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千神の世  作者: チカガミ
3章 神獣山と龍神
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【3-9】合流(ルディside)

 一方その頃。シルヴィアを攫っていった男を追っていた私は、前から次々とやってくるヴェルダ兵に苦戦していた。

 矢を放つ兵士達から一歩退き、黒い魔剣を大きく横に振ると、黒い稲妻が走り兵士達に直撃する。だが、その背後からまた一列に並んだ兵士がやってくると、直様矢を放った事で、矢が雨の様に降り注いだ。

 流石に放たれた複数の矢を全て弾く事は出来ず、左肩や右足に矢を受けてしまい膝をついた後、じりじりと槍や剣を構えた鉄仮面を付けた兵士達が近付けば、魔剣を杖代わりにして立ち上がる。

 シルヴィアを助けにいきたいが、このままでは自分がやられる。苦々しく思いつつ、退こうと背後を振り返るが、退路にも既にヴェルダ兵が立ち塞がっていた。


(これは……)


 力を最大限発揮すれば、退く事は出来る。だが、それ以上数が増えれば……?

 連れ去られたシルヴィアの事も気になり、再度正面を向けば、もう目前まで兵が迫っていた。


(迷っている暇はない)


 舌打ち混じりに、魔剣を地面から引き抜き、力を込める。それを合図に兵士達が一斉に襲いかかると、剣を薙ぐのと同時に黒い電撃を放った。

 落雷の様な爆音と共に兵士が吹き飛ぶ中、私を狙って攻撃が背後から仕掛けられると、振り向き様に大きく剣を振るう。

 と、兵士達の背後から緑に輝く光の横一線が見えた。その光に意識が向けば、倒れた兵士を避けて見慣れた姿が前に出てくる。

 両サイドを伸ばした緑髪に、その髪を留める、リボンと同じオレンジ色の瞳。して、少女の見た目に合わぬ傷だらけの鎧を纏った彼女は、私を見るなりムッと眉を寄せて言った。


「全く。いくら半神だからって単身突撃はどうかと思いますけど」

「な、な、何でここに……⁉︎ ってか、いつ村に戻った⁉︎」

「いつって、今ですが?」


 何か? と、彼女……シアスは可愛げなく返す。

 シアスは人にして人ならざるものになった者であり、かつて魔鏡(まきょう)領域内で【緑の英雄】などと呼ばれていた。その肩書きは彼女の纏う鎧の元の所有者からだが、シアス自身はあまりその肩書きをよく思っていない様である。

 ちなみに私とは以前は敵同士ではあったが、昨日の敵は今日の友というもので、何だかんだで今は好敵手関係になっている。

 そんな彼女が何故ここにいるのか? 数年前に旅をするなどと言って、突然村を出ていた筈だが。

 疑問が尽きぬまま、とりあえず周りの兵を片付けた後、シアスと背を合わせると、彼女は息を吐きつつ訊ねてきた。


「それで。何故一人で戦っているんですか? 随分と焦っているみたいですけど」

「し、シルヴィアが……ヴェルダの奴に攫われて……」

「攫われた?」


 貴方がいたのに。と痛い言葉を言われ、私は涙目になる。確かに私がもっと警戒していれば、シルヴィアが攫われる事もなかったのかもしれない。

 けど、それでも。シアスに言われるのは何だか悔しくて。振り向き様に言い返した。


「し、仕方ないだろ! 私以外にも居たんだから! それでつい気が緩んだというか何というか」

「えっ、複数人で居た所で攫われたんですか? 中々やりますね。その方」

「敵を褒めるなよ‼︎」

「……ま、おしゃべりもここまでにして」


 自分から始めたのに、一人さっさと切り替えるシアス。

 相変わらず何なんだこいつと思いながらも、お互いに目の前のヴェルダ兵を斬り伏せた後、シアスは鞘に剣を戻すと、こちらを見て言った。


「その男。本当にヴェルダの者でしたか?」

「……?」


 真剣な眼差しで聞かれ、私は怪訝な表情を浮かべる。そして、シルヴィアを攫った男をよくよく思い出す。

 男は白いローブの様な外套を頭から被っていた。そこから覗く顔は、過去に深い傷を負ったのか、左目から頬にかけて大きな傷跡があった。

 ここまで頭に浮かんだ所で、ふと男の武器を思い出す。あまりの素早さに気付かなかったが、男が手にしていた武器は刀……つまり、聖園(みその)領域でよく扱われる武器である。


(ヴェルダ兵の中に聖園の者が全くいない訳ではないだろうが……)


