第二十一話「虚無の玉座」3
第三章 親と子
迷宮の最上階、尖塔へと続く長い螺旋階段。 そこは、城内の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 ただ、階段を上る私たちの足音と、頂上から漂ってくる重苦しい「死の気配」だけが、肌を刺すように迫ってくる。
先頭を行くのは、久遠灯。その背後に、天羽祈、エミル、チャーリー、そしてベルベットと朱雀が続く。美流愛や鏡花、響たちは、それぞれの戦場で足止めを食らっている。ここから先は、選ばれた者だけが進める修羅の道だ。
階段を上りきると、そこには巨大な両開きの扉があった。 黒曜石に複雑なレリーフが刻まれた、玉座の間への入り口。 その前に、一人の男が座っていた。
「……遅かったな」
レオンハルト・ヴァルプルギス。 彼は、扉の前に置かれた豪奢な椅子に深く腰掛け、退屈そうにワイングラスを傾けていた。その姿は、まるで城の主人が、招かれざる客の到着を待ちわびていたかのようだ。
「ここから先は、王の寝室だ。……騒々しい子供は、躾けねばなるまい」
レオンハルトが立ち上がる。それだけの動作で、周囲の空気が凍りついた。重力が倍増したかのような、圧倒的なプレッシャー。灯を子供扱いし、一蹴した時と同じ、絶対的な「格」の差。
「……手出し無用だ」
灯が、仲間たちを制して前に出た。彼女はM500をホルスターに収め、素手で構えを取った。
「灯さん!?」
「無茶だ! 丸腰で勝てる相手じゃねえ!」
祈とチャーリーが叫ぶが、灯は振り返らない。
「この男は……私の『親』だ。私の手で超えなきゃ、先には進めねえ」
灯の全身から、赤いオーラが立ち昇る。天帝の神気と吸血鬼の妖気が融合した力。血管が浮き上がり、瞳が鮮血色に輝く。
「……ほう」
レオンハルトは、少しだけ面白そうに眉を上げた。
「よく吠えるようになった。……だが、お前の生き方は中途半端だ」
彼の姿が掻き消える。 残像すら残さない神速。
「ッ!?」
次の瞬間、灯の目の前に現れた彼の手刀が、灯の腹部を貫いていた。
ズブリ。
「が、ぁ……ッ!」
「人にもなれず、魔物にもなりきれない。……その迷いが、お前の弱さだ」
レオンハルトが、灯を蹴り飛ばす。灯は吹き飛び、石壁に激突して崩れ落ちた。 腹部の傷から血が噴き出すが、再生能力ですぐに塞がっていく。 だが、精神的なダメージは深い。 「半端者」。それは、灯が1000年間抱え続けてきたコンプレックスであり、彼女を縛る呪いの言葉だ。
「……まだだ」
灯は、血反吐を吐きながら立ち上がった。ふらつく足で、再び構える。口元の血を拭い、ニヤリと笑う。
「……ああ。半端者だよ」
灯は、自分の胸を強く叩いた。
「人間のように弱く、吸血鬼のようにしぶとい。……だからこそ、どっちの痛みもわかるんだよ!」
灯が、再び突っ込む。 今度は、ただの力任せではない。美流愛のステップ。鏡花の計算。響の勢い。祈の守り。仲間たちと共に戦い、盗み、学んできた技の数々。 そして、1000年前に周から教わった「守るための剣技」。全てをミックスした、彼女だけの「喧嘩殺法」。
「……ッ!」
灯の拳が、不規則な軌道を描いてレオンハルトに迫る。 レオンハルトが避けようと首を傾けるが、その頬を拳圧が掠めた。
ピシッ。
一筋の傷が入り、血が滲む。 絶対者であった父に、娘の牙が届いた瞬間。
「……ほう」
レオンハルトの目に、初めて驚きの色が浮かんだ。彼は自分の頬の傷に触れ、そして愉しげに笑った。
「……いいだろう」
レオンハルトは、手に持っていたグラスを放り投げた。
パリンッ!!
グラスが床に落ちて砕け散る音が、決闘の合図となった。
「見せてみろ、灯。……お前が拾い集めた仲間と絆が、純血の誇りを砕けるかどうかを」
ギギギ……。
背後で、玉座の間の扉が重々しく開き始める。 その隙間から溢れ出すのは、生物を絶滅させるほどの死の冷気。真祖ヴィクトル・ノスフェラトゥが、微睡みから目覚めようとしていた。
灯は咆哮し、レオンハルトへと飛びかかる。 1000年の因縁に決着をつける、親子喧嘩のゴングが鳴った。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




