第九話「聖地への誘い」3
第三章 約束の地へと
「……クソッ」
私は、地面を殴りつけた。 拳が割れ、痛みが走る。 だが、その鋭い痛みが、私を泥沼のような自己憐憫から引きずり出した。
絶望している暇はない。 嘆いている時間もない。 祈はまだ生きている。 「待っている」と言ったのだ。それは、殺さないという宣言でもある。 あいつらは、祈を生きたまま利用しようとしている。ならば、まだ間に合う。
「……上等だ」
私は、地面に落ちていた祈の杖を拾い上げた。木製の柄には、まだ彼女の体温が残っている気がした。 その温もりが、私の凍りついた心臓に火をつける。
「地獄の底だろうが、聖地だろうが関係ねぇ」
私は立ち上がった。 ボロボロのコートが、熱風にはためく。
「追いかけて、そのすました顔をブン殴ってやる」
私の言葉に、呆然としていた仲間たちが顔を上げた。
「……そうね」
白雪美流愛が、涙を乱暴に拭って立ち上がる。その瞳に、殺し屋の冷徹な光が戻る。
「私の大事な『友達』を誘拐するなんて……いい度胸よ。アストエルだろうが何だろうが、ステージごと爆破してやるわ」
「アタシも行くぜ」
辰巳響が、フラフラしながらも拳を握りしめた。その身体には、王 麗琳から託された龍脈の力が漲っている。
「祈は、アタシらの家族だ。……神様だろうが悪魔だろうが、家族に手ェ出す奴は許さねぇ」
「移動手段が必要だ」
鉄鏡花が、冷静に端末を操作する。 東帝都で乗っていた『鉄の馬車』はない。だが、ここは虹海。あらゆる部品と兵器が流通する魔都だ。
「チェン。……頼めるか?」
「ああ。黒鱗幇から接収した装甲トラックがある。……ボロだが、エンジンはいい」
チェン爺が頷き、アジトのガレージを開放した。
「感謝する。……私が最高速度でチューニングする」
鏡花が腕まくりをする。彼女の目には、エンジニアとしての炎が燃えていた。
「目的地設定、アストエル。……ユーガリア大陸を横断し、西の最果てへ。直線距離で約8000キロ。推定所要時間、計算不能」
鏡花は、割れた眼鏡を押し上げた。
「だが、到達確率は100パーセントだ。……我々が止まらない限りな」
「行くぞ、野郎ども」
私は、M500をホルスターに叩き込んだ。 その瞳には、もう迷いはない。あるのは、獲物を追う獣の、飢えた光だけだ。
数日後、出発の準備は整った。瓦礫の山を乗り越え、現れたのは一台の武骨な大型オフロードトラック。 鏡花が短時間で装甲板を溶接し、武装を施した即席の要塞。『鉄の馬車・マークII』だ。
「……行くのか、灯」
チェン爺が、見送りに来ていた。彼は、修復された屋台の前で、静かにキセルを吹かしていた。 その隣には、人間に戻った李 小蓮が、不安そうにこちらを見ている。 そして、新生・青龍となったリーリンも、空を見上げていた。
「ああ。……この街の平和は、アンタらに任せたぜ」
灯は、チェン爺と拳を合わせた。言葉はいらない。同じ修羅場をくぐり抜けた者同士の、魂の敬礼。
「気をつけてな、響ちゃん! ……これ、お弁当!」
シャオが、大きな包みを響に渡した。 中には、大量の肉まんと、真空パックされた特製タピオカが入っている。
「サンキュ、シャオ。……絶対、帰ってくるからな」
「うん! 待ってる!」
響はシャオを抱きしめ、そして車に乗り込んだ。
「ご武運を。……東の龍よ」
リーリンが、清らかな風を纏って微笑む。 彼女は、この大陸に残り、青龍として響たちを遠くから支え続ける。
「全員、搭乗完了。……出発する」
鏡花がギアを入れる。巨大なタイヤが泥を跳ね上げ、車体が前へと進み出した。
虹海を後にする、新たな鉄の馬車。背後には、復興へと歩み出した極彩色の魔都。前方には、広大なユーガリア大陸の闇が広がっている。
窓の外を流れる景色は、次第に荒野へと変わっていく。
灯は、助手席で祈の杖を膝の上に置き、強く握りしめた。その感触を、決して忘れないように。
「……待ってろよ、祈」
灯は、赤く染まる空を睨みつける。
「必ず、迎えに行く。……誰にも、お前を『鍵』だなんて呼ばせねえ。お前は、私たちの『家族』だ」
車は加速する。 目指すは西。聖地アストエル。神と悪魔、そして吸血鬼たちが入り乱れる、約束の地へ。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




