第十九話「当主の戯れ」2
第二章 月下の晩餐会
城下町への潜入は、夜を待つことになった。吸血鬼たちの目が最も鋭くなる夜に動くのはリスクが高いが、エミルの知識によれば、城の防衛システムには夜間特有の「盲点」があるという。一行は、城下町から少し離れた森の開けた場所で、夜を待つことにした。
鉄鏡花が結界を張り、辰巳響と双子が交代で見張りに立つ。 天羽祈は、エミルに手持ちの血液パックを分け与えている。 白雪美流愛は、武器の手入れに余念がない。
焚き火を囲み、静かな時間が流れる。だが、その平穏は唐突に破られた。
不意に、風が止んだ。 森のざわめきが消え、虫の音が途絶える。まるで、世界そのものが息を潜め、何かを恐れているような静寂。 絶対的な捕食者の気配。
「……久しぶりだな、灯」
月光の下、一本の枯れ木の上に、男が腰掛けていた。 月光のような銀色の長髪。 血のように鮮烈な真紅の瞳。 そして、闇夜に浮かび上がるような、蒼白な美貌。
ヴァルプルギス家当主、レオンハルト・ヴァルプルギス(玲王)。
1000年前、灯を絶望の淵に突き落とし、吸血鬼へと変えた張本人。 そして、灯にとっての「親」であり、最大の呪い。
「……レオンハルト」
灯の声が震える。恐怖ではない。殺意の共鳴だ。レオンハルトは、音もなく地面に降り立った。武器は持っていない。ただ、ポケットに手を入れたまま、悠然と歩み寄ってくる。
「そして、そこにいるのは……エミルか。生きていたのだな、弟よ」
レオンハルトは、エミルを一瞥した。だが、その視線には何の感情もない。 道端の石ころを見るような、完全な無関心。 エミルは「兄さん……」と呟き、恐怖で動けなくなっている。
「何の用だ。……私たちを殺しに来たのか?」
灯が銃口を向ける。 だが、レオンハルトは動じない。彼はくっくと喉を鳴らして笑った。
「まさか。……可愛い娘が里帰りしたのだ。歓迎するのが親の務めだろう?」
彼は灯を見つめた。 その眼差しは、エミルに向けたものとは対照的に、歪んだ愛情と執着に満ちていた。 まるで、丹精込めて育てた毒花を愛でるように。
「天帝の血と、私の血。……1000年かけて熟成されたその味、確かめさせてもらおうか」
それは、宣戦布告ではなかった。 退屈しのぎの「遊戯」の開始合図だ。
「ナメんじゃねえぞ!!」
灯がトリガーを引く。神気を帯びた500S&Wマグナム弾が、至近距離からレオンハルトの眉間を襲う。轟音。だが、レオンハルトは動かなかった。 弾丸は、彼の額に触れる寸前で、まるで水飴に捕らわれたように空中で停止した。
「……遅いな」
彼が指を弾くと、弾丸は粉々になって散った。 重力操作。あるいは、空間そのものの支配。 彼が纏うオーラが、物理法則を歪めているのだ。
「加勢すんぞ!!」
響が叫び、雷を呼ぶ。灯の攻撃が止められた瞬間、彼女は本能的に動いていた。全身から迸る蒼い稲妻。 それを合図に、リコリス・バロックの総攻撃が始まる。
「援護します!」
美流愛が叫び、双子と共にワイヤーとナイフで斬りかかる。 鏡花がガトリングガンを掃射し、祈が拘束魔法を放つ。 四方八方からの死角なき連撃。
だが、レオンハルトはそのすべてを「視線」だけで弾き返した。 不可視の障壁が展開され、攻撃を無効化する。
衝撃波が彼女たちを吹き飛ばす。
「ぐぁっ……!?」
「化け物……!」
全員が地面に伏せる中、灯だけが立ち上がり、食らいつく。『血の晩餐』で霧を作り、死角から爪を振るう。 吸血鬼同士の肉弾戦。
だが、レオンハルトはその手首を、片手で軽く掴んだ。
「……がっ!」
万力のような力。 灯の骨がきしむ音が響く。
「悪くない殺気だ。……だが、粗い」
レオンハルトは、灯をゴミのように投げ捨てた。灯は大木をへし折って吹き飛び、血反吐を吐いて倒れる。 再生能力が追いつかないほどのダメージ。
「……期待外れだ、灯」
レオンハルトは、倒れ伏す灯を見下ろし、心底つまらなそうに嘆息した。
「お前はまだ、人間を引きずっている。……その甘さが、お前の牙を鈍らせているのだ」
彼は興味を失ったように、背を向けた。
「出直してこい。……真祖の御前に立つには、今のままでは脆すぎる」
レオンハルトは霧の中へと消えていく。止めを刺す価値もないと言わんばかりに。 その背中には、圧倒的な「格」の違いだけが残されていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




