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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-19】告白

 その後タルタやレン達と合流し、此度の件の取り調べもあるという事で、俺達は桜宮(おうみや)の屋敷に戻っていた。

 瞼の傷以外はタルタの力で完治したとはいえ、顔の右側を包帯で巻いていた事で、マコトは会うなり絶句していたが、ライオネルが慌てて説明してくれた事で何とかなった。


「ほ、本当に目の方は大丈夫なんだな?」

「ああ。タルタの話だとな」

「ならばいいが……目の傷は後に響くからな」


 そう隣で安堵しつつも、右側の視界が悪い俺に付き添う様に、マコトは右側に周る。

 そんな彼女に俺は先に屋敷に戻っているであろうウォレスの容体を訊ねた。


「ウォレスはどうなんだ。かなりの傷だっただろ」

「ああ……うん。今は眠っていると聞いたが、傷が傷だけにしばらくは安静だと」

「だろうな」

「……何があったんだ?」

「ウォレスか?」


 返すと、マコトは頷く。

 それに対して俺は足を止め、どう言っていいか考えた後、詳細は話さずに短く答えた。


「仇相手に会ったんだ」

「仇?」

「……あいつも俺と同じだったんだよ」


 ただちょっと複雑な気持ちにはなるが。そうエメラルでのやりとりを思い返しつつ俺は再び歩き始めると、マコトは黙り込んで俺の後を追った。


※※※


 夜になり、取り調べや報告などが終わったのか、ライオネルが離れにやってくる。

 同室であるカイルは、フィルといつの間にか仲良くなった様で、「フィル達が心配だから」とその場にいなかったが、代わりに何故かスターチスがいた。


「何でいるんだよ」

「いやー……騒ぎがあったって聞いたからさ」

「まあ別にいいけどさ」


 そう言ってハハハとおちゃらける様に笑う彼に、ライオネルは呆れ、マコトは苦笑する。

 とはいえ下層世界を管理する彼に聞いておきたい事があるのも事実で、敢えて追い出さずに置いてやると、ライオネルが先に口を開いた。


「その、先ずは流浪の旅団の公演についてなんだけど。この状況だし、旅団の団長直々に申し入れがあったのもあって、今回は中止になりました」

「それは……残念ですが、仕方がないですよね」

「うん……ごめんね」


 眉を下げるマコトにライオネルが謝る。それに対しマコトは首を横に振る。

 スターチスはスターチスで腕を組みつつ「仕方ない」と同調する様に頷くと、ライオネルに訊ねた。


「それで。梅花の魔術師から話は聞けたの?」

「一応は。と言っても想像通りだとは思うけど」


 そう言いつつ、ライオネルは淡々と説明する。

 動機は天幕で団員達から聞いた通り、オアシスのグラスティア侵攻によるライオネルへの復讐だった。

 そして、ヴェーチェルと手を組んでいたのは、彼がプリーニオの想い人の最期を見ていた唯一の人物だったかららしいが、現在ではプリーニオは手を組んだ事を後悔しているらしい。


「そもそも、本当にヴェーチェルが最期を見ていたのかどうかも怪しい所だけどね。けどまあ、斬られて亡くなったのは事実らしいし、一応は名のある魔術師がそう言った以上信じてもおかしくはないかな……って」

「そうだな」

「けど、幻覚のせいで仲間を傷つけてしまうとはね……」


 以前にもこういう事があったような。

 ライオネルがぼそりと呟いた時、それを遮る様にスターチスが口を開いた。


「幻覚位ならば術で見せられるしね。それに、当時本人は焦っていたんでしょ? そりゃあ暗示にも掛かりやすくなるって」

「……まあね」


 ライオネルが渋々といった様子で返す。

 何はともあれやってしまった事は事実である以上、それ相応の処分は免れないだろう。

 ライオネルの話によれば、処分が確定するのは早くても一週間後になるらしいが、監視下に置かれる以上国外に出る事は難しくなる為、流浪の旅団からは離れざるを得ないらしい。

 納得はしつつも、何とも言えない複雑な感情を抱いてしまうと、ライオネルの視線がこちらに向けられる。


「……話は変わるけど、キサラギ」

「? ……ああ、もしかしてヴェーチェルが話していた事か」


 返せば、ぎこちなくライオネルは頷く。

 そんな彼の様子にマコトとスターチスが不思議そうに俺達を見れば、俺は息を吐いた後、隣に座るマコトに目を向ける。


(いつか話さなきゃいけないかもしれないが、定かじゃないからな……)


