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千神の世  作者: チカガミ
3章 神獣山と龍神
59/70

【3-10】神々の戦い

「キサラギー‼︎‼︎‼︎」

「っ!」


 ライオネルの声が聞こえ、後ろを振り向く。一瞬またあのホムンクルスかと疑ってしまったが、そこにいたのは紛れもなくライオネル本人であった。

 彼の顔を見るなり安堵するのも束の間。正面にいた少年が低い声で言った。


「邪魔者が入ったか」

「!」


 ライオネルの表情が変わる。して咄嗟に足を止めると同時に手を前に出すと、俺の背後から少年が握っていた刀が投げられる。

 その刀はライオネルが放った魔弾を切り裂き、辛うじてライオネルが身を横に捻ったものの、彼の左腕を傷つけると、そのまま地面に刺さった。


「ライオネル!」

「大丈夫、掠っただけだから」


 そう左腕を押さえつつ、ライオネルは言い返す。

 だが少年が向かって来たことで、ライオネルは目を開くと、魔術を使って俺の横に瞬間的に移動してくる。

 守る様にライオネルの前に立ち短刀を構えると、少年は地面に刺さった刀を引き抜くと、虚ろな表情でこちらを見た。


「どうして庇うんですか? 彼は鬼(きさらぎ)村を滅ぼしたのでしょう?」

「……そうだとしても、今は違う」

「今は違う? ……ふふっ、相変わらず甘いですね。敵に情けを掛けるなんて。そうやって、朝霧(あさぎり)家がどうなったのも知っているのでは?」

「……」


 じりじりと近づく少年。瞳は完全に赤くなり、黒い髪も毛先から徐々に橙色になっていく。

 本来の姿がそうなのか知らないが、目の前で人ならざるものになっていく少年に、俺は恐怖を感じていると、ライオネルが俺の肩を掴み退がらせる。


「ライオネル」

「いいから下がってな。いくらキサラギを知っているとしても、危険な事には変わりないんだから」


 そう言うと、ライオネルは短剣を鞘から抜く。これに少年はより怒気を強めた声で言った。


「どの口が。危険なのは貴方でしょう」

「そんな様子で言われてもね。どうしても許せないなら、俺が相手するけど?」

「……」


 少年の顔がみるみる内に真っ赤に染まる。して抜いた刀を大きく振りかぶり、ライオネルに切り掛かると、ライオネルはそれを短剣で受け止める。

 身体の大きさは明らかにライオネルが上だが、どこからその力が湧くのか、徐々にライオネルが押されていた。


「くっ……!」


 顔を歪めるライオネル。それに対して少年は勝利を確信したのか、笑みを浮かべた。

 後ろに退いていた俺は、居ても立っても居られなくなり、短刀片手に間に入り込もうと地面を蹴ると、ライオネルから舌打ちが聞こえた。


「?」

 

 瞬間、ライオネルを中心に強風が吹き荒れる。

 その風に足止めされると、刃を交えていた少年もハッとして、ライオネルから飛び退く。

 風が止んだ後、改めてライオネルを見れば、彼の頭には猫の様な三角の耳と腰から尾が生えていた。

 地面に着地し片膝をついた少年は、半獣人の姿になったライオネルをみるなり怒りをより滲ませる。


「よりにもよって、その姿で相手しますか魔術師。いいでしょう。貴方がその気なら僕だって本気を出しましょう」

「!」


 ライオネルが警戒する。足元には大きな魔法陣が浮かび上がり、ビリビリと痺れる様な空気を纏っていた。

 そこに、少年が刀を持った右腕を高々と空に掲げると、それを中心に、空に暗い雨雲が広がり始める。

 それはやがて大粒の雨と共に小さな雹を降らせると、視界を白く曇らせていった。

 俺は見失う前にライオネルの元に駆けると、彼の正面にいた少年の姿が目に入る。少年の背にはいつの間にか川の様な翡翠色をした翼が生え、額には鹿を思わせる様な橙色の角が生えていた。


(あれが本当の姿か?)


 龍とは聞いていたが、龍とは明らかにかけ離れている様な。そう思っていれば、少年の背後から唯一、龍の様な翼と同じ色の鱗を纏った長い尾が見えた。

 少年は掲げた右腕を下ろすと、先程以上の素早さで迫ってくる。ライオネルはそれに追いつかず、固まっていた。


(こいつ……!)


