第21話:庶子皇子、薬の製造所を作る
翌日。
"彷徨の薬師"たちを領民に迎え入れ、さっそく彼らとの領地開拓が始まった。
住む代わりに仕事をしたいと言ってくれたので、薬の製造を頼むことにした。
「では、薬の製造所を作りましょう……【和風暮らし】!」
「「おおおっ!」」
集めた素材を消費し、大きな建物を生成する。
――――――
・名前:大魔境薬舗総院
・等級:SSSランク
・能力:①薬の調製に適ふる処、常に保たれたり(薬の製造に適した環境が常に維持される)
――――――
L字型の平屋で、俺や領民たちの家より一段階大きい。
中には広大な実験室もあり、フラスコや試験管など多種多様な実験道具も揃う。
なんだか学校の理科室を思い出して懐かしい。
前世で明治や大正時代の薬屋を訪ねたり調べた経験を活かすことができた。
領地の防衛は俺の〔幻夢〕もあるし、追加で作りつつあるからくり人形も複数いる。
【大聖女】スキルを覚醒したシャルロッテもいて使っているうちに能力が拡張されていくので、家と同じ防御能力より薬の製造所としての能力を優先した次第だ。
独特の匂いを感じる中、ズゥーイさんとリリスに深く感謝された。
「こんなに立派な製造所をありがとう、ハルト殿。彷徨の身では土や砂などの衛生管理が難しくての。ここならさらに高品質の薬を作れる」
「私も今から実験が楽しみなのです!」
他の領民はさっそく薬の製造を始め、俺とシャルロッテ、ズゥーイさんとリリスは別室に移動する。
今後の基本的な開拓計画を相談するためだ。
「大魔境は広大です。居住区の周りだけでなく、瘴気の浄化範囲をもっと広げたいと俺は考えています。一方で、全域を快適にすると瘴気による自然の防壁がなくなってしまいます。ですので、帝国と王国に近い領域は敢えて瘴気を残そうと思います」
「全体的な地図はこれよ。詳細図も並べるわね」
日々、シャルロッテは大魔境の地図を製作してくれた。
戦争という国際情勢もあり、俺も彼女もこの辺りの地理は母国で教わっていたから、知識を合わせて作ったのだ。
両国の国境から、それぞれ1kmくらいの幅は浄化しないことを共有する。
続けて、俺はさらなる計画を話した。
「浄化範囲には薬師のみなさんが調合してくれた魔物避けの薬を撒き、瘴気の範囲には魔物を引き寄せる薬を撒きましょう。そうすれば、大魔境の強力な魔物が勝手に領地を守ってくれます」
「それぞれの薬の必要量や撒くタイミングを計算したわ。ゆくゆくは天気や風向きによって微調整しましょう」
シャルロッテは小さな紙を領民に配る。
ズゥーイさんたち"彷徨の薬師"は、魔物避けと引き寄せの二種類をうまく使って襲撃を凌いでいたらしい。
忌避効果は軽く振り撒いただけで威力を発揮し、蒸発して上空にまで効力は届くとのこと。
効き目としては、薬の等級以下の魔物が近寄らなくなる。
彼らが作るのは最高でSランクだから、理論上大魔境の魔物は全て居住区から弾き出される。
これまで、魔物は寝ているときにたまに襲撃してきたから非常に助かった。
その都度からくり人形が撃退してくれるが、戦闘音や魔物の雄叫びで起きてしまう経験が数回あったのだ。
他にも回復薬はもちろんのこと、攻撃力上昇や防御力上昇、例の翼を生やす薬など多種多様な種類が揃う。
リリスたちの【薬師】スキルで作る薬はどれも大変強力で、領地開拓を助けてくれることは間違いなかった。
様々な薬の効果範囲や効果時間については彼らが元々記録を取っていて、シャルロッテがそれらを元に計算した。
領民は資料を見てはそのわかりやすさや正確さ、完成度の高さに唸る。
中でも特筆すべきは薬の材料に関する内容で、シャルロッテは資料に釘付けのズゥーイさんに尋ねた。
「植物学の知識を思い出して、薬の代替材料も書いておいたわ。どれも現時点で領地で手に入る物よ。念のため、正しいか確認してもらえるかしら?」
「す……全て正しいぞよ。一つの間違いもない。シャルロッテ殿の知識の広さと深さには驚かされるばかりじゃ」
「だったらよかったわ」
