第二十三話「混血の牙」2
第二章 七つの支柱
「灯さん! 一人で背負わないでください!」
天羽祈の悲痛な叫びが、崩れゆく大広間に響いた。彼女は、黒い太陽の重力に抗いながら、血を吐いて戦う久遠灯を見つめていた。
灯の体からは、真紅のオーラと共に、黒い煙のような瘴気が立ち昇っている。 三つの血(天帝・父・真祖)の衝突。 それは、核融合炉がメルトダウンを起こしているような状態だ。 強大な力は手に入れたが、それを制御する「枠」が壊れかけている。
「……わかっています。灯さんの中の力が、喧嘩しているんです!」
祈は、杖を強く握りしめた。彼女のオッドアイが、灯の体内を流れるエネルギーの乱れを捉える。 聖なる金色、魔なる赤色、そして虚無の黒色。 それらが互いを拒絶し、食い合っている。
「私が……繋ぎます!」
祈は走り出した。 ヴィクトルの放つ虚無の波動を、自身の結界で弾きながら、灯の背中へと手を伸ばす。
「無茶だ、祈! 近づいたらお前まで!」
「いいえ! ……私には、これしかできませんから!」
祈の手が、灯の背中に触れた。瞬間、彼女の掌から灰色の光が溢れ出した。かつて見せた『調律』の応用。 相反する力を中和し、調和させる力。 それが、灯の中で暴れる三つの血を、強制的に鎮めていく。
「ぐぅ……ッ! 重い……!」
祈が膝をつく。 灯が背負っている1000年の業と、真祖の力の質量は、少女一人の器では支えきれない。 結界にヒビが入り、祈の腕から血が噴き出す。
「祈!」
「手を貸せ、ポンコツども!」
その時、辰巳響が飛び込んできた。 彼女は祈の背中に手を当て、自身の龍脈エネルギーを注ぎ込んだ。
「アタシの電気も使いな! ……感電しても知らねぇぞ!」
「私の魔力も使いなさい!」
白雪美流愛が、祈のもう片方の肩に手を置く。
「エネルギーバイパス、直結! ……演算リソースを全て回す!」
鉄鏡花が、自身のコネクタを祈の杖に接続する。
双子の亞莉愛と華琉愛も、祈を支えるように寄り添う。エミル・ノスフェラトゥと、チャーリー・Sも、それぞれの魔力を祈へと託す。
全員の力が、祈を介して一つになり、灯へと流れ込んでいく。
「……っ、熱い!」
灯が呻いた。背中から、膨大な熱量が奔流となって流れ込んでくる。響の荒々しい雷。美流愛の鋭利な風。鏡花の冷徹な演算。 そして、仲間たち一人ひとりの、生きて帰りたいという渇望。
それらが、灯の中で暴れ回っていた三つの血を、「接着剤」のように繋ぎ合わせていく。
だが、まだ足りない。ヴィクトルの「虚無」の壁を突き破るには、あと一押し、決定的な「触媒」が必要だ。 全ての矛盾を飲み込み、存在を書き換えるための鍵が。
「……灯さん」
祈が、灯の耳元で囁いた。
「貰ってください。……私の『血』を」
祈は、自らの唇を噛み切った。ポタリ、と鮮血が滴る。 天使と悪魔。光と闇。 相反する二つの性質を併せ持ち、神と悪魔を退けた『祈りの魔天子』の血。
「この血が……灯さんの『毒』を『薬』に変えます!」
祈は、血の滲む唇を、灯の首筋の傷口へと押し当てた。 口付けのような、輸血。
ドクンッ!!
灯の全身に、電流が走った。四つ目の血。 魔天子の血が混入した瞬間、灯の体内で暴れていたエネルギーが、奇跡的なバランスで融合を果たした。拒絶し合っていた因子が、祈の血によって「調律」され、新たな配列へと組み変わっていく。
「……あぁ」
灯の全身を包んでいた苦痛が、嘘のように消えた。代わりに満ちてくるのは、指先まで研ぎ澄まされた全能感。 そして、世界そのものを拒絶するヴィクトルの虚無さえも、中和し、触れることができるという確信。
バリバリバリッ!!
灯の背中から生えていた真紅の翼が、色を変えた。赤、青、黄、緑、紫。 そして、全てを包み込む灰色。 虹色に輝く、結晶の翼。
それは、純血の吸血鬼には決して辿り着けない、雑種だけが到達できる進化の極致。 天帝の聖性、吸血鬼の魔性、真祖の虚無、そして魔天子の調律。全てを飲み込んだ、最強のバロック。
「……見えたぜ、ジジイ」
灯は、顔を上げた。その瞳は、金色に輝き、ヴィクトルの纏う「虚無のオーラ」のさらに奥を見通していた。
数千年の時を生き、死ぬことさえ許されず、ただ「終わり」を願い続けた孤独な魂。 その中心にある、小さくて、脆い「核」を。 祈の血が、そこへ至る道を照らし出している。
「お前が欲しがってるもん……。私が届けてやるよ!」
灯は拳を握りしめた。 その拳には、仲間全員の力と、1000年の旅路の重みが宿っていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




