↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/11

コージー・デイズ(2)

- Characters -

ミミ:世紀末レイヤーその1。基本はバニーにフライトジャケット。運動得意ネキ。

タマ:世紀末レイヤーその2。基本はセーラー眼鏡に白衣。プログラミング得意ネキ。

ポチ:二人に拾われ着せ替え玩具にされた記憶喪失の少年。投擲精度が異常に高い。


- Previously -

死と廃墟の世界で、「廃品回収業」を名乗る二人に拾われた少年ポチ。

案内されたアジトで見たのは、家具と家電に彩られた信じがたい文明的空間だった。

記憶のない彼に、彼女らはその生き方を教えようと、物々交換の市場へと赴く。


「――つまり、これから行く交換所は。『旧文明の医療技術関連の品、または情報』を、通常よりも高レートで引き取ってくれる、と?」

「そう。そこは自然発生的な市ではなく、とあるボスと仲間が意図して作った『交換所の集落』でね」

助手席のミミさんが、僕に情報を与えてくれる。


ガタガタと荒野をゆく、車輌《シップ》の上。

早朝の清涼な青空と白雲が、頭上一杯に拡がる。


といっても例の赤いオープンカーではない。

僕たちは『隠れ家』にあった、地味な深緑の軽量トラックに乗り換えていた。

運転席と助手席は屋根つきだが、僕は荷台。まあ会話もできるしクッションも引いてくれたので、困ることはなんにもない。

この近辺では、例のトレーラーハウスを含めた合計三台を場合に応じて使っているらしい。


なお僕はヒラヒラのメイド服からシャープな青と白の服装――『水兵服』に着替えさせられていた。

日差しを遮る帽子もある。ひざ丈なのは気になるが、まあ女物には見えないし贅沢は言えない。


――これを着るまでに、それはもう様々な恰好をさせられ…いや、その言及も記憶も必要ない。

ない。


「土地や場所によって扱われるものの価値が違うのは良くあること――むしろその需給の差の見極めこそが、交易人の利潤の元ではある、のだが」

タマさんが運転席で語る。

二人の服装はいつものだ。『最近のお気に入り』らしい。

この二人はどちらも運転が上手い。僕もそのうち覚えなくてはならないだろう。

運転手としてならば、技能や知識が至らずともすぐにお役に立てるかもしれない。


「医薬品や医療機器、論文が交換品に求められるというのは、この近辺じゃ珍しいんだ。しかし交易人同士の交換じゃなく、集落中枢での引取りだから意図的なモンだね」

「なんでだろーねー。病院でも始めたいのかな?」

「さぁなー。ま、重たくないものが良品に化けるのは、アタシらには有難い『場所』のひとつさ」

目が肥えた物持ちの存在は助かるね、とタマさんが嬉しそうに言う。


「『場所』ですか。名前はあるんですか?」

「その土地の支配者たちは、単に『交換所《プレイス》』と呼んでいるけどね。利用する交易人たちからは――」

「『ブレイクピース』。と呼ばれてるよ」


休息《ブレイク》と平和《ピース》…?