 かえって、混乱させてしまう可能性もある。さてどうするか。

 俯きしばし悩んだ後、帯に差していた短刀に手を添えると、それを鞘ごと引き抜き畳の上に置く。

 その行動にライオネルは瞬きをすれば、俺はライオネルを真っ直ぐ見て言った。


「前置きとして言っておくが、この件はまだ俺も分からない所がある。だから、あくまでも俺の予想として考えておいてくれ」

「あ、ああ……うん。分かった」

「……じゃあ、本題に入る」


 ライオネルの返事を聞いた所で僅かに力を抜き、姿勢を正す。

 これにライオネルは勿論、マコトとスターチスも真剣な表情を浮かべこちらを見れば、俺は口を開いた。


「俺は……あの日、お前が襲撃したせいで昔の記憶を失った」

「っ……やっぱり、そうだったんだ」

「ああ」


 目を開いた後、傷心する様に顔を歪めつつ笑う彼に、俺は素直に頷く。だが、言いたいのは……彼が聞きたいのはこれではないだろう。

 一旦間を置いた後、俺は緊張しながらも呟いた。


「単刀直入にいうと、俺は恐らく下層世界の生まれだ。後多分、マコトが話していたその……朝霧(あさぎり)家の次期当主だと思う。……いや、本当、自分でもまだよく分からないんだが」

「……」

「……」


 沈黙が続く。

 き、気まずい。やはり言うのは早かったか。なんて思っていると、ライオネルよりも先にマコトの声が聞こえてきた。


「……薄々そうじゃないかと思っていた」

「マコト?」

「だって、あまりにも、似ていたんだ。キサラギが彼に」


 震える声に横を向けば、マコトが目から涙を溢していた。その様子に驚き狼狽えてしまうと、少し離れた場所に座るスターチスが溜息混じりに言った。


「やっと気付いたか……あれだけヒント出しておいて全く気付かないんだからさ」

「な、お前知ってたのか」

「知ってたも何も前から言ってましたが? お前が復讐に囚われすぎて全く聞く耳立てなかったのが悪い」


 やれやれと言いつつ頭を抱えるスターチス。色々と言いたい事はあるが、スターチスの言う通り復讐に囚われて周りが見えなくなっていたのは事実である。

 引きつり笑いを浮かべた後、先程から黙り込んでいるライオネルが気になりそちらを向けば、ライオネルは今までで見た事が無い位に落ち込み俯いていた。


「俺は何て事を……村を襲っただけでなく、キサラギの記憶まで奪っていたなんて……ってか、スターチスも知ってたなら何で早く言わなかったのさ⁉︎」

「だって……言った所で解決できる様なものじゃないし。それに記憶以外にも問題があったからだよ」

「問題?」


 何だよそれとスターチスに訊ねれば、涙を拭っていたマコトも顔を上げる。

 スターチスは片膝を抱えると、指を二本立てて言った。


「一つはある神に頼まれていたから。もう一つはお前の生まれの家の問題があったから」

「ある神? マシロの事か?」

「いや? けど、会った事はあるでしょ。ほら、龍封じの山脈で俺に負けそうになった時……」


 そう言われ、記憶を振り返る。

 龍封じの山脈。そういやあの時に助け出してくれた龍の少年がいたような。

 その少年を頭に浮かべた時、スターチスは見透かした様ににやりと笑う。

 この表情にイラッとしつつも「ああ」と納得する声を漏らすと、胸の前で腕を組んでからもう一つの問題について訊ねた。


「んで……家の問題とやらはなんだ。以前マコトが話していた本家やら分家やらの話か?」

「大体当たり。何だ。マコトから話を聞いていたのか」

「ああ。以前な」

「……じゃ、話は早いや」


 不敵な笑みを浮かべるスターチスに、俺は無意識に警戒する。

 まさか今すぐに下層に行けとでも言うんじゃないだろうな……と、思っていれば、スターチスは俺達を指差すなり言った。


「お前達には下層世界に行ってもらう」

「やっぱり……」

「といっても、今すぐにじゃないぜ? 言っただろ、記憶以外にも問題があるって。だからまず始めにお前を守っている龍の神を探して欲しい。行ってもらうのはそれからだ」

「は、はあ……」


 探すのは別にいいんだが。そう思いつつも、脳裏には私情で探していたフェンリルの事が浮かぶ。

 どちらにしたって最終的には同じ所に繋がりそうだが、とりあえず先にフェンリルを探したいと伝えれば、スターチスはニコニコとして「どうぞ」と返す。


「にしても何でフェンリル? 知り合いだったの?」

「いや? ただ、後々戦力になるかなと……」

「ふうん。お前にしてはらしくない理由だけど……まあいいんじゃない? もしかしたらついでに見つかるかもしれないし」

「そうかもな」


 そう上手くいけば良いけどな。と思いつつ。頷き返せば、スターチスはフッと笑う。

 こうして、自分の身元を明かしつつ先の事まで決まると、スターチスは満足げに「じゃあよろしく」と言って部屋を出ていった。

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