表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リコリス・ディープ・ニルヴァーナ  作者: ネオもろこし
聖魔の調律(カオス・チューニング)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/53

第十一話「四騎士の鉄槌」1

第一章 空から降る絶望


 廃墟の孤児院を後にした時、聖地アストエルの空は、どす黒い紫色に染まり始めていた。太陽は西の地平線に沈み、代わりに城壁都市『上層(ハイ・サンクチュアリ)』から放たれるサーチライトの光が、雲底を舐めるように徘徊している。


 久遠灯(くおん あかり)は、シスター・ノアから託された血染めのヴェールを懐の奥深くに仕舞い込んだ。 その布切れには、天羽祈(あもう いのり)の両親が遺した最期の体温と、希望という名の呪いが染み付いている気がした。


「……行くぞ」


 灯の短い号令と共に、6人の魔女たちは『鉄の馬車・マークII』に乗り込んだ。エンジンが唸りを上げる。虹海(ホンハイ)のジャンクパーツで組み上げられた無骨な装甲車は、砂利を蹴立てて荒野を疾走し始めた。


 目指すは、目前にそびえ立つ純白の絶壁――アストエルの城壁。 その向こう側で、祈が贄として捧げられようとしている。


「正面ゲートまで、距離3000。……敵影、確認できず」


 運転席の鉄鏡花(くろがね きょうか)が、不審そうに眉をひそめた。 H.L.O.H.(エイチロ)の本拠地だ。本来なら、蟻一匹通さないほどの検問や迎撃部隊が展開しているはずだ。だが、荒野には風の音しかない。不気味なほどの静寂。 それは、捕食者が獲物を待ち構える時の、息を殺した静けさに似ていた。


「……来る」


 後部座席で、辰巳響(たつみ ひびき)が低く唸った。 彼女の龍としての感覚が、気圧の急激な変化を捉えたのだ。上空。 雲の切れ間から、星ではない異質な四つの光が、流星のように墜ちてくる。


「上だ! 回避しろ!」


 灯が絶叫すると同時に、鏡花がハンドルを限界まで切った。 タイヤが悲鳴を上げ、車体が横滑りする。


 ズドォォォォォォォン!!


 直後、装甲車の進路上に巨大な質量が着弾した。地面が爆発したかのような衝撃波。アスファルトが粉砕され、めくれ上がり、土煙が視界を完全に覆い尽くす。 車体は木の葉のように吹き飛ばされ、数回回転して横転した。


「ぐっ……ぅ……!」


 エアバッグ代わりの粘液ゲルが展開し、即死は免れた。 だが、車体はひしゃげ、フレームが歪んでいる。灯は強化ガラスを蹴り破り、這い出した。


「全員、生きてるか!?」


「なんとかね……! ドレスが泥だらけよ!」


 白雪美流愛(しらゆき みるあ)と双子が、咳き込みながら脱出する。響と鏡花も続く。


 もうもうと立ち込める粉塵の向こう。 クレーターの中心から、ゆらりと立ち上がる四つの影があった。


 それは、地獄の底から這い出してきた悪夢の具現化だった。全身を漆黒の重装甲で覆い、頭部には髑髏スカルの意匠が刻まれた兜。 背中からは、蒸気機関のような排気パイプが突き出し、ドス黒い瘴気を吐き出している。サイズは人間大だが、その存在感は巨神のそれに匹敵する。


 黙示録の騎手。 あるいは、死を運ぶ機械仕掛けの死神。


「……サンプルの回収、および不確定要素の排除を開始します」


 先頭に立つ騎士が、抑揚のない合成音声で宣告した。『死の騎士:ネクロス・ヴェルディス』。 彼の手には、身の丈の倍はある巨大な大鎌が握られている。その刃は、物理的な鋭さだけでなく、空間そのものを断ち切るような、不吉な振動を放っていた。


「……避けろッ!!」


 灯の本能が、死の寒気を察知した。 ネクロスが、大鎌を構え、横薙ぎに振るった。動作は緩慢に見えた。 だが、振るわれた刃から放たれた「死の斬撃」は、音速を超えて空間を走り抜けた。


 全員が、反射的に左右へ飛び散る。 そのコンマ一秒後。


 ズンッ!!


 背後にあった『鉄の馬車』が、音もなく両断された。爆発ではない。切断面が急速に錆びつき、腐食し、ボロボロと崩れ落ちていく。装甲板も、エンジンも、タイヤも。 全てが強制的に「寿命」を迎え、土へと還っていく。 物質の時間を加速させ、崩壊に導く「死」の呪い。


「嘘……あの装甲を一撃で……!?」


 美流愛が、砂埃にまみれた顔で息を呑む。 もし飛び出すのが遅れていれば、自分たちもあの鉄屑の一部になっていた。 物理防御など意味をなさない、概念的な即死攻撃。


「あらあら。……随分とタフなお客様ね」


 四騎士の背後。 土煙を優雅に払いながら現れたのは、この荒野にはあまりに不似合いな、白衣を纏った女だった。


 幽 冥(ドクター・メイ)


 虹海タワーの崩壊から生き延びた彼女は、悪魔軍(黙示録団本部)に合流し、自身の最高傑作である四騎士の指揮官として、再び私たちの前に立ちはだかったのだ。


「お久しぶりね、鉄屑のお嬢さん」


 メイは、鏡花を見つめて妖艶に微笑んだ。 その瞳には、再会の喜びなど微塵もない。あるのは、壊れかけの玩具を見るような、冷徹な観察眼だけ。


「私の新しい『子供たち』の出来栄えはどうかしら? ……貴女が作ったポンコツ車よりは、ずっと優秀でしょう?」


 メイは、崩れ落ちた装甲車の残骸をヒールで踏みつけた。


「……最悪だ」


 鏡花が、ギリリと歯噛みする。彼女の義眼が、四騎士の構造を解析しようと走査線を飛ばすが、返ってくるのはエラー音だけだ。あまりに複雑怪奇な術式と、最先端のサイバネティクス技術の融合。 それは、鏡花がかつて拒絶した「科学的式神」の、さらに先にある冒涜的な進化形だった。


「死体を弄び、悪魔と融合させ……魂を冒涜する。……貴様は、命を玩具にすることしかできないのか」


「玩具? 失敬な」


 メイは、心外そうに肩をすくめた。 彼女はタブレットの画面を指でなぞりながら、四騎士の背中を愛おしそうに眺めた。


「これは芸術よ。……科学と魔術の結婚(マリアージュ)。人間という不完全で脆い器を捨て去り、進化の極致へと至った究極の生命体」


 彼女は、腕を振り上げた。 それは、殺戮開始の合図。


「さあ、見せてあげなさい。……旧人類たちに、絶望という名の福音を」


 四騎士が、一斉に動き出した。


 大鎌を構える『死の騎士ネクロス』。 全身からミサイルポッドを展開する『戦争の騎士アルギュス』。周囲の魔力を吸い上げ、空間を渇かせ始める『飢饉の騎士レヴィアス』。 緑色の毒ガスを噴出する『疫病の騎士ラヴィアス』。


 逃げ場のない、完璧な死の包囲網。


「来るぞ! 散開!」


 灯の号令と共に、6人の魔女たちは四方へと飛び散った。だが、その先には、かつてない苦戦が待ち受けていた。 個の暴力が、軍隊の統率を持って襲いかかってくる。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