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千神の世  作者: チカガミ
3章 神獣山と龍神
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【3-3】ログハウスと語り場

 その晩、俺達は料理を口にしつつ様々な話をした。それぞれの旅の話や、訪れた国の話。……中でも一番盛り上がったのは、ライオネルの話だった。


「ライオネルは悪い奴ではないんだが……どうしても汚れ役というか、苦労する側になってしまうんだよな」

「だよな……だから俺も仇を討てなかったんだ」


 それは同じ桜宮(おうみや)のレンやウォレスの言葉もあるが、結局はライオネル自身の性格の良さや優しさからだ。それに、彼自身の意思でない事も大きい。

 故に、最初はかなり悩んだが、その上にいた黒幕の存在も分かった事で、割り切れたのはある。

 フェンリルとそう話していれば、タルタも頷きつつこう言った。


「僕もグラスティア侵攻の際に世話になったけど……彼は優しいよ。だからこそ心配にはなるんだけど」

「心配な……」


 分からなくもないと納得すれば、フェンリルも「な」と同調する様に言って、頬杖を付く。

 一方でマコト達女子達は、暖炉の前で円になって楽しく話していた。

 それぞれマグカップとやらを持ちながら、盛り上がっていれば、不意にエレインがこちらを向くなり言った。


「フェンリル! お湯!」

「あー……はいはい」


 やれやれと言いたげに、椅子から立ち上がるなり背後の台所に向かう。

 半神という割には特に高圧的ではなく。寧ろ誰でも友好的な彼に改めて俺は感心すれば、ポットという道具で湯を沸かそうとするフェンリルの背を眺める。

 と、夢中で鳥の丸焼きを口にしていたフィルが、俺に訊ねてくる。


「キサラギはフェンリルの他にも、龍の神様とやらを探さなきゃいけないんだよね?」

「ああ」

「龍の神様?」


 フェンリルが振り向き様に言えば、俺は「知ってるか?」と訊ね返す。それにフェンリルは「どんな感じだ」と訊ねる。


「見た目は黒髪の子どもだ。青い着物に袴を履いてる。見た事あるか?」

「黒髪の……子どもなぁ」


 台所に寄りかかる様にこちらを向いた後、フェンリルは腕を組んだまま考える。して、「見た事ある様な」と呟いた。


「なっ⁉︎ いつだ⁉︎」

「だいぶ前。少なくとも数年は経っているぞ」

「数年前だったら難しいねぇ……」


 フェンリルの返答に、タルタが苦笑しつつ呟く。俺も肩を落とせば、フェンリルは「ごめんな」と謝り再度台所を向く。情報が古いだけで、彼は悪くない。

 やっぱりそう簡単にはいかないと思いつつ、目の前のマグカップを口に運ぶ。


(しかし、数年前か……)


 あの龍神の少年は、昔から俺の事を守ろうとしていた。それはスターチスの言う下層にある俺の家の問題もあっての事だろう。であれば、彼は俺と再会するまでの間、一体どこで何をしていたのか。


(場合によっては、今いる場所が分かるかもしれない)


 そう思った俺は、再びフェンリルに質問した。


「そいつは……どこで会ったんだ?」

「? ……確か、ヴェルダ付近だ」

「ヴェルダ?」

「ああ。最初はなんでまたあんな場所にと思ったんだが。そこは龍封じの山脈の傍にあるし、数年前にその山にあった村が滅んだという噂もあったから、てっきりその出身の子どもだと思ったんだ」

「龍封じの山脈の村……ああ」


 それはきっとウォレスのいた村だろう。村人達の服装はどうだったかはともかく、実際ウォレスもヴェルダにいた時期があるから、フェンリルの考えは納得できる。

 そして同時に、以前その神と再会した際に感じた違和感も理解できた。


「そういや、あいつ……以前会った時に腕を気にしていたな。それに掴んだ時に何か硬い物を感じた」

「腕に? それはつまり……」

「ああ……推測だが、多分操りの腕輪を着けられているんだろうな」


 タルタの言葉に返せば、彼は目を見開く。フィルとフェンリルも驚くと、話を聞いていたのかエレインも話に入ってきた。


「操りの腕輪? それを誰が付けていたって⁉︎」

「龍封じの山脈の龍神だ。もしやと思ったんだが、今まで確信が持てなくてな……」


 けどフェンリルの情報で、それが一気に現実みを帯びている。

 俺の答えにエレインもまた唖然とし言葉を失うと、マコト達も話すのをやめてこちらを見る。

 操りの腕輪に関しては、エルフの里にてウォレスから詳しく聞いていた。ライオネルはこれのせいで化け猫となり、鬼村を襲った。であれば、龍神もいずれはそうなるに違いない。