よほど平和な市場なのかな。


「見えてきた。あれだわさ」

タマさんが真正面を指す。


双子のような、ふたつの高層ビルだ。

しかしそのうちひとつは――やや傾いている。


傾き自体は僅かなもの。

だが、見た目が同じものが並んで建っているために、ほんの少し「隙間が開いている」その傾きが、妙に目立つ。


――なるほど。

これは破壊《ブレイク》による、巨大なピースサインだ。

威圧感があるようで、どこか滑稽なその意匠を、僕はじっと眺めた。


「ん、なんか呼んでるね?」

助手席のミミさんが、何かに気づく。


見ると一台の古ぼけたトラックが荒野に停車し、

中年太りの禿頭の男が、こちらに合図を送っていた。


「トラブルか?まあちょっと停まってみるか」

「はいよ〜」


呼び止めておきながら、どこか面倒くさそうな表情の男の顔が、近づいてきた。



※※※



「んん?おいなんだお前ら、女だけか?」

「そうだが。お前は男だけか?」


当然のような上から目線を、娘のような年齢の人にそのまま返され、禿頭の男は一瞬フリーズした。

小気味良い切り返しだけど。肯定しないで。


「さ、最近のガキは礼儀を知らんな…。まあいい。ここにいるということは交易に来たのだろ。だがあそこでは『場所代』を取られる。知ってるか?ブレイクピースの約定を」

はあ、とタマさんがため息をつく。


「経費をケチった『抜け荷』のお誘いなら結構だ。我々は正規の取引を求めている。時間の無駄だった、じゃあな」

「え……ちょ、待てよ!この、下手に出てれば良い気になりやがって!女の分際で!」

男が、急に激高した。

僕の背筋が、びくりと震える。


「いいかぁ、お前らなんてなこの時代、男に頼らなきゃ長生きはできねんだぞ!そのクセに、なんだその態度は!!あぁん!?」

大きな声に、大きな身振り。怖い。

僕だったら、すぐに謝ってしまうだろう。


「ああ不愉快だ、誹謗中傷の名誉毀損だ!お前らが大人のつもりなら、誠意を見せる必要があるぞ!慰謝料として荷を少し」

ミミさんが一歩を前に踏み出した…が。


「オッサン」

タマさんがうしろをちょいちょいと指さす。

「見廻りが来てるぞ」

「!」


ツインタワーの方角から、二輪《オート》が何台か寄せてきていた。

すぐに到着し、エンジン音とブレーキ音が僕らを囲むように停車する。

動きがきびきびとして、素早く無駄がない集団。全員がフルフェイスのヘルメットをしていて顔が見えない。


「ミミさん、この人たちは?」

「『場所』の人たちだよ。取引が正当か、モメごとや盗みがないか、見張ってくれてるんだ。レギオンからも守ってくれるし、怖くないよ〜」

こそこそとミミさんと会話をする。


「どうした。揉めてるのか」

二輪を降り、近づいてきた人が、声をかけてくる。

ヘルメットで顔は見えず、静かでゆっくりとした動作と声なのに、その威圧感は明らかにこの中年男のそれを超えていた。


「あっ!い、いいいえええェ…大丈夫ですぅ…」

「なんもないよ」

恐縮しまくっている男とは対照的なほど、タマさんはぞんざいな返答を返した。


「ば、ばか!頭を下げろ!この方をどなたと心得る!畏れ多くも見廻組のトップ、『青鬼』と称される女傑!その名も知れた『アマダ』様で……」

「なんでェ、タマかよ」


フルフェイスを脱ぐ。中から現れたのは、――女性?


