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リコリス・ディープ・ニルヴァーナ  作者: ネオもろこし
久遠の涅槃(ディープ・ニルヴァーナ)編

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第二十二話「真祖覚醒」1

第一章 女王の誤算


 レオンハルト・ヴァルプルギスと久遠灯(くおん あかり)が激突する尖塔を背に、ベルベット・ミラーと朱 焔陽(朱雀)は、一足先に城の最上階――玉座の間へと足を踏み入れていた。


 黒曜石の重厚な扉が開くと、そこには豪華絢爛な広間ではなく、時が止まったかのような「廃墟」が広がっていた。


 天井は崩れ落ち、巨大な穴から冷たい月明かりが直接差し込んでいる。 床には数千年分の埃が積もり、色彩を失ったタペストリーが亡霊のように垂れ下がっている。 調度品は朽ち果て、かつての栄華は見る影もない。 ただ、その空間を支配する「静寂」だけが、絶対的な威厳を保っていた。


 その中央。 瓦礫の中に埋もれるようにして、朽ちかけた玉座があった。そこに、一人の老人が沈み込むように座っていた。


 真祖 ヴィクトル・ノスフェラトゥ。


 全ての吸血鬼の頂点にして起源。 だが、今の彼は、生きているのか死んでいるのかさえ判別できない、枯れ木のような姿だった。干からびた皮膚はひび割れ、眼球は白濁し、呼吸さえも数分に一度、微かに行われるのみ。 数千年の時を生き、死ぬことさえ許されず、ただ玉座で微睡む「生ける虚無」。


 だが、その存在感は圧倒的だった。彼を中心に、世界の色が吸い込まれているような重圧。近づくだけで、魂が凍りつくような絶対零度のオーラ。


「……見つけたわ。私の玉座」


 ベルベットが、ヒールの音を響かせて歩み寄る。彼女の真紅の瞳が、欲望と狂気でぎらついている。 ついに、この時が来た。真祖を殺し、その血を奪い、自らが新たな夜の王となる瞬間が。


「起きなさい、化石。……世代交代の時間よ」


 ベルベットは震える手で、懐からガラスのアンプルを取り出した。 天羽祈(あもう いのり)から奪った血。神と悪魔の力が混ざり合い、銀色に輝くその液体。彼女が「神殺しの毒」と信じている、唯一の切り札。


 焔陽が、無言で周囲を警戒する。 彼の炎でさえ、真祖の前では揺らめき、小さくなっているように見えた。


 ベルベットは、ヴィクトルの首筋にアンプルを突き立てた。枯れた血管を探り、針を深々と刺し込む。


「死になさい! そして私に力を!」


 彼女は、中身を全て注入した。 銀色の液体が、真祖の体内へと流れ込んでいく。


 勝利を確信した笑み。毒が回り、真祖が苦悶の声を上げ、灰になって崩れ落ちる――はずだった。


 だが、次の瞬間。


 ドクン。


 巨大な心臓の鼓動が、玉座の間を震わせた。それは、死にかけた老人の脈動ではない。 眠りから覚めた猛獣の、力強いビート。


「……あぁ」


 ヴィクトルが、乾いた唇を開いた。 その声は、地獄の底から響くような重低音。埃が舞い上がり、ガラス窓が共鳴して割れる。


「……久しぶりの、刺激だ」


 カッ!!


 老人の身体が、内側から発光した。干からびた皮膚が瞬く間に張りを取り戻し、白髪が濡羽色に染まり、背筋が伸びていく。 枯れ木に水が戻るように、若さが、力が、魔力が充填されていく。


 若返り。いや、全盛期への回帰。


「な……なんで……!?」


 ベルベットが後ずさる。 アンプルが手から滑り落ち、床で砕けた。


「毒のはずよ! ……神をも殺す、相反する力の毒……!」


「毒? ……ふん」


 ヴィクトルが、ゆっくりと立ち上がった。 その姿は、神々しいまでの美貌を持つ青年に変わっていた。白濁していた瞳は、深紅の宝石のような輝きを取り戻している。


「調律の力か。……悪くない」


 彼は、自分の手のひらを見つめ、ニヤリと笑った。


「体内で滞っていた数千年の澱みが……綺麗に浄化された。……実に、美味だ」


 祈の血は、真祖を殺す毒にはならなかった。 神と悪魔を中和する「調律」の力が、逆にヴィクトルの体内に蓄積していた「死にきれない穢れ」を浄化し、全盛期の力を呼び覚ます「起爆剤」になってしまったのだ。ベルベットの仮説は、最悪の形で裏目に出た。


「礼を言うぞ、小娘。……おかげで、目が覚めた」


 ヴィクトルは、ベルベットを見下ろした。その視線には、敵意などない。 羽虫を見るような、圧倒的な無関心。


「……っ、ふざけるな!」


 ベルベットが、『赫き荊棘(クリムゾン・ソーン)』を放つ。 血の鞭がヴィクトルを襲う。同時に、焔陽が『朱雀・紅蓮焦土』の炎を放った。


「消えろ、化け物!」


 だが、ヴィクトルは動かなかった。ただ、指先を軽く振っただけだ。


 ドォォォォォン!!


 衝撃波。ただの風圧ではない。空間そのものを弾き飛ばす、絶対的な拒絶。 荊棘は千切れ飛び、炎は掻き消えた。 ベルベットと焔陽は、紙くずのように壁に叩きつけられた。


「がはっ……!」


「バカな……力が……違いすぎる……!」


 二人は床に転がり、大量の血を吐いた。 一撃。 それも、本気ですらない、ただの「払いのける」動作だけで、吸血鬼の当主と四神の一柱が瀕死に追い込まれたのだ。


「……騒々しい」


 ヴィクトルは、退屈そうに嘆息した。彼は玉座を降り、月明かりの下へと歩み出る。 その背後で、城全体が震え始めた。 真祖の覚醒に呼応し、ノクタルニア全土の魔力が渦を巻き、暴走を始めている。


 絶望。 圧倒的な「死の概念」そのものとなった真祖が、今、世界へと解き放たれようとしていた。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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