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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-20】出立前日

 数日後。プリーニオは未遂だったとはいえヴェーチェルや、黒狐の半獣人……マンサクと共謀し、桜宮(おうみや)を攻撃しようとした事が罪に問われた。

 そして桜宮上層部が会議した結果、半年間監視下の元桜宮の離れにいる事になり、一応彼は牢から出されたらしい。

 本人は思っていた以上に罰が軽い事で驚いていたが、ライオネル曰く「彼も被害者ではあるから」との事だった。


「それに、ルッカやタルタ達からの仲間の頼みもあったしね」


 通常であれば、この位では済まないとライオネルは苦笑する。

 まあ、そう言うライオネルも故意ではないとはいえ、村を滅ぼしたのにも関わらず、似た様な処分を受けて今に至るので、此度の件というよりは、全体的に桜宮の判断が甘い気がする。

 なんて思いながら、壁に寄りかかりつつライオネルを眺めていると、ライオネルは正面にある廊下の柱に寄りかかるなり、「で」と話しかけてくる。


「予定通り、キサラギ達は明日神獣山に行くんだっけ?」

「ああ。タルタに頼んでな」

「そっか。……何だか寂しくなるな」


 そう眉を下げつつライオネルは返す。

 今回、ライオネルだけでなくレンもだが、度重なる襲撃や、それによってウォレスが負傷し、動けないのもあって、二人は桜宮に残る事になった。

 カイルもカイルで、ドラゴン化したタルタの背に乗るのはちょっと難しいという事で、流浪の旅団の元で留守番をする事になった。


『一瞬に行けないのは寂しいですが、無事にフェンリルさんと会える様に祈ってますね‼︎』


 と、昨晩言っていたが、その後すぐにフィルに呼ばれ、嬉々として流浪の旅団の手伝いに行っていたのを覚えている。


「カイルくんが行かないとなると、マコトちゃんと二人きりになるの?」

「いや。タルタと何故かフィルも付いてくるらしい。カイルが寂しがるからフィルには残って欲しかったんだが」


 やれやれと肩をすくめつつ言えば、ライオネルは「フェンリルと知り合いらしいからね」と笑う。


「ま、一先ずそんな感じで行く。お前が残るから大丈夫だとは思うが、気を付けろよ」

「キサラギもね」

「……」


 小さく頷いた後、視線をライオネルから外す。してここから少し離れた部屋を見つめると、それに気付いたライオネルが呟いた。


「ウォレスが気になる?」

「……まあな。怪我は良くなったのか?」

「うん。タルタのおかげでね。……けど、体調崩しているみたいでさ」


 無理もないけどと、ライオネルが眉を下げつつ言う。

 それに対して俺は黙ったまま、しばらく部屋を見つめていると、その襖が開くのが見え、そこから体調を崩しているはずのウォレスが出てきた事で思わず壁から身を起こす。

 ライオネルも驚き、俺よりも先にウォレスの元へ向かうと、平然と立つ彼に話しかける。


「調子は良いの?」

「昨晩よりは良くなった。……それに、これ以上休んでいる暇は無いだろう」


 またあいつが来るかもしれない。

 そうウォレスは唸る様に呟き、腰に差した刀の柄を握る。仮面で表情は隠れていたが、その内側から覗く翡翠色の瞳は怒りを滲ませていた。

 廊下に出るなり、背を向けどこかへ歩いていくウォレスの背を眺めつつ、俺は前にいたライオネルに訊ねた。


「なあ。かつての俺もああ見えていたのか?」

「えっ? あ、いや……どうだろ。マジマジと見た事無かったし」

「そうか」

「……けど、心配にはなるよね。気持ちは分からなくも無いけどさ。そこら辺はアンタに対しても同じだけど」


 困り笑いをしながらライオネルは言う。それに俺は小さく息を漏らし、「お前もな」と返す。


「お節介なのは良いが、身を挺して守ったりするからな。お前は」

「うっ」

「ま、とにかく。あいつに関しては、ここの中でお前が一番一緒にいた時が長いだろ。暴走しない様にちゃんと見とけよ」

「そう、だね」


 身を翻し、ライオネルに背を向けつつ言うと、俺はそのままこの場を去る。

 ライオネルは引っ掛かる様な返事をした後、これ以上は何も言わず。視線だけがずっと向けられていた。


※※※


「えーん、寂しいよー」


 離れに戻ってくるなり、聞こえてきたのはレンの声だった。それに対してマコトの慰めの言葉が聞こえてくると、俺が障子を開けて入ってきた事で二人はこちらを見る。

 何だよと、畳に座るマコトに寝転がりつつ抱きつくレンに向かって言えば、レンは頬を膨らましながらも「一緒に行きたかった」と返す。