「おす。アマダ姐さん」

「久しぶりだな。ミミもいんのか?」

いるよーと軽く声をかけつつ手を振るミミさん。


丸刈りに近いベリーショートに、ラフな革防具の服装。顔の右側には額から右目を通過して、唇まで下る大きな垂直の傷痕がある。

大柄な身長も相まって男性にも見えるが、その声と瞳には女性特有の柔らかさがあるように思えた。


「え、あ、……お知り合い…?!」

禿頭の男は荒地に腰を抜かしたまま、二人の顔を交互に眺めて驚愕している。


「いつもの派手なシップじゃないから気付かなかったぜ。なんか絡まれてたか?」

「大したことじゃないよ。世間話」


男の様々な言動には、丸ごと目を瞑るようだ。

警備のひとが来なくても、タマさんは歯牙にもかけなかっただろうが…これではあまりに、貫禄勝ちすぎる。


「相変わらず目立つ恰好だな。まあ、それがお前らの商売のうちとは承知してるが。そっちの彼…彼女?は新入りか?よろしくな」

「え、あ、はい。よろしくお願いします…!」

慌てて頭を下げる。

猛者の風格を持ったその人は、鷹揚に頷き、


「ま、ゆっくりしていけ。何かあったら呼べよ」

「ありがとう、姐さん。お仕事頑張って」

「おうよ」

彼女はオートの部下を引き連れ、颯爽と去っていった。


ねえさん。つまり頼れる、信頼できる女性。

…つまり。


僕らもふたたび、クルマに乗った。

周囲を見渡すと、他にも、何台かシップが交易所へ向かっている。


どんな世界がそこにあるのか。胸が高鳴った。



※※※



「うわ…ぁ…」


ツインタワーの足元に拡がっていた光景に、僕は感動のようなものを覚えていた。


人、人、人。

如何にも遣り手といった、笑顔の商人風の男。

ボロをまとった、老人と子供。

プロテクターに身を包んだモヒカン集団まで。

雑多な人々が、思い思いに路上に品物を展開している。

こんなに沢山の人間を見たのは初めてかもしれない。記憶がないので、定かではないけど。


「すごい…」

「何か気になるものがあったら言いなよ。今日の記念に手に入れてあげる」

タマさんが、面白そうに僕の顔を覗き込む。

ミミさんも、愛しそうに市場を眺めている。


交換交易を目的とした人。

集まる人々を相手にした人。

なにやら怪しい食事を提供する男たち。

通行人の袖を引く、着飾った女たち。

すごい活気に、目眩がしそうだった。


「おっと。ごめんよ〜」

と。一人の若い男がぶつかり、すぐに通りすぎた。

…こうも人が多いと、ぼんやり歩いてたら迷惑なんだな。気をつけよう。


「ポチ。持ち物確認しな」

「え…」

険しい顔で男の去った方を見つめつつ、タマさんが言った。

持ち物?