 多少の傷であれば、神の身体を持つライオネルにとってはどうって事もないだろう。だが、かと言ってただ負傷している様を見るのはこっちだってごめんだ。

 少年の刀が振り下ろされる直前で、ライオネルを背後に押し飛ばすと、少年の前に立ち短刀で受け止める。

 少年もまさか俺が前に出るとは思わなかったのだろう。躊躇ったのか僅かに振るうのが遅れ、激しい音を立てて刀が短刀にぶつかると、刀が滑り俺の左手の裏側を軽く引っ掻く。

 痛みで眉を寄せつつも、刃が離れた後流血する左手を振りながら、少年を見て言った。


「どうした。そんなに顔を真っ青にして。さっきまであんなに怒っていただろ」

「あ、貴方が馬鹿なことをするからですよ。神々の戦いに入り込むなんて。下手をすれば貴方の左手吹っ飛んでました」

「だろうな」


 けど、明らかに脱力していたのは刃がぶつかった時点で思っていた。傷を見れば出血は多少あれどそこまで深くはない。腱もやられていないようで、動きにも支障はない。

 先程とは違い、今にも倒れそうなくらいに顔を青褪める少年に、俺はある確信を持つと短刀の刃先を向けていった。


「どうやら俺には傷ついて欲しくない様だな。であれば、今度はこちらから行く。お前がその気でなくとも俺は戦う」

「っ」


 退く少年。それとは逆に俺はどんどん距離を詰める。と、左腕を掴まれ足を止める。振り向けばライオネルがいた。無表情ではあるが、明らかに怒っているのが分かる。

 そんな彼に息を吐くと、俺は小声で言った。


「俺が戦う間に、お前はあいつの右腕を狙え」

「……腕輪を壊せって? それは分かるけど」


 認めないと言わんばかりに掴む手の力を強める。だが、そうは言ってもそれが一番手っ取り早い方法である。

 俺はじっと見つめ返すと、しばらくしてライオネルが折れたことで、俺は再び少年との距離を詰める。

 ある程度の所で、俺は前に飛び出し少年の目の前までくれば、少年は刀で短刀を防ぐ。相変わらず力は強かったが、防ぐだけで攻撃してくる素ぶりはない。


「何で、こんな事を!」

「何でって……決まっているだろ。お前がライオネルばかり狙うから、俺が戦っている」

「そうじゃなくて……!」


 どうして自分に刃を向けるのか。そう少年は言う。だが、俺は何も言わずに、少年の刀ごと蹴りを入れると、手から刀が吹き飛ぶ。

 その時、いつの間にか用意されていた魔法陣が少年の足元に現れると、ライオネルが叫んだ。


「キサラギ!」

「!」


 ライオネルの声を合図に、後ろに下がる。

 魔法陣からは鎖が現れ、少年の右腕を挙げる様に縛り上げると、その腕目掛けてライオネルは魔弾を放つ。


「ぐ、あ⁉︎」


 右腕に直撃した事で、少年は痛みに声を上げる。して鎖が外れると同時にその場にうずくまった。

 右腕ごと撃ち抜いた事で重い傷を負わせてしまったが、怒りが収まったのか、彼の背から羽が無くなり、天候も回復すれば、ライオネルと共に少年の元へ歩み寄る。


「腕輪は無事に壊れたみたいだね。腕はまあ……神だししばらくしたら治るでしょ」

「だといいが」


 未だに苦悶の声を漏らす少年に、若干胸が痛んだ俺は、膝をついて少年の右腕を引き出す。

 それに対して涙目で少年は俺を見上げると、無理やり笑みを作って言った。


「情けは無用、です。僕は神です、から」

「……」


 そんな顔で言われてもな。

 なんて思いつつ、自分の右腕に巻いていた黒い布を外すと、それを傷口を押さえるように強く巻く。

 その様子を少年は黙って見つめていれば、最後に結んだ後、目を細めてその布を撫でた。


「ありがとう、ございます」

「ん」


 軽く少年の頭を撫で、立ち上がる。ライオネルもやれやれと言いたげに呆れ笑いをしていれば、そこにマコトとレン、そして緑髪の見知らぬ女がやってくる。


「キサラギー! ライ兄様ー!」


 レンが大きく手を振りつつ駆け寄ると、ライオネルはレンを見て顔を緩ませる。

 マコトも俺を見るなり笑みを浮かべるが、その後ろにいた女はライオネルを見ると、小さく息を吐いた。


「相変わらず無茶をしますね。貴方は」

「ん? あれ、アンタは……⁉︎」

「シアスです。二十年振りですね」

 (二十年振り?)


 どこからどう見ても俺と同年代か年下に見えるのだが……もしや、神か何かか?

 耳を疑うような言葉を女から聞いた後、二人の会話を静かに聞いていれば、マコトが耳打ちした。


「シアスさんは魔鏡(まきょう)領域で有名な緑の勇者だそうだ」

「緑の勇者? そういや、そんなのが居たような……」


 しかし何だって、その勇者とやらと二人は行動していたのだろうか。

 疑問に思っていると、少年が口を開いた。


「緑の勇者……貴方がいるという事は、あ(・)の(・)人(・)がいる事を知ってここに来たんですね」

「あの人?」


 誰だよと呟けば、少年は俺を一瞬見た後眉を下げる。シアスはライオネルから少年に視線を移せば、「ええ」と答えた。


「貴方には色々と聞きたい事があります。どうして腕輪を付けていたのか。そして、何故今になってヴェルダに反旗を翻したのか」

「そうですね。こうして腕輪も外れてしまいましたし。それに元々僕はヴェルダの味方でもありませんから。貴方達の質問には出来る限り全て答えましょう。——ですが」


 言いかけた少年は俺の肩を踏み台にし飛び上がる。すると、ぐさりと貫く音と共に背後で血飛沫が上がった。

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