「だったら来るか?」

「え、良いの⁉︎」

「お前の兄様から許可降りればだがな」

「えー、それ絶対無理じゃん」


 キサラギの意地悪と不満を漏らすレン。場所が場所なだけに、最低限それぐらいは貰って欲しい所だが。

 呆れつつ、二人から少し離れた場所に腰掛けると、マコトは荷物をまとめていた風呂敷を横に退かし、レンの頭を撫でつつ言った。


「一応魔鏡(まきょう)領域だし、何かあったら良くないからな……」

「うーん、それはそうだけど……」


 ぐりぐりとマコトの腰に顔を埋めた後、渋々といった様子でレンは顔を上げる。

 して身体も起こし、マコトの横に座ると息を吐きつつ言った。


「まあ、状況が状況なだけに我儘言ってる場合じゃないもんね」

「すまないなレン」

「ううん。こちらこそごめんね。……けど、本当に大丈夫?」


 フィルやタルタがいるとはいえ、四人で大丈夫かと言われ、俺はマコトと顔を見合わせる。

 戦力面ではタルタはともかく、フィルに不安は感じるが今回はあくまでも戦いに行く訳ではない。だが、かと言って戦闘が無いとも限らないので、大丈夫かどうか訊かれると素直に頷く事は出来ないだろう。

 真顔になりながらも、「その時はその時だ」と返すと、レンは顔を引き攣らせた。


「何だか不安だなぁ」

「……ま、いざという時は察しの良い奴が助けに来るだろ」


 ライオネルとかスターチスとか。

 名前までは口に出さなかったが、そう思いながら母屋のある方を見る。二人もつられて見ると、レンが察したのか「ああ」と言って頷く。


「ライ兄様だったら、多分数日も経たない内に来ると思うよ。エメラルの時がそうだったし」

「そうだな。ライオネルさん魔術で瞬間移動出来るもんな」

「けどあいつたまに失敗するからな。この間の戦闘だって、高い所に飛ばされるなり落とされたんだが」


 あの時は下手すりゃ死んでいたんだが。

 恨みを混じらせつつ言えば、レンとマコトは空笑いする。


「ライ兄様も失敗する事あるんだ……」

「焦っている時は失敗するんだろうな」

「かもね」


 マコトの言葉に、レンはくすりと笑う。

 そんな話をしていると、背後に気配を感じた。


「また俺の話してなかった〜?」

「あ、噂をすれば!」

「流石ライオネルさんだな!」


 現れるなり、俺の頭に顎を乗せつつ話すライオネルに、レンとマコトは声を上げる。

 ライオネルの重みによって前のめりになる中、「重い」と言ってライオネルの腹部目掛けて軽く肘打ちする。

 それに対して、ライオネルは「痛い痛い」と返しながらも俺から離れていくと、俺の隣に座った。


「で、何の話?」

「俺達が危なくなったら、察しの良いお前が飛んでくるって話だ」

「後、瞬間移動でたまに失敗するよねって話」

「ゔ……偶にはね。失敗する事はあるよね」


 レンの発言に「あれ難しいから」と苦々しくライオネルは呟く。して、腕を組むと俺を見ながら言った。


「俺もさあ。さっきアンタと話した後、やっぱりついて行くか結構悩んだんだけど……とりあえず、これだけでも」


 はい。とライオネルは俺に手に収まる位の赤い魔石を受け取る。それを受け取り眺めれば、ライオネルは説明する。


「一応声でやりとり出来る位の魔力はあるから。それで何かあった時に連絡してよ」

「……魔術使った事ないんだが」


 そう言うと、ライオネルは人差し指を己に指差しつつ「俺を想像するだけで良い」と返す。


「そうしたら魔石も反応するからさ」

「それだけでいいのか?」

「うん。基本はイメージだから。と言ってもそれだと曖昧だから、大体の魔術師は詠唱するんだけどね」

「……ならその術を教えろよ。間違った相手に繋いでも困るだろ」


 ライオネルに呟くと、ライオネルは何故か満面の笑みで「仕方ないなあ」と答える。

 それにレンが「すごい笑顔」と言葉を漏らすと、ライオネルは俺の肩に腕を回して顔を寄せる。

 どうしてそんなに距離を詰めて教えるのか知らないが、「良いかい」とライオネルが囁くと、俺はすぐ側にある彼の顔を見つつ頷いた。


「相手の姿を頭の中で思い浮かべながら、『テレフォン』と唱えるだけ。……ね、簡単でしょ」

「テレフォン……意外と短いんだな」

「まあね」


 ライオネルの姿を思い浮かべながらテレフォン。……いざという時に咄嗟に出てくれば良いが。

 ちょっと不安に感じつつ「助かる」と言って、魔石を畳の上に置く。

 それに対してライオネルは依然笑顔のまま「どういたしまして」と言えば、そっと俺の身から離れていった。

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