第20話:悪役モブ皇子、裏ボス王女とハイカラな格好になる。そして、謎の少女に助けを求められる
シャルロッテと心が通じ合った翌朝。
諸々の準備を終えた俺たちは食卓で向かい合っていた。
目の前には温かい湯気の立つ彩り豊かな食事が並ぶ。
どちらともなく手を合わせ、静かに頭を提げた。
「「いただきます」」
優雅な仕草で食事を楽しむ彼女をそっと見る。
朝日に照らされ、それこそ天使や女神のように輝いていた。
対角線から始まった俺たちの関係は、今や正面に変わった。
仲良くなれて素直にとても嬉しい。
「ハルと一緒に食べる食事が一番おいしいわ」
などとも言ってくれ、それだけで胸が満たされた。
食事を終えた俺とシャルロッテは外に出る。
屋敷の周りには作物畑が広がり、爽やかな風が吹き抜けた。
今一度、この領地をどうしたいか目的を定める。
「俺はここを世界一豊かな土地にするよ。シャルが毎日楽しく平和に過ごせるくらい豊かで幸せな土地に」
「私も全力でお手伝いさせてもらうわ。ハルがいつも笑って暮らせる土地にできるようにね」
「俺の作るアイテムは和風……要するに日本風の物ばかりになってしまうんだけどいいかな?」
「誰が嫌だと言うの? ハルの作るアイテムを一番好きなのは私じゃない」
「……ありがとう、シャル」
シャルロッテと微笑み合う。
俺の好きな和風アイテムを好きと言ってくれて、それもまた嬉しかった。
「腐毒鬼と戦って感じたことがあって、防御も安全にしておきたいなと思うんだ。だから、まずは服か防具を作ってみようと思う」
「そうね。ああいった広範囲に強力な攻撃ができる魔物は他にもいるでしょうし」
巻物を出現させた俺はしばし思案する。
和風の防具といえば、真っ先に鎧兜が思い浮かんだ。
防御力は高いし物理的な安心感もあるが、日常生活を送るには動きにくいだろう。
毎回着替えるのはさすがに面倒だ。
じゃあ、何にしようかな……そうだ!
大正浪漫風の和装にすればいい!
元々が鎧じゃなくても、服に結界みたいな能力を付与すればいいのだ。
考えを伝えたら、シャルロッテは「私も着たい」と喜んだ。
〔幻夢〕は強いしカッコいいのでいつも身につけておきたいから、俺の服は黒刀が映える色合いにしよう。
巻物には厄災魔物の他、もうずいぶんと素材を吸収したのですぐに生成できるようだ。
「【和風工匠】!」
自分の身体に巻物を当ててスキルを発動する。
白い光に包まれた後、俺の服装が一気に変わった。
たちまち、シャルロッテは笑顔になる。
「あら、すごくおしゃれね!」
――――――
・名前:ハルト式紋付羽織袴
・等級:神話級(SSSランク)
・能力:①一切の禍事を悉く塞ぎぬ(あらゆる害悪を遮断する)
――――――
着物は桜地紋が薄く入った墨黒地で、光の角度で桜が浮き上がる。
落ち着いた灰色の羽織を着て、袴はブルーグレーいわゆる灰青とした。
いずれも〔幻夢〕の美しさをより映えさせるためだ。
足下は歩きやすい黒のブーツとし、実用性と大正浪漫感を両立させた。
……ああ、素晴らしい。
ずっとこういう格好で暮らしたかった。
「我ながらうまくデザインできてよかった。すごくカッコイいい……。シャルは色とか模様に希望はある?」
「そうねぇ、明るい色がいいかも。ハルと対になったら夫婦らしさが感じられる気がするの」
「了解! じっとしててね。……【和風工匠】!」
話を聞いた傍からどんな和装にするか止めどなくアイデアが溢れ出た。
俺と同じようにシャルロッテの全身も白い光に包まれる。
次の瞬間現れた彼女に、俺は感銘を受けてしまった。
「ふわぁああっ……可愛い!」
ハイカラな格好をしたとんでもなく可愛いシャルロッテがいた。
濃紺に白い矢絣模様の入った着物が彼女の洗練された印象を強め、深緋の袴は非常に深くてシックだ。
淡い桃色の羽織が彼女の華やかさを何段階も引き上げる。
俺とおそろいの黒皮のブーツはおしゃれで仕方なかった。
――――――
・名前:シャルロッテ式紋付羽織袴
・等級:神話級(SSSランク)
・能力:①一切の禍事を悉く塞ぎぬ(あらゆる害悪を遮断する)
――――――
彼女のこんな姿、原作ゲームでも見られない!