「ワシらの手持ちもだいぶ少なくなってきたからありがたい限りじゃ。これだけ丁寧にまとめてくれたら、すぐにでも薬の製作に取りかかれる。それにしも貴重な素材ばかりじゃな。どれもこれも外界じゃ手に入らんよ。むしろ代替材料の方が豪華な始末じゃ……」
ズゥーイさんは衝撃でフラフラと立ち去る。
「シャルは仕事が早いね。もうちょっとゆっくりでもよかったけど」
「領地とハルのためを思ったら自然と仕事は早くなるものよ」
「なんだか照れるな」
以前と比べて、シャルロッテはずいぶんと笑顔になる機会が増えた。
これからも彼女が笑顔でいられるよう、俺は頑張らなければならない。
区切りの良いところまで作業を進め、昼食の時間が来た。
今日のメニューはアッシュイングの唐揚げに、ルシェトマトやエルドリーフなど領地で採れた作物の新鮮サラダ。
日本産の物だけでなく、この世界の食材もバランスよく調理していた。
昨夜と同じように醤油や出汁など和風の調味料をふんだんに使う。
慣れ親しんだ香りが漂い食欲がそそられる。
「「いただきまーす!」」
唐揚げの衣は新しく育ったAランクの小麦――霜穂麦で作った。
サクサクで噛む度にアッシュウィングの野性的な風味が口いっぱいに溢れる。
神聖米との相性も最高でいくらでも食べられてしまいそうだ。
シャルロッテはもちろんのこと、領民たちも喜んでくれている。
昼食後、リリスが俺とシャルロッテに輝く瞳を向けた。
「ところで、ハルトさん。お二人の服はなんだか不思議なデザインですね? 家にも合っていて素敵です」
「ああ、これは和装さ。日本の服だよ。防御力がすごく高いからみんなにも作らなきゃ。ただ、薬師の服装とはだいぶ違っちゃいそうなのが心配だ。今までの伝統もあるだろうし」
「お気になさらず! みんなハルトさんたちみたいな格好がしたいのです!」
和装を着たいと言われ俺の胸は明るくなる。
趣味が共有できるのってやっぱりいいものだ。
日本文化を気に入ってくれる領民が五十人も増えたので、創気の力はずいぶんと余裕が生まれる日々になった。
領民のみんなに集まってもらう。
「それではいきますよ……【和風暮らし!】」
光が収まると彼らの服装が変わっていた。
男性は白の着流しに青縞の袴、女性は同じく白の着物に青色の袴と"彷徨の薬師"としての服装と同じような色合いにした。
性能は俺とシャルロッテと同じでありつつ、デザインだけ変更した形だ。
害悪を遮断する効果があるから、瘴気の上を歩いても問題ない旨も伝える。
リリスは目を輝かせてくるくると回った。
「ということは、大魔境のどこにも行けちゃうってことなのですね!? すごいです! これを待ってました! おしゃれだし動きやすくていいのです!」
領民はみんなとても喜んでおり、俺もまたとても嬉しい。
彼らの防御面をフォローできて安心できた。
リリスたちと別れ、俺とシャルロッテは屋敷を離れる。
人が増えたので、魔物討伐による食料確保と大魔境全体の確認を兼ねた偵察だった。
からくり人形の〔鴉〕に乗ってもいいが、久しぶりの二人での散歩だから歩いていきたい。
すでに浄化が完了した地面は快適で、歩くたびに楽しい気分になる。
「畑仕事を代わってもらえてよかったわ。こうしてハルと一緒に過ごす時間が増えたのだもの」
「……そうだな」
歩きながらシャルロッテに答える。
領民が増えても俺たちの毎日は変わらない。
これからも二人で仲良く暮らしていきたいと思ったとき。
「誰か……ボクたちを……助けてくれないかい!?」
風に乗って悲鳴らしき声が聞こえてきた。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます!
少しでも「面白い!」「早く続きが読みたい!」と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップorクリックしていただけると本当に嬉しいです!
『ブックマーク』もポチッと押すだけで超簡単にできます。
皆さまの『評価』や『ブックマーク』は執筆の大変大きな原動力になります!
何卒よろしくお願いします!




