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リコリス・ディープ・ニルヴァーナ  作者: ネオもろこし
久遠の涅槃(ディープ・ニルヴァーナ)編

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第二十四話「夜の継承者」3

第三章 継承される夜


 ドスッ。


 鈍い音がした。久遠灯(くおん あかり)の拳が、レオンハルト・ヴァルプルギスの胸板を捉えた。 だが、それは骨を砕く破壊の音ではなかった。 肉が肉を受け止める、重く、静かな音。


「……え?」


 灯が目を見開く。 レオンハルトは、防御も回避もしなかった。 彼は、灯の拳を胸で受け止め、その勢いのまま、両腕を灯の背中に回したのだ。


 抱擁。


「……ッ!?」


 灯の動きが止まる。 予想外の体温。冷たいはずの吸血鬼の腕から、微かな、しかし確かな温もりが伝わってくる。1000年前、彼が灯を絶望の淵に突き落とした時とは違う。 これは、守り、慈しむための腕だ。


「……悪くない拳だ、灯」


 レオンハルトが、耳元で囁いた。その声は、満足げで、どこか安堵していた。


「だが……詰めが甘い」


 ズブリ。


 濡れた音が響いた。灯が驚愕に見開いた瞳の先で、レオンハルトは灯を抱きしめたまま、自らの右手を、灯の心臓ではなく――自分の胸へと突き立てていた。


「な……なに、して……」


「受け取れ」


 レオンハルトは、自らの心臓を抉り出し、その(コア)を握りつぶした。


「ヴァルプルギスの全権能を。……そして、私の『夜』を」


 ドクンッ!!


 レオンハルトの傷口から、ドス黒く濃密な血と魔力が噴き出した。 それは奔流となって、接触している灯の体内へと流れ込んでいく。


魂喰らい(ソウル・イーター)』。 上位の吸血鬼が、自らの魂と引き換えに、全ての力を次代へ譲渡する禁断の秘儀。 灯の意思とは無関係に、彼女の吸血鬼としての本能が、「親」を飲み込んでいく。


「やめろ……! なに勝手なことしてんだよ! 私はアンタを殴りに来たんだぞ!」


 灯が叫ぶが、身体が動かない。流れ込んでくるのは力だけではない。 レオンハルトの記憶、経験、そして1000年分の退屈と、その裏側にあった灯への歪んだ愛情が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


 彼は待っていたのだ。自分が作った「最高傑作」が、自分を殺しに来てくれる日を。この退屈な永遠を終わらせてくれる、愛しい幕引きを。


「……あぁ。いい気分だ」


 レオンハルトの身体が、足元から光の粒子となって透け始めた。彼の顔は、憑き物が落ちたように穏やかだった。1000年以上を生き、全てを手に入れ、そして全てに飽いていた王が、最後に手に入れた「予想外の結末」。


「世話の焼ける娘だったが……退屈はしなかったぞ」


 彼は最期に、皮肉っぽい笑みを残し、灯の頭をポンと叩いた。不器用で、乱暴な、親としての手つき。


「……生きろ、灯。私が見られなかった『夜明け』の先へ」


 パァァァァン……。


 光が弾けた。レオンハルト・ヴァルプルギスという存在は、完全に消滅し、灯の一部となった。 後に残されたのは、静寂と、朝の気配だけ。


 灯は、空っぽになった腕を見つめ、その場に膝をついた。掌に残る、冷たい灰の感触。


「……クソ親父」


 灯は、灰を強く握りしめ、嗚咽を漏らした。


「……最期まで、勝手な奴だったな」


 頬を伝う涙が、崩れた天井から差し込む朝日に照らされて輝く。それは、1000年の呪いが解けた瞬間の、美しくも残酷な夜明けだった。


 夜が明けた。 ノクタルニアの深い霧が晴れ、眩しいほどの太陽が昇ってくる。 古城は、眠りについた主と共に、再び深い静寂の中へと沈もうとしていた。


 城の中庭。 ボロボロになった『鉄の馬車』の前で、別れの時が訪れていた。


「……僕は、残ります」


 エミル・ノスフェラトゥが、静かに告げた。 彼の視線は、玉座の間で眠りについた真祖ヴィクトルが居る尖塔へ向けられている。


兄さん(レオンハルト)もいなくなって……父様(ヴィクトル)を守れるのは、僕だけですから」


 彼はもう、怯えるだけの落ちこぼれではなかった。灯たちとの旅を経て、自分の意志で「守るべきもの」を見つけたのだ。 その顔には、ノスフェラトゥの名に恥じない誇りがあった。


「そうか。……達者でな、エミル」


 灯は、エミルの肩を抱いた。


「困ったことがあったら呼べ。……いつでも駆けつけてやる」


「はい! ……灯さんも、お元気で!」


「お前もな。……いい男になれよ」


 エミルに見送られ、灯は仲間たちの元へ戻る。辰巳響、白雪美流愛、鉄鏡花、天羽祈、双子、そしてチャーリー・S。 全員が、笑顔で灯を迎える。傷だらけで、泥だらけで、けれど誰一人欠けることなく。


「……帰ろうぜ」


 灯は、運転席のチャーリーに声をかけた。


東帝都(トウテイト)へ」


「任せな! 特急で飛ばすぜ!」


 エンジンがかかる。 重低音が、凱旋のファンファーレのように響き渡る。 長い長い旅の終わり。 そして、騒がしい日常の始まり。


『鉄の馬車』が走り出す。 灯は、窓の外を流れる景色を見つめた。 その影には、レオンハルトの気配が、静かに、そして優しく寄り添っていた。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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