 言われて疑問を持ち始めると、シアスは目を伏せて言った。


「どうやら当たりの様ですね」

「っ……」

「ま、私が戻ってきたのはその為でもあるんですけど。説明は後程。まずはシルヴィアさんを助けに行きましょう」


 シアスの言葉に、私は渋々頷き、シアスと共にその場を離れる。

 それから、男が向かったであろう村の中心部まで走っていくと、あんなに晴れていた空にはいつの間にか鉛の様な厚い雲が覆い被さっていた。

 その雲からポタポタと大粒の雨が降り始めると、村の中心まで来た頃には、雹混じりの大雨になり、強い風が木々を揺らしていた。


「突然荒れましたね……」

「ああ……」


 雷鳴も聞こえ始める。

 腕で風を防ぎながらも、マーケットがよく開かれる広場までやってくれば、そこにはヴェルダ兵の亡骸がいくつも残されていた。

 その光景にシアスも驚くと、倒れている兵士の身に残された傷を見て呟いた。


「刃による傷ですね」

「シルヴィアを攫ったやつの仕業か」

「可能性はあります。……それにこれは」


 険しい表情を浮かべ、シアスは兵士の傷を撫でる。と、そこに屋根や木を伝ってフェンリルがやってくる。平然としているが、身体のあちこちには傷があった。


「無事か?」

「ああ。数本矢が刺さっただけだ。そっちは」

「まあ、似た様なものかな」


 そう言ってフェンリルは、右腕を持ち上げる。矢が刺さったのか、流血した後があった。

 私達の会話に、シアスが「人間だったら普通に重傷ですよ」と呆れつつ言えば、フェンリルが苦笑する。


「人じゃないからな……それで、そっちでキサラギは見たか?」

「いや見てない。見ていないんだが……それとは別にお前に言わなきゃいけない事があるんだが」

「ん? 何だよ」

「シルヴィアが攫われた」


 冷静になって伝えると、フェンリルの表情が固まる。して長い沈黙の後叫んだ。


「はぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」

「だから今追っていたんだが、その、すまない。見失った」


 一応自分の身には犬の半獣人の血が流れているから、匂いを辿って探す事も出来たのだが。この雨では恐らく匂いが流されている。

 頭を抱える彼に申し訳なく思っていると、村の外で別れたフィル達もやってくる。その中には魔術で眠らされていたエレインさんもいて、タルタさんの背に背負われながらも大きく手を振っていた。

 合流した所で、マコトと共に見慣れない桃色の髪の少女が前に出て言った。


「初めまして! 桜宮(おうみや)から来ましたレンです!」

「桜宮? 聖園の?」


 聞き直すと、レンと言った少女はにこりと笑う。

 その後マコトから彼女が桜宮の王女だと言われ驚けば、フェンリルが言った。


「桜宮という事は、ライオネルが今いる国の王女様か」

「そうだよ。えーと」

「フェンリルだ。よろしくな」


 そうフェンリルが手を差し出すと、レンもまた驚いた後笑顔でフェンリルの手を握る。

 こうしてちょっとした自己紹介を互いに済ませた後、雨天の下、簡単に情報を整理した。

 そこで分かったのは、キサラギが途中で私の加勢に入ろうとしてこちらに来ようとした事と、彼を追って三大魔術師……ライオネルが同じく移動した事だった。


「けど、キサラギとはここまでに一度も会っていないぞ」

「麓の村とは言え、結構広いからね。別の道から行ったのかも」


 私の言葉にフィルが言えば、フェンリルは難しい表情を浮かべつつ提案した。


「一先ずシルヴィアとキサラギ達とで分かれるか? 多分どちらも最終的に辿り着く場所は一緒だと思うが」

「そうだね。そうしよ。……という事でルディちゃん!」


 一緒に行こう! と嬉しげにフィルは私に抱き付いてくる。それを手で制し、一発腹に膝を食らわせた後、私はシアスを見る。

 シアスは息を吐いて「仕方ありませんね」と言うと、何故かマコトとレンを見る。


「私はレンさんとマコトさんと三人で向かいます。貴方はお兄様達と共にシルヴィアさんの方へ向かいなさい」

「えっ、そっち⁉︎ 流れ的にこっち付きそうな感じだったのに⁉︎」


 私の代わりにフィルが突っ込む。

 それに対してシアスはパワーバランスを考えた結果だと澄まし顔で言えば、フィルは苦笑いを浮かべる。

 尚、タルタさんとエレインさんはそれぞれやる事があるらしくこのまま広場に残るらしい。

 天候がより悪化する中、それぞれ別れると、私達は引き続きシルヴィアを攫った男を追って広場を後にした。

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