~」
「はい、ありがとう。じゃあ、さっそく大魔境の発展に使えそうな物品を整理しましょう」
縋り付くナタリーを軽くいなして、シャルロッテは帳簿を広げた。
俺も一緒に商品を確認する。
【和風暮らし】では生成できない〔クロニクル〕特有の魔導具やその他特別なアイテムがたくさんあり、懐かしいと思うと同時に領地発展に役立つと推測された。
その中の一つ、手のひらサイズより小さな球体を俺は持つ。
「この小型通信魔導具は領民のみんなに配りたいな。遠くまで離れたとき心配になるから」
「そうね。魔石もたくさんあるから燃料には事欠かないわ。植物と作物の種もいろんな種類がある……食生活がさらに豊かになるわね。動物の肉や魚もあるし」
みんなで相談を重ねる中、ナタリーが興奮したように捲し立てる。
「大魔境の噂はすごいスピードで広がっているよ。世間が放っておかなくなるのも時間の問題だね。ボクに任せてくれたまえ。世界中にこの土地と君たちの魅力を伝えるから」
「いや、そこまでしてくれなくてもいいよ。外の世界と取引して領地が潤えばそれでいいから」
「何を言うんだい、ハルト君。君は素晴らしい人間なのだから、存在をもっとアピールした方がいいんだ」
俺が想像する以上に大きな規模で、かつ早い速度で領地が発展している。
嬉しい反面注意すべき点をシャルロッテが告げた。
「王国との取引は順調だけど、帝国との取引はどうしようかしらね。王国に支援していると認識されたら攻撃の危険があるわ」
「ボクたちはまだルートを開拓できていなくてね。うまく帝国と接触したいところさ」
大魔境は平和な中立地帯を目指している。
王国と帝国の両方とうまい具合に付き合っていくには、双方と取引を始める必要があった。
思案した俺は結論を出す。
「俺が帝国の商会に掛け合ってみるよ。兄上たちに比べて存在感がなくても皇子は皇子だ。皇族との取引で箔をつけたい商会があるだろうし、大魔境の品々を見せたら喜んで取引するはずさ」
こういうときこそ俺の出番だ。
父上から国交は開かれていると聞いてはいるし、連絡用のからくり人形もある。
大事なシャルロッテと領民を守るため、できることを一つずつ頑張ろう。
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