第十一話「四騎士の鉄槌」3
第三章 解体者の矜持
絶望的な包囲網。 だが、その完璧な演算の中に、ノイズが走った。
「……つまらないな」
瓦礫の影。 ガトリングガンの掃射を受け、装甲の大半を削り取られた鉄鏡花が、低く呟いた。 左腕の義手は、『疫病』の毒ガスによって腐食し、指が数本脱落していた。
「メイ。……貴様の兵器には、致命的な欠陥がある」
鏡花は、よろめきながら立ち上がった。その瞳は、死を前にした者のそれではない。難手術に挑む外科医の、冷徹な瞳だ。
「効率化しすぎた故の、柔軟性の欠如だ!」
鏡花は、腐食した左腕を右手で掴んだ。躊躇なく、自身の左肘から先を強制排除する。鋼鉄の腕が地面に落ちるが、それはただ捨てられたのではない。 切断面から露出した動力炉が、臨界点を超えて赤熱している。
「起爆」
鏡花が蹴り飛ばした義手は、毒ガスを散布していた『疫病』の開いた口の中へと、正確に吸い込まれていった。
ズドオォォォォォン!!
体内で炸裂音。内蔵されていた予備エネルギーが一斉に爆発し、ラヴィアスの頭部を粉砕する。噴き出していた毒ガスが、爆風によって一瞬にして霧散した。
「今だ、響!!」
鏡花が叫ぶ。 毒ガスが晴れ、視界が開けた。 エネルギー吸収結界を張っていた『飢饉』が、爆風の余波で体勢を崩している。
「おうよ! ……祈がいねぇ分は、アタシが埋めてやる!」
瓦礫の下から、辰巳響が飛び出した。彼女の手には、虹海を出る時にシャオから渡された「お弁当」――真空パックされた特大の『七色龍珠』が握られていた。
「いただきまーすッ!!」
響はパッケージを食い破り、中身を一気に流し込んだ。強烈な甘みと、龍の鱗の成分が、胃袋で爆発的な化学反応を起こす。枯渇していた発電器官に、燃料が満たされる。
バチバチバチッ!!
響の全身から、青白いプラズマが噴き出した。彼女は祈の援護がない今、防御を捨てて攻撃に全振りするしかなかった。
「電気ショックで目ェ覚ましな!!」
響は両手を突き出した。『飢饉』と、重火器を構え直そうとしていた『戦争』。 二体の騎士に向けて、極太の雷撃が放たれる。
ドガガガガガッ!!
数億ボルトの電流が、二体の巨体を直撃した。 レヴィアスの展開していた吸収結界がショートし、ガラスのように砕け散る。 アルギュスの内蔵弾薬が誘爆を起こし、その巨体が火だるまになって吹き飛んだ。
「グ、ガガ……ッ」
三体の騎士が、機能不全に陥る。 戦況が一変した。
残るは一体。 リーダー格、『死の騎士』。 彼は仲間の窮地にも動揺することなく、ただ冷徹に、目の前の標的――白雪美流愛の首を刈り取ろうとしていた。
「……死になさい」
大鎌が振るわれる。 物質の時間を加速させ、触れたものを砂に変える呪いの刃。美流愛のドレスの裾が、風圧だけで灰になって崩れる。 ワイヤーも、ナイフも通じない天敵。
「死神さん。……アンタ、致命的にリズム感が悪いのよ」
美流愛は、バックステップを踏みながら笑った。
「お姉様のステージを邪魔させません!」
「幻影、展開!」
死角から、白雪亞莉愛と白雪華琉愛が滑り込んだ。双子が固有能力を発動させる。 空間が歪み、数十体の「美流愛」がネクロスを取り囲んだ。
「無駄だ。……生体反応のない幻影など、私のセンサーには映らない」
ネクロスは、迷わず「本物」の美流愛だけを狙った。彼には視覚がない。命の輝きだけを見ている。
「ええ、そうね。……だからこそ、引っかかるのよ」
本物の美流愛が、踏み込んだ。 ネクロスが大鎌を振り下ろす。 その刃が、美流愛の首を捉える――寸前。
キィン!!
甲高い金属音が響いた。大鎌が、空中で静止していた。 何もない空間に、何かが「引っかかった」のだ。
「な……?」
ネクロスのセンサーがエラーを吐く。見えない。だが、そこには確かに「質量」があった。
「残念。……双子の幻影はね、ただの絵じゃないの」
美流愛が、ネクロスの懐に潜り込む。 アリアとカルアが作り出していたのは、美流愛の姿をした幻影だけではない。 「透明な美流愛」の幻影――実体を持った不可視の障害物を作り出し、大鎌の軌道を物理的に阻害したのだ。
「アンタの鎌より……私のナイフの方が速いわよ!」
美流愛の手元が閃いた。 手には、虹海タワーの瓦礫から拾った、高硬度ガラスの破片。金属ではない。呪いの影響を受けにくい、無機質な凶器。
ガシャァァン!!
美流愛の一撃が、ネクロスの鉄仮面を正面から叩き割った。仮面が砕け散り、その下の素顔が露わになる。それは、皮膚のない、剥き出しの機械仕掛けの頭蓋骨。眼窩の奥で、赤いカメラアイが激しく明滅している。
「……損傷甚大。戦闘継続不能」
ネクロスが、よろめきながら後退った。完璧だったはずの四騎士が、全員膝をついている。
「チッ……。データ不足ね」
後方で見ていたドクター・メイが、不愉快そうに舌打ちをした。彼女はタブレットを操作し、撤退信号を送信する。
「今日はここまでにしてあげるわ。……楽しみは、ハルマゲドンの本番にとっておくものよ」
メイの周囲に、転送用の黒い霧が発生する。 四騎士が、その霧の中へと吸い込まれていく。
「逃げるのか! メイ!」
久遠灯がM500を構え、追いかけようとする。だが、メイは霧の中で、冷ややかに微笑んだ。
「逃げる? 違うわ。……招待席を用意しに行くだけよ。特等席をね」
彼女の姿が、霧と共に消滅した。 残されたのは、半壊した装甲車の残骸と、傷だらけの6人。 そして、荒野に刻まれた巨大なクレーターだけ。
「……クソッ」
灯は、M500をホルスターに叩き込んだ。 消えゆく霧の彼方を、親の敵を見るような目で睨みつける。
「……次は逃がさねえ。その首、へし折ってやる」
彼女たちは、瓦礫の中で肩を寄せ合う。誰も欠けてはいないが、全員が満身創痍だ。そして、ここには一番大切な「祈」がいない。
「……戻りましょう」
鏡花が、残った右腕で眼鏡の位置を直した。
「装甲車は全損だ。……シスター・ノアの孤児院に戻り、態勢を立て直す必要がある」
「ああ」
灯は、目の前にそびえ立つ城壁を見上げた。 あの壁の向こうに、祈がいる。 H.L.O.H.と黙示録団。 神と悪魔、そして科学と魔術が生んだ悪夢が巣食う、鉄壁の檻。
「待ってろよ、祈」
灯は、血に濡れた拳を握りしめた。本当の地獄は、これからだ。 6人の魔女たちは、沈みゆく夕日を背に、傷だらけの足で歩き出した。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




