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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-15】敵対心

 プリーニオと呼ばれた男が戻った後、残されたフィルもまた代金を払って行こうとすれば、そこをレンが止めた事で、フィルは俺達の席に同席する。

 俯く彼に俺は頬杖をつきながら訊ねる。


「……あの反応を見る限り、プリーニオとやらもグラスティアの出身なのか?」

「うんそうだよ。あ、俺もグラスティア出身だけど」


 あの劇団員の大半はグラスティア出身だとフィルは説明すると、俺の隣に居たマコトが口を開いた。


「そうなんだな……しかし、事情が事情とはいえ、やはり」

「うん。……その、オアシスだった人に対して敵対心を持っているのは少なくないかな」

「ま、無理もねえだろうな」


 いくらライオネルがあの時人助けをしていたとして、オアシスの魔術師であった事は事実だ。故に恨まれたり敵視されてもおかしくはない。

 そう思いつつ、ちらりと後方でウォレスと共に背を向けていたライオネルを見れば、彼は静かに聞いている様だった。

 フィルもまた俺と同じくライオネルを見ると、長く突き出た大きな口を僅かに開けて言った。


「けど……俺知っているよ。ライオネルさん達が俺達を助けてくれた事。だから、俺はライオネルさん達を嫌っていない。寧ろ有り難く感じてるんだ」


 でもそれはそれとして……と口篭るフィル。

 助けた事実は知っているが、しかし納得出来ない所もあるのだろう。

 俺は卓に肘をついていた手から顎を上げると、「そういうもんだ」と返した。


「一個人が助けた所で、お前らの故郷はオアシスに滅ぼされた。そりゃあ、全てが全て許せるもんじゃねえだろ」

「……うん」


 フィルは小さく頷く。しかし耳は垂れたままで、眉は下がったままだった。

 と、ここまで黙っていたライオネルが立ち上がると、振り向き口を開く。


「大丈夫だよ。俺は。そう思われても仕方がない事を沢山しているから」

「ライさん……」


 にこりと笑って言うが、どこか痛々しく感じる。それはレンも感じた様で、心配そうに声を掛ける。

 ライオネルはそんなレンに「大丈夫」と再度笑って言えば、今度はアユが言葉を発した。


「戦というものはそういうものです。いくら正当な理由があったとしても、ただの勝負事では済まされないもの」


 そう真剣な眼差しで彼が言うと、ライオネルは笑みを消し、俺の傍に腰掛ける。そんな真顔なライオネルに俺は視線を向けた後、溜息を漏らした。


(鬼村襲撃といい、こいつは色々厄介な事情に絡んでやがるな)


 しかも一応性格が良いだけにタチが悪い。そこの国にいざるを得なかった事情も分からなくはないが、それにしたってあまりにも悪い事に巻き込まれ過ぎである。

 そういった所が憎くても憎めない扱いづらい所ではあるのだが。俺はそんな事を考えつつライオネルを見つめた後、席から立ち上がる。


「キサラギ?」

「またフェンリルの事を聞きに旅団へ行ってくる。フィル、いいか?」

「あ、うん。それはいいけど……まだ聞きたい事あったんだ?」

「……まあな」


 フィルに返しつつ、見上げるマコトに顔を向けると、マコトは瞬きした後同じく立ち上がる。

 マコトも連れて行こうとした事で、レンも立ち上がり「あたしは?」と訊ねてくるが、俺はしばし考えた後「どっちでも良い」と返した。


※※※


 結局、暇だったのか知らないがレンとカイルも店から付いてくると、城下町を離れた所でマコトが呟いた。


「もしかしてキサラギ。今から行くのはプリーニオさんの所か?」

「あ、やっぱり⁉︎」


 マコトの言葉にレンが声を上げる。先頭を歩いていたフィルも振り向き様に「やっぱりそうだよね⁉︎」と言ってくれば、俺は皆から目を逸らす。

 バレていたか……と思いつつも、皆にそうだと言うのも面倒で黙っていれば、マコトがくすりと笑って言った。


「エメラルの時もだが、キサラギは優しいよな」

「……これはただのお節介だけどな」


 いやお節介ですらないかもしれない。自分には全く関係ない癖に、興味で彼等の聞きたいからという理由だからだ。

 我ながら自分の持つ悪い癖に呆れつつ、フィルの後を追っていると、ふと劇団のある天幕から騒ぐ声が聞こえてくる。


「? どうしたんだろう」

 

 フィルも気付き長い狐の耳を立てる。マコト達も覗き込む様に目先にある天幕を見つめれば、走っていく一人の劇団がこちらを見るなり声を掛けてきた。


「フィル大変だ! ルッカが怪我をした!」

「えっ⁉︎」


 こっちだと呼ばれたフィルは、天幕に向かって走っていく。残された俺達は互いに顔を見合わせると、レンが眉を下げて言った。


「ルッカって……確か今回重要な役をする子だったよね。大丈夫かな」

「明日公演だしな……怪我が軽いと良いが」


 レンに対しマコトも心配そうに呟く。すると天幕からプリーニオが出てくる。

 彼は俺を見るなり左目を見開くと、眉を顰めて言ってくる。


「何だ。何の用だ。今俺達は大変なんだ。今日は帰ってくれ」

「ああ。そうだな日を改める。……フィルによろしく言っておいてくれ」


 そう返すと踵を返して城下町に戻る。レン達は何も言えず、幾度か天幕を気にして振り向いていたが、俺は劇団が滞在する森を抜けた後足を止めて振り向く。

 マコトが俺の名を呼ぶ中、先程から感じる気配を探る様に森を見つめた。


(またか)