シャルロッテはこてんと頭を傾ける。
「どう? 似合うかしら?」
「死ぬほど似合ってる! すごく可愛いよ! 可愛すぎて死んじゃうって!」
「そんなに褒められると照れてしまうわ」
照れ笑いの笑顔はあまりにも尊く、俺の心臓はもう保たないかもしれないなと思った。
姿見も生成して実際に見てもらう。
シャルロッテはしきりに喜んでいた。
「矢の模様なんておしゃれね。この赤色のスカートも深い色合いが控えめなのに印象深くて綺麗」
「その色は正式には深緋、スカートは袴って言うんだ。気に入ってくれて嬉しいよ。服とか色の名前も後で教えるね」
「いつもの服よりこういう服の方が私は落ち着くわ。今までの暗い毎日が刷新されたような気分よ」
シャルロッテは胸に手を当て静かに呟く。
彼女は目を閉じて祈った後、俺の手をそっと握った。
「ありがとう、ハル。あなたのおかげで、私はまったく想像もできなかった毎日を過ごせている。この服はずっと大切に着させてもらうわ」
「……気に入ってくれてよかったよ、シャル」
俺もシャルロッテに微笑み返す。
着付けは専用に生成したからくり人形に任せることにしたので、知識がないであろう彼女も一人で着替えられるはずだ。
強力な防具を確保できたところで、話は領地開拓に戻った。
「大魔境は自治国という扱いだけど、領民は無理に集めなくていいかなと思っているよ。ここは戦争中の国同士の間に位置する土地だし、もし住みたい人がいたら歓迎したいな」
「ええ、私もハルの考えに賛成するわ。ハルとからくり人形たちのおかげで、すでにずいぶんと発展しているしね。まぁ、欲を言えばしばらくは二人っきりでの生活を送りたいところね」
「うん。"来る者拒まず、去る者追わず"……それを領地の方針にしよう」
「あら、良い言葉」
「日本の短い教訓だよ」
方針が決まっても日々やることは変わらない。
俺は魔物討伐、シャルロッテは畑仕事を始めようとしたとき、大きな影が地面を走った。
「鳥型の魔物かな? ……あれは!」
「誰かが襲われているわ!」
空を見上げたら、翼の生えた少女が灰色の大きな鳥――Cランクのアッシュウイングに追われていた。
原作ゲームでも苦しめられた鋭い爪がここからでも確認できる。
少女は懸命に攻撃を交わしているが、体勢もふらついていて追いつかれるのは時間の問題だとわかった。
俺とシャルロッテは何度も呼びかけて少女の注意を惹く。
少女はすぐに気づき、懸命に俺たちのいる地面へと飛んできた。
俺は〔幻夢〕を引き抜いて魔力を込める。
「魔物だけ切り裂くから避けてくれ……《閃滅斬》!」
少女が右に飛び退くと同時、アッシュウイングは真っ二つに切り裂かれた。
傍らのシャルロッテが感嘆と呟く。
「お見事。あなたの指示も的確ね」
「〔幻夢〕の能力は"斬りたい物を全て斬る"だから彼女に当たっても問題は無かったけど、怖がらせるとまずいから避けてもらったよ」
少女はふらふらと力なく地面に降り立った。
駆け寄ると、茶色いボブカットの髪と茶色い目をしたあどけない顔だ。
歳の頃は十歳くらいだろうか。
白っぽい服には青い装飾が施されており清潔な印象だ。
だが、全身が汚れたり傷だらけなのでやはり何かしらの非常事態なのだと推測された。
「た、助けていただいてありがとうございました。あなた方は……げほ、ごほっ!」
ひどく焦っているのか少女は激しく咳き込む。
「一旦落ち着くんだ。ここにいれば大丈夫だから」
「動かないで。今私が傷を癒すわ……【回復】」
シャルロッテが手をかざすと、少女の傷はすぐさま消滅した。
「もしかして、これは伝説の聖魔法……!? す、すごい……。あなた方はいったい何者なのですか?」
「俺はハルト。この大魔境の領主だ」
「私はシャルロッテ。ハルトの妻よ」
「はわわ、領主ご夫妻でいらっしゃいましたか。通りで強いわけです。わたしはリリスと言います。助けていただいて本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる彼女の背中には翼が見える。
一般的な天使そのものだ。
原作ゲームに出てきたかな?と思う間もなく、するすると縮んでしまった!
「「えっ、翼が縮んだ!?」」
「これは薬で……いえ、こんな話をしている場合ではありません! 恐ろしくお強いあなた方にお願いさせてください!」
リリスは胸の前で手を組み、必死の表情で俺たちに頼んだ。
「お願いです! 遠く離れた南の方角に仲間がいるのですが、魔物の群れに襲われています! どうか、私たちを助けてくださいなのです!」
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