第18話:裏ボス王女、悪役モブ皇子に愛され悪役モブ皇子を愛する(Side:シャルロッテ⑤)
本邸は大変に過ごしやすい家だったが、離れも過ごしやすい空間だ。
藺草の瑞々しい香りが私の心を癒しては解放する。
天井は竿縁天井という形式と聞き、また一つ日本の文化を知れた。
質素で清廉潔白な印象を持つ意匠は肩肘張って頑張らなくていい、と言われている気分で気持ちが落ち着く。
ハルは寝てしまったらしく、すうすうという穏やかな寝息が聞こえた。
彼の頬を押してみると小さく呻いて可愛い。
再度天井に視線を向けたら最近の毎日が思い出された。
魔物討伐に向かうハルを見送り、私は畑を耕し、ともに食事を食べ、別々の場所で寝る。
終ぞ、王宮では享受できなかった安定と平和の日々を送れていた。
一方で、言葉に表せない寂しさを感じていたのも事実だ。
それは"愛"がなかったためだと、今の私ならわかる。
私はいつ頃、ハルと親しくなったのだろう。
厄災魔物の襲撃が転機なのは間違いないが、たぶん一緒に遊び始めたときからは無自覚に警戒を解いていたと感じられる。
ずっと別行動が主の日々を送っていたら、今の私の心境はどうなっていたかわからない。
今思えば、最初はずいぶんと尖った対応をしてしまった。
罪滅ぼしのためにも、これからはたくさん甘えてもらい、たくさん甘えさせてもらおう。
続けて思い出されるのは、ハルの印象的な言葉だった。
――子どもたちを保護して愛する優しさ、不遇な目に遭っても他者に当たらない気高さ……。
厄災魔物と戦いながら、彼はそんな言葉をかけてくれた。
嬉しさのあまり、涙が滲んだ感覚は私に刻まれている。
ハルは初めて私の頑張りや取り組みを評価してくれた男性だ。
白髪という外面を否定されるうち、私の内面も否定されている気分になった。
存在意義の否定。
いつしか、私はそう感じてしまった。
でもハルは全ての不安や心配を、「いっそのこと死んでしまいたい」という愚かな願いを、跡形もなく吹き飛ばしてくれた。
いくら感謝してもしきれない。
持ち上げた私の髪は月明かりを受け金色に輝いた。
「綺麗……」
王族の証たる美しい金髪が手の中にある。
自分で言うのもなんだが見とれてしまうほど美しい髪というのは、やはり嬉しいものだった。
様々な表現で不気味だの気持ち悪いだの表現された白髪はそこにはない。
王宮で受けた罵倒の数々に、もはや懐かしさまで感じてしまった。
「私は伝説の【大聖女】スキルに覚醒したのね」
この世界で唯一、聖魔法が使える非常に強くて貴重なスキル。
腐毒鬼を倒してしまったときは私自身大変に驚いた。
今までは魔力をぶつけるだけの《魔弾》しか使えなかったのに。
私はもう【無の王女】ではない。
自分で誰かのために戦えるのだ。
「ハルは自信を取り戻してくれた」
横を見ると少年のような可愛い寝顔があった。
何度も私を守ってくれてありがとう。
これからは私が守ると固く誓った。
ただ、なぜ孤児院の経営を彼が知っていたかは不明だ。
私は誰にも言わなかったし、シスターも他言する人間ではない。
しばし考えたところで首を振って思考を止めた。
おそらく、何かの経緯で知る由となったと考えられた。
余計な詮索は野暮というものだ。
私は隣に寝る愛する人の手を静かに握る。
自分より幾分か大きくて頼りがいがあり、すっぽりと収まってしまった。
ハルの体温を感じているとそれだけで安心できた。
どんな理不尽や不合理が待っていようと、彼がいれば必ず乗り越えられる。
そう強く確信できた。
「あなたと本物の夫婦になれて……私は本当に嬉しい。私はあなたを誰よりも愛している」
いつまでも大好きなハルと一緒に暮らす。
それが私の生きる意味で、一番の幸せだ。
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