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千神の世  作者: チカガミ
3章 神獣山と龍神
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【3-7】助け舟

 村の中央に近づくにつれ、旗と兵士の姿があちこちに見える。その数が思っていた以上に多く、木の枝に乗り枝葉で身を隠すと、フェンリルに訊ねた。


「流石にこれはライオネル呼んだ方が早いな」

「そうだな。けど、あいつ一人でどうにかなるのか?」

「知らん」


 けど、一応は三大魔術師だし。あいつがいればどうにかなるだろ。

 そう思いつつ魔道具を懐から取り出して、教えられた魔術を唱えようとした時だった。

 風を切る音に反射的に首を左に傾ければ、背後の幹に矢が刺さる。それを見るなり口を閉ざした後、正面を向けば、いつの間にかあの兵士達がここまで迫っていた。


「救援を呼ぶ気か貴様ら! だが、そうはさせんぞ! 何せ私の目には魔力探知の魔眼があるからな!」


 高笑いしつつ、右目を見開く。そこには橙色に光り輝く瞳があった。

 その男を始めとして、部下らしき兵士達も矢を向ける中、俺はちらりと上の方にいるフェンリルを見た。

 フェンリルは仕方なしと言わんばかりに、下に降りると、兵士達が騒めきフェンリルを見る。


「ま、別にこの程度なら俺一人でも片付けられるしな」

「フェンリル……」


 見下ろせば、フェンリルは見上げるなりフッと笑う。して、「また後でな」と言って、フェンリルは改めて正面を見た。

 拳を握り、冷気を漂わせるフェンリルに兵士達は怖気つく中、俺はその隙を狙い木から飛び出し、屋根に移る。

 が、その隙を見逃さなかった魔眼持ちの隊長が俺に向かって矢を放とうとした時、目の前にいた氷狼が牙を剥いた。

 ピシリと甲高い音を立て、隊長の弓矢が腕ごと凍る。して、勢いよくその腹に拳を叩き付けると、隊長の男は兵士諸共後方に吹き飛んだ。

 早くも隊長がいなくなった事で、兵士達が疎になっていくと、騒ぎを聞きつけてか他の隊がやってくる。

 まるで蜂の巣をつついたようで、俺はフェンリルを案じつつも、再度魔道具を使ってライオネルとの連絡を試みる。すると、ライオネルは俺が発するよりも早く、「今行くよ」と言った。


「おまっ、まだ場所も伝えてないのに!」

『神獣山(しんじゅうざん)の麓の村でしょ? 一昨日エレインと話したから何となく予想は付いてる』


 一応聞くけど、間違ってないよね? とライオネルが確認すれば、俺は素直に頷く。してライオネルは笑むと、通信が切れた。

 一体移動時間がどの位か知らず、とりあえず来た道を戻ろうとすれば、背後からライオネルの声が響いた。


「助けにきたよー……なーんて」

「っ!」


 男が手にするナイフに寸前の所で気付き、身を下げる。振られた腕が頭上で風を切った後、背後に立つ奴から距離を置けば、男……ホムンクルスはライオネルによく似た顔で笑った。


「よく気付いたね。安堵しきっていた様に見えたのに」

「殺気出してたからな。それにお前がいる事も予想が付いていたからな」

「へえ……の割には、仲間も連れずに単身で忍び込むなんて。命知らずじゃない?」


 そうホムンクルスの男は呟く。これに俺はちらりと背後を見た後、「別に」と返した。


「それよりもお前。周囲に気をつけた方が良いぞ」

「ん?」


 男が振り向く。その間に俺は屋根を蹴り上げ、左側に移る。瞬間真上から降り注いだのは、青白い極太の光線だった。

 流石のホムンクルスも顔を引き攣らせ、急いで避けると、轟音と共に屋根には巨大な穴が開く。

……助けに来てもらったのは良いが、少々やりすぎでは? なんて思いつつ、降りてくるライオネルを呆れ混じりに見つめれば、彼は屋根に降り立った後、一纏めにした長い黒髪を揺らした。

