第21話:悪役モブ皇子、魔物に襲われた流浪の民を助ける。そして、流浪の民はゲームの超レアキャラたちだとわかる
「もちろんだ、すぐに行こう! 今移動手段を用意する……【和風工匠】!」
集めた素材を消費して、鴉型の大きなからくり人形を生成した。
――――――
・名前:からくり人形【鴉】
・等級:神話級(SSSランク)
・能力:①いと疾く空を翔けること真に容易し(超高速で飛ぶことができる)
②乗り手の身に当つる風の圧を悉く無きものとす(乗り手の感じる風圧を無効化する)
――――――
突然出現した【鴉】にシャルロッテは拍手をし、一方のリリスは唖然とした顔になる。
「えっ……なんで何もないところにこんな大きなゴーレムが出てきたのですか?」
「俺のクラフト系スキルだよ。さ、話は後だ。背中に乗ってくれ」
俺たち三人が乗ると、【鴉】は勢いよく飛び上がった。
数回羽ばたいただけで数十mも上がり、南に向かって高速で飛ぶ。
脳裏に浮かんだ能力の説明通り、風圧を少しも感じなかった。
リリスは各地を放浪している民の一人と聞いた。
移動しながら俺のスキルを簡単に説明する。
「……というわけで、俺は少し変わった意匠のアイテムを作り出せるんだ。この刀や服もそうだよ」
「はわわ、想像以上に有能で強いお方でした。心強いです……あっ! あそこです! 仲間のいるところに着きました!」
リリスが指差す眼下では、多数の魔物に囲まれた人々が見える。
ざっと五十人くらいだろうか。
人々は懸命に戦っているが劣勢なのは明白だ。
上空からでも魔物の黒い背中には特徴的な赤色の縦線が確認された。
Bランクのダスクハウンドだ。
瘴気の影響を考えるとランク以上の強さだろう。
地面には野営用と思われるテントやいろんな装備が散らばっている。
傍らのシャルロッテが、俺の肩を掴みながら硬い声音で話す。
「ダスクハウンドはかなりの数ね」
「ああ、でも俺たちなら問題ないだろう。……リリス、君はここで待っていてくれ」
「は、はい……って、危ないのです!」
俺とシャルロッテは【鴉】から飛び降り、空中でダスクハウンドを攻撃した。
「《刺突蓮華》!」
「《聖なる矢》」
『『ギャアアアアッ!』』
刀の鋭い突きによる衝撃波と聖魔法の矢によって、民たちに近かった個体を狙い撃ちする。
直後、俺は普通に地面に着地して、シャルロッテは聖魔法でゆっくりと舞い降りた。
〔幻夢〕の能力のおかげか特に衝撃は感じない。
「「あ、あなたたちは誰ですか!?」」
「心配しないで、味方よ……《聖なる結界》!」
民たちが驚くと同時、シャルロッテがバリアを展開してみんなを守る。
俺と彼女は言葉を交わすこともなく自然とそれぞれの敵に向かった。
ダスクハウンドはまだ数十体ほど残っており、俺たちに激しく牙を剥く。
「この辺りはまだ浄化が完了していないから、目や喉に瘴気の強い刺激を感じるな。さっさと倒してしまおう」
「そうね。帰ったらお風呂にでもゆっくりと浸かりたいわ」
そこまで話したところで、ダスクハウンドが勢いよく駆け出してきた。
元より、長く戦うつもりはない。
「《風華重蘭》!」
群れの中央で〔幻夢〕を縦横無尽に振る。
一つずつの剣撃が流れるように連続しており、非常に滑らかに斬ることができた。
「《聖弾》!」
視界の隅では、シャルロッテが光り輝く魔弾を何発も放つ。
一発も外すことなくダスクハウンドを撃ち抜き、精度の高さと威力の強さの両方が感じられた。
戦闘はものの数分で終わり、辺りには静寂が横たわる。
結界の中からは、民たちの感嘆とした呟きが聞こえてきた。
「あっという間に全て倒してしまったぞ……。あの人たちは何者だ……」
「助けてくれてありがとう! もう死んじゃうかと思った!」
みな、怪我や疲労は見られるが大事はなさそうで安心する。
空中のリリスは口元で手を押さえ、はわわとやっているらしい。
戦闘が終息したのでシャルロッテが《聖なる結界》を解除しようとしたとき。
突然、地面が揺れ始めて巨大な蜘蛛魔物が二体現れた。
いずれも大きさは十mくらいだ。
たちまち、結界の中からは悲鳴が上がり、俺はシャルロッテの隣に向かう。
「B+ランク土蜘蛛か。人間を好んで食べる生態のはずだ。地中深くで眠っていることが多いはずだけど」
「もしかしたら、ダスクハウンドとの戦いを感知して土の中を移動してきたのかもね」
「きっと、そんなところだろう。俺は向かって右をやる。シャルは左を頼んだ」
