第二十一話「虚無の玉座」1
第一章 螺旋の悪夢
爆煙と粉塵が晴れていく。 『鉄の馬車・マークIII』が、城壁という物理的な境界を食い破り、強引にこじ開けた風穴。 その向こう側に広がっていたのは、城の内部というにはあまりに広大で、そして狂気的な空間だった。
「……なんだ、これ」
久遠灯が、装甲車のルーフから降り立ち、呆然と呟いた。 そこは、三次元の常識が通用しない、悪夢の迷宮だった。
巨大な吹き抜けのエントランスホール。だが、天井が見えない。闇の彼方へと螺旋を描いて伸びる階段は、途中でねじれ、天地が逆転している。 床だと思って踏み出した石畳が、いつの間にか壁になり、天井へと続いている。 重力さえもが場所によって異なるベクトルを持ち、無数の回廊がメビウスの輪のように絡み合っていた。
「……酔いそうだ」
辰巳響が、装甲車のボディに手をついて呻いた。龍神としての鋭敏な三半規管が、歪んだ空間構造に悲鳴を上げているのだ。視界に入る風景が、脳の処理能力を超えて歪曲している。まるで、エッシャーの騙し絵の中に放り込まれたような錯覚。
「空間湾曲率、測定不能。……エラー、エラー」
鉄鏡花が、激しく明滅する義眼を押さえる。 彼女の解析システムが、論理的な座標を特定できずにオーバーヒートしかけていた。
「この城は、物理的に建築されたものではない。……高密度の魔力によって『投影』され、維持されている結界そのものだ。真祖の夢の中にいるようなものだと思え」
「夢……。随分と悪趣味な夢ね」
白雪美流愛が、ドレスの裾を払いながら軽やかに降り立つ。 彼女の背後には、双子の亞莉愛と華琉愛が、油断なく周囲を警戒している。
一行は、ホールの中央に集結した。リコリス・バロックの7人。 案内役のエミル・ノスフェラトゥ。運転手兼・護衛のチャーリー・S。 そして、一時的な共闘関係にあるベルベット・ミラーと朱 焔陽。
総勢12名。かつてない大所帯だが、その空気は張り詰めていた。味方同士の馴れ合いなどない。あるのは、共通の敵を倒すためだけの、冷徹な利害の一致。
「チンタラしてんじゃないわよ」
ベルベットが、真紅のチャイナドレスを翻して先頭を切った。彼女は、この狂った空間に動じる様子もなく、むしろ自分の庭のように優雅に歩を進める。その手には、愛用の煙管。
「ヴィクトルの寝室は最上階よ。……この迷宮の『核』がそこにある」
彼女は、歪んだ回廊の法則を本能的に理解しているようだった。 あるいは、同じ真祖の血を引く者としての共鳴か。
「ついて来られるなら、来なさい。……迷子は置いていくわよ」
「……指図すんな」
灯が舌打ちをして続く。 彼女はM500を構え、エミルを背に庇いながら歩く。 祈は灯のコートの裾を掴み、響は鏡花に肩を貸している。
だが、城の防衛システムは、侵入者の大群を許すほど甘くはなかった。 王の眠りを妨げる不届き者には、相応の罰が与えられる。
ギギギ……ガシャン!
不協和音が響いた。 ホールの中央、虚空に亀裂が走る。 硝子が割れるような音と共に、空間そのものがひび割れたのだ。 その裂け目から、ドス黒い霧と、おびただしい数の敵意が溢れ出してくる。
城壁の外にいた『アンデッド騎士団』とは違う。 もっと精巧で、悪意に満ちた「調度品」たち。
カツン、カツン。
現れたのは、メイド服や執事服を着た、人間大の人形たちだった。 顔は陶器のように白く、美しいが、表情がない。その関節からは、歯車と蒸気の音が漏れている。精巧な自動人形。 その手には、銀の盆ではなく、チェーンソーや巨大な剃刀、あるいは鋭利な食器が握られている。
さらに、壁のレリーフが剥がれ落ち、石の翼を持つガーゴイルが空を舞う。 床の絨毯が蛇のようにうねり、シャンデリアが落下してくる。城全体が、私たちを殺そうと牙を剥いている。
「迎撃ッ!!」
灯が叫ぶ。銃声と雷撃、斬撃が交錯する。だが、敵の狙いは殺傷ではなかった。
「分断工作か……! 全員、離れるな!」
灯が気づいた時には、遅かった。床が、生き物のように波打ったのだ。 石畳が陥没し、底知れない穴が開く。 同時に、壁が迫り出し、一行の間に割って入る。 空間が収縮し、ねじ切れ、強制的に座標を書き換えていく。
「お姉様ッ!!」
「灯!」
アリアとカルアの悲鳴。美流愛が手を伸ばすが、その指先は虚空を掴む。響が叫び、鏡花が舌打ちをする。
物理的な遮断。 そして、空間転移。
叫び声と共に、チームは強制的に三つのグループへと引き裂かれ、迷宮の別々の場所へと飲み込まれていった。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