 ホムンクルスはホムンクルスで、ライオネルを見るなり怖気つきながらも「いいの」と訊ねると、ライオネルは眉間を寄せたまま「何が」と返す。


「そんな派手にやっちゃってさ」

「ん、ああ。家の修理費なら後程こちらでなんとかするよ」

「いやそうじゃなくてさ……こっち側が集まってくるとか、そういう考えはなかった訳?」

「ああ」


 ホムンクルスの質問に、ライオネルは改めて声を漏らす。して、辺りを見回すとホムンクルスの言った通り、ヴェルダの兵が集まっていた。

 それを見て「懐かしいな」と顔を顰めつつもライオネルは呟けば、俺を見る。俺は首を傾げると、ライオネルがやってくるなり俺の肩を掴んで囁いた。


「この場は俺とフェンリルでなんとかするから、その間にアンタはマコトちゃん達の元に行って」

「? ……ああ、分かった」

「ん、じゃあ」


 任せたよ。と言って俺を押す。瞬間景色が変わり、村の外れに出る。彼に押された勢いで尻餅をつけば、突然現れた俺を見てマコト達が驚いた。


「き、キサラギ⁉︎ いつの間に⁉︎」

「ライオネルに飛ばされたんだよ……」


 やれやれと砂埃を払いつつ立ち上がれば、マコト達を見て人数が足りない事に気がつく。

 そしてそれがシルヴィアとルディだと分かると、傍らにいたフィルが声を上げた。


「グッドタイミングで来てくれたよキサラギ! さっきシルヴィアちゃんが知らない奴に連れ去られて!」

「は? 連れ去られただと?」


 少しの間に何があったんだと思っていれば、傍らで横たわるエレインをタルタが治療していた。

 その姿に近づけば、タルタは顔を上げて苦笑する。


「大丈夫。睡眠の魔術を掛けられただけだから。それよりもルディさんが追いかけて行っちゃったから、代わりに任せても良いかい?」

「それは良いが……お前達は大丈夫か?」


 一人護身についた方が良いのでは。そう思っていると、「そのご心配はご無用!」とレンの声が聞こえてくる。

 振り向くと、今来た様でレンが手を振って笑いながらやって来た。


「何だお前も来ていたのか」

「うん。緊急事態と聞いてね。まあ、キサラギが連絡くれる前からライ兄様魔術を通して勝手に様子見ていたみたいだけど」

「なっ……連絡寄越せと言いつつ」


 相変わらず過保護な奴だと驚き呆れていれば、レンはくすりとした後、マコトを見る。

 マコトもマコトでレンが来た事により余裕が出来たのだろう。笑みを返し薙刀を構え直すと、俺に声を発した。


「という事だ。キサラギ。こちらの心配はいらない。だから、二人を頼む」

「……分かった」


 頷き返すと、二人が向かった方向へ駆け出す。……とはいえ、方向的には村の中心部で変わりないのだが、フェンリルやライオネルの居た所からよりも、やけに人気が無かった。

 そのあまりの無さに気味悪く感じつつ、初めてこの村に来た際に入ったパンの店の側まで来れば、そのあちこちにヴェルダの兵士らしき男達が倒れていた。


「ルディがしたのか?」


 そう思いながら兵士を見れば、鎧を避けた合間から綺麗に攻撃を受けているのが見える。何なら全員何故か全(・)身(・)が(・)水(・)の(・)様(・)な(・)も(・)の(・)で(・)濡(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。


(水?)


 近くには確かに小川などはあるが、だとしてもその間に滴った後はなく。そして、人型に地面も湿っていた。

 見下ろしていれば、店の扉が開く。中から現れたのはこの店の店主だった。

 頭の上から出ている犬耳が倒れたまま、ゆっくりと様子見する様に出てくると、俺を見て目を見張る。


「あ、貴方は……! この間の!」

「ああ。その時は世話になった。それで、これは一体……」


 そう話しかけると、店主が駆け寄りつつ説明した。


「正直よく分からないんですが……ヴェルダの兵が彷徨っている所に、突然聖園(みその)の服を着た少年が……」

「聖園の服を着た少年? それって黒髪の?」

「え、ええ……黒髪の」


 青い服に……次々と店主から伝えられる容姿の特徴に、すぐにあの龍の少年を思い出す。

 探していたとはいえ、まさかここに来ているとは。驚きながらも、少年の行動に疑問を感じていると、店主が話しかけてきた。


「もしやお仲間で?」

「……まあ、知人みたいなものだ。ちなみに、この後どこに行ったか分かるか?」

「は、はい」


 あちらへ。と店主が村の中心部を指差す。中心部となれば、シルヴィア達の件もあるし丁度良い。

 店主に礼を言った後、俺はもう一度村の中心を目指して走る。行く道の途中で何度も倒れたヴェルダ兵を見かけたが、視線だけを向けつつそのまま通りすがった。

 こうして進んでいくうちに、中心部らしき複数の建物が見えてきた所で、男の悲鳴が耳に入ってくる。


「!」


 足を止め声の方を向けば、建物の陰で鋼鉄の鎧を着たヴェルダの兵が尻餅をつきながらも、ゆっくりと後ずさる。そこに少年の背丈位の人影が、兵士の上に差し込むと、男の震えた声が不自然に途切れた。

 沈黙したまま兵士はぐらりと後方に倒れると、その上を少年が悠々とした様子で飛び越える。右手には刀。その刃先からは水が滴っていた。

 少年は刀を振るった後鞘に納めると、俺の視線に気が付いた様でこちらを見る。して、見た目の年に相応しい無邪気な笑みを浮かべれば、「お久しぶりです」と挨拶をしてくる。


「貴方を待っていましたよ」

「?」


 待っていた?

 状況に似合わぬ笑顔とその言葉に、つい警戒して見てしまうと、少年は両手を腰に回して近づいて来る。その瞳はまるで夕焼けの様に赤く輝いていた。

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