第22話:悪役モブ皇子、放浪の薬師たちを領民に迎え入れる
【薬師】こそがBランク以上の薬を作れる貴重なスキルだ。
〔クロニクル〕には全員が【薬師】持ちの一族が世界のどこかを放浪しているという噂があったが、まさかリリスたちだったとは。
服の意匠などは公式から明示されていたものの、実際に遭遇したという報告は確認されなかった。
それくらいエンカウント率の低いキャラたちに出会えて、なんだかすごく感動してしまった。
話は自然と彼らが大魔境を訪れるまでの経緯に移った。
「元々、ワシらはムーングランツ帝国とサンフィオーレ王国の国境上で暮らしていたんじゃ。ただ、両国は仲が悪いじゃろ? 情勢の悪化に伴って住めなくなり、どちらの国からも迫害を受けるようになってしまったんじゃ。よそ者には厳しい人が多いからの。【薬師】スキルも妬まれることがほとんどじゃった」
「行き場を無くした私たちは各地を放浪しました。迫害の毎日を送るうち、とうとう大魔境に辿り着いたのです。でも、瘴気の影響がすごくて苦しいばかりでした。私たちの調合した薬では少しも浄化できませんでした。だから、こんなに浄化しちゃったハルトさんはすごくすごいのです!」
リリスは両拳を握って賞賛してくれた。
何度もすごいと言われると照れてしまう。
彼女はシャルロッテはやはり聖魔法の使い手――【大聖女】スキルの持ち主であることを知ると、なおさら瞳を輝かせた。
「奥様は大聖女様なんてすごいです! まさしく、世界最強のご夫婦ですね! 憧れてしまうのです!」
他の人たちにもどよめきが広がり、あちこちからシャルロッテを称賛する声が聞かれた。
彼女がみんなに称賛されるのが一番嬉しい。
「ありがとう。でも、私は元々【大聖女】スキルを持っていなかったのよ。ハルが愛してくれたから私はこの力を手に入れることができた。全てはハルのおかげだと知ってほしいわ」
「と言いますとなのです?」
シャルロッテが大魔境に来てからの毎日を話したら、"彷徨の民"のみんなはほろりと涙を流した。
感動的だ、素敵なお話だ、という言葉が聞こえてくる。
しばらく盛り上がっていたのだが、ズゥーイさんの顔は悲しげな表情に変わってしまった。
「では、そろそろワシらは失礼させてもらおうかの。あまり長居しては貴殿らにも迷惑をかけてしまう」
"彷徨の薬師"たちは力なく歩き出す。
彼らの背中からは哀愁が漂う。
迫害の毎日からどこにも受け入れられないと思ってしまっているのだろう。
ほんのわずかだが、リリスたちと話した楽しい時間が蘇る。
なかなか出会えないレアキャラとかはどうでもいい。
これで離ればなれなんて悲しすぎるし、彼らの今後を考えたら見捨てるなんてあり得ない。
シャルロッテを見るとこくりと頷いた。
彼女も俺と同じ考えのようだ。
「ちょっと待ってください。もしよかったら、この土地で俺たちと一緒に暮らしませんか?」
「とても広大な場所だから、家を作るスペースはたくさんあるわよ」
「「……え?」」
呼びかけるとズゥーイさんたちは立ち止まった。
互いに顔を見合わせた後、至極残念そうな顔で切り出す。
「その申し出は本当にありがたい。住む場所ができるなんて願ったり叶ったりじゃ。しかし、さっきも話したとおりワシらは迫害されてきた。ともに暮らすことで命の恩人まで迫害に巻き込むことだけは避けたいんじゃよ。ワシらと一緒にいてはいかん」
リリスや他の人たちも同じように険しい顔だ。
俺もシャルロッテも迫害されるとかは感じていない
「実は、俺はムーングランツ帝国の第三皇子なんです」
「私はサンフィオーレ王国の第三王女よ。隠すつもりはなかったのだけど、伝えるのが遅くなってしまってごめんなさい」
「「……っ!?」」
身分を伝えた瞬間、"彷徨の薬師"の面々は衝撃を受けた。
俺とシャルロッテは一歩踏み出して、互いに出会ってからの経緯を伝える。
「政略結婚での始まりでしたが、今は手を取り合って暮らしています。"来る者拒まず、去る者追わず"……それがこの土地の方針です。シャルと相談して決めました。だから、俺たちが迫害されるなんて気にしなくていいんです」