「相変わらずヴェルダのやろうとしている事が不明だけど、これは厄介な事になったねぇ……」

「そうだね。そうなる前にどうにかしたい所だけど……」


 エレインとタルタが眉を寄せつつ言う。だが肝心の本人の居場所が分からなければ、止めようにも止められない。

 最初に訊ねた質問に戻り、俺達は黙り込んだ後、マコトがぽつりと呟いた。


「そういえばライオネルさんを鬼(きさらぎ)村に差し向けたのって」

「確か、かつてオアシスにいたライオネルの復讐と見せかける為だったな」


 ウォレスの村の件は何がきっかけかは知らないが、少なくともこの二件の裏にヴェーチェルが絡んでいるのは分かっている。

 その他にも、共通点としては【聖園守神(みそののまもりかみ)の直属の村であった事】、【山や森など比較的大きな聖園(みその)の国から離れていた場所であった事】、【単身での襲撃】など、共通点はいくつもあった。

 ここまで話した所で、フィルが首を傾げつつ言った。


「うーん。何となく絞れてきた様な気はするけど……まだ分かんないね」

「そうだね……けど、どちらも聖園の村だから、狙われるとしたら聖園じゃないかな」

「そうなるよな」


 タルタとフェンリルの言葉に、俺とマコトも頷く。となると、早めに桜宮に戻るべきか?

 なんて考えていれば、マコトが俺の懐を指差した。


「キサラギ、懐辺りが光っているぞ」

「? ……何だ?」


 懐を見れば、ライオネルから渡されていた魔道具の魔石が赤く蛍の様に点滅していた。

 それを手にすると、教えられた呪文を口にして道具を耳に当てた。


『あ、出た。良かったぁ〜。どう? フェンリルには会えた?』

「ああ。隣にいる。話すなら代わるぞ」

『ううん大丈夫』


 じゃあ、それだけだからと術を切ろうとするライオネル。そこにエレインが「待って‼︎」と声を上げれば、間を置いた後、彼から戸惑いの声が漏れる。


『……ん? この声、もしやトトの姉がいる?』

「トトの姉は知らないが、エレインとやらはいる」

『あーやっぱり……何? 話があるって?』


 若干面倒そうな声でライオネルが訊ねれば、俺は無言でエレインを見る。エレインはニコニコとしながらこちらに手を差し出せば、俺は「代わる」と言って彼女に魔道具を渡した。

 一体何を話す気だと思いつつ、仕方なくフェンリル達と話に戻ると、エレインが手にしていたマグカップに湯を入れた後、フェンリルは椅子に座り、指で鳥の骨を立てて弄りつつ言った。


「何か、母親みたいだな。ライオネル」

「心配症だからな。あいつ。……それにしても、エレインはライオネルに何の様だ?」

「さあな。けど、多分トトさん繋がりだろうな」


 そうどこか寂しげにフェンリルは呟く。この表情に俺は目が止まると、フェンリルは俺の視線に気が付いたのか眉を下げつつも笑って返した。


「俺の恩人だよ。トト・オールポート。三大魔術師の一人でエレインさんの妹。……今は裏の森に眠っているけどな」

「ああ……だから」


 エレインがここに来た時に言っていた墓参りというのは、きっとこの事なのだろう。

 依然、ライオネルと何かを話しているエレインの背を見つめると、タルタが両肘を台に突きつつ言った。


「エレインさんもだけど、トトはグラスティア侵攻前からグラスティアに狙われていたからね……」

「グラスティアに狙われていた……? オアシスではなく?」

「うん。まあ、オアシスにも狙われていたとは聞いているけど」


 俺の呟いた疑問にタルタは頷く。

 そういや、ライオネルの話だと何かをやらかしたせいで行方不明になっていると聞いたが。もしやそれでグラスティアに狙われていたのだろうか。

 顎に手をやりつつ考えていれば、タルタはエレインを何度か見た後、「そうだな」と言って背筋を正す。


「グラスティアはオアシスによる侵攻で、悲劇的なイメージを持たれているけれど、実際の所グラスティアが原因な所もある」

「それは……秘密裏に行われていたホムンクルス実験とやらか?」

「ああ、それもある。……にしても驚いた。君も知っているんだね」

「ライオネルに聞いてな」


 頷きつつ返すと、タルタは「そっか」と悲しげに笑う。そこに丁度、ライオネルと話し終えたエレインが話に入ってきた。


「何だい? 次は何の話をしてるのかな?」

「ん、グラスティアのホムンクルス実験をね」

「ああ……あれか」


 エレインも知っている様で、神妙な顔つきになると、台に手をつき前のめりになる。してエレインは小さく息を吐くと口を開いた。


「あの実験にはトトも関わっていて……けど、あの子は優しいものだから、許せなかったんだろうね」


 故に専属魔術師としてやってはならない事をした。そう言うと、エレインは俺に魔道具を返した後背を向ける。

 フェンリルが彼女の名を呼ぶと、エレインは困った様に笑った後言った。


「さて、と。私は思い出した事があるから、ちょっとトトの部屋の方に行ってくるよ。……ああ、そうそう。シルヴィア」

「あ、は、はい。……な、なんでしょう」

「明日麓の村に戻るから、あまり遅くまで起きない様にね」


 そう言うと、シルヴィアは戸惑い気味にこくりと頭を縦に振る。エレインはシルヴィアを見た後、小さく片手を振りつつ、奥の部屋に行ってしまう。

 残された俺達は一度静まり返ると、タルタが奥の部屋を見つつ言った。


「何か分かった事があったのかな」


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