 昨日と同じ奴であれば、ウォレスが話していたマンサクとかいう奴だろうが……。

 風で木々の葉が揺れる中、木の影を見渡していると、誰よりも早くカイルが声を上げた。


「皆さんしゃがんで!」

「⁉︎」


 言われた通り地面に膝をついて身を低くくする。瞬間森から何かが飛んでくる。それを目で追って背後を見れば、地面に簪の様に長く紅い針が刺さっていた。

 突然の攻撃に緊張が走る中、俺は帯に差していた短刀を抜くと、武器を持っていないマコト達を庇う様に前に出る。


「キサラギ!」

「っ」


 再び飛来する紅い針を短刀で弾いた後、マコト達に向かって「行け」と言う。

 マコトは最初動揺していたが、レンに声を掛けられた事で意を決したのか、俺を向くなり頷いた後、二人を連れてその場を後にした。

 一人残された俺は再び正面を向いた後、飛来する針を次々と叩き落とし森に入ると、周囲の茂みからガサガサと何かが移動する音が聞こえてくる。

 どうやら単体ではなく、複数人いる様だった。


(厄介だな)


 マコト達先に行かせたとはいえ、複数人相手にどこまで出来るか。隙を狙って逃げるか?

 そう考えていた時、鼻腔に独特の甘い匂いが入ってくる。その匂いに意識が向けられると、風を切る音が耳元で聞こえ咄嗟に首を捻った。

 ハラハラと髪が数本舞う中眉を寄せると、正面の茂みから人影が寄ってくるのが見えた。

 黒い燕尾服に身を包み、黒髪と黒い翼を揺らしながらこちらに手を向ける男。血が通っていなさそうな白い顔は薄ら笑みを浮かべていて、気味が悪く感じた。

 俺は男に短刀の刃先を向けると、近づく男から距離を置く様に退がっていく。その最中、男が向ける手のひらに穴が空いているのに気付いた。


(ああ、なるほどな。そこから出してやがったのか)


 穴の奥で僅かに光る何か。それがある一定の距離まで近づくと、プシュンと矢を放つ様にあの紅い針が発射される。

 音よりも早く針は俺を狙って飛んでくると、身を地面に倒し、辛うじて避けた。が、そこから連続して男は針を飛ばしてくる。


「チッ」


 舌打ちし、身を転がして立ち上がりつつ避ければ、地に刺さった針を抜き投げ返す。それは男の脇腹に刺さると、男はこちらを向いた。相変わらずその顔は笑んだままであった。


(本当、気味が悪いな)


 口角は上げたまま。というか先程から瞬きすらしていない気がする。ここまで分かった所で、もしやと俺は察し始めていた。


(こいつ、生身じゃないのか)


 その手といい、変わらない表情といい。そして何よりも針が刺さっている部分からは一滴も血が流れていない。

 一体どういう仕組みで動いているかは知らないが、仮に魔術で作られた物であれば、勝算はある。

 さらに数本の針を抜いて手にしつつ、人形らしきその男の上空に向かって飛び跳ねると、針を一気に投げ飛ばした後、動きが鈍った所で背後から短刀で突く。

 人形は大きく手足を捻らせ、歪な音を上げると、最後に力が抜ける様に項垂れる。して短刀を刺した穴から白い霧の様な煙を上げた。


「!」


 短刀を引き抜き、人形から離れれば、あっという間に辺りの視界が霧で包まれる。同時にあの甘ったるい匂いも強く感じた。


(しまった)


 どうやら術仕込みのものではない事を理解すると、手の甲で口元を覆い、薄い所へ向かって地面を蹴る。

 匂いと同時に目の前がじわじわと暗くなる中、やがて足に力が入らなくなり膝をつくと、背後から影が差し込む。


「!」


 ハッとした時には既に遅く。目の前に赤い刃の様なものが迫ってくるのが見えると、俺は力を振り絞って短刀を握った手を上げる。

 刃同士がぶつかり、激しい音を立てて短刀が手から離れた後、白い霧から赤い人影が現れれば、そいつは手にしていた赤い剣を大きく振り上げてきた。


(クソッ)


 やられたと思いつつ、振り下ろされる赤い刃をただ見上げる。頭も身体も鈍くなっていく中、防御も出来ず刃が身体に刺さるのを覚悟していると、赤い人影の胸元が大きく音を立てて弾けた。

 間一髪。刃は自分の身に刺さる事なく、少し離れた場所に突き刺さると、人影らしきそれは膝を突き崩れ落ちる。

 先程とは違って霧も発生する事なく、呆然とそれを見つめていると、霧を払いながらライオネルが正面からやってきた。

 走って来た様で息を切らす彼は、こちらに歩み寄ってくると見下ろし手を伸ばしてくる。


「だ、大丈夫?」

「あ、ああ……助かった」


 礼を言いつつ、その手を握るとライオネルに引っ張って起こしてもらう。

 相変わらず頭はぼうとしているが、頭を横に振り両頬を叩き目を覚ませば、ライオネルは天幕のある方を睨んだ。

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