僕の財産なんて、漫画のたっぷり入ったこのGKPくらい…

ない。


「え、GKPが」

「ミミ!」

「はいな!」


瞬時に、スイッチが切り替わったのを感じた。

タマ姐さんの、ごく短い意思疎通に。

ミミ姐さんが、ロケットダッシュという言葉が相応しい急発進で応える。


「まてやこらあ〜〜!」

男が逃げ出す。積まれていた何かの果実のカゴを蹴飛ばし、周囲に転がるのも気にせずに。

僕らもそれらを避けつつ、全力で駆ける。


スられたのか。まったく分からなかった。なんて腕前だ。


良く分からない武器や鉄パイプ群の並ぶ店先を。

雑多な食料品や日用品を並べたシートの隙間を。


熱っぽく交易条件を交渉している主と客の間を。

塵埃と蜘蛛の巣の廃墟ビルの隙間を、路地裏を。


ミミ姐さんの揺れる金髪と濃緑のジャケットの背が、この街の表裏を驚かせながら、とんでもない速度で縫ってゆく。

僕とタマ姐さんは、それを必死で追い掛ける。


男も逃げ慣れているのか、簡単には捕まらない。

ビルとビルの間、最後の直線。街の端が近い。

二輪《オート》でも用意されていたら、お手上げだ――


「…逃がすかああぁ!」


言うなり、横の建物の壁の鉄骨を、金髪のハンターが垂(・)直(・)に(・)駆け上がってゆく。

…これか。

僕は前回の事件の謎が、やっと解けたと思った。


靴だ。

きっと強力な電磁石のようなものによる結合オンオフを、瞬時に切り替えてるんだろう。

そうすることでそれは、壁にも天井にも貼り付き動きまわれる靴となる。

…だとしても、いずれとんでもない平衡感覚と、鍛えた体幹が必要なのは想像に難くないが。


「くらえ!急降下ミミちゃんキーック!!」


はるか高所の壁を蹴っての、美しい飛び蹴りが。

地を走る男の背に、突き刺さるように決まった。



※※※



「ひっさびさ全力ダッシュ!楽しかった〜」


ひいはあとやっと追いついた僕らに比べ、当の本人は息も切れていない。どういう体力だ。

尻に敷かれた男は完全に気絶している。あとは放っておいても、「場所」の人々がどうにかしてくれるらしい。


「はい。もう盗られないよう、気をつけてね」

「うん。ありがとう、ミミねえさん」

しっかりと目を見て、お礼。

恰好いい。とにかく恰好よかった。

僕は感動と感謝で一杯の心で、取り返してくれたGKPを受け取った。

どこも壊れてないみたい、良かった――


「!!聞きました、タマちゃん!?」

ん、あ、なんか自然に言っちゃった。

手を口に当てて驚いている『ミミ姉』。

嫌がられては……いないかな……。


「あ、あの、あたしは?あたしは??」

珍しく本気で仲間はずれを嫌がるような『タマ姉』。

「さいごだ…ねえさんと呼んでやれ」

なにやら渋い顔と声で促すミミ姉。それはなんの漫画の台詞ですか。

二人しかいないんだから、そりゃ最初と最後だけど。


「タ…タマねえさん…。すぐ気づいてくれてありがとう。今さらですが、今後ともよろしく…」

「むろん!」


ぎゅっと握手から、間髪入れずミミ姉とタマ姉に両側から抱きつかれて。

削れるほど頭を撫でられて、なぜかにおいを嗅ぎ回されて。


まあペット扱いなのだとしても…なんだか、ようやく「落ち着いた」ような心地が、あるにはあった。

良き保護者に恵まれた、僕は本当に幸せ者なのだ。


僕は愛すべき二人の姉貴分を、おずおずと力をこめて、ぎゅっと抱き返した。

細い路地裏からは、細い青空が見えた。



※※※



ツインタワーの、傾いたほうのビルに三人で入る。

傾くといっても僅かなので、上の部屋でもおそらく特に違和感があるほどではないのだろう。


「1階は大衆食堂、『Re-sources』だよ。布やビニール、ネジとかパイプ、工具や道具類なんかを持ち込めば、量や等級に応じて水や簡単な食事が貰えるんだ〜」

ミミ姉が、上機嫌で説明してくれる。


「まあ商売としてはプラスにはなってないだろうけどな。集まった素材は、山盛りになれば資源として無視できない価値が生まれる。それにここから『拾い集め』の仕事人として芽を出す奴らもいる。トータルで見れば価値ある場所だ」

タマ姉が、補足でその商売上の意義を語ってくれる。


「ボクは結構、ここ好きなんだよね。なんだろうな、普通の人々のたくましさが詰まってる感じ?」

賑やかすぎるような店内は、それでも食事にありつけた幸福からか、荒れた気配は感じない。

うん。悪い空気じゃない。


「裏側は地下ガレージに繋がっててね。ジャンクの機械類の取扱はそっちだ」

「はあ。こちら側に来たということは、食堂に用事が?」

「いや。アタシらの用事はこっちだ。上」

そう言ってタマ姉が指したのは、店の喧騒を避けたホールの奥端。


やや暗めのその空間にあるのは、両開き扉――廃ビルにはたまにある『エレベーター』だ。

番人らしき、黒服に黒眼鏡の男が一人、隣の階段に目立たず座ってGKPを見ている。

そしてこのエレベーター、どうやら稼働しているらしい。凄く珍しい。


「おい止まれ!どこに行こうとしてる!」

背後から、急な怒声。

三人で振り返ると、食事をしていたらしい一人が立ち上がり、フォークでこちらを指していた。


「お前ら、そこから上は立ち入り禁止だぞ!まったくこれだから世間を知らない小娘は!」

「あ、はげのオッサン」

「あ?!眼鏡のメスガキ!お前らか!!」

またこの人か。今度は何??


「いいかぁ?そこから上はな、この街中枢の出先機関だ。選ばれた物資収集人だけが入室を許され、特別に価値あるものや情報が交換される、会員制の酒場。ふつうの物々交換とは格式が違うんだよ。俺が入れない所に、お前らみたいな小娘どもがな、」


「よ。シーロ」

「お……タマミミか。アサヒがお待ちかねだぜ、入んな」

タマ姉は中年男を無視して、髪形も仕草も伊達な黒服の男に声をかけていた。

…やっぱり知り合いなんだ。そんな気はしてたけど。


「ね、こないだの漫画どうだった!?」

ミミ姉に至っては、まるで友達みたいに話しかけている。


「めっちゃ面白かったわ。また頼むぜ〜」

「トーゼン!ウチら『同士』じゃ〜ん!」

あ、漫画仲間なんだ。シーロさん。

いまGKPにチラっと映ってたのもそれっぽい。仕事ヒマなのかな…。


「ん、新入り?珍しいというか、意外というか」

「ポチだよ!ウチらの弟分さ!」

ふーん、といって黒眼鏡を外す。

思ったより若い。タマ姉ミミ姉と同じ位かも。


「じゃあ旧文明の漫画読み仲間が増えるな!シーロだ、宜しく頼むぜ!」

「あッはい、ポチと呼ばれてます。こちらこそよろしく…」

差し出された手を、おずおずと握らせてもらう。


「待て!待て!待て待て待て〜!なんでお前ら!なんでお前らみたいな小娘共なんかが!当たり前みたいな顔して!」

「さあ、お前より仕事が出来るからじゃない?」


禿頭まで紅潮させた中年男に、なんとも楽しそうな顔で、タマ姉はひらひらと手を振って。

古びたエレベーターの扉が、僕ら三人を乗せて、ゆっくりと閉まった。


ブレイクピースの中枢が、僕らを待っている。



(続)


先週も 30回 以上ものプレビューをいただき、ありがとうございました。

次回も来週日曜日のどこかで続きを追加の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。