「了解。愛の強さを見せつけてやりましょう」
土蜘蛛は口から網目状の糸を吐き出す。
Aランクの武器でも斬れないことがある非常に強靱な糸だが、今の俺たちなら心配する必要はない。
俺とシャルロッテは同時に攻撃を放った。
「《冥撃》!」
「《聖なる刃》!」
〔幻夢〕の黒い一撃と聖魔法の白い一撃が糸を切り裂き、その後ろにいる土蜘蛛をも切り裂いた。
『『ギャアアアアッ!』』
二匹とも全身に攻撃を食らい、断末魔の叫びを上げて倒れた。
周囲を再度警戒するも追撃の魔物はいない。
俺は〔幻夢〕を納刀し、シャルロッテは《聖なる結界》を解除する。
民たちはしばし呆然としていたが、わっと俺たちの周りに集まった。
「助けていただきありがとうございました! 土蜘蛛まで倒してしまうなんてすごくお強いのですね!」
「生きた心地がしませんでした! お二人は私たち一族の救世主でございます!」
辺りを囲まれる中、合流したリリスがホッとした様子で話す。
「みんな無事でよかったのです! この人たちは大魔境の領主夫妻でハルトさんとシャルロッテさんです!」
夫婦と言われるのは気恥ずかしいものがあるけど、やっぱり嬉しさも感じた。
民たちから大怪我などはしていないと聞き、俺は呼びかける。
「ここは瘴気が痛いですし、一度俺たちの屋敷に避難しましょう。瘴気の浄化も完了しています」
「「!」」
シャルロッテたちが散らばったテントや物品を協力して回収する間、俺は【鴉】を量産。
ついでにダスクハウンドと土蜘蛛の素材も吸収しておいた。
民たちを【鴉】に乗せ、屋敷――ハルト邸に向かう。
□□□
慣れ親しんだ我が家の周りに降り立ったら、民たちはここでも驚き感激した。
方々から感嘆の声が止まらない。
中でも、リリスは大きな目を一段と大きく見開いている。
「本当に瘴気が浄化されているのです! 大魔境にこんな豊かな場所が存在するんですねぇ! 素敵なお家も立派なのです!」
「全部、ハルが作った和風アイテムが浄化してくれたのよ。お家もそう」
シャルロッテが自慢げに返したところで、民たちの奥から初老の男性が歩み出た。
背は低いものの背筋はしっかりと伸びており、白い太眉と豊かな口ひげが穏やかな印象を醸し出す。
民たちが道を譲る反応からリーダー的な人だとわかる。
「紹介が遅れて申し訳ないの。ワシはズゥーイという者じゃ。この一族の長を務めておる。民を、そして孫娘のリリスを救ってくださり深く感謝させてもらいたい」
ズゥーイさんが丁寧に頭を下げると、他の民も同じように礼をした。
「どうか頭を上げてください。俺たちもみなさんが助かってよかったですし、あんな状況では助けるのは当たり前です」
「ハルの言うとおりだわ。人として当然のことをしたまでよ」
俺とシャルロッテの言葉を受け、ズゥーイさんたちは涙が薄らと滲む笑顔を浮かべた。
傷の治療を申し出たが丁重に断られた。
彼らは鞄からいくつものポーション瓶を取り出す。
互いの身体にかけると瞬く間に傷が消えていった。
「なるほど、みなさんは回復薬を持っていたんですね」
「よかったらお二人も使ってくださいなのです!」
リリスに緑色のポーションを渡された俺は思わず驚きの声を上げる。
「これは……Aランクの回復薬!?」
「それもすごく状態がいいわ」
魔物と同じように、アイテムにもランクがある。
もちろん様々な薬もそうだ。
ただ、"とある特殊なスキル"を持たない一般人が調合できるのはCランクまで。
Bランク以上の品は相当に貴重なはずだ。
しかも、よく見たらみんなが使っているのも同じかBランクの回復薬だ。
王国か帝国の上流階級なのだろうかと思う俺に、ズゥーイさんが照れた様子で頬を掻く。
「実は、ワシらは【薬師】スキルを持つ一族なんじゃ。じゃから、薬の類いはいつも持っていての。情けないことに突然の襲撃で使う暇がなかったんじゃ」
「わたしが翼を生やしていたのもお薬の効果なのです。身体が軽いから効果も高く、助けを呼ぶ係に任命された次第です」
そうか!
彼らが身につけている白に青の装飾が施された服が、急にある記憶を思い出した。
何度も捜すも終ぞ一度も見つけられなかった。
リリスたちは〔クロニクル〕で滅多に出会えない超レアなキャラ――"彷徨の薬師"だ!
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