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リコリス・ディープ・ニルヴァーナ  作者: ネオもろこし
聖魔の調律(カオス・チューニング)編

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第十四話「背中合わせの聖戦」3

第三章 背中合わせの聖歌


「一時休戦だ、吸血鬼」


 ルシウスは、灯を見ることなく、前方の災厄を見据えたまま告げた。 その碧眼には、迷いなど微塵もない。 あるのは、自らの信仰を汚した者への、氷の如き憤怒のみ。


「我々の決着は後だ。……まずは、あの神を冒涜する不浄な毒虫を駆除する」


「異議なしだ。……背中は任せたぜ」


 決して交わるはずのない二つの線が、今、子供たちを守るという一点において交差した。


「ギギギ……!? なンだとォ!?」


『疫病の騎士ラヴィアス』が、ガスマスクの下で困惑の声を上げた。 彼にとって、この状況は計算外だった。敵対するはずの二人が手を組むなど、ドクター・メイのプログラムには存在しないエラーだ。


「裏切り者め! 神の犬が、魔女と馴れ合うか!?」


 ラヴィアスは激昂し、背中のタンクを全開放した。 さらに濃密さを増した毒ガスが、暴風となって二人を襲う。同時に、彼の身体から無数の触手が伸びた。 腐った肉と機械で構成された触手は、それぞれが独立した意志を持つかのように、不規則な軌道で襲いかかってくる。


「まとめて溶けちまえェェェッ!!」


「黙れ、下郎」


 ルシウスが、十字架を構えた。ガトリングガンの銃身が、高速回転を始める。ブゥゥゥン……という重低音。それは、死神が奏でる鎮魂歌のイントロだ。


「主よ、我が弾丸に祝福を」


 ダダダダダダダダダッ!!


 暴風雨のような銃撃音。 毎分6000発の聖銀弾が、緑色の霧を切り裂いていく。 触手が弾け飛び、肉片となって散る。聖別された弾丸は、ラヴィアスの再生能力を阻害し、傷口を焼き焦がしていく。


「グ、ギャアアアアッ!?」


「道は開けたぞ、魔女!」


 ルシウスが叫ぶ。弾幕によって作られた、一瞬の空白地帯。 そこは、灯だけが通れる死への細道。


「おうよ!!」


 灯が地を蹴った。爆発的な加速。彼女は、ルシウスが切り開いた弾道を縫うようにして疾走する。 触手の残骸が彼女の頬を掠め、毒ガスがコートを焦がすが、彼女は止まらない。再生能力を攻撃力オフェンスへと転化し、痛みを推進力に変える。


「捕まえたッ!」


 灯は、ラヴィアスの懐に潜り込んだ。 至近距離。 ガスマスクの奥にある、怯えた瞳が見える。


「テメェの毒は、もう飽きたんだよ!」


 灯の両手が、ラヴィアスの胸板に突き刺さる。吸血鬼の怪力。 メリメリと装甲が歪み、引き剥がされていく。


「な、何をする気だ……!?」


「こいつだよ!」


 ベキィッ!!


 灯は、ラヴィアスの胸部装甲を素手でこじ開けた。 露わになったのは、緑色に脈打つ(コア)。 毒素を生成し、ナノマシンを制御する心臓部。


「今だ、撃てぇッ!!」


 灯が叫び、横に飛び退く。射線が通る。 そこには、すでに最大出力でチャージを終えたルシウスがいた。十字架の左側面。巨大な杭打ち機(パイルバンカー)が、白銀の光を放って唸りを上げている。


「主よ、迷える魂に安息を!」


 ルシウスがトリガーを引く。同時に、灯が指先から『血の晩餐』を放ち、杭に自らの魔力を纏わせた。聖なる銀と、魔なる赤。相反する力が奇跡的な融合を果たし、螺旋を描く閃光となる。


 ズドンッ!!


 世界が白く染まった。 杭はラヴィアスの核を正確に貫き、その奥にある魂ごと粉砕した。


「あ、ガ……バ、かな……」


 ラヴィアスの身体が、内側から膨張する。 聖なる浄化の光と、吸血鬼の破壊の呪いが、彼の細胞を原子レベルで崩壊させていく。


「ドクター……助け……て……」


 ドオォォォォォン!!


 断末魔と共に、疫病の騎士は爆散した。毒ガスが浄化され、綺麗な夜風が広場に吹き込んでくる。 空を覆っていた緑色の雲が晴れ、星空が覗いた。


 静寂が戻った広場。舞い上がる塵の中で、二人の戦士が立っていた。


「……ふぅ」


 灯は、その場に座り込んだ。全身ボロボロだ。再生が追いつかず、傷口から煙が上がっている。ルシウスもまた、肩で息をしていた。 法衣は汚れ、十字架の銃身は赤熱している。


「……終わったな」


 灯が呟く。瓦礫の陰から、シスター・ノアと孤児たちが恐る恐る顔を出した。 怪我人はいるが、死者はいない。 全員、無事だ。


「ありがとうございます……!」


 ノアが駆け寄り、ルシウスの手を取ろうとする。だが、ルシウスはその手を避けた。彼は、複雑な表情で灯を見下ろした。


「……なぜ助けた」


 ルシウスが問う。 その問いは、灯に対してでもあり、自分自身に対してでもあった。


「我々は敵同士だぞ。……貴様にとって、人間など餌に過ぎないはずだ」


「知るかよ」


 灯は、血で汚れた顔を袖で拭い、ニカっと笑った。


「腹が減ってりゃ餌に見えるかもしれねえが……。目の前で子供が泣いてたら、助けるのが『人間』ってもんだろ?」


「人間、か……」


 ルシウスは、灯の言葉を反芻する。吸血鬼でありながら、誰よりも人間臭い女。 そして、神の代行者を名乗りながら、人間を切り捨てようとした枢機卿。どちらが正義で、どちらが悪か。 その境界線は、このアストエルの泥の中で、もはや意味をなさなくなっていた。


 ルシウスは、十字架を背負い直した。その瞳から、迷いは消えていた。


「……行け」


 彼は、大聖堂へと続く道を開けた。


「今は見逃してやる。……だが、勘違いするな。私は魔女を許したわけではない」


 ルシウスは、灯に背を向けた。


「次は必ず殺す。……私の正義にかけて」


「ああ。……楽しみにしてるぜ、石頭」


 灯は立ち上がり、M500をホルスターに収めた。 その笑顔に、ルシウスはかつて自分が憧れた「聖騎士」の姿を重ねたのかもしれない。 彼は何も言わず、瓦礫の山へと歩き出した。 組織には戻らない。 彼自身の「神」を探すために、孤独な巡礼の旅が始まる。


「灯!」


「灯さん!」


 後方から、辰巳響(たつみ ひびき)白雪美流愛(しらゆき みるあ)鉄鏡花(くろがね きょうか)、そして双子たちが駆け寄ってくる。 彼女たちもまた、それぞれの戦いを終え、傷だらけで集結していた。


「……行くぞ」


 灯は仲間たちと合流し、大聖堂を見上げた。巨大な扉が、重々しい音を立てて開き始めている。


 そこには、儀式の完成を待つヴァレリオと、覚醒の時を待つ祈の姿があった。 そして、地下からは悪魔軍の王、ルーファスもまた、その祭壇を目指して動き出しているはずだ。


「待ってろ、祈」


 灯は拳を握りしめた。 神も悪魔も関係ない。家族を取り戻すための、最後の喧嘩が始まる。6人の魔女たちは、開かれた聖域の門へと、堂々と足を踏み入れた。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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