「ただみんなも知っての通り、ここは帝国と王国に挟まれた土地よ。いつ両国の戦争に巻き込まれるかわからない不安もあると思う」
「でも、これだけは約束します」
俺はそこで言葉を切り、信念を込めてこの場の全員に伝える。
「大切な領民は命に代えても守ります」
領地を治める者の責務――それは領民の暮らしを豊かにして、何があっても彼らを守り抜くことだ。
ぼんやりしていたズゥーイさんの目から一滴の涙が零れる。
彼は涙を拭った後、明るい笑顔に変わった。
「たしかに二つの強国に挟まれてはいるが、身の危険はどこにいてもあるものじゃ。それに、お主らがいる場所が何よりも安全な土地じゃな。ありがとう、ハルト殿。ワシらはここでともに住みたい。この豊かな場所を安寧の地にさせてほしい」
「ええ、一緒に楽しく暮らしていきましょう」
俺たちは硬い握手を交わす。
ズゥーイさんの手は力強く、乾燥した肌が年月の重みを感じさせた。
「では、さっそくワシらのテントを設営しようかの。ハルト殿、どの辺りならよろしいか?」
「せっかく住んでもらうのですから、よかったら今すぐにこの家みたいな家屋を用意しますよ」
「真かの!? い、いや、しかし、これほどの立派な家を建てるのは時間も労力もかかりそうじゃが……」
ハルト邸を指すと、ズゥーイさんは不思議そうな顔となった。
そんな彼にシャルロッテがどこか誇らしげに言う。
「それがハルなら一瞬で作れてしまうのよ。誰にも真似できないスキルを持っているのだから。……そうよね? 旦那様」
「ああ、腕が鳴るよ」
“彷徨の薬師”たちの家族構成を聞き、頭の中で大まかな間取りや構成を考える。
これまで、〔アッシュウィングの骨〕や〔心喰らいの革〕、〔腐毒鬼の牙〕など様々な素材を大量に集めてきた。
それらを一気に消費して、何軒もの家屋を作る!
「【和風工匠】!」
周囲全体が白い光に包まれると、一度に二十軒ほどの日本家屋が現れた。
作物畑に干渉しないようにしつつ、ハルト邸の周りに作った次第だ。
ズゥーイさんもリリスも目が飛び出るほどに目を見張る。
「ほ、本当に一瞬で家が建築されてしまった……。信じられん……信じられん! これほどの力は長い旅でも見たことがないぞ! ハルト殿は何者なんじゃ!」
「カッコよくておしゃれで大きなお家がいっぱいなのです!」
「ハルの力に常識なんて関係ないのよ」
そのまま、“彷徨の薬師”一同をそれぞれの家に案内する。
靴を脱いで歩ける快適さや藺草の爽やかな香り、日本が誇る高性能な家電などなど一通り説明するたび、たくさんの拍手が沸き起こっては感謝された。
案内が終わったので一度外に出てくる。
ズゥーイさんもリリスも、感極まった様子で自分たちの家を眺める。
「大きくて頑丈なだけではなく一年中快適に過ごせるうえ、掃除や洗濯なども各段に快適にできるとは……まるで夢のような家じゃ」
「わたしは一生このお家に住みます。こんなに過ごしやすいお家を知ったら他には住めません」
「リフォームしたくなったらいつでも俺に言ってください。素材さえあればいつでもできますので」
そう言うと、二人はぽろりと小さく涙を零した。
「ありがとう……ありがとう、ハルト殿。さあ、みんなでハルトさんとシャルロッテさんを讃えるのじゃ! ワシらに安寧の地を提供してくださった! これでもう放浪する必要はないんじゃ!」
「一生ハルトさんとシャルロッテさんについていきましょー!」
「「ありがとうございます、お二方!」」
万雷の拍手と感謝の言葉が鳴り響く。
周囲が大歓声に包まれる仲、シャルロッテが俺の隣で小さく微笑んだ。
「行き場のない人たちを受け入れるなんてハルは立派だわ」
「この大魔境はみんなが楽しく暮らせる土地にしたいんだ」
紆余曲折を経て、一緒に暮らす領民ができた!
心を通わせた新しい仲間ができるというのは想像以上にとても感慨深いもので、和風アイテムを作ったりレアな作物が育ったりするのとはまた別の大きな喜びがあった。
後に、俺は思い返す。
この日は大魔境が世界一豊かで強い領地になる、ほんの始まりに過ぎなかったということを――
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