【3-8】不穏(ライオネルside)
キサラギを転移魔術を使って向かわせた後、俺は次々と集まってきたヴェルダ兵を一隊ずつ着実に潰していた。
敵とはいえ、以前までいた国。その中にはオアシスから来た者も多いだろう。
(なるべくキサラギ達に向かわせたくないからね)
胸は痛むが致し方ない。そうこれまでに何百回、何千回繰り返した罪を重ねる。
けれどもやはり顔は目に入ってしまって、無意識に顔を歪めると、それを見るなりホムンクルスは指摘した。
「苦しいなら攻撃しなきゃ良いのに」
「……それでアンタらが退いてくれるならそうするけどね」
言い返せば、ホムンクルスは肩をすくめる。して、ナイフを投げてはキャッチしながらこちらに来ると、突然こちらに投げてくる。
それを身を反らした事で避けると、俺も短剣を抜いて構える。
「やる気?」
「一応足止めしろって言われているからねー。そういうの俺不向きなのに」
「ふうん」
ああ、そう。と軽く返せば、ホムンクルスに向けて魔弾を飛ばす。
自分を基に作られている存在であるが、今の所魔術を使う様子はあまりない。少なくとも攻撃はナイフによる物理攻撃だけである。
(そう見せかけた罠かもしれないし、油断はできないけど……)
確実に撃ち抜くつもりで魔弾を放つ。銃器の様に連射しつつ、軽やかな音を響かせれば、ホムンクルスはあろう事か味方であろうヴェルダ兵を盾にしつつ、次々と兵達の身の上を飛び渡る。
その味方の犠牲も厭わない卑怯な戦い方に、俺はより腹が立つと、飛んだホムンクルスを鎖で捕縛する。
「おっと」
胴体を中心に手足にも黒い鎖が絡み、屋根に縫い付ける。それによってヴェルダ兵がたじろぐと、それを良い事に、俺は短剣を向けながらホムンクルスに近づく。
縛られても尚笑みを浮かべるホムンクルス。自分と同じ顔な分、複雑な気持ちになりつつも、ホムンクルスの目の前で膝をつく。
「随分と甘いんだね」
「?」
首を傾げる。と、背後から雄叫びと共に剣が振るわれる。これに驚きも無く背で受ければ、弾く音が辺りに響いた。
それにヴェルダ兵は驚くと、俺は立ち上がって言った。
「そんな毎回やられるわけないじゃん」
と。
瞬間指を鳴らすと同時にヴェルダ兵の剣が砕け、兵士達は退く。
ガラガラと屋根に砕けた刃が滑り落ちると、続けて炎の魔術を放つ。広がった炎がヴェルダ兵に襲いかかり、屋根から完全に退いたのが見えれば、ホムンクルスはこちらに顔を上げて言った。
「ふーん、無傷の事もあるんだね」
「そりゃあね。士気にも関わるから」
このぐらいは無傷でありたい。なんて思いつつ、再びホムンクルスに向けて短剣の刃先を見せる。
すると、背後にて冷気を感じて振り向けば、そこには懐かしい姿が見えた。
長く伸びた美しい銀髪。それに合わせる様に銀の大きな尾が腰で揺れる中、大きな身体で苦もなく軽々と屋根に飛び乗ると、俺を見るなり青と金の色違いの双眸を見開く。
グラスティアの洞窟以来の再会に互いに固まると、フェンリルは口元を引き締めてこちらに歩み寄る。
冷気と圧に若干圧されつつ、彼を見上げれば、フェンリルは俺を見た後、背後のホムンクルスを見る。
「お前、親父の傍にいたやつか」
「……へえ、流石息子ってやつ?」
「息子だって認めたくは無いけどな」
低い声でフェンリルは返す。一方で挟まれている俺は、そっと二人の間から避けると、フェンリルの隣に立った。
しばらく睨み合いをする二人だったが、フェンリルの耳がぴくりと動くと、彼は息を吐いてこちらを見る。
「また結構な援軍が来るぞ」
「えーマジか」
こんな小さな村に一体どれだけ兵を動かしているのやら。そう思いつつ、辺りを警戒すれば、ホムンクルスが口を開いた。
「あのー……いい加減解いてくれない? まさかずっとこのまま?」
「当たり前でしょ。後でたっぷり話を聞くから、そこら辺で転がってなよ」
軽く返して、短剣を構う直す。と、ホムンクルスは笑みを消していった。
「後で……ね。そう言って後悔しても知らないよ」
「?」
「ま、別に上の事なんてどうでも良いんだけどさ。……でもどうしてこんな村に大軍を寄せたんだろうね?」
「……どういう事?」
つまり、何か狙いがあって態々大軍を寄せたって事?
フェンリル共々怪しげに見つめれば、ホムンクルスは器用に縛られたまま立ち上がる。して、にやりとして話を続けた。
「そもそもさ。キサラギだっけ? あいつ、人間なのにどうしてそんなに過信しているわけ?」
「人間なのにって……そりゃあ、仲間だから」
「いやいやそういう事じゃ無くてさ。実力での意味だよ。だってあいつ魔術使えないんだろ? それに傷もすぐに治らない。なのにどうして?」
「……それは」
どうしてと言われると、そうなんとも言えない。ただまあ強いて言えば、彼はあの聖園守神直属の鬼村で技術を得ている。その実力は確かに本物で、これまで何度か共闘していて「キサラギは強い」と思い込んでいた。
しかし言われてみれば確かに、それは過信であったかもしれない。
(さっき向かわせたとはいえ、一人で行ってなきゃ良いけど)
敵に指摘され苦く思いながらも、キサラギの身を案じていれば、今度はフェンリルがホムンクルスに訊ねた。
「キサラギを話に出したが、まさかあいつが狙いって訳じゃないよな?」
「……そうだと言ったら?」
「「⁉︎」」
くすりと笑って返すホムンクルス。フェンリルと共に驚くと、俺は焦りを滲ませてホムンクルスに詰め寄った。
何故彼が狙われているのか。もしやエルフの里や桜宮でクリアスタルの者と戦ったからか?
そう口々に訊ねると、ホムンクルスは笑みを浮かべたまま言った。
「だから言ったじゃん。どうしてそんなに過信したのかって。今頃、計画通りに彼を村の中央まで誘き寄せて、囲い込んでいる所だと思うけど」
「っ……くそ」
最悪だ。急いでキサラギの元に向かわなければ。
そう思い、移動の魔術を発動させようとすれば、右肩をフェンリルに掴まれる。して、「落ち着けよ」と俺に行った後、ホムンクルスに視線を戻して言った。
「その計画は誰がしたものだ。お前の上司か? それとも別の奴か?」
「そうだねえ。守秘義務って物があるからはっきりとは教えられないけど。けど、少なくともアンタらが思っている奴じゃ無いよ」
でも強いて言えば、あいつの知り合いである事は間違い無いかな。
ホムンクルスはそう答えると、同時に緩み始めていた魔術の鎖を解く。
俺は口を閉ざし考え込むと、フェンリルが掴んでいた俺の肩を押す。危うく屋根から落ちそうになりつつも振り向けば、彼は背を向けたまま「行け」と言った。
「ちょ、でも……」
「お前の方が見つけるの得意だろ。早く行け」
「……分かった。ごめん、後頼む」
フェンリルに言うと、彼は小さく笑んで返す。そして再度魔術を発動させると、キサラギを探しつつ村内の各地を魔術で移動し